ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

自己満足な短編部屋コミュの赤いドレスの君へ・・・

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
あれは9年前の冬だった・・・
新しく入った会社で、上役に強引に連れられて行ったキャバクラに彼女はいた。
常務がまず座り、両隣に?1とヘルプ。
顔が思い出せないのは、例える芸能人がいないからだろう。
その隣に課長が座り、赤いドレスを着た彼女が座る。
見た目は矢田亜希子によく似ている。
そして俺が座り席が埋まり、向かいに同僚とMEGUMIに似た女の子が座った。

出されたお酒はボトルキープされた鍛高譚。
常務の好きな焼酎のようだ。
しその風味がする。
周りの客も、常務・課長・同僚も楽しげに女性と会話をしている。
(馴染めないな・・・)
初めてのキャバクラは、スナックと大差ないように思えた。
正直、女性のいる店で飲む酒は落ち着けない。

課長と話しをしていた赤いドレスの彼女が、ふいにこちらを向いて言った。
「お湯割りでいいですか?」
「あ、そのままでお願いします」
酒を薄めて飲むことをしない癖で、ストレートを頼む。
「なに恰好つけてるんだ!」
「気を引こうとしてるんやろ?」
上役と同僚に冷やかされたが、彼女がさりげなくフォローしてくれた。
上役達に微笑んで、すっとこちらを向く。
「お酒に強いんですね」
良い笑顔だ。
周りにいる多くの女性も、常に笑顔でいる。
しかし、本当の笑顔ではないのは、一目瞭然。
彼女の笑顔は、どちらかと言えば微笑みになるだろうか・・・

「貴女は頭の良い方ですね」
「え?」

戸惑う彼女をフォローするつもりなのか、常務がいう。
「お前な・・・ココに何しに来たんだ?」
「えっと・・・お酒を飲みに?」
「アホか!女の子と楽しく話しをするためやないか!」
「そいつほっといて、こっちと話ししよう!」

課長が彼女に呼びかけたが、愛想笑いをしてはぐらかし、俺に言う。
「そんな事を言われたの、初めてで嬉しいです!」
愛想笑いと違う笑顔が、何故か眩しく思えた。

「若いのにしっかりしてますね」
「でも、もう22歳なんですよ」
「十分若いと思うんですけど。私なんて36ですし・・・」
「なんか嬉しいです」

何が嬉しいのか良く解らないが、こんな些細な事でも喜べるのは俺が見抜けていないだけで、やはり商売だから?
そんな事が頭に浮かんだ瞬間、見透かされたように彼女が言った。
「私、水商売初めてまだ1週間なので、至らぬかと思いますが、よろしくお願いします」
「あ、えっと・・・僕もキャバクラ初めてです」
焦ってしまって思わず僕と言ってしまった事を課長が笑っていた。

?1に指名が入り、その席に彼女を呼ぶ常務。
「そいつの隣だとつまらんだろうから、こっちにおいで」
こちらを向き、若干八の字に変わる彼女の眉毛。
(それって行きたくないってこと?)
流石にそれは聞けなかった。

当然俺の隣が空くので、同僚に女性も一緒にこっちと交代しようと言った。
なんせ常務が2人取るから、課長があぶれてしまうからだ。
隣に誰もいないので、席を下げてもらい手酌酒。

(やはりこれが一番落ち着く)

10分ほどで?1が戻り、彼女が席を立ったが、座る場所はどこにもない。
黒服に何か話していると思ったら、さきほどどけてもらった椅子が、ぴたりと隣につけられた。
課長と同僚が気になったけど、丁度その頃には常務は?1だけに集中していた。
席に彼女が座ると、少し悲しげな眼を向けて聞いてきた。
「お邪魔でしたか?」
向かい3人はそれぞれターゲットが出来たようなので、一安心。
「いえいえ。つぎましょうか?」
こちらばかりで悪いと思い、彼女に訊ねる。
「いいんですか?じゃぁ、お願いします」
用意された新しいグラスに鍛高譚を注ぐ。

「逆だろ?」
「逆ですよね?」
「お前はアホか!」
即座に3人が俺を責め立てる。
「え?なんでですか?」
本当に理由が解らないので、常務を見たら・・・
「友達違うねんぞ!」
「いや、注がれてばかりでは・・・」
「それが仕事。お前、その子の仕事取ったらアカンぞ!」

知らなかった・・・
このような場に慣れていないと、女性に恥をかかせてしまうのだと、その時初めて知った。
タバコを吸おうとしたら、ライターを差し出されたので、自分でするからと言うと、また常務に怒られ・・・
タバコ2本目を灰皿に入れただけなのに、変えようとするから「大丈夫」と言えば怒られ・・・
なんか、場違いな自分をどうすればいいか、正直困ってしまった・・・

「いいんですよ。お客様が喜んで頂くのが大事なんですから」
「本当に無知ですいません・・・」
「いえいえ、私も無知ですいません」
彼女が頭を下げる。
何故彼女が謝るのか、かえって申し訳ない気持ちが沸き起こる。
助け船を求めて同僚を見ると、女性の連絡先を聞こうと必死になっている。
よく見れば、上役2人も・・・
目線を戻すと、彼女と目が合った。

「私の携帯・・・知りたいですか?」
それまで必死に各ターゲットから聞き出そうとしていた3人が、その動きを止めた。
「何?」
「え?」
「なんで?」
3人の視線が俺に集中する。
それも解らないでもない。
自分たちは必死に聞き出そうと努力しているのに、つまらん会話しかしていない俺が、その話し相手自身が教えてくれそうな発言をしているのだから。
しかも、俺はどう見てもモテる容姿はしていない。
3人の集中砲火が来る前に、一時避難しなくては・・・

「ちょっとトイレに行ってきます!」

トイレを出ると、彼女がおしぼりを持って待っていてくれた。
たぶんこれも仕事のうちなんだろう。
「どうぞ」
「すいません・・・ん?」
おしぼりと違う感触に気づくと、にこりと微笑んで彼女が言った。
「連絡くださいねハート
「はい?」
「待ってますから」
そういって、先に席へと戻っていった。
席に戻ると、相変わらずまだ3人はそれぞれの女の子に連絡先を聞こうとしている。
やがて諦めたのか、突然常務が言った。
「そろそろ帰るか?」
常務の一言で解散が決定した。
気が付くと、2時間ちょっと店にいたことになる。
その間、彼女とは色々話しをした。
芸術や自然が主だった内容だった気がする。
そして彼女の身の上話し・・・

タクシーに乗る上役達を見送り、女性たちを背にして駅まで歩く。
ふと思い出して、スーツに隠したコースターを出した。

『営業用ではありません』

そう書かれたコースターには、メールアドレスと電話番号・・・
会話の中で、俺は妻子持ちとも話している・・・
意味が解らん?
解らなければ、聞かないといけない!
書かれていたアドレスにメールを送る。

『楽しい時間をありがとうございました。でも、なんで妻子持ちなのに教えてくれたんですか?』
5分もせずに返信が来た。
え?まだ仕事中ではなかったっけ・・・?
返事を読んでみる。

『こちらこそありがとうございました♪もっと一杯お話ししたいからですハート

「・・・ハートマーク!!?」
思わず深夜の駅で、声を出してしまった。
これって・・・
いや、それはない!
自分が女性にモテないのは、悲しいが重々承知!
って、ことは・・・
営業なんだろう。
そう思い、コースターをゴミ箱に入れ、アドレスを消去した。
(あんな苦手な場所で飲むことは、もう2度と無いな・・・)


数日後、例の彼女からメールが届いた。
見知らぬアドレスだった・・・
しかし文面から、例の赤いドレスのあの子とすぐに解った。
『お疲れ様です。この間はご馳走様でした^^またお店に来てくださいね♪一杯お話ししたいですハート
やはり営業だったようだ。
一応返事を出さなくては失礼にあたると思い、素直に返す。
『この間はありがとうございました!安月給なので、たぶんいけないと思います。』
絵文字も顔文字もない殺風景な返事。
1分もかからずまた着信音。
(え?またあの子?)
『そうなんですか(;;)それじゃぁ、外ででも会えないですか?』
こちらが5分もかけて返した返事なのに、彼女は1分もかからず返してくる。
現代人というのだろうか?
とにかく打つのが早い!

『仕事が不規則なので、休みも呼び出されたりするもんですから、申し訳ないのですが確かなお約束が出来ないです。』
また5分かけたのに、即返事が・・・
『お忙しいんですね(;;)では、いつでも構いませんので連絡もらえますか?』
流石に限界・・・
メールってなんて不便なんだ・・・
短気な気性から、電話を掛けることにした。
(あ・・・コースター捨てたんだ!)
仕方がないから、またメールをする。
『実は、メールが苦手なので、電話でもいいですか?090-○○○○-××××です。』
即座にコール音が鳴り、すぐ掛け直すと言って電話を切り、間髪入れず電話をする。

「もしもし・・・」
「あ、すいません!電話代を負担してもらうのも申し訳なかったので・・・」
「そんなこと・・・わざわざ気を使って頂いてすいません!」
「いえいえ、頂いたコースターを酔っぱらっていたせいか、失くしてしまったもので・・・」
まさか捨てたと言えないので嘘をついた。
「そうでしたか」
「せっかく頂いたのに、本当にごめんなさい!」
「いえいえ、考えてみれば失くして正解ですね」
「え?」
「だって、お家に持って帰って奥様が見ちゃったら・・・」
「あ!本当だ!」
言われてみれば確かにそうだ!
これは俗にいう結果オーライ?
「なんか安心しちゃいました」
「え?何がですか?」
「だって、失くしたのは本当だったみたいだから」
「あ、本当にすいません」

胸が少し痛んだ。
持っていない(捨てた)が、嫁にバレることを考えてなかったのは事実。
話した結果は、半分本当で半分嘘・・・
それに対して、彼女は全てを本当の事だと思っている。
流石に良心が痛むので、早めに切ろうと要件を伝えることにした。
なんせ1行に5分近くかかる自分にとって、説明をしようと思ったら何時間分のメールになるか分かったものじゃない。
電話って便利だとつくづく思った。

「実は正直戸惑っています」
「何がでしょう?」
「どうして私に会いたいのですか?」
「営業と思われているんですね・・・」
彼女のトーンが下がった。

「はい。最初はそうだったんですが、外ででも良いと言われるので疑問に感じてます」
「それは、最初のメールでも書いたように、たくさんお話ししたいからなんです!」
必死に訴えるかのような声だった。
気持ちの整理と、客観的な思考で少しの沈黙が続いた。

「私は妻子持ちですし、ましてや貴女とは14歳も年が違う・・・」
「年齢は関係ないです!ただ、勤めて日は浅いですが、貴方のような方に初めて会い、男性の見方が変えられてしまったんです」
「えっと・・・意味が解らないのですが・・・」
「まず、文化的な会話をされるお客様は、あそこではいないんです」
「はぁ・・・」
と、言うことは?
俺って稀有な存在ってことなのか?

「それに、凄く気遣って下さいました」
「あ、慣れてないのでかえってご迷惑だったのでは?」
「いえ、凄く嬉しかったです!」
「そうなんですか・・・」
「はい!大抵のお客様は、下品な会話か携帯を聞きたがるんですよ」
「あ、それは常務たちを見たので、なんとなく解ります」
「私にとってのあの2時間は、初めて居心地のいい時間でした」
「そうでしたか」
「それに・・・」
「それに?」
少し間が空いてから、小声で話す彼女。

「頭が良いって褒めて頂いて・・・」
「ああ、それは本当に思っていますよ」
「でも、私って高卒ですし、ちゃんとした会話が始まる前でしたよ?」
「学歴だけが頭の良さでは無いと思いますよ」
「どういうことでしょう?」
「人の気持ちを汲んだり、場の雰囲気を壊さない配慮が出来るのも、その一つではないでしょうか?貴女はとっさに機転を利かせてくれましたから・・・」
「そうなんですか?」
「そうだと思いますよ」
「ありがとうございます!」
「いえいえ、それが聞きたかったんですね」

彼女のあまりにも喜ぶ声に、俺はようやく携帯を教えてくれた意味を理解した。
そう思っていたのだが、どうやらそれだけではなかった。

「それだけでは無いんです・・・」
「え?」
「お客様以外でも、貴方は私が知っている男性と凄く違ったんです!」
「あ・・・変わり者ですから」
「そういった意味ではないです!」
顔を見れないから、何とも言えないけど・・・
なんか凄く必死な感じがした。

「今までに出会ったタイプと違うから・・・」
なんか風向きがおかしいような・・・

「奥様と別れてくれとは言いません!」
「ちょっと!」
「私、貴方に凄く魅かれて・・・」
「待った!」
流石にそれは聞いちゃいけないと思った。
この流れはどう考えても告白でしかないではないか!
思わず大きな声で言ったから、たぶん彼女の耳は痛かったかもしれない。
でも、その時の俺はそんなことを考えているゆとりもなかった。

「貴女は頭が良くて華もあり、目に力がある女性です」
「え?」
「恐らくは、仕事も家庭も安心して見ていられる女性だと思います!」
「・・・」
「それに凄く良い眼を持っている!」
「眼ですか?」
「はい、眼です」
「どんな風なのでしょう?」
「力があり、優しい瞳なうえに、真実を見抜くといいましょうか・・・」
「そんな大層な気がしないんですけど・・・」
「貴女はまだ、自分の魅力に気づかれていないんですよ」

なだめる気でもなく、本当にそう思ったから・・・
だから思ったことをありのままに彼女へ告げた。

「貴女が先ほど言おうとした続きは・・・」
「はい・・・」
「いつかその眼が見つけてくれる男性に言ってください」
「え?」
「何度も言いますが、私は妻子持ちです」
「でも!」
「世の中には、それが出来る男性もいるでしょうが、私には無理です」
「・・・」
電話からすすり泣く声が聞こえてきた。

「たぶん・・・結婚していなかったら自分から言ってたと思います」
「・・・」
「貴女はそれだけの魅力がある女性です」
「上手ですね」
何が上手なのか解らないが、誤解がありそうな気がしたので、恥ずかしかったけど過去の女性経験を話した。

「私は女性慣れしてませんから、何が上手なのかよく解らないんですが、心魅かれた女性に嘘は言いませんよ」
「でも、随分と私の心に響く言葉なんですけど?」
「それはどう答えていいのか・・・」
「心魅かれる女性って多かったのですか?」
「貴女で6人目かな?」
「え?」
「多かったかな・・・」
「逆です!」
「そうなんですか?」
「たぶん・・・」
「付き合ったのは、嫁入れて3人。告白してフラれたのが2人。そして貴女です」
「凄く嬉しい・・・」

(喜ばれてどうするんだ!)

「あの・・・」
「なんでしょう?」
「女性からアプローチされたりした事はないんですか?」
「なんて言えばいいんでしょうか・・・心魅かれない女性には興味がないです」
「え?」
「例えば、お酒を女性と2人で飲んで、ホテルに誘われても行きません」
「嘘!?」
「ホント」
「そんな人いるんですか?」
「今お話ししている人がそうみたいですね」
「あ・・・」
「ま、変わり者ですから」
「それじゃぁ、私に魅かれて頂けたなら・・・」
「でも、それはダメです!」
「・・・」

またもやすすり泣きが聞こえてきた・・・

「お気持ちは嬉しく受け取りますが、今以上はありません」
「私が水商売だからですか?」
「いえ、仕事柄で人を見ることはないです。貴女が水商売をどう思っているか解りませんが、もしその思っている内容だったら、私が魅かれる事ってあり得るのですか?」
「いえ・・・」
「私が魅かれるのは、主に人間性です。容姿がよくても、人間性があまり良くない方には魅かれることはありません!」
「・・・」
「貴女がこの先どこへ向かわれるか解りませんが、安心していられる自信があります!」
「・・・ありがとうございます」
「貴女が水商売を天職と思われるのか、それとも夢があって我慢しているのか解りませんが、今の貴女の気持ちを忘れなければ、どんな仕事でも大丈夫ですよ」
「・・・」
「もちろん好きになる男性に対してもです」
「そんなこと言わないでください!」
「頑張って!とは言いません。貴女が頑張っているのは、先日身の上話しを聞いて知っていましたから」
「どうして・・・」
すすり泣きは、泣き声に変わった。

「優しくしないでください!」
「そのつもりはありません。優しさの意味をまだ理解してませんし・・・」
「十分に優しすぎます!」
「そう言って頂けると少し救われます・・・」
「え?救われる?」
「あ、気にしないでください。そろそろ切りますね・・・どうぞお元気で」
「待って・・・」

一方的に電話を切った。
救われるの意味を話したくなかったのも理由の一つ。
これで優しいはずがない!
その後何回か彼女からメールが届いたが、一切返信はしなかった。
最後のメールに書かれた言葉が、今も思い出される。

『これも優しさなんですねハートありがとうございました(^^)』

今となっては、名前すら思い出せない赤いドレスの君・・・


元気にしてますか?

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

自己満足な短編部屋 更新情報

自己満足な短編部屋のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング