石原莞爾は、２２６事件の第一報を、朝７時頃、鈴木貞一からの電話で知りました。鈴木は、永田鉄山ら統制派と近かったが、本庄らとの関係も悪くなく、広い人脈を事態収拾に用いることを期待されて、決起部隊から、陸相官邸に招致されていたのです。だが、鈴木の招致は、結果として決起部隊にとって重大な失策となったのです。
石原莞爾は、鈴木貞一からの電話を受けると、統制派の指導者である武藤に電話をして、鎮圧に向けての方策を相談しました。続いて歩兵第一、第三連隊に電話をかけて、三宅坂に軍旗を奉じてやってこい、と指示しました。軍旗を示せば、兵士は必ず軍旗の下に赴くので、反乱軍は崩壊する、という読みです。だが、石原莞爾に両連隊にたいする命令権があるわけではなく、これは些か乱暴な話だったのです。明らかなのは、石原莞爾がはじめから、二・二六事件については、断固制圧という立場をとっていたという事です。
石原莞爾は電話連絡が終わると、直ぐ、陸相官邸に向かったが、途中安藤大尉らの部隊によって止められました。かねて石原莞爾を尊敬していた安藤は、兵を銃に構えさせたまま、沈痛な面持ちで、「大佐殿、このままお帰りください」と懇願した。石原莞爾は傲然として、
「この石原を殺したかったら、臆病な真似をするな。直接自分の手で殺せ。兵隊の手を借りて殺すなど卑怯千万である」と云い放ち、強引に通ってしまったのです。
二・二六事件は、五・一五などの事件との違いは、大量の兵士を動員したことです。兵士は、ごく一部の者を除けば、青年将校らの説く昭和維新の意義などは理解していません。ただ上官の命令、という事の一事をもって襲撃に参加したのであり、その点では兵士たちこそが第一の被害者でした。元老らへの襲撃にしても、直接に重臣らを撃ち、巡査らを殺したのは、兵士や下士官でした。
石原莞爾は、普段の調子で陸相官邸に乗り込んでいき、大広間のソファの中央に陣取りました。招かざる客の襲来に、青年将校たちのみならず、要請により集まった軍幹部の間にも、困惑と戸惑いに満ちた重苦しい空気が立ち込めました。石原莞爾は、平然と一人座って、一同を睨みつけたと言います。こういう場面での、度胸というか、人を人とも思わないような肝の太さは、石原莞爾の真骨頂です。
栗原中尉が、重たい空気の中、「大佐殿と私共では、大分考え方が違うようですが、昭和維新については、どのようにお考えですか」と尋ねた。石原は、栗原を睨み、「軍備を充実すれば、それが昭和維新だ」と返答をした。気圧された栗原は、室外に磯部を呼び出し、拳銃を握りしめて「どうしましょうか」と問うたが、磯部は返答しなかった。石原は興奮して「貴様らは、何だ、この様は。陛下の軍を私兵化しおって。即座に解放し、隊に復帰せよ。云う事をきかないと、軍旗を奉じて、討伐するぞ！」と怒鳴った。
この台詞は、川島陸相以下、軍の要人が口にするべきものです。石原莞爾の怒りは、青年将校たちはもとより、云うべき事を言わず、決起部隊の武力と行動に気圧されている幹部たちに向けられていた。しかし、周りを蜂起部隊に囲まれた状況でこのような発言をするのは、かなりに勇気がいるのは確かなことでしょう。さすがに、香田が軍刀を掴み立ち上がったが石原莞爾は、冷然と眺めている。
斉藤少将が、何とかこの場を収めようとして、「君の見解はわかるが、事をこれ以上拡大するのはよくない。もっと穏やかに話してはどうか」と石原莞爾をなだめた。すると石原は、さらに興奮して、「何だ、この予備役が」と毒づいた。斉藤少将は、元から栗原、山口らと親交があったが、この席に顔を見せたのは、野心や功業のためではなかった。ただ事態を悪化しないように、青年将校らを冷静にし、穏便な解決を求めるためであった。斉藤は、このような面倒な場に顔をだし、予備役の身で何の関係も責任もないのです。
石原莞爾は席を立ち、官邸の入り口を遠巻きにしている将校たちに、「九段の軍人会館へ集合せよ」と命令をだした。占拠された陸軍省に代わる、中枢を設けるという意図です。新しく中枢が組織されるということは、部隊が軍から疎外されているものが、反乱軍とみなされていく事を意味していました。このような言動を眼前で示されながら、青年将校らは、石原莞爾に対して何も出来なかった。突然、石原莞爾に背後から片倉衷少佐が声をかけた。片倉は、石原の満州時代からの同志であり、また統制派の軍官僚として手腕をふるい、士官学校事件においては、磯部、村中を退役させていたのです。片倉の顔を見て、磯部が激昴し、片倉のこめかみに向けて、拳銃を発射したのです。
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コメント(2)
>>[1] ２８日の午前中、石原莞爾がいきなり真崎甚三郎を面罵する事態がありました。石原莞爾は叛乱軍の将兵が純粋に国を憂える心情には同情すべき点があった。それにつけても石原莞爾には、ここまで信じ込ませた真崎に対して腹に一物があったのです。真崎が荒木貞夫とともに戒厳司令部にあらわれ、皇軍が相撃つことだけは絶対に避けねばならないと繰り返しました。戒厳参謀である石原莞爾も、もちろんそのつもりです。石原莞爾には真崎がこの事件の元凶であるくせに、抜け抜けと将校を諭すのを見ると、怒りがこみあげ「こんな馬鹿大将が勝手なまねをする（総理大臣になろうとする）から、こんなことになるんだ」それが衆人の前です。前々から石原莞爾とそりの合わなかった真崎大将は激怒して「上官に対し、馬鹿大将とは何か。軍紀上許せぬ」石原莞爾も後にひかずに「軍紀を乱しているのは誰だ。だからこんなことになったんだ」と。それを見かねて安井参謀長が止め男に入ったのです。
仁科顧問
野村顧問
青木運営委員
小島運営委員
ご無沙汰いたしております。
平成28年の石原研の総会が５月１４日（土）に決まりましたのでお知らせいたします。
場所と時間は昨年と同様で、ＪＲ上野駅近くの居酒屋・「鳥元」で午後２時からです。
詳しくは４月２５日に発行予定の「永久平和」136号に掲載しますが、
132号14頁にも同様の内容が掲載されておりますのご参考にしていただけたらと存じます。
石原莞爾平和思想研究会事務長 山��八九生
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