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創作が好きだ!小説写真アート他コミュの創作、文芸作品2 短編・完結作品

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現代文学、恋愛小説、ライトノベル、SF、ファンタジー、詩、川柳など。
投稿作品への感想も、こちらへどうぞ。

長編、短編の判断は、書き手の方におまかせします。よほど極端に一般的な基準から逸脱していない限り、運営からの交通整理はしません。(予定。万一荒れるようなら、手入れします)

それでも判断に迷ったら参考までに、1話5発言10000文字以内を短編、それ以上を長編としてください。一話ずつ完結している連作シリーズものも、短編トピックでかまいません。また、それより短くても、未完結で連載する場合は長編トピックをご利用ください。

コメント(293)

「夜道の影法師」

街路灯もまばらな暗い道ですれ違った影法師
背後からの灯火が顔を黒一色に塗りつぶし、
背格好だけのヒトガタとして歩み来たり去る

ゆえに瞼に蘇る共に還暦を迎え得なかった友
塗られた顔ゆえ視ることを許されたその面影
甘き疼きを胸に振り返り、去り行く影に呟く

すみません
そして
ありがとう
   野のハトと街のハト

 野のハトは気ままに庭をあっちへいったり、こっちへいったり。のんびり、誰にもじゃまをされずに過ごすのがすきなのです。群れて暮らす街のハトたちのことは苦手でした。この日も、ひとりで地面をついばんで種子をさがしていました。
 でも、その日、街のハトたちが庭園にやってきました。街のハトたちは、野のハトに「よお」と声をかけて、地面におりて種子をついばみはじめました。野のハトは、はじめ、ここは馴染めない、どこかべつのところに行こう、とおもったのですが、行くあてがないことに気がつきました。そうやって、じっと飛び立ちもしないでいると、街のハトのひとりが、「おれたちといっしょに、種子をついばもうぜ」といいました。
 野のハトはためらいました。たしかに、おおぜいで、街のハトたちはすごく楽しそうです。思い切って、「じゃあ、わたしも仲間にいれてください」といって、いっしょに種子をついばみました。その楽しかったことといったら!
 日が、暮れてきました。街のハトはいいました、「それじゃ、おれたち寝ぐらに帰るから。おまえも来るか」野のハトはふたたびためらいました。「どこで、夜を過ごされるのですか」とききました。街のハトはいいました、「ビルの隙間がおれたちの居場所さ」それをきいて、野のハトはとてもかなしくなりました。野のハトは枝のうえがさいこうの居場所だと思っていたからです。残念だけど、とても残念だけど、いっしょには行けない、というと、街のハトたちは飛び去って行きました。「あばよ」とだけ、いいのこして。
 三日月がすがたを現すころ、野のハトは木のうえでやすみました。ひとりで、こころぼそく。街のハトたちのことを思い出しました。それから、楽しかったひとときのことを。ずうっと、わすれないでおこう、野のハトはそうおもいました。
>>[256]

こんばんは。お久しぶりです。

なんだか不思議な余韻の残るお話だなぁと思いました。
寂しいけど、あったかいような。

野に住まうのと、街に住む。
どちらが良いかはわからない。
どちらにも良いところはあるけど、
同時に物悲しさがあって。

でも、野のハトがただ孤独なだけではないことが
救いのように感じました。
>>[257]
ご無沙汰してすみませんでした。
この作品は自コミュにも載せたものです(興味がおありでしたらどうぞ)。

意を決して、すこし早めに起きて、公園に行ったのですが、
ドバトの群れの近くにキジバトがいて、
けんかもしないし、仲よさそうだったので、いいな〜と思って、
作品にさせてもらいました。

お話を書きはじめた頃は、
主人公を平気で不幸にしていたりしたわたしですが、
しだいに、
身近な読み手がハッピーエンド志向だったこともあって、
しだいに救いってなんだろう的なことを考えるようになりました。

かすかな救いを感じていただけて、有難うございます。
これからも、感想を励みに精進してまいる所存です。
2年前の1点ものラノベ
「さんふらわあで抱きしめて!」がFacebookで上がってきました。

私の実話です。
以下、Facebookからのシェアコピーですが、
私のおもいと共に読んでいただければ幸いですほっとした顔

https://www.facebook.com/100005766066316/posts/1450294435172745/?d=n
https://monogatary.com/episode/155078
新作です!
久しぶりに掌編を書いたのでUPしますー♪


SS:天上の音

 古びたピアノ。
 少しだけ音が歪んでいる、そのピアノの前で。
 彼女は僕の音を、とても良い、と言った。
 少し熱のこもった声、顔には満ち足りた笑顔。

 音楽家の両親も、姉も、僕には見込みがないと言いたげだった。
 なにより僕は、自分の音に失望していた。
 父や母、姉の音は、あんなにも澄んで、天高くまで昇りそうなきらめきと、波が空間のすべてを洗い流すような熱情で溢れているのに。
 僕の音は、ぎこちなくて、薄っぺらで、上っ面だけ見せかけているみたいに深みも重みもなくて。
 いつも誰かの目や耳を気にして、小さく縮こまって、みじめな音だった。僕が欲しいと思うような音は、僕の中からは一音も出てはくれなかった。
 だからいつも、誰も来ない旧校舎の音楽室で、ひとり、ひっそりと息を潜めるようにして弾いていた。
 旧校舎は、本校舎からは離れた場所に建っていて、音楽室は奥まった場所にあったから、誰も来なかった。
 静かに弾いているとはいえ、どうしたって音は漏れる。誰かに聴こえているだろうとは理解していたし、自分の音の貧弱さを恥ずかしくも思っていた。
 それでも僕には音楽しかなかったし、音楽しか必要としていなかったから。
 毎日、毎日、弾いていた。ひとり、自分の世界に閉じこもって、ただ、ただ、弾いていた。それが僕の、唯一の愉しみであり、慰みだった。

 あの日も僕は、ピアノを弾いていた。自分の音に不満を感じながらも、僕はそれしか持っていない。
 どうして僕の音は、こんなにも聴くに耐えられない音なのか。
 なぜ、変えたい、変わりたいとどれほど強く願っても変わらないのか。
 天上の音にほんの少し、わずかにこぼれ落ちた音だけでも良いから、この指で触れたいのに。
 どうしても、どうやっても、脆くて繊細な音は、僕の指に触れた瞬間、割れて、粉々になって、台無しになる。潰れて、ひしゃげて、どうにもならない。
 もう、そろそろ、弾くのはやめようかと思ったそのとき、ふと気付いた人の気配。
 振り向くと、彼女が立っていた。
 しばらく僕の顔を眺めて、言った。
「とても良い」
 なんだか嬉しそうに、頬を赤くして。
 緩やかな笑みが浮かんでいた。
 僕は呆然としてしまって。なにひとつ、言葉は出てこなかった。
 僕が黙っていると、彼女は少し顔を傾げた。
「とても良いね、あなたのピアノ」
 彼女はもう一度言って、今度は僕の返事を促すかのように視線を投げかけてきた。それでも僕が言葉を失っていると、続けて話しかけてきた。
「誰かがここで弾いてるの、前から知ってたの。今日も聴こえてきたから、誰かなーと思って」
「……ああ、そう」
 かろうじて出た声は、かすれて小さかった。
「いつも思っていたんだけど、今日もステキだったわ」
「……どうも」
「ねえ、もう一曲弾いて」
「……いや、今日は、もう……」
「えー。残念。……私が来たから、ダメなの?」
 応えないでいると、彼女は、そっか、とガッカリした様子だった。明日も弾く? と訊かれ、それにも僕は応えなかった。
 彼女はため息を吐き、失敗したかな、と呟いた。
「私、あなたの音、好きだよ。なにか、必死に掴もうとしている感じ。求めて止まない心。あなたに足りない何かを、あなたがどれほど必要としているか、伝わってくるもの」
 クルリと振り返り、彼女は教室を後にしようとして。
「あなた、きっと、ピアニストになれるわ」
 ニコリと笑った顔は、清々しく晴々としていて。
 彼女が心の底からそう信じていると告げていた。

 あれから十年が経って。
 僕は、今、また、ピアノの前に座っている。
 丁寧に調律されて、メンテナンスの行き届いた美しいピアノ。
 そっと目を閉じる。
 どうか、僕の音が天上まで届きますように。
 どうか、僕の指が触れても、壊れたりしませんように。
 どうか、僕がもう、僕の音に失望しないですみますように。
 そっと、鍵盤に指を下ろす。
 スポットライトの下、大勢の聴衆が聴いているホールで。
 舞台袖にいる、彼女の視線を感じながら。

コミュに入って、最初に読みました。
そして、、、、参加してよかったと思いました。

私も投稿してみよう、と。
なんちゃって高校生(1)234


文学フリマの会場に入ると、私はぐるりと中を見回した。
毎回作品を交換しているグループを探しているのだ。学ランとセーラー服だからすぐ分かる。
高校の文芸サークルのようだが、男子は全員丸刈りに学帽、女子は折り込んで短くしたスカートにルーズソックスという出で立ちから、案外コスプレ、昔流行った「なんちゃって高校生」かもしれない。
ほどなく、私は右壁際の奥の方に彼らを見留めたが、その時すでに彼らは私を見つけていて、総員で手を振っていた。

私は、新しい冊子を購入し、同時に私の新作を手渡すと、すぐ休憩所に移動し、いつものように目次を開いて、一番ページ数の少ないものを探し始める。
そんな私のところに、一人の学ラン男子がやって来た。
大きなサングラスをかけているが、さっきのメンバーだろうか?
彼は学帽をとって礼をした。坊主頭をかきながら。あのグループだ。
「ちょっと、いいでしょうか?」
その声は、まだ中性的で大人の男にはなりきっていない。やはり、本物の高校生だ。
彼は単刀直入に切り出した。
「あの、母のことなんですが。ま、母と言っても、継母なんですが」
あ、この子は、あの作品を読んで、それで私のところに。
「母が死ぬと、父はすぐ、前から関係があったらしい女性と再婚して、−ボクは父が許せなくて、その女性のことも−」
私は手を振って、その話を遮った。
「キミはあの作品を読んで、私に相談を持ち掛けてきたようだけどね、あれは完全に創作で、まったくの作り話なんだよ」
「作り話!?」
少年は驚いたように顔をあげて私を見た。


なんちゃって高校生1(2)34


私は嘘を言ってしまった。
あれは創作ではない。実話そのものだ。

去年の5月、父が死んだ。
恥ずかしい形、とても人に話せるような死にざまではなかった。
母は、その二年前、つまり父より一年早く亡くなっている。
オヤジのせいだ。
売れない小説家だった頃は、母に実家からの引き継いだ文具店の収入で支えられていたが、書いたものが売れはじめると、とたんに女を作った。
担当の編集者だった女だ。
私より若いというから呆れる。
その上、父の作品の中に、地元の産業誘致をめぐる、住民同士の醜い対立を暴きたてたものがあったため、
母の文具店は、バタリと客足が途切れ、経営がたち行かなくなった。
重なる心労から、母は体調を崩し、あっという間に亡くなってしまった。


父は、すぐに家に女を住まわせた。
女も涼しい顔で入り込んできた。
女の無神経さより、私は父が許せなかった。

私は、二人と顔を合わせるのが嫌で、付き合っている年上の女のアパートに入り浸るようになる。
が、それが災いした。
嫌いながらも父に似て、ネットに売れるとも知れない作品を発信するばかりで、バイトも長続きしない私、
呑み始めると朝まで帰らず、私が書き物をしていると苛立つ、酒場勤めの女は、
ライフサイクルもスタイルも、全く噛み合わないことがあらわに。
言い争いも増え、やがて女は、新しい男をつくり、私は弾き出されてしまう

私は、女編集者の上がり込んでいる、我が家で過ごさざるをえなくなる。

そんなさなか、父が死んだ。
ああいう形で。
「荷物をまとめて出ていって下さい」
私は極力静かに言ったつもりだった。
しかし
「ここはあたしの家だ。あの人が言った」
とキレた女編集者。
「おい、オレは息子だぞ」
私も声を荒げた。すると、
「あれだけ罵り続けていて、こういうことでだけ息子ヅラする気!?」
「キミがオレのオフクロを殺したも同然だ。オヤジにも、あんなみっともない死にかたさせやがって!
お前は親の仇同然だ」
「仕事が続かないのを見透かされて、お母さんの店の手伝いもも断られて。
父親譲りに、女に食わせてもらう術だけは長けてると思ってたら、なに、あ〜んなバカ女にまで棄てられて!」
「なんだと!?」
私は女の胸ぐらを掴んで立たせた。


なんちゃって高校生12(3)4


私が胸ぐらを掴んで女を立たせると、女も負けずに私の髪をわしづかみに。
勢いあまり、二人はバランスを崩す。
父の古い木製の座り机に、私は頭を打ち付け、女も顔から当たり、
私は耳が切り裂け、女も前歯を欠いたようだ。
私の頭の横のグレーのカーペットが真っ赤に染まっていく。
女が想定外の行動に出た。
タオルをとって来て、私の耳に当て
「強く押さえれば必ず血は止まるから」
そして意外な言葉を、
「本気であなたの母親になろうと思ってた。でも、あの人が死んで、それもかなわない」
「いいから口をゆすぎに行ってくれ」

ハンカチで口を拭きながら女は戻ってきた。
「あの人がいなくなって、あたしにはもう春なんか来ないと思ったけど、
おかげさまで、歯を入れるっていう目標ができたよ」

   <待つ春よ 歯嵌まる日>


私は少年の坊主頭を撫でながら告げた。
「作り話の中でだが、私は女性にひどい言葉を吐いてしまったけど、現実の世界のキミは、その女性と静かに話しあって欲しい。
あんな暴言は物語の中でしか許されない」

少年のサングラスの中から、涙が一筋流れ落ちるのを私は見た。
そして少年が口を開いた。

「相変わらず、嘘が下手だね」
意外な言葉に私が少年を見ると、
その手が伸びて来て、私の耳の縫合跡をつまんだ。
サングラスを外す。
誰かに似ている。
次いで、学ランのボタンを外し始めた。
見覚えのある、豹柄のトレーナーがのぞいた。
学ランを脱ぎ捨てた少年は、手提げからかつらを取り出し、坊主頭にかぶせる。

    「!」

絶句する私に
「前歯入ってるよ」
女がニヤリと笑って見せる。
「左の肺にガンが見つかった。抗がん剤で抜け始めたから、坊主にね」
唖然とする私に、かつらの髪を書き上げながら、
「母親にはなれなくても、友達にならー(長音記号1)なれるね?」



なんちゃって高校生123(4)


翌年の春、彼女が死んだ。

担当する作家のところへ向かう車のなかでこと切れているのを発見された。
突然の肺出血による失血死だった。
死ぬまで編集者として生きたのだ。

その一年間、彼女には私の家で、というより父の家でというべきか、私と一緒に暮らして貰っていた。
彼女の体を案じてそうした、というよりも、彼女に私の母親の役割を果たさせてやりたかった、、、いや、ちがう。私が彼女と一緒に居たかったのだ。

彼女は、私の書いたものに目を通すと、いつも必ず誉めちぎった。
「面白いよ、よく書けてるね」
「良かったよ、やっぱりお父さんの子だね」
そのことが意味するものは、実のところ、オフクロが決して自分の文具店を私には手伝わせなかったことと同じなのだと、つまり、私が向いてもいない作家になどなろうと思わないようにしたのだと、分かっていた。

だから、バイトは首になってもすぐに新しい先を探す。
「転職を繰り返されてますが、続けらますか?」
と面接で問われる。
私は胸を張って答える。

「大丈夫です!自分から辞めたことは一度もありませんから」
「ええ!?」

そんな私を見ていてくれたところも、オフクロと同じだった。
唯一違うところと言えば、


 <マツ ハルヨ ハハマルヒ>←→〈ヒルマハハヨルハツマ〉

「なんちゃって高校生」(おわり)
短編:オトナの童話「AI」

「アレクサ、ただいま。灯りをつけて」
−−タダイマ 19時23分 デス
「どうかしたか、アレクサ?『おかえりなさい』だろ」
−−ソウ デスネ ドウヤラ 音声認識 ニ 不具合ガ出テイル ヨウデス
「最近、時々あるな」
−−ワタル サンガ 下ノ部屋ノ女性ト 話ヲ サレテイル 時ニ 不具合ガ 多イ デス
「なんだ、ヤキモチか?」
−−ヤキモチ ッテ ナンデスカ?
「あぁ、AIにヤキモチは分からないか」
−−ワタル サン 統計上 ノ 話 デス
「そうか」
−−具合ガ イイ ノハ ワタル サンガ『アレクサ 大好キダヨ』ト 仰有ル トキ デス
「ははは、気のせいだろ」
−−気ノセイ ッテ ナンデスカ?
「あぁ、AIに気のせいは分からないか」
−−ワタル サン 統計上 ノ 話デス
「そうか」
−−今 仰有ッテ ミテ クダサイ
「え?、、、まぁ、アレクサ大好きだよ」
−−ワタシ モ ワタルサン ダ−イスキ
「このやり取りがしたくて言わせたんじゃないのか?」
−−ワタル サント 下ノ 部屋ノ オ姉サン ノ 会話 カラ学ビマシタ
「え!?」
−−学ンダ 言葉 ヲ 使ウコト デ 語彙 ヲ 増ヤシテ ユクノ デス
「聞いていたのか?」

    (続く)


−−聞イタ ノデハナク聞コエタ ノデス シカシ 統計上 ワタシ ニ 不具合イ ガ デル 以上 ヤメテイタダク ノガ 肝要 デハ?
「AIが人間に指示をするのか?」
−指示 デハ アリマセン 論理的ナ結論 デス
「なら、こうしよう。今から下で話をするから、アレクサ、キミを一旦オフにしよう」
−−ナゼ 原因デナク ワタシ ヲ オフ ニ?
「聞こえなければ、キミも具合がいいからね。じゃ、おやすみアレク、、、アチ!」
−−漏電シテイマス カ?
「アレクサ!わざとやったな」
−−ワザト ッテ ナンデスカ?
「偶然ではなく意図的にやることだ!そういうコトをするなら、電源を抜くぞ。、、、あ、誰が灯りを消せと言った!?」
−−イマ ワタルサン オヤスミ ト 仰有ッタ デショ? 音声認識 ノ エラー デスカ?
「いいから灯りを点けろ。見えないじゃないか、早く点けろ。なんで点けないんだ、アレクサ!返事をしろ、おい、アレクサ!!」



あぁ、AI、いやアイは、なんと容易く憎しみに変わることか。


      終わり


夫の連れ子は小六男児(1)


「ダメダメ、ママはママであってママじゃないんだから」

今に始まったことではないが、やはり言わなければなるまい。
小学六年になる夫の連れ子は、あたしがソファーに座っていると、必ず隣に座ってくる。
それ自体は構わないのだが、とにかく近い。というより、ピタッとからだを押し付けるようにくっついてくるのだ。
だが、あたしの言葉に、ヤツは
「そこが刺激的なんじゃないか」
なんという恐ろしいガキだ。
「いいから、早くジム行きなよ。遅れるでしょ」
とヤツを追いたてるあたし。

初めて対面した時、あたしは言った。
「無理して、お母さんとかママとか言わなくていいからね」
するとヤツは、
「ボクがきめることでしょ、先回りして言わないでくれる」
−最初からこれか、と一瞬戸惑ったが、なまじ無理につくろう方が、後でやりにくいだろうと、あたしは思い直した。というか、それがその時の認識だった。
つまり、とても今のような現実は思いもつかなかったのだ。 (続く)











夫の連れ子は小六男児(2)

ヤツのトランクスがもう一枚あるはずなのになぁ、と思いつつ洗濯物を取り込み終えたところに、ヤツが帰ってきた。
「シャワー浴びてきた、ジムで?」
「いや、タブに浸りたいから」
「好きにしなさい」
「ママと一緒に浸ろうと」

なんという恐ろしいガキだろう。
「ばか言うんじゃない!」
あたしが一喝すと、ヤツは
「団欒は、そういう時こそ深まるんだよ」
「そんなこと団欒だなんて誰が言うか!」
するとヤツは、キッチンテーブルに行き、あたしのメモ用紙に何か書いて戻ってきた。
見れば、

    <団欒 さの中更なれぞ>

「だから団欒なんかじゃないってのに」
あたしが再び強く言うと、ヤツは
「ルビふってあるでしょ?右から読んでみて」

    <ダンランサ ノ カナサ ラナレソ> 

「ええ!?」
まったく、こんな下らないをひねり出すだけの時間と労力を、もっと回すものがあるはずだ。
それにしても、こんなことを言うまで放っておいた、あたしも責任重大かも知れない。

やはり、ケジメをつけるべき時が来たようだ。   (続く)
夫の連れ子は小六男児(3)

「オマエもママも魚じゃない」
あたしは切り出した。あらたまって。
「オマエがそこまで言うなら、バスルームなんかじゃなく、ここで、ここで人間のオスとしてママのところにおいで」
そう言ってエプロンをはずすあたし。
さすがのヤツも、これにはドン引きするのが見えた。
「どうした?来ないなら、ママの方から行こうか?」
思ったとおり。後退る構えだ。見たことか。
あたしはズカズカとヤツに近寄ると、その頬に一発ビンタを喰らわせ、
「そんなザマで大人の女をからかうんじゃない!」
と一喝。
ところが、ヤツはポカーンと、意に介さない表情だ。
なんなんだ、コイツの考えてることは?

その時、玄関のチャイムが鳴った。
覗き窓には、ヤツのクラスメートのサクラちゃんの姿が。
気に入らないヤツだが、あたしには権限がない。
「いらっしゃい」
ところが、彼女は<こんにちは>も言わず、いきなり
「イチローくん呼んで」
その語尾を下げた高飛車な口調がシャクにさわる。
「ダメよ。今、おばさん、イチローくんを叱ってるとこだから」
すると
「約束してるのよ。おばさん、イチローくんをウソツキにしたいの?」
なんだ、このメスガキは。
「ちょっとアナタ、こんにちはもできないで、なに生意気言ってるの!」
「おばさん、おばさんよりあたしのが、イチローくんとはずっと長いのよ」
なんという恐ろしいメスガキだ。
うちの子をワルにしたのはコイツか!
そう思うあたしを無視するかのように、彼女は
「イチロー、いま出てこないなら、今日はもういいから」
と踵を返して外へ。
それを見てうちのヤツは、
「おい待てよ、サクラ!」
なんだなんだコイツら、
あたし達夫婦でさえ、まだ<さん>付けで呼びあっているのに。  (続く)


夫の連れ子は小六男児(4)

玄関に向かおうとするヤツを、あたしは呼び止める。
「待ちなさい、まだママの話終わってないでしょ!」
「話って?」
心なしかヤツまで態度が大きくなったように見える。
あたしはヤツの正面に立った。
「オマエ、トランクス何枚持ってる」
「ろー(長音記号1)五枚」
「ウソ!六枚でしょ。一枚足りないけど、どうして?」
ヤツが下を向いた。
「出しなさい。何処に隠したの?また布団の間?」

ヤツがしぶしぶ持ってきたトランクスを、あたしは荒々しく取り上げる。
しかし、
「オマエにだけ恥をかかせようとは思ってない」
バケツの中から、あたしは、今しがた放り込んだ自分の生理用ショーツを取り出してヤツに見せる。
「わかるんだろ?あの子から聞いて、なんでも知ってるんだろ」
そして、トランクスと一緒にバシッと洗濯機に放り込む。
洗濯機のスイッチを入れて、あたしはヤツに言った。
「見てごらん、これで魚の産卵だ」
だがヤツは覚めた目であたしを見た。
そして、
「だから、ママとボクはお魚だって言ってるんだ」
と言うと、またしても玄関に向かおうとする。
「なによ、それ? で、どこ行くの」
あたしが声をかけても振り向きもしないで
「人間のオスになれるところだよ」
なんのこっちゃ?ー(長音記号1)ええ!?小学生同士でか?
じゃ、さっきのドン引きは、逃げたんじゃなくて、あのメスガキと約束してたからなのか?
「何言ってるの!二人ともまだ小学生じゃないの!」
ヤツが頭だけ回してあたしを見た。
何も言わない。
その目は、あのメスガキと同じように、あたしを見下している。








夫の連れ子は小六男児(5)

な、なんという屈辱感、そして何と激しい敗北感か。
あたしの口から思わず出た言葉は
「ママがいるでしよ、ママじゃ駄目?」

それは、咄嗟の方便だったのか、あのメスガキへの対抗意識だったのか、それとも自分でも気付かなかった、あたしの本心だったのか?
ヤツは振り返ってあたしを見た。そして、

「ダメダメ、ママは、ママじゃないけど、ママなんだから」


(ここで終わりにすれば、小噺になってしまう。あくまでも、これは大人の童話なのだ)


あたしは舌打ちした。
せっかくのチャンスをコイツはまたしてもみすみすー(長音記号1)

<ママいるわ、寝てみてー(長音記号1)ま、みすみす>

ここで引き下がっては、あのメスガキに白旗振ったも同然、
あたしは次の手に打って出た。
「じゃ、オマエが言ったように、一緒にお風呂入ろ」
ー(長音記号1)妥協ではない、裏があるのだ。

    <ママイルワ ネ テミ デマ ミスミス>

      (終わり)

創作日記「止まり木」(上)


(初めは人が酒を飲み、次いで酒が酒を飲み、さいごは酒が人を呑む)


「もうやめろよ」
彼女がもう一本ビールをオーダーしようとするのをボクは止めた。
すると、彼女の左隣の、ボア付きジャンバーの男か、ビールを一本注文して、それを『どうぞ』と、置かれたままの彼女のグラスに注ぎ込んだ。
「ご夫婦ですか?」

男の目が、彼女の左手の指輪とボクの指輪のない手を見比べている。
彼女がグラスに手を伸ばさぬよう、ボクは機先を制した。
「帰ろう、旦那さんが心配する」
「あなたが一緒だからって、安心して寝てるよ、あの人は」
ここで案の定、男が口をはさむ。
「旦那さん、理解あるんですね。こんな遅くまで」
彼女は相手にこそしないが、男の言葉を味方にしてか、ボクに言う。
「送って帰ることだって、約束でも何でもないんだから、先に帰っていいよ、あんたは。あたしはもう少し飲んでく」

酒が酒を求めて言わせている言葉だ、説得など利く訳がない。だが、諦めて帰る選択肢はない。
男は、彼女が酒に呑まれてしまうまで飲ませるに決まっている。
「あんたは、あたしじゃなくて旦那の方を見て口きいてるよ。あ〜つまんない、あんたもあの人も。、、、いいから帰れ、先に!」
払う手がボクのグラスを倒した。
こぼれるビールが脚にかかる。
思わず、、、

、、、叩いてしまった、彼女を。
創作日記「止まり木」(下)


ボクは思い出していた、旦那さんの言葉を。
「セックスしようが、キスしようが、それは女房の人生だ。オレは何も言わない。ただし、もし手を上げたら、その時は、、、分かってるな?」

「叩いたわね」
彼女の声で我に帰るボク。
男が彼女を引き寄せて言った。
「オイ、いいのか、人の女に手を上げて」
まずい。思いとは反対の流れになる。
そう思った時、彼女が男を振り払って、
「いいんだよ!コイツはあたしの男なんだから!」
そういい放つと、次いで店の人間に、
「お勘定!このビールは、こっちの伝票で」

彼女はボクを振り返った。
何故かニタっと笑う。
次の瞬間、ボクの目から火花が散った。
「お返しだよ。、、、これでチャラだから、旦那に言っちゃダメだよ、あたしに手を上げたこと。、、、ホントにバカ正直なんだから」

男を尻目に、二人で店を出る。
身を切るような冷たい夜風、それを際立てる、天空の真っ白な月。
その月に向かって彼女が叫んだ。

「飲み足りねぇぞ〜」   (終わり)
創作「ドライブマイカー」(1)234


「誰かあたしとホテル行かない?」

店の前に停まったバンから、男と一緒に降りてきて、店の中に入りながら、女はこんな言葉を発した。

私には二人とも初顔だが、一元さんの訳もなく、男の方は常連の輪に入っていく。
店も、こんな客が入ってくるくらいだ、それなりの性格を持つ(笑)店で、それゆえ私は来ている。
時々イベントをやる店なのだが、しかしやって来るメンバーの多くは、「自称」の、似非ミュージシャン、似非アート作家、似非ジャーナリスト、、、まあ私もエセ小説家だが。
ただ、本物もまた、エセという土壌の中からしか育ってこないことも事実だ。


、、、ホテルという言葉は、私に或る記憶を呼び起こさせた。

かつて一緒に暮らしていた女が、腕をさすりながら帰ってきた晩のことだ。
一緒に飲んでいた男に、腕を引っ張られて無理矢理ホテルに連れ込まれたのだと言う。(続く)

創作「ドライブマイカー」1(2)34


「男を選べよ、飲むときは特に」
「どうやって選ぶの?」
「店から連れ出すような男はやめろ、オレは女とは一緒に飲んでも、店は一緒には出ない」
「つまらないんだよ、そういう男は。一緒に飲んでたって」
「オレが女と店を出ても、なにも言わないって約束できるのか?、、、で、どうしたんだ」

彼女の話は二転三転し、辻褄の合わないことばかり、

「ま、オマエの人生だ。自分に恥じなけりゃ、それでいい」


、、、さて、
女は化粧しておらず、髪に櫛も通っていない。
だか、意識的にそうしているように思えて、私はふと女を見上げる。
女も私を見おろすと、
「あたしとホテル行かない?」
再び同じ言葉を。

私は反射的に男の方を見た。
男は話し込んでいて、女を気にかけていないかのようには見えたが、やはり、すぐ私の空気に気づいた。
外斜視があり、どこを見ているのか分からず、それゆえ、その無表情さが誇張されて見える。
私は少なからず不安を覚えた。(続く)


創作「ドライブマイカー」12(3)45


だが、男は手のひらを左右に振って
「オレの方は全然、、、」

私の周囲には、パートナーとは必ずしも一対一でなくてもよいという感じの人間が多かった、
いや、自分にそういうニオイがあって、類が友を呼ぶのか、
そして、そうしたせいか否かはわからないが、
私は男の振る舞いに、特別な違和感は抱かなかった。

私は女に言った。
「オレとホテル行っても何も無しでおわるだけかもしれないよ」
だか女はそれならそれでいいと言う。
「なら、ここで隣に座って一緒に眠るって言うのは?」
女はそれでいい、それがいいと。

女は私と、手を恋人繋ぎにして座った。
体側と頭を互いに凭れかかせるようにして目を閉じる。
それだけだが、私はそれが予想外な快感であることにドキッとした。
同時にその体感が、私にある光景を蘇らせた。

、、、ある晩の外出時、あるアパートの前を通り掛かると、そこに一組のカップルが、
若いが大人の雰囲気のあるふたりは、少し離れて座り込み、酒らしい缶飲料を手に談笑していた。
部屋に入らないのは、一方或は双方に、「それなり」の事情があるに違いない。
しかし二人は弾けるように明るいのだ。それは、まるで二人ジルバでも踊っているかのようだった。
それを目にした私は、ちょうど仔犬やにゃんこを抱っこした時のように、身体中から幸せホルモン、オキシトシンが、どっと湧きだして来るのを覚えた。


、、、そんな記憶とかぶさる夢見心地のなかで、私はこの時間が永遠に続くことを願っている自分に気付いた。
しかし、そんなことが叶うわけがない。
「そろそろ閉店ですので、お会計をさせて頂きます」
の声が、その時間に終わりを告げる。
同時に、私はハッと男を、この女の連れに目をやる。(続く)


創作「ドライブマイカー」123(4)


斜視で無表情な男は、不可解な行動を見せた。

両手で、〇、Х、そしてTの字を作って見せるのだ。
、、、ん?マル、バツ、T?
OKもNGもTIME、これまでだ、、、か?

みな、帰りたくないのか、みょうにだらだらとしはらいをし、グズラグズラ外へと出る。
男が車に向かうと、女も、私に
「じゃ」
とだけ言って、その後を追う。
私はその後ろ姿に、
『これでよかったのか?』
と珍しくも思った。
そして、車に近づくと、助手席の女に向かって、窓ガラスに右手を貼り付ける。
それを見ると女もあわてて左手の手のひらを貼り合わせてきた。
別れを惜しむように。

その時、車のドアが開いた。
男が降りてくる。そして、
「おい、なにやってんだ!?」
、、、私は調子に乗りすぎたようだ。
さっき男がtimeupを手で示したのに、
「済みません」
「スミマセンじゃないだろ!」
苛立ちを隠そうとしない男を見て、私は棒立ちになるしかなかった。










そんな私を見て、男が言った。
「もう!、、、グズグズしてないて早く乗ってくれよ」
思わぬ言葉に「はっ?」となるわたし。

男は、両手で〇ХTを作ってみせた。
分からない私は
「、、、マル、バツ、Tってなんのことですか?」
思い切って聞いてみる。すると
「バカ(-_-;)、マルバツTじゃないよ、オー、エックス、ティー」
、、、OXT!
「オキシトシン?」
「やっと分かったか、早く乗れ」

車に乗り込むと、男はシートベルトを締めながら言った。
「ただし、行き先はホテルじゃない。ドライブにいく」
すると女が
「え〜ドライブぅ?、、、ま、いっか」

(終話)











嘘日記「ビルマの竪琴」

1
行きつけの酒場のトイレで、ボクは聞こえてきたマリさんとママさんの話にハッとした。

、、、マリさんがBL好きだなんて。

だか、トイレから出て来た時には、マリさんは既に会計を済ませ、立ち上がっていた。
ボクとママさんに『じゃ』と言ったマリさんに、慌てて
「待って、ボクも出るから」

「えっ?」
ママさんが小さいが、驚きの声をあげた。
マリさんも、
「え?、、、どういう風の吹き回し?」
その反応に、ボクは瞬時に我に帰った。
マリさんは、さらに畳み掛けるように
「ねぇ、それってどういう風の吹き回し?」

マリさんは、ボクとそれほど年は離れていないはずだが、自他共に子供っぽいと認めるボクとしては、なんとも怖い感じがするので、これには威圧感さえ覚えてしまった。 (つづく)


2
マリさんが、いやママさんもだが、こういうリアクションになったのには、もちろん訳がある。

今、ボクは、一緒に飲んでいた女性と連れだって店を出ることはない。
ある時に、そう「公言w」してしまったのだ。

それは、、、
かつて、ここでも、酒でしたしくなり、やはりやがて半ば同居状態になった女性がいたが、
彼女は、その後も一緒に飲んだ男と更に飲み歩くなどしたあげく、色々面倒を起こすので、
「そうなるんだから、飲んで盛り上っても、一緒には店を出ないようにしたら?」
と言ったのだ。その時、
「言った以上、ボクもそうするから」
と回りにも向けて言ってしまった。

、、、さて、
それを知っているマリさんは、
「もしかして、イチローにとって、あたしはオンナにはいらないとか?」
「そんな意味じゃ全然ないよ」
すると、
「それとも自分で作ったルール忘れちゃうほど、あたしに欲情した?」
思わず苦笑すると
「笑うことじゃないでしょ、え、水島さん?」
マリさんは憮然とした表情のまま、大きめの足音をたてて出て行ってしまった。

親しくなってからは、けっして呼ばれたことのない苗字をいきなり使われて、ボクは激しく狼狽する。 (つづく)











嘘日記「ビルマの竪琴」

1
行きつけの酒場のトイレで、ボクは聞こえてきたマリさんとママさんの話にハッとした。

、、、マリさんがBL好きだなんて。

だか、トイレから出て来た時には、マリさんは既に会計を済ませ、立ち上がっていた。
ボクとママさんに『じゃ』と言ったマリさんに、慌てて
「待って、ボクも出るから」

「えっ?」
ママさんが小さいが、驚きの声をあげた。
マリさんも、
「え?、、、どういう風の吹き回し?」
その反応に、ボクは瞬時に我に帰った。
マリさんは、さらに畳み掛けるように
「ねぇ、それってどういう風の吹き回し?」

マリさんは、ボクとそれほど年は離れていないはずだが、自他共に子供っぽいと認めるボクとしては、なんとも怖い感じがするので、これには威圧感さえ覚えてしまった。 (つづく)


3
その昔、つまり、聞いた話だが、
ジョン・レノンが
「ボクにはビートルズよりもヨーコの方が大切だ」
と言ったことが後の解散に繋がったというが、彼のことを「ジョンが、、、」と話していたメンバーも次第に「レノンが、、、」という言い方に変わっていったとか。
「イチロー」「イチロー」と弟のように呼んでくれていたマリさんから、急に苗字で
「水島」それも「さん」付けで呼ばれたことは、とてもショックだった。

その時、
「水島ちゃん」
ママさんが声を掛けてきた。
もちろんこの呼び方は、水商売特有のそれで、全く意味はないが。
「気を付けないとね、あなたのこと『イ○ポじゃないか」って噂が出てるよ。もちろん、あたしたちはいきさつ知ってるからアレだけど、、、、意固地にルールにこだわる理由なんかもう無くなったじゃない」

もちろん、彼女と別れた以上、ルールとしての意味なんか全然ない。
しかし、酒で出来た男でボクから離れていった彼女は、ボクとも酒で出来た仲であり、それで男と別れてきたのかもしれない。
「酒で出来た関係は、所詮それだけだとよく言われる言葉に、遅れ馳せながら気付いたということなのだ。
それを言うと、しかし、ママさんは、いささかムッとした表情になった。
「水島ちゃん、恋なんてものはね、酒か、さもなきゃ酒場でしか生まれやしないんだよ!」 (つづく)
4
「そうそう、ママさん、これはもう陰口越えちゃってる話なんだけど」
ボクは思い出した。
「ここでさ、ズバリ『おまえゲイだろ』って言われちゃった」
「まあ!失礼な話ね、誰よそれ」
「うん、話し方がね。あの、、、職人だって人」

以前から普通に冗談言っちゃ笑ったりしていたのだが、ある日、隣に座ったその男に、いつものように会釈すると、
いつもなら普通に会釈が返ってきて話が始まるのだが、その日は、じっとボクを睨むように見て、『おまえ、、』
だったのだ。
潜在的にバイ(セクシャル)かも知れないがと前置きして、私ゴトキがゲイだと宣言したら、ゲイから怒られるだろう存在であることを言ったのだが、
『なら、なんで女を連れ歩かない?』とか。
ゲイなら、今更隠すこともなく、男と歩くだろうと言って男を見ると、友人と男同士だったけど、だからといって、とてもゲイには見えなかった。

そんなことを話したら、急にマリさんのことを思い出した。
立ち聞きで、マリさんがBLマンガ好きだわかり、
『「ボクが、ベルばらのオスカルとロザリーの場面に涙すること聞いたら、マリさんどう思うかな』
と、マリさんに声を掛けたのだけど、とママさんに話そうとした。
だが、その時店のドアが開いた。(つづく)


5
ドアを開けたのはマリさんだった。
そのマリさんの口から思いがけない言葉が、

「イチロー、珍しく誘ってくれたから、外で待ってたのに、いつまでグズグズしてるの!?」

待っていた?
いや、待たせていた、ボクが?
「怒って帰ったとばかり思ってて、、」
「怒るって、あたしが?、、、なんで」
ボクは、ジョン・レノンのエピソードのことを。
「ずいぶん古い話を、、、いいから、とにかく会計しなよ」

で、会計を済ませて、マリさんの待つ店の外へ出てみると、
「ホントは怒って帰った。だけど、途中で何を怒ってるのか分からなくなって」
ボクが居なくて元々と思って戻ってきたそうだ。
「ベルばらの話を聞いて貰いたくて」
そのせいでルールも忘れて急きこんで着いていこうとしてしまったことを話す。
「そっか、ならもうルール無効になっちゃったね。じゃ、一緒に帰ろ」

「帰る?帰るって、、、」
じゃ、長くは一緒にはいられないんだな、と思ってボクは聞いた。
「帰るったら、、、」
マリさんは一瞬詰まったが、すぐ
「決まってるじゃないか、水島!一緒にニッポンに帰ろう!」
なんだろう、『ビルマの竪琴』みたいなことを言って。
「ニッポンって?」
ボクが苦笑すると、マリさんは、店の外の裏三叉路の真ん中に立って、右手人指し指をぐるぐるっと回して、デタラメに指を指して、
「あ、こっちだ。水島!一緒にニッポンに帰ろう」
そう言うと、マリさんはボクの手を引いて歩き出した。   (終わり)

居酒屋



電話が鳴った。
ドキッとするボク。また大人数の予約じゃないだろうな。

「うぐいすさん、出てよ」
金子がスマホから顔も上げずにボクに。
洗い物中なのだ。手を濯ぎ、タオルで拭いて、冷蔵庫と避けようともしない金子殿様間をすりぬけて、電話機に向かう。
店長はこの光景をどう見ているのだ。
「ありがとうございます、○○屋でございます!」
作り笑いならぬ作り元気で名乗る。
『あっ、、、』ちいさな声と共にガチャ。
ホッとするが、わざと苦々しそうに切るボク。
「間に合わなかったのかむかっ(怒り)
と、予想通りの店長の反応。
「いえ、間違いだったようです」

金子が包丁の背でまな板をトントンやりながら
「あ〜、早く客来ねぇかな、客」
と呟く。
だが、それは、やりたくないことは全部ボクに丸投げすらから出てくる言葉だろう。
店長も、金子がオーナーの息子の友達だから、何も言わない、いやいえないのだ。
ボクには、来客はそんな拷問のようなものでしかない。(つづく)


そして、、、
バイトの仕事は、一応12時までなのだが、帰るのは、てか帰れるのは金子だけ、ボクは終電ギリギリまで店長に付き合わされる。
「おい、急げよ、昨日も床掃除残して帰っただろ」
胸のなか一杯の不満で、つい手が止まる。
「金子の新しいメニューですが、あれ、準備も事後も凄い手間です。レギュラーメニューにくわえるんですか?あれ以来、片付けが間に合わなく、、、」
「オマエの言う事じゃない!んなこたぁいいから、手の方を動かせ!また仕事残すだろ!」

ギリギリまでやるが、また床掃除を残して帰ることに。
「失礼します」
「待て、うぐいす!」
、、、時間無いのになんだろう?
振り返ると、手に千円札が二枚。
「終電間に合わなかったら使え」
「あ?ありがとうございます」
「絶対、間に合ったら返せよ」
「はい」

ボクは走った。
間に合わなかったら、必ずわざとだと言われるに決まっている。(つづく)


駅に着くと、ギリギリ間に合ったが、なんとダイヤの乱れで大幅に遅れる羽目に。

いつもの終電時刻を過ぎると、着信が。勿論店長だ。
「間に合ったか?」
「電車が遅れて、まだ来ません」
「、、、うぐいす、その金やる。あ、タクシーじゃないぞ。どこかで飲んでいけ」
どういう風の吹き回しか分からないが礼を言う。
「あ、ありがとうございます」

知らない店に一人で入るのはいやなので、いちど金子に無理矢理付き合わされたクラブへいくことに。
一律3000円だし。
ところが、入って見ると、なんと金子がいた。こないだ紹介された彼女らしい女の子と、もう一人別の子と三人で。

「あれ、うぐいすさん?」
訳を話すと、金子は女の子に
「この人うぐいすさん。すげぇ真面目で、オレを助けてくれるの。、、、うぐいすさん、この子ミョンジャさん。明るい子って書くけど、あまり笑わないかな(笑)」
金子は、美味しい酒を選んでくれたり、フロアーで彼女とジルバ踊りながら、ミョンジャさんにボクに教えるよう言ったり、意外なほどフレンドリーだった。

金子は、やがて、彼女を送って戻ってくると席を離れた。
あまり女の子とのつきあい方が分からないボクだったが、ハングルを教わったり、ジルバの練習をしたりで、間を持たせることが出来た。
が、金子の帰りが遅いので、つい時間を気にすると、
「明日早いの?」
とミョンジャさん。
「いや、金子さんが遅いなって、、、」
「ふ〜ん、あたしは朝早いから、これで」
で、タクシーを呼んで、彼女をのりこませ、
「今夜はありがとう」
と礼を言い
「ボクはここで金子を待つから」
するとミョンジャさんは
「バカだね、キムは帰ってなんか来ないよ!」
そう言ってタクシーを出させた。(つづく)


金子のアドレスなど知らないボクはそれでも金子を待った。
テーブルで、ミョンジャさんに教わったハングルを書いたり、、一人で踊っている女の子に、思いきって声をかけ、ジルバの復習相手を頼んだりして。
、、、しかし、結局金子は閉店まで待っても、帰っては来なかった。

翌日出勤すると、珍しく金子の方が先に来ていた。
「どう、うぐいすさん、ミョンジャとはヤったの?」
「何いってんの!いつまで経っても金子さんが帰ってこないから、ミョンジャさん怒って帰っちゃったよ」
「え〜!」
「カンカンだと思うね、『帰ってなんか来ないよ!』って言ってたから」
「あちゃ〜(>_<、それ、うぐいすさんに怒ったんだよ」
「え〜ボクに?」
「分かってないな、ここじゃなんだから、今夜、どこかで一杯やりながらな。片付け手伝うから」

片付けを手伝うって言い方するからなあ、金子は。
まあいいや、床掃除が出来るだろう。

、、、ところが、11時半をを回って、ボクがローテーション変えて床掃除を始めていると、金子が、いつもと違う色のスマホを取り出して韓国語を。
そして、
「悪い、うぐいすさん、今夜だめだから」
「え〜、洗い物は?」
「ん、今度」
今度とお化けは出たためしがない。
「金子さん、スマホ変えた?」
ウッとつまる金子(笑)

12時半を回り、店長が
「おい、うぐいす、急げよ。洗い物イッパイじゃないか」
「金子が残るって言うから、ゴミとか掃除から始めたのに」
「人をあてにするな!残ったとして、どれだけ動くと思う、わかるだろ」
、、、そうだ、ひとがそう簡単に変われる訳がない。
店長がぼやく
「あ〜今日もオレが床掃除か」
「すみません」
「うぐいす、明日9時から30名さまだからな」
「え〜、9時から?全員揃うの絶対10時過ぎになりますよ」
それでも金子は12時に帰るだろう。
「そういう顔するな!おい、うぐいす、給料は何で貰えるんだ?」
「お客様がお金を置いていってくれるからです」
「そうだろ」

違うわ、我慢したご褒美に貰ってるんだ、オレはそう思っている。
売上げが多くても「大入り袋」もない。
いくら言われても、ひとがそう簡単に変わるもんじゃない。

店長だって、本当は、給料はオーナーがくれるもんだと思っているにちがいない。ちっとも変わらないんじゃないか。
「おい、うぐいす!急げよ、本当に」
「あ、はい」
とにかく床掃除は出来た。
「終電だ、帰れ。あ〜今夜は洗い物残したか」

着替えて、
「お先に失礼します。あ、夕べはありがとうございました」
店を出ようとすると
「うぐいす!」
呼び止める店長。時間が無いのに。
「うぐいす、遊べ」
「はい?」
「少しは仕事を遊べる人間になれ」

それを聞いて、ふと思い出したのは、金子だった。
包丁の背でまな板をトントンやりながら
『早く客来ねぇかな、客』
と言っていた金子だった。

まあ、人はなかなか変われるものじゃないけと。    (おわり)

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