ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

ちゃむ(coLd)コミュの【Just Fit Vol.1】

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
 彼女とは体の相性が良かった。
 それは勿論性的なニュアンスも含むのだけれど、もう少し言えば互いのパーツが相手のパーツに驚くほど馴染んだ。
 まるで二人の体から互いを引き付ける強い磁力が発生している感覚だった。
 形態が、サイズが、なにせ何から何まで心地良く納まった。
 握る手も。組んだ腕も。抱きしめる躯(からだ)も。頭を撫で、起こす朝も。腕枕で閉じ込める夜も。僕らはそうなる為に創られたと錯覚する位に綺麗にフィットして、来る日も来る日もピース2つの簡単なパズルを作った。
 愛しいパズルを作った。

 だから

 いま彼女の首に食い込む僕の手が、掌が、指が、まるでそこに在るべくして在ったかの様に吸い込まれていく事が全く不思議ではなかった。
 手に篭(こも)る力は段々と増していった。
 抗えない必然と、ピースが合わさる快感が、僕の口角を上げた。
 震えているのは僕の手か。それとも彼女の痙攣(けいれん)か。
 彼女の青白くなった顔に月明かりが射した。
 頬に一筋涙が流れて、口がパクパクと動いた……。



「……なんてこともあったわねー」
 彼女が笑う。
「よせよ朝から……昔の話だろ」
 僕は苦笑う。
「ああいう過激な求め方って、若さ故なのかしら?」
「この歳になってそんな危なっかしい真似できるかよ……」
 不意打ちの思い出話は朝食と一緒に食卓に並べられた。“過激なプレイ”も付き合って五年、結婚して二年も経つとすっかり鳴りを潜めるものだ。まともに彼女……嫁の顔が見れなくなった僕は新聞を盾にしてコーヒーを口に含んだ。
「ところで……あなた、またうなされてたわよ」
 嫁が新聞の隅から心配そうに覗き込む。
 ここ最近、質の高い睡眠が取れていない。
「うん……同じ夢ばかり見るんだ……」
 原因は毎夜見る夢だった。
「こないだ話してくれた夢ね」
 夢の内容はこうだ。

 コンクリート打ちっぱなしの薄暗い部屋には僕一人。部屋の窓には鉄の棒が入っている。窓から差し込む月明かりが眩しくて、それでも冷たくて、無性に誰かに会わせてほしくなる。だから叫ぶ。「あわせてくれ」と−−−。

「一度病院へ行ってみたらどうかしら?」
 嫁はしきりに通院を薦めてくる。僕を心配してくれている気持ちは有り難いのだが、何故か僕は医者にかかる気が起きなかった。
「うん……まぁ……そうだなぁ……」
 通院が億劫な訳ではない。怖いとも思わない。病んでいる自分を認めたくない一心で病院に行かないのではない。
 嫌な予感がするのだ。
 上手く説明はできない。
 しかし、僕の何かが病院へ行く事を拒んでいる。

「私も産婦人科へ行くんだから、都合が良いじゃない。ねぇ、そう思いまちゅよねー」
 嫁は大きくなったお腹を撫でながら掌の向こう側の生命に語りかける。7ヶ月目のゆりかごを通して。
「パパが不安定だと赤ちゃんも心配するわ」
「……解ったよ、一度尋ねてみる」
 “赤ちゃん”は反則だろう……。僕は渋々了承すると、冷める手前のコーヒーを飲み干した。





続く
http://mixi.jp/view_bbs.pl?&id=67216580&comm_id=5887800

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

ちゃむ(coLd) 更新情報

ちゃむ(coLd)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング