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駄文倉庫コミュの私の鞄知りませんか?

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「すみません。」

声を掛けられて顔を上げた。

目の前には20代半ばかそこらの男性が立っていた。端正と言える顔立ちだったが何処か違和感を覚えた。

「すみません。」

男性は同じ言葉を口にした。

なんですか?
安眠を妨害されて少しぶっきらぼうな言い方になってしまった。

「私の鞄知りませんか?」

鞄?そんなもの知るわけが無い。それとなく周りを見回して見てませんねと答える。

「私の鞄知りませんか?」

なんだこいつは?頭がおかしいのか?此処でさっきの違和感の理由に気付いた。目の焦点があっていないのだ。
こちらに顔を向けて男は話し掛けているが、その目はこちらの目も首元も見ていない。

座っている椅子よりも更に先の何かを見ているようだった。

「私の鞄知りませんか?」

その様子に少し恐怖を覚え知りません。そう言いながら男から離れようとすると男は突然両肩を掴んで座席に押し付けてきた。

「私の鞄知りませんか?私の鞄知りませんか?私の鞄知りませんか?私の鞄知りませんか?私の鞄知りませんか?私の鞄知りませんか?」

男は壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返す。
突然の出来事に恐怖で体は固まってしまった。助けを求めようと周りを見たが疎らに居た筈の乗客が誰一人居なかった。

男は同じ言葉を未だに繰り返している。

恐慌を起こしそうになりつつも必死で男を引き剥がそうとする。
放して!放せ!叫んでみても男は放さない。

一瞬体重を背もたれにかけて、全身全霊の力で男の胸辺りを体を起こしながら押した。

すると男は紙細工のように後方に吹っ飛ぶと反対側の座席横の手すりに頭を強打した。
その場を直ぐ逃げようとしたが何故か動かない男を見つめた。

恐る恐る近付くと男は

頭が大きく傾き、それを戻そうとしたところで目が覚めた。
随分と嫌な夢を見てしまった。微妙に冷や汗までかいている。一瞬乗り過ごしたかと思ったが降りる駅はまだ二つ先だ。

するとあることに気付いた。
周りを見回したが見付からない。もしや寝ている間に誰かに持っていかれたか?

私は反対側の座席に座っている女性がもしかしたら知っているかもと思い声を掛けてみた。

すみません。

女性は顔を上げて訝しそうな表情をこちらに向けた。私は少し怖じ気付いたがもう一度女性に声を掛けた。

すみません。

「なんですか?」

私の鞄知りませんか?

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