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ねこると創作クラブコミュの第六回ねこると短編小説大賞応募作品No.2『Sweet Coffee』

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 九州の隅っこにある、ほんの少し、海の香りのするレトロな煉瓦造りの町並み。夜中から降いた雨のせいか、異国のような雰囲気すら漂わせている。その、町並みの一角に風見鶏の看板をぶら下げた、まるで廃屋のような古い建物が建っていた。その建物にむかって、傘を差した一人の男が歩いていた。片手には食材が入った袋を携えている。目的地である建物の前で彼はふと足を止める。入り口の横に見覚えのない少女が横たわっている。高校生くらいであろうか? 疲労のためか、顔色は青白く微動だにしない。彼は、荷物を地面に置き彼女の首筋に指を当てる。彼女の脈があることを確認し安堵の息を漏らす。余程恐ろしい思いをしたのか、少女の目から、雨とは異なる雫が零れる。
「こんなところ見られたら、ろくでもない噂が流れちまうよなぁ」
 そう呟きながら溜息をつき、建物の中に少女をそっと抱き上げて運んで行った。

少女は、雨に濡れた石畳の上を必死で走っていた。辺りは真っ暗で、降り続けている雨が彼女の体力を少しずつ奪っていく。走ってきた道を振り返ると、真っ暗な闇から、恐ろしい形相に顔を歪めた誰かが追いかけてきている。それは、男の様にも女の様にも見えた。恐怖を感じた瞬間、ぐらりと体が揺れ足を滑らせてしまう。どんどんと、恐ろしい形相の誰かが迫ってくる。そして、何も見えなくなった瞬間、高い所から落ちるような浮遊感と強烈な衝撃が臀部を襲い、バン! といった大きな音が響く。次の瞬間目を開くと、見覚えのないソファーとテーブルが視界に飛び込んできた。自分が置かれておる状況が理解できず、立ち上がりきょろきょろと周りを見渡す。どこからか、コーヒーの香りが漂ってくる。
「お嬢さん、目が覚めた? 」
ふと、声の方を見上げると清潔感のある白シャツと黒のスラックスを身にまとい、黒縁眼鏡をかけた若い男性が、テーブルの上にトーストとマグカップを置く。どうやら、ソファーに寝させていたらしく、そこから落ちたらしい。痛む臀部をさすりながらソファーに座り直し、おずおずと頭を下げる。
「ここは、僕の経営する喫茶店だ。といっても、まだ開店前の時間だけどね。とりあえず、濡れた体をふいて、温かいものでも飲んで体を温めなよ」
そういって、彼は彼女にバスタオルを手渡しキッチンの奥にある椅子に腰かけ、新聞を広げた。少女は、タオルで湿った髪の毛をふきながら、ゆっくりとテーブル上のマグカップに手を伸ばす。マグカップの中は温かいココアが入っていた。ゆっくりと、温かいココアを口の中に流し込むと甘い香りが鼻腔と口の上に広がり幸福な気持ちで満たされる。
突然、大きな音と同時に扉が開かれる。
「マスター! 今日の新聞読んだ? 」
高校生くらいの、やせ形の少年が目を爛々と輝かせて屋内に飛び込んできた。「マスター」と呼ばれた黒縁眼鏡の男性は、持っている新聞を指さし読んでいる最中であることを示す。しかし、少年は、そんなことお構いなし、とでも言うかのようにカウンターテーブルの上に自分の持ってきた新聞を広げる。
「昨日、この港町で現れた窃盗犯が逮捕された記事です! 僕の名推理が新聞記事に取り上げられました! 」
 窃盗事件なんて、最近あったかしら? と、少女もこっそり少年の後ろに近づき新聞記事を覗き見る。新聞の地方覧の隅っこの方に「引ったくり犯逮捕。少年のお手柄により御用!」と記されている。少年は、興奮冷め止まぬ、といった感じでひったくり犯の逃げた先を特定し追い詰めたかを、まるで舞台俳優のようにオーバーな身振りで説明している。マスターはそんな彼を静止し声をかける。
「輝彦君、学校は? 」
その質問に対し、彼は今日からゴールデンウィークになり、連休に入ることを、冗長的に説明しマスターにコーヒーとトーストを注文する。
「まだ、開店前なんだけどなぁ」
 苦笑いを浮かべながらも、マスターは椅子から腰を上げ、コーヒー豆を挽き始める。新聞記事のお手柄を語り終えて落ち着いたのか、遅れてから店内にいる自分以外の客である少女に気付く。
「珍しいね、僕以外に風見鶏にお客さんがいるなんて」
 『風見鶏』がこの店の名前らしい。少年が、出されたコーヒーに大量の砂糖とミルクを溶かしながら話しかける。
「僕は、木村輝彦。そこの港高校の探偵部部長さ! 」と誇らしげに語る。キッチンから、部員はお前だけだけどな、といったマスターの声が響く。
「ところで、きみは? 」
 輝彦の質問に、少女は思わず身構える。
「あぁ、心配しないで。女の子のことを深く詮索したりなんかしないよ。僕は、紳士を目指しているからね。ただ、女性を呼ぶときに『君』じゃ言いにくいから名前を教えて欲しいんだ」
 なんとも、オーバーな言い回しに思わず笑いが零れてします。彼は、その笑いの原因が自分であることがわからないのか、不思議そうに首をかしげる。少女は、「山田美和」と自身の名前を告げる。そして、自分が数年ぶりに笑っていることに気が付いた。輝彦少年は、自身の学校の話、探偵部の話、部員がいなくて寂しい、学校が違ってもいいから君も部員に入らないか? などとりとめのない話題を笑いながら交えていた。
再び、突然扉が開いた。今度は少し強面の男性とその後ろには優しそうな笑顔を浮かべた男性の二人組が入ってきた。
「今日は、開店前の客が多いな」
 呆れたような笑みを口元に浮かべ、マスターが二人に近づく。美和の耳元で輝彦が、あの二人はこの町の刑事であることを伝える。
「今日はどうされたんですか、ヤマガタさん? 」
 ヤマガタと呼ばれた強面の男性が、ジロリと店の中を見渡し、輝彦を見つけると、少し溜息をついた後口を開いた。
「やれやれ、探偵坊やもおるんか。まぁ、ええわ。用件だけさっさと伝えるで? 昨晩、この町で殺人未遂があった。被害者は、この町に住んどる主婦や。で、そこの高校生の子供が行方不明で警察は、重要参考人として、その行方不明の子供を探しよる。もし、見かけたりしたら、うちに連絡くれよ」
 ヤマガタさんはマスターにだけ聞こえる様に事件現場と行方不明の子供の特徴を伝えて、店から出ていこうとする。
「ところで― 」
 もう一人の、優しそうな男性が、優しい顔付きからは想像できないほど鋭い視線で美和を睨み口を開く。
「そちらの、お嬢さんはどちらかな? 」
 美和は、彼の視線に射抜かれ、身動きができなくなってしまう。
「僕の後輩です。探偵部の入部希望者なので、ここで話をしているんですよ、カワミツさん」
 と、輝彦は美和に助け舟を出し、チラリとマスターに視線を送る。マスターも彼に話を合わせ説明すると、カワミツさんと呼ばれた男性も店を後にした。
 二人が出て行ってから、店の中は急にしんと静まり返った。その静寂を破ったのは輝彦であった。
「ところで、マスター! さっきヤマガタさんから聞いた情報を僕にも教えてくださいよ! 」
「君は、まだ子供なんだから駄目だよ」
それだけ伝えてマスターは再び椅子に腰かけ自分のためにマグカップにコーヒーを注ぎ始めた。
「じゃあ、いいですよ、自分で見つけますから」
彼は立ち上がり、ポケットから小銭を取り出しテーブルの上に乱雑に置く。そして、少し恥ずかしげに少女に手を差し伸べる。
「よければ、一緒に手伝ってくれたら嬉しいな」
 美和の返事も聞かず、彼女の手を引っ張り輝彦は店を後にした。
 二人が出ていき、異様なまでの静寂が店内に広がる。マスターはコーヒーをすすりながら「殺人未遂」という言葉をヤマガタ刑事が口にしたときに美和の顔色が変わった瞬間を見逃さなかった。もしかしたら、自分は想像していた以上の厄介ごとを拾い上げてしまったのかもしれない。少し顔をしかめ、飲みかけのコーヒーが入ったマグカップを流し台に置き、上着を羽織り店を出る。風見鶏の看板には「CLOSED」と書かれた札をかけ、店の裏に止めておいたオートバイに跨り煉瓦街の中に出向いて行った。

 輝彦は、美和を連れて町の人々に聞き込みを行っていた。まだ、朝も早いせいか、喫茶店や八百屋などの開店準備をする大人たちが忙しげに道を行き来していた。その活気あふれる景色とは対照的に美和の表情は暗かった。ふと、彼女の意思をくみ取ったのか、輝彦少年は口を開いた。
「安心してください、僕は山田さん、あなたを疑ったりなんかしていませんよ」
 美和の驚いたような表情を見ながら言葉を続ける。
「でも、なにか知っていることがあったら教えてくださいね」
 そう言い、再び彼は町を行きかう人に聞き込みを行いに行った。美和は、彼の言葉に少し胸の痛みを感じながら、しかし、どうすればいいかわからず、彼のあとを追いかけていった。

 風見鶏のマスターである佐上は、ヤマガタから聞いた事件現場に来ていた。煉瓦街から少し外れた、古いアパートの前であった。道路には、生々しい血痕が残っている。周囲の自転車は何かにぶつかったかのように乱雑に倒れている。そこに、血の付いたマッチ箱が落ちていた。何かの絵が描かれているが血で汚れて見えない。犯人は、被害者を殺し損ねていることや、必要以上に現場が荒れていることから相当焦っていたのだろう。不自然にマッチが落ちていたことにも佐上は首をかしげる。ぶつぶつ呟きながら、佐上は周囲を探る。ふとアパートの階段下に目をやると、小さな手帳が落ちていた。佐上は、手袋をはめ手帳に手を伸ばし中身を確認し、すぐに電話を取り出した。

 レトロな町並みに合わせ、この港町でもう一つの観光名所である跳ね橋の上に、ヤマガタとカワミツは煙草をふかしながら立っていた。ふと、佐上の姿を見つけニヤリと笑みを浮かべる。
「思ったより、情報提供が早かったなぁ」
 ヤマガタ刑事は、吹き付ける海風に顔をしかめながら駆け寄ってくる佐上に手を振る。
「情報提供、というより、事件の概要を詳しく教えていただこうと思いまして。じゃなきゃ、情報の収集もしようがないでしょ? 」
 気の抜けたような笑顔を浮かべる佐上に対しカワミツは忌々しげに舌打ちをしながら事件の概要を説明する。
 被害者は、佐藤清子、三十二歳。シングルマザーで高校生の娘と二人暮らし。職業はホステス。仕事の帰り道に家の前で何者かに腹部を刺される。通りすがりの者、と名乗る若い女性から救急要請があり一命をとりとめる。しかし、救助隊と警察が現場に辿り着いた時には被害者以外人はおらず、誰が救急要請をしたかは不明。また、彼女の娘に事情を聴くため、彼女の自宅へ赴くが誰もおらず、警察は事件に巻き込まれている可能性と、今回の事件に関わっているという二つの可能性の元捜索を進めている。
 カワミツの説明を聞き終えた後、佐上の表情が変わる。ヤマガタとカワミツにまた連絡をすることを伝え、バイクに跨り走り始めた。

 輝彦の聞き込みは、高校生にしては手際のよいものであり、彼は事件の被害者の氏名、年齢、職業の情報を集めていた。しかし、肝心の「行方不明の娘」については、この町から遠くの高校に電車で二時間かけて通学している、ということしか分からず、町の人々も、彼女を普段見かけたことがないとのことだった。美和は、彼が町の人々から情報を集めるにつれて恐怖を覚えていた。
「なんで、木村君はそんなに探偵みたいなことをするんですか? 」
 休憩のために立ち寄った喫茶店で美和は輝彦に尋ねた。なにか、違う話題で彼の気を逸らさなければ自分の不安が膨らみ続けそうであった。テーブルの上に置かれたマッチ箱の猫の目がじっと、美和を見つめているような気さえする。
「うーん、この町って、世間から『レトロ街』って呼ばれてるじゃないですか。この町も、それに乗っかって、大正レトロやヨーロッパ風の建物や催し事が沢山あるでしょ? 」
 同意を求められ、美和は頷く。そして、輝彦少年は満面の笑みを浮かべ言葉を続けた。
「やっぱり、大正やレトロといえば探偵じゃないですか! この町には、シャーロックホームズや明智小五郎、少年探偵団みたいな人たちが活躍しそうでしょ? だからです! 」
 これぞ、世界共通の認識だ、と言わんばかりの自説を展開され美和は少し困った笑顔を浮かべる。しかし、輝彦は同意された、と思ったのか満足げに笑顔を浮かべ、砂糖とミルクをたっぷりと溶かしたコーヒーを飲み干す。そんな二人に、キャップ帽をかぶり、眼鏡をかけた喫茶店の店主が近づいてくる。一瞬、美和は彼と目が合った気がした。
「精が出るね、少年探偵君」
 彼は、にこやかな笑顔を浮かべ二人に近づいてくる。
「これは、そんな君たちにサービスだよ」
 と、彼はテーブルの上に新しいコーヒーとケーキをそっと置いた。輝彦は、礼を述べると再びコーヒーに大量のシロップと砂糖を溶かし口につける。美和も、ブラックのコーヒーが飲めないので彼と同様に砂糖とミルクを溶かし口につける。ふと、マスターの顔を見上げる。彼は、先ほどの穏やかな表情が嘘のような恐ろしい笑顔を浮かべていた。その笑顔を見た瞬間、美和の全身に悪寒が走り、昨日の夜の恐ろしい記憶がよみがえった。「逃げなければ! 」そう輝彦に伝えようと彼に目線を向けると、彼はぐたっりとソファーの上で意識を失っている。そして、美和自身も次第に意識が遠のいていった。

 ふと、輝彦は全身の痛みで目を覚ます。どうやら、ここは町はずれにある廃倉庫の中のようだった。どれくらい意識を失っていたのであろうか、倉庫の隙間からは西日が差していた。手足は縛られ自由は利かない。慌てて周囲を見渡すと隣に、同じように縛られた美和の姿があった。彼女も意識を取り戻したのか、うっすらと目を開く。輝彦は、彼女を危険な状況に巻き込んだ自分の迂闊さを痛感する。なにか、突破口はないか、思考を切り替え必死に周囲に目を配る。ふと、自分と美和以外の人の気配を感じる。近くの椅子に、派手な髪色をした高校生くらいの少女が縛られ、意識を失っていた。瞬時に、輝彦は彼女が行方不明の女性であることを察した。
「まったく、子供が出しゃばりすぎるからいけないんだよ」
 倉庫の扉が開き先ほどの喫茶店の店主が入ってきた。その手には、包丁が握りしめられていた。美和は、昨晩偶然見てしまった事件の場面を思い出し恐怖で全身が凍る。
「あなたが、犯人だったんですね」
 輝彦の言葉に、何を今更、といった呆れた笑みを浮かべ、近づいてくる。
「そうだよ。しかし、まさか唯一の目撃者である君たちから近づいてくるなんてね」
 まるで、テレビドラマに出てくる悪役のような笑い声をあげる。
「僕と彼女の邪魔をするなんて許せないよ」
そう呟き、意識を失っている少女の髪に触れる。だから、君たちも、あの母親の様にしてあげよう。そう呟き、ゆっくりと二人に近づく。
「まずは、そっちの少女からだね。昨日は、君のお蔭であの母親を殺し損ねてしまったんだから」
 恐怖で動けない美和に向かい、男は包丁を振り上げる。死を覚悟した瞬間横からの大きな衝撃が彼女を弾き飛ばした。そこには、いつの間にか縄をほどいた輝彦が立っていた。その手には、小さなナイフが握られていた。
「少年探偵なんですから、こんな時の対処法だって考えてますよ!」
 誇らしげに笑みを浮かべる輝彦を、男は睨み返し、今度は彼に向かい包丁を振り上げた。その瞬間、大きな音とともに入り口の扉が開かれる。そこには、佐上が立っていた。
「誰だよ、お前! 」
 興奮した男は、包丁を構え直し佐上に向かって切りかかる。
「誰って、喫茶店のマスター兼探偵かな、この町のね」
 佐上は、不敵に笑みを浮かべ眼鏡を外し胸ポケットへしまう。最小限の動きで男の一撃をかわし、鋭い拳の一閃が彼の顎を貫いた。
「探偵ってのは、腕っぷしも強いんだよ。シャーロックホームズもボクシングが強いだろ」
 膝からゆっくりと崩れ落ちる男に向かって呟いた。そして、ゆっくりと美和を縛っている縄をほどき、椅子に縛られている少女に近づく。
「いい加減気を失ったふりはやめたら? 君が、あの男をけしかけて母親を襲わせたのも分かってるよ。彼の店のマッチも君がわざとおいていったんだろ? 」
 輝彦と美和は驚きの表情を浮かべ、佐上と少女に目をやる。
「なぁんだ、もうバレちゃったのか」
 少女は、悪びれもせず舌打ちをし立ち上がる。どうやら縄は縛っているように見えるだけだったようだ。
「で、あたしをタイホするんですか? 」
 なにが面白いのか、けらけらと笑い声をあげる。
「逮捕するのも、君から話を聞くのも、僕の仕事じゃないよ」
 その言葉のあとに、遅れてヤマガタ刑事とカワミツ刑事が倉庫に駆けつけ、男と少女を連行していった。そのあと、輝彦と美和は「事情聴取」という名の説教と「危ない事件に首を突っ込みすぎ」、とマスターからの拳骨を頂くことになった。

 事件から数日後。夕刻の風見鶏の中には、佐上と輝彦しかいなかった。あの事件以来、輝彦は両親から罰としてゴールデンウィーク中は外出禁止令を課されていたようである。学校帰りに彼は、学生服に身を包み、相変わらず砂糖とミルクがたっぷり入ったコーヒーと飲んでいた。あの事件以来、山田美和も風見鶏に顔を出していない。
「ところで、マスター。あの事件の話なんだけど、なんで娘が母親の殺人を男にけしかけたってわかったの? 」
「簡単な話だよ。あの娘は、母親に隠れて援助交際を頻繁に行っていたみたいなんだよね。現場に彼女の手帳が落ちてて、その中に顧客リストと出会い系のパスワードが書かれてたんだ。そこから、サイトにアクセスしたら簡単に、あの男との繋がりがわかったよ。ほんと、堂々と殺人教唆をしてるんだから驚いたよ。ちなみに、彼女は最初から全ての罪を彼に被せるつもりだったみたいだよ。だから、事件現場にわざと彼の店のマッチに母親の血を塗って現場に残したんだ。自分は悲劇のヒロインを演じて逃げるつもりだったんだろうね。手帳を落としたのが彼女の最大の誤算だね」
 例の事件は、テレビでも取り扱われ「現代若者の心の闇か」などともてはやされていた。ちなみに、少女の犯行動機は「援助交際を母親に咎められた」ことらしい。
 ふと、店の扉が開く。そこには山田美和が立っていた。そして、輝彦と同じ高校の制服をみにまとっていた。驚いた表情の光彦に対し、美和は悪戯っぽく笑顔を向ける。
「実は、私今日から港高校に転校することになってたんです。これで、私も正式に探偵部の部員ですよね」
 笑顔を浮かべたまま、彼女は輝彦の隣に座り、コーヒーを注文する。
「ところで、マスターさんも探偵だったなんて聞いてなかったですよ。なんで、喫茶店のマスターだけじゃなくて探偵も兼業してるんですか? 」
 美和の質問に、佐上はにやりと笑い輝彦のように目を輝かせながら口を開いた。
「この町が、レトロな町街だからだよ」
 美和は彼らのよく分からない説明に苦笑いを浮かべながら、注文していたコーヒーに大量の砂糖とミルクを溶かし口に運んだ。苦くて甘い風味が心地よく口の中に広がっていく。

                                                                           …end

コメント(2)

<この作品の投稿者はこーすけさんでした>
<読んだ人の感想>
・ 探偵! レトロ! 喫茶店! どれも好みです。
 こういう話が書けるようになりたい!

・多分文字数制限なかったらもっとのめり込んでたと思います。

キャラクターのかぶり(女子高生、喫茶店店主)がせっかくの登場人物の個性をもったいない感じにしちゃってるのが残念です。

でも舞台背景は想像しやすいし、好きな雰囲気。モデルがあるのかしら。

・語弊のある表現ながら、自称少年探偵の輝彦君がイタ可愛い。少年探偵ってリアルにいたら多分こんな感じかも。でも彼がこのまま修行を積んだら、ホームズとか明智小五郎ではなくてどっちかというと工藤ちゃん路線に進化しそう。タフだし、顔広そうだし、女運もあんまり良くなさそうだし←

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