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ねこると創作クラブコミュのねこると"SF"大賞 応募作品No.6『わたしとあなたはふたつでひとつ』

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 いつからだろう。某ミニブログで『スプーン』と呼ばれるようになったのは。
 もちろん自分から名乗ったわけではない。最初はちゃんと別のハンドルネームがあって。
 いろいろな人と関わりを持っていくうちに、わたしの言葉に救われた、という人達が現れて。
 スプーン=食べ物をすくうものから、救う者というダジャレで今や仲間たちからはスプーンさんと呼ばれるのが当たり前になって、わたし自身ももう違和感を感じることなく当然のように名乗る。
 とは言っても、自分自身誰かを救っているつもりは毛頭ない。
 自分の思ったことを素直に、言葉を選んで言っているだけで。
 もちろんキレイ事だ。と、わたしを罵倒する人もいるが、別にだからといって実生活に実害があるわけではない。
 自分の呟きたいことを、思った時に素直に呟いてるだけ……の筈だったのだが、今はその状況ではなくなったらしい。

 仕事の帰り道。
 自分でも街灯の少ない道だということは理解していた。
 理解はしていたが、この暑い日。連日の暑さで寝不足。少しでも早く帰宅して寝たい、と近道をしたのが間違いだった。
 後ろから頭に軽い衝撃。
 ヤバイ!! とっさにそう思ったが、わたしは何をすることも出来ずにそのまま気を失ってしまったのだ。
 そして気がついたら、見知らぬベッドの上に寝かされていた、というわけだ。
 腕時計の日付窓を見ると日にちは変わってはいない。それどことか時間も一時間そこそこしか経ってない。わたしがひと月も眠ってなければの話だが……。
 そしてわたしを殴ったであろう人物はこの部屋にはいない。
 それどころか扉を見ると鍵すらかかってない。
 とっさに自分は殴られる夢を見て、今も夢を見ているのではないかと思い頬をつねってみた。
「いたっ!」
 つねった右頬がヒリヒリする。どうやら夢ではないらしい。
 そろりとベッドから立ち上がり、ドアに手をかける。
 ――かちゃり。
 扉は当たり前のように音を立てて開いた。
 少しだけ扉を開け外を覗きこむ。が、誰も居ない。外は割とよくある一般的なマンションの部屋の廊下だ。
 ――もしかして逃げ出せるんじゃ……?
 そう思うと手にしていたノブに力が入った。ゆっくりとそしてそっと扉を開けようとした時、今度は右肩に違和感を感じた。
 誰かがわたしの肩を叩いたのだ。
 その時、自分の迂闊さを呪った。まさか他にも入り口があってそこから犯人が入ってくるなんて。
 振り向きざまに裏拳でもいれたら、もしかしたら……もしかしたら逃げられるかもしれない。
 成功したらめっけものだし、失敗したら……どちらにしろ逃げ出せないということだ。
 謎の決意でわたしは小さく深呼吸すると手に力を込めて振り返ろうと……。
「スプーンさん……ですよね?」
「えっ?」
 間抜けとはわたしのようなものを指すのだろう。いきなりの名指しに、わたしは裏拳をお見舞いすることなく馬鹿みたいにそのままふりむいてしまったのだ。
 振り向いた先にいたのは……。
 彼をどう表現したらいいのだろうか。ごく一般的な……というのは人の容姿を表現するにはおかしいだろう。だが今の混乱わたしにはそれ以外には表現できる言葉が見当たらなかった。
 唯一出てきそうなのは、カッコイイよりかは可愛いという表現が似合う、黒髪短髪の今どき風の若い男の子だということだ。
「良かった……やっぱりスプーンさんだったんですね」
 彼は屈託のない笑顔でわたしのことを見た。その表情に不覚にも一瞬どきりとした。
 えぇ、わたくし……前彼に『お前は性格がキツすぎる』とか言われて、今や彼氏募集中も一年になりますので、好みの子がいたらたとえ自分を殴った相手でも一瞬くらいはときめいていまいますよ。
 しかし、彼はそれ以上わたしに暴力を働くことなく、先ほどまで気を失って横になっていたベッドに腰をかけるように促してきた。
 謎の彼の行動にきょとんとしながら、わたしは彼の行動に従ってベッドに座った。暴力を振られたり無茶を振られたわけじゃないので、従ってやってもいいだろう。
「びっくりしましたよ、すぐ近くの椅子に座って見てたのに気づかれないなんて……」
 この表情に漫画的擬音を付けるなら『ははは…』に間違いないだろう。彼は頬を人差し指で掻きながらわたしにそう言った。
 つまりはわたしが間抜けだったという事だ。
 気を取り直すために小さく咳払いをする。
 ……なんかこの状況おかしくない?
「わたしがスプーンでもフォークでもなんでもいいのだけど……」
「そうそう! 僕がフォークなんですよ! 嬉しいな〜、スプーンさんが僕のこと知ってくれてるなんて!」
 わたしが言葉を発した瞬間。彼は歓喜の含んだ声を上げた。
 その言葉に一瞬きょとんとする……が、すぐに理解する。
 冒頭に述べたように、わたしはスプーンというハンドルネームで某ミニブログをやっている。そしてフォーク、という名前をわたしは知っている。
 スプーン=食べ物をすくうもの=(人を)救うもの。これがわたしだ。
 そしてフォーク。わたしの認識ではフォーク=食べ物を刺すもの=(人を言葉で)刺すもの。……某ミニブログでは嬉しくもないがスプーン&フォーク、SFコンビと呼ばれている。
 が、わたし自身は彼――フォークの呟きを見たことはない。わたし自身のアカウントからはブロックしてるし、彼のプロフィールページを見に行くこともない。
 なんとなく、というのが彼に関り合いを持たない理由だ。フォークと聞くと物を刺す、というイメージから、人を言葉で傷つけるのかな……と独断と偏見の発想からだ。
「あ、でもスプーンさん、僕のことブロックして苦手みたいだし……」
 そう言葉を発しながらシュンとした悲しみの表情をした。
 よく表情の変わる子だなぁ……。
 殴られたことも忘れて、わたし自身そう思った。
 そしてフォークというハンドルネームから想像していた以上にイメージが違う。どちらかというと女心をくすぐるかまってあげたいタイプだ。
 ……いやいや。人はリアルとネットでは性格変わるし、わたしは現実ではめっちゃきついとか言われるのに、ネットではとても心の優しい他人を救う人みたいなイメージだし。
「とりあえずスプーンさんに会ったこと呟かなくちゃ!」
 彼はそう言うと、すぐ近くにあったスマートフォンに手を伸ばす。
「いやいやいやいや!!!! 会ったんじゃないでしょ! あんたが殴って連れてきたんでしょうが!」
 余りにものとぼけた発言に、ついわたしは声を荒げてしまった。
 しかしその言葉に今度は彼、フォークがきょとんとした表情を浮かべた。が、すぐに慌てふためいた表情に変わる。
「あぁぁぁっ、ごめんなさい!! 大丈夫でしたか!? 声かけようと思ったら足元の石につまづいて……まさかあんなところに石があってこんな年で転びかけるなんて思わなかったから!!」
「でもっ……」
 ……なんかすっごい言い訳がましいのだけれど、言葉を発しかけた時ふと先ほどのことを思い出した。
 確かに。どちらかというとわたしの頭に受けた衝撃は、殴ったと言うよりも……
「もしかしてこけかけた瞬間、あなたの肘がわたしの頭に当たった……?」
 絞りだすような声。
 自分がアホみたいに甘いことを言ってるのことは、自分自身気がついている。
 ヘタしたら本当に殴られたのかもしれない。こうやって言い訳して油断させているのかもしれない。
 しかし、わたしの第六感が何かが違うと訴えかけている。
「痛かったですよねっ! 僕の骨、無駄に丈夫で硬いとかよく言われるんで……本当にごめんなさいっ!」
 動物にたとえるなら、彼は子犬だ。喜んだり悲しんだり。そして確実に今は耳がたれてシュンとした状態に違いない。
 頭のなかに子犬がふと思い浮かぶ。毛の多いもふもふした犬だ。
 そう思いながらフォークを見ると、可愛い系のイケメンだ。ちょっとくせ毛な髪をクシャクシャして困らせてやりたい。
 そう思った瞬間、ためらいもなくわたしは彼の髪をくしゃくしゃっとした。
 その行動にフォークは驚いた表情でわたしを見た。
 してやったり感満載だ……いや違うだろ。何やってるのわたし。呟くなら確実に今、オーアールゼット付いてる。
 案の定、彼は困った顔をして髪の毛を直した。でもすぐに笑顔になったので、わたしのしてやったり感の表情で安心したのだろう。
 どちらともなく笑い声。
「フォークってネット上とではぜんぜん違うのね」
 ふと漏らした言葉。
 彼は黙って自分のスマートフォンを取り出し、彼――フォークのプロフィールページを見せてきた。
「たぶんスプーンさん、フォークを別の意味で捉えてるんだと思う……」
 彼から携帯を受け取り、画面をじっと見つめる。そして自己紹介欄には……。
『フォーク=刺すもの……じゃなくて、人をのせるのが上手いのか、のせるものというイメージでフォークと呼ばれています。すくうものという意味もあるらしいけど、先にスプーンさん(ID)がいらっしゃるので(以下略)』
 開いた口が塞がらないというのはこういう状況のことを言うのだろう。
 穴があったら入りたい。いや、穴がなくても入りたい。めちゃくちゃ恥ずかしい。とりあえず手短にすぐ近くにあった夏の掛け布団を手に取り頭からかぶった。
 顔から火が出そう。
 クスクスという笑い声が聞こえる。空耳ではなくて確実にフォークの笑い声。
 無性に悔しくなって、顔だけ出してキッと睨む。
「それはそうと! どうしてわたしがスプーンだって分かったのよ。顔写真も居場所も呟いたことはないわよ!」
 出来る限りの反抗をする。
 いや、これ反抗というよりも無駄な抵抗というような気もするのだけれど。
 そういうと、彼はもう一人のプロフィールページを開いてきた。
「ナイフから聞いたんですよ。確かスプーンさんともリア友で、実は僕もナイフとはリア友なんですよ」
 彼は照れた表情で、そう言葉を漏らした。
 はい。ナイフはわたしはリア友ですよ。というと、あいつ勝手にわたしの情報流したなっ!
「ち、違うんですよっ! 僕がナイフにスプーンさんに会いたいってお願いしたんですよ!」
 わたしの表情を読み取ったのか、彼はあわてふためいて言葉を漏らした。更に言葉は続く。
「写真見てて可愛いなって、会いたいなって……」
 なんの照れもなくその言葉を呟くフォークに、彼が人を乘せるのが上手いのがなんとなく分かった。
 いや、人というよりかは女の子な気もするけれど。
 案の定、彼氏募集中のわたくしもまんまとのせられましたわよ。久々に可愛いとか言われたわ……。むしろこっちが照れたわよ。
「で、たまたま今日歩いていたらスプーンさんがいらっしゃって……。声をかけようとしたら、勢いあやまってあんな展開になったんです……」
「はぁ。そうですか……」
 なんか、それしか言葉が出て来なかった。
 古典的展開というべきか。それ以外に返すことが出来ずに押し黙る。
 むしろミノムシ状態の自分が嫌になって、ゴソゴソと夏布団から出てベッドに座り直した。
 なんとなく乙女らしい行動でついでに乱れた髪も手櫛で直す。
「ときにスプーンさん。1つだけお願いがあるんです」
「はぁ、なんでしょう」
 この状況で思いついたのはブロック解除くらいだった。
 だが彼は勢いよくわたしの両の手を取ると、
「スプーンさんが好きなんです! 僕と付き合ってください!!」




 さてはて。フォークの告白。どうなったって?
 ……とりあえずブロックは解除してフォローしておきましたよ。
 しばらくはネット上では黙ってましょうかね。
 …………ま、すぐにバレるんだろうけどね。





(テーマ:S(スプーン)F(フォーク))

コメント(4)

<投稿者の真生みゅうさんによるあとがきがあります>
 終わったァァァ……(o;_ω_)oバタ

 もうろくな見直しもせず提出な真生みゅうです。
 締め切りが……むしろアップしてないのでギリギリで提出……orz
 毎回おんなじパターンな上に、似たり寄ったりな話だぜ(´・ω・`)

 某ミニブログ=Twitterです。


 お疲れ様でした。
 とりあえず皆勤だけは続けられてます(*ノω・*)テヘ
<投票者の感想>
・スプーンさんとフォークさん。なんかかわいい
・こいつら二人で一つのアホの子か(爆) 微笑ましい。ナイフさんの性別やキャラが微妙に気になる
・色んな意味で衝撃的な作品(笑)
・これはお箸さんとかも出ますね。レンゲさんもワンチャン。

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