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ねこると創作クラブコミュの第四回ねこると短編小説大賞応募作品No.1『一滴 ―ひとしずく―』

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ぽつり
ぽつりと
葉が掬いきれなかった雨粒が私の頬を濡らす。
そろそろこの森にも雨が続く季節がやってくる。

雨に濡れる静かな木々を眺めつつ考え事に耽りながら、
ふと目をやると、その先には茶色の小さな塊が動いていた。
それはキツネの子で、もう命が幾何もないように見える。

―山神さま、山神さま、どうかあと一日だけぼくに時間をください。

息も絶え絶えに子は私に訴えかけた。
“山神さま”と呼ばれた私はキツネの子に理由を問う。

―ぼくはもう死ぬだけだから、餓えた兄妹のところへ行き、皆の糧になりたいのです。

なるほど、なるほど、ならばあと一日時間をあげよう。

―ありがとうございます。ありがとうございます。

キツネの子の瞳からは雨とは違う一滴が零れ落ちた。
それは大層綺麗だった。

ふと、目をやると、その先には黒い塊がうごいていた。
―山神さま、山神さま、どうかあと一日だけわたしに時間をください。

土くれにまみれたフクロウが私を見上げる。
また私は理由を問う。

―わたしはあと少しで卵を産むのです、このままでは獣の餌食となってしまいます。

なるほど、なるほど、ならばあと一日時間をあげよう。

―ありがとうございます。ありがとうございます。

土にまみれた瞳からは一滴、零れ落ちた。
それは大層綺麗だった。


私はいままでいくつもの小さな命たちの願いをかなえてきた。
私はその度に少しずつ朽ちていく。
小さな願いに魂を分け与えてきた。
私の寿命はどんどん少なくなっていく。
そしてとうとう、この雨の季節を超えることはかなうまい。

―山神さま、山神さま、どうして涙をながしているのですか。

これは雨のしずくだよ。
私には涙をながす瞳はないのだから。

―山神さま、山神さま、とってもとってもきれいです。

あぁ、ありがとう、ありがとう。

山の奥の奥のさらにその奥で
どおーん
と大きな何かの倒れる音がただ響いた。

コメント(2)

<投稿者の龍斗さんによるあとがきがあります>
みなさまお久しぶりです。あなたの隣に竜斗です。
たぶん、たまにいますよ。
今回は大賞も副賞も狙わずがーっと書いてみました。
なんだか疲れていたようで面白みもなにもないです。
最初は滴の気持ちでも書こうかと思っていたのにいつの間にか
樹の方になっていました。
森のなかの苔むした場所や少し湿った空気がすきだなー。
これあとがきじゃねぇ!

<読んだ人の感想>

・静かな森の中で、小さな幸せのために命をかけるいのちのやり取り。ラストをどう読むか、静かな作風ながら面白みがあると思います。

・読みやすく、内容がとてもしっかりしていました。こういう雰囲気の文が好きです。

・雲を作り霧を吐き雨を降らす山は、現状廃れてしまった自然環境の中に棲む動物たちによって、今もずっと崇められ続けられているのかもしれません。動物たちが流す涙が、土に溶け込み、水蒸気となり、巡り巡って雨を降らすともすれば、私たちは、動物たちからの恩恵をも受けているとも考えられますね。って考え過ぎか。

・普通に国語の教科書に載ってそうな作品だと思いました、雨の滴と涙の描写がすごく綺麗です。

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