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ねこると創作クラブコミュの第一回ねこると短編小説大賞応募作品No.1『Joy to the Lovers 〜赤…のトナカイ〜』

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Joy to the Lovers 〜赤…のトナカイ〜


 部屋の隅でどんよりとした雰囲気を醸す翔平。原因は……私、になるのかな、一応……。

『ん、おかえ』
『志穂!クリスマスの予定は空けてあるよね!?』
『……ゼミで女子会だけど』
『えっ……』
『みんなでわいわい』
『そ、そか……』
『うん』
『くっ……でも、でもオールじゃないだろ!?』
『さぁ?食べ物持ち寄って、友達の家集合だし』
『…………』
『……とりあえず、おかえり』
『……ただいま』

 帰ってきて開口一番、来週のクリスマスの予定を聞かれてもねぇ……。
「クリスマスは休みの申請だしたのにー!って叫んでたじゃない」
「うぅ……」
 右肩だけ動いてるのを見ると、床に『の』の字でも書いてるな……。
「そんなにイジイジしなくても……」
「くっ……イブもバイトのシフト入れやがって!!三十路過ぎても『=年齢』な店長の陰謀だっ!あの魔法使いめぇぇ……!!」
 あーぁ……。
「まぁ、イブは私もバイトだけど、家にはいるから。そのときにすればいいじゃない」
 言い終わる瞬間、ガバッと顔を上げ、涙目で訴える翔平。
「ダメだ……連日で朝から通し……12時間労働だぞ!?そんなんじゃ『プレゼントは俺のマグナム!』作戦が使い物にならないじゃないか!!」
「……ロケットえんぴつの間違いでしょ。それも芯のほう」
 灰になってサラサラと崩れ落ちる、ってよくマンガで見るけど、現実にはああいう感じなんだろうな。


 それから一週間。イブだけど、翔平はあれから休みなし。女の子に甘いからそういうシフトになったらしいけど、『俺になんの恨みがあって……』と背中が泣く姿を毎日見る私の気持ちは想像しなかったんだろうか。理不尽なクレームつけてやろうかな。割と本気で。
 結局、イブはささやかなパーティ。ケンタのチキンを食べるだけで終わった。
「明日で連勤が終わる……」
 枕に顔を突っ込んで呟いてる。街中を歩くカップルを見るのが相当堪えるらしい。
「帰っても一人、か……」
「……帰ってこようか?」
 これ見よがしに言われ、ため息が混じってしまう。
「……………………いや、いい」
 タメ長いな。いつもなら駄々をこねるところなのに、そんな元気もないほど消耗してるのが分かる。
「帰る頃に炊きあがるようにしとくから、自分で作ってね。生姜焼きでいい?下準備はしとくから」
「ん……レンチンでいい」
 そんな元気もないってか……。
「おいで」
 首の下に腕を入れてそのまま抱き寄せる。もぞもぞとこっちを向いて、私の胸に顔を埋めたまま、腰から抱きしめられる。
「よしよし」
 男の役割だと思うんだけど、こういうの。またため息が出るけど、そうしないうちに寝息が聞こえてきた。使われ過ぎでしょ、もう。
「女子会、ねぇ……」


 翌朝。
「行ってくる……」
 苦情がきそうな落ち込み様。それ以前に絶対仕事できないよね。
「早退できないの?」
「……帰ったら速攻寝るわ」
 そう呟いてドアが閉まる。さて、時間は半日ちょっと。どうしたものか。
 軽くメイクだけして家を出る。クリスマス当日なだけあって、駅前の商店街は赤と白に染まってた。スーパーでは正月への切り替えも始まってる。
「クリスマス、ねぇ……」
 書店でレシピ本を眺めてみる。いろんなのあるなぁ。冬、ってだけのもあるけど。
 鶏の丸焼きなんて作れるかよ。
 クリームシチュー……無難だなぁ。
 ビーフシチューは赤ワインが赤黒くなるからパス。
 パスタ。レトルトソースのイメージしか沸かない。
 ロールキャベツ。巻くのめんどい。
 ステーキ……喜びそうだけど、昨日はケンタだし、疲れてるところにこれはトドメ。
 いつも通りの料理にしようかなぁ。弱ってるからおかゆでもいいかも。いっそ、病院食みたいに重湯にしてやろうか。
 うぅ……なんで前から考えなかったか、私。


「ただいまー」
 誰もいないけどね。一応。なんとなく。
「ふぅ……」
 キッチンに買ってきた食材を置く。ジャガイモやニンジンはとにかく、パプリカとか初めて買ったから、気付いたらにらめっこしてたけど、笑われてないかなぁ……。そんなことを考えながら皮をむく。
 適当に切って水に浸したら、鶏肉をミンチにしてねりねり。キッチンペーパーで包んで重しで水切りをしといた豆腐を入れてさらにおりゃあ。水切りもそこそこに切ったパプリカを混ぜて冷蔵庫に放置。おぉ、こうして見るだけでも白と黄色と赤がキレイ。
 ジャガやらニンジンやらを鍋に入れて適当に炒めたら水。ルーを溶かしたら、このためだけに買ってきた新聞紙と毛布に包んで保温。ゆっくり温度を下げれば、中まで火が通ってホクホクになるらしい。やったことないから知らんけど。
「よし」
 次に飾り付け……は、しなくていいよね。ちょっとで。
 帰りに寄った100均のテーブルキャンドルを適当に置く。テーブルクロスを買うお金はないから、ランチョンマット(画用紙)で対応。赤いし、ついでになんか書こうかな。
 ポスカで模様……塗りつぶすの面倒だな。緑でツリー書いて、黄色で帽子、茶色でトナカイと煙突付きの家。白で雪とサンタさん。
 おぉ?楽しいぞ、これ。


「……ックシュ!」
 うぅ、寒い。
「って、暗っ!?」
 何時!?…なんだ六時か。まだ時間あるけど、シャワー浴びちゃお。多分、帰ってご飯食べたら、すぐ寝るだろうし。
『プレゼントは俺の……!!』
 ……ふ。バズーカって言わないところは評価してあげようか。


 どうせだからちょっと着飾ろうかな……と、髪を拭きながら思った。クリスマスだから、ってちょっと期待するけど、誘惑しても使えるかどうかは別問題だし。リボン巻いて「……わ・た・しw」なんてやったら限界超えるかな?絶っっっっっ対しないけどね。
 サンタイメージなら赤と白を基調にすればいいかな。
 そう考えて、クローゼットから適当に服を取り出して並べてみる。ちょっと寒くなるけど、ベランダに出るドアのカーテンも開けた。そうすれば全身鏡の代わりになる。ちなみに今映ってるのは下着姿の私。寒みぃ。
 白のマフラーは使えそうだな……。あとはどうしよう?
 白シャツにピンクのカーディガンに黒のスカート。OLか。
 緑のキャミに首元が広く開いた赤白チェックのセーターにジーパン。エアコン効いてても寒い。却下。
 今のセーターの下に白のハイネック。いいけど……マフラーと被る。
 てか私、下の組み合わせ少なっ!赤系は無いし、白系はあっても白が無い……。クローゼットの奥に、去年土下座と一緒に渡されたサンタのコスチュームあったけど、生地がテカテカのザラザラで着心地悪いんだよね……。でもスカートは使えそう。でも……こういうフリフリ似合わねー……。
「んー……あ」
 そういえば、今年のバレンタインのときに送ったチョコ。その包装に使ったリボンが赤だったはず。あれ使えないかな?
 襟足に引っ掛けて、左耳は後ろを通してカチューシャみたいにして、右耳の上でりぼん結び……できた。
 ……ふ。クリスマスの夜にベランダに向かって何してんだろう……。ノリノリでポーズした自分のバカ……。

 ガチャ。

 え?ガラスに翔平が映ってる。え?時間早くない?てか私、下着、に、リボン……え?
「志……穂…………?」
 ボスッ、ってなにバッグ落としてんの?待って、私、ほぼ裸。いや、寄ってこな、あ、目がイッてる。ヤバい。
「おか、じゃない、ちょ、ちょっと待っ」
「…………」
 待て、私を見つめて歩を進めるな!待って、近寄るな!待てまてマテ!!!!
「し、ほ……しほぉぉぉっ!!」
「っっ!?ばかぁっ!!」
この間、たぶん五秒。


 グツグツと煮える音が響くキッチン。廊下からはシャワーの音。いつもと変わらない音の風景に、なんでだろう、空気抜きの音の割合が大きい。ま、さっきのよりは小さいけどねー。うふふ……。
「お、ハンバー……グ?白くね?」
「鶏肉。疲れてるならさっぱりしたものの方がいいでしょ」
「おぉー」
「早く服着て。弱ってんだから風邪引くよ」
 大丈夫!とばかりにサムズアップといい笑顔。返事は冷笑。
「そうね、帰ってきていきなり不二子ダイブするような『バカ』は風邪なんかひかないわよねー」
 あ、着替えてる。
「なにか手伝う事はありますでしょうか!?」
 着替え終わったらいきなり敬礼。しかもビシッとすごい気を付け。疲れてんじゃないのか、お前。
「テーブルで待機」
「しかし自分は」
 イラッ。
「翔平」
「は、はっ!!」
 ゆっくりと近付いて肩に手を置く。びくっとして固く目を閉じた翔平の頬に軽くキス。直後に作っておいた氷嚢を押しあてる。
「へ……あぉうっ!!?」
「いいから待ってて。くれるんでしょ?プレゼント」
 戸惑いから、期待と喜びの色に変わる目の色。すでに鼻息が荒いんですけど……。
「おぉ、OLのお姉さんからの刺激……」
 てか、冷蔵庫開けらんないから早くどけ。
「ハウスッ!」
「わんっ!!」
 ……ここまで躾けた私すげぇ。
「どうする?先に呑んでる?」
「寝る」
「あ、そ……」
 疲れてんじゃん……。急いで作ろ。
 フライパンで焼いてたハンバーグに竹串を刺してチェック。もうそろそろかな。その間にお皿とグラスを用意して、ご飯を盛る。
 もう一つのお皿に焼き上がったハンバーグ、その上からシチューをかけてできあがり。
「はい、お待たせ」
「早っ!」
 部屋に散りばめたキャンドルに火を灯して電気を消す。ランチョンマット(画用紙)の上の料理が暖色に染まった。翔平と私の席にグラスを置いて、炭酸水と白ワインを注ぐ。そこにミニボトルのカシスリキュール。
「……すげぇ」
「鶏肉と豆腐のハンバーグに、クリームシチュー。あと、なんちゃってキールロワイヤル」
 目が?になってる翔平に続きを説明する。
「ほんとはシャンパンなんだけどね。お金ないし、度数下げるために炭酸で割ったの。でも疲れてるんだから、悪酔いしないように少しずつ呑んでね。ビールみたいにガブガブいったらダメ、よ・どしたの?」
 目線を戻して驚いた。翔平、泣いてる……。鼻をすすりながら袖で拭ってる。
「いや……よかったぁ……ありきたり、だけど、嬉しいわ……」
 うわぁ、料理作って初めて泣かれた。
「だって、女子会も断って、早く帰れたのに、一人なんだ、って思ったから、嬉し、悪ぃ……」
「あ、えと……」
「ごめ、ありがと、な」
「や、あの、女子会さ……、明日、なんだよね」
「……へ?」
 うわぁ、騙して笑ってやろうと思ってたのが裏目に出た!
「あ、あははー……」
「……寝かさねぇ」
 できんの!?


 追加のキャンドルも消えて、部屋の隅々まで蛍光灯が照らす空間に元通り。眩しいのも手伝って、目を擦りながらあくびを繰り返す翔平。ワインは半分残ってるけど、進んでないところを見れば、もう睡魔が纏わりついてることだろう。まだ呑み足りないような気もするけど、残りは料理に使おう。
「はい、お水」
「ん、サンキュ……」
 受け取るついでの伸び。
「寝よっか」
「フフフ……ついに俺のマグナムが火を吹くぜ……」
「はいはい」
 乾いたシチューがこびりつくお皿を水に浸して、さっさとベッドへ移動。今日はこのままでいいか。シャツはクリーニングに出せばいいし。
 ゆっくりと歩く翔平を追い抜いて、ベッドに潜り込む。
「翔平……」
 ボタンをゆっくり外して両手を広げる。
「……きて」
「志穂……」
 ゆっくり入ってきた翔平に包まれる。そのまま唇を重ねるうちに、息が上がってきた。
「志穂……」
「んっ……」
 翔平が動いて上になる。唇が外れたかと思えば、そのまま首筋に降りていく。
「んっ、ふぅ……」
 そのまま止まる。
「…………翔平?」
 聞こえてきたのは安心したような深い寝息。限界は超えられなかったらしい。まぁ、予想はしてた、けどね。
 身体を横にずらして、ちゃんと寝かせる。昨日みたいに頭を包んでぽんぽんと軽く叩く。
「……もぅ」
 ほんと、よく頑張りました。お疲れさま。
「メリー、クリスマス……」

コメント(4)

<投稿者の鮎川優希さんによるあとがきコメントがあります>

「んっ、ふぅ……」
 唇だけで食むような、ついばむような刺激に混じる、舌先のダンス。そこから広がる波紋にゾクゾクと身を震わせ、押さえる必要のない声を押さえ込む。
「っくぅ……!」
 翔平の吐息の熱を感じた瞬間、激しく揉み上げられる。少し痛みを感じても、今このときだけは……。

 ……なんて、続編を書こうもんなら字数オーバーどころか、悪霊として退治されそうなので自粛します。
 初めまして、鮎川優希です。
 こういうのが苦手な方には謝罪申し上げます。むしろバッチ来い!な方はご連絡を。稚拙な官能をお送りします。たぶん。

 読み返して思ったのは、字で読む少女マンガ。マグナムとか死語に近いような気もしますが。(笑)
 あと、タイトル。…の部分は「赤っ恥」です。私の中では。まぁ、てきとーに脳内補完してください。お任せします。
 久しぶりに創りあげました。やっぱいいですね。別人になれるような、眺めているような感覚。読み返すたびに、ほっこりします。
 私、他の人に読んで頂いて、更に評価して頂く場合、優勝とか目標にした事はないです。
 一人でもいい。ただ「いいね」と想っていただければ。
 言い換えれば「一本のレギュラーより一つの伝説」
 ……イヤかも。(ぇ)

 最後に。
 ここまで読んで下さった皆様と、呼んで頂いた企画者ねこると様に感謝の意を。
 乱文で失礼しました。
 ありがとうございました。

鮎川優希

 いつもこんなこと考えてるわけじゃないです。……ほんとだよぉ?(笑)
<投票した人の感想>
・翔平がかわいかったに一票。魅力的?なキャラを描けるっていうのもすごいことなんだなと思いました。会話や心情でポンポン話が進むような話でしたが、この話はそれだからこそあえていい味がでてるんだなと思いました。

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