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THE 半ば面白い話(仮)コミュの【祭セカンド】おこぼれの怪談

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ぼくが勤める老人ホームに入居している種田寛(たねだひろし)さんは、十年前に脳卒中で倒れてその後遺症のせいで、左半身の自由が利かない。
そのために介護が必要で車椅子の生活を余儀なくされている。
それに呂律がうまく回らないから話も伝わり難い。けどゆっくりと話してもらって、聞き返していけば話はできる

種田さんは十年前に自分が脳出血で倒れた時のことを、ぼくだけに話してくれることがある。
なんでぼくだけにそんな話をしてくれたか、それはぼくが種田さんと波長が合って、ぼくのことを気に入ってくれているからというのが大きいし、ぼくがオカルト好きで、非現実的な話を笑い飛ばさずに真面目に聴く人だからというのもあると思う。

そう、種田さんの話はとにかく異様というしかない。とても不気味で非現実的な話だった。

これから話すことは、その種田さんの体験談を基に、辻褄の合わない所などを常識やぼくの想像で補って、まとめた話だ。

種田さんが本当のことを言っている。
という前提に立つならば、実話ということになる。
ぼくにも正直実話であると断言出来る自信はない。ただこれまでの付き合いで、種田さんは作り話をして人を担ぐ人ではないと思っている。
信じる信じないは、みんなの判断にお任せしてとりあえず実話として話してみる。


種田さんは十年前古物商を生業にしていた。古物商という骨董屋を思い起こすけど、種田さん自身の話だと、鑑定眼があった訳じゃないから、価値のある骨董品や古物を見つけて来ては高く売りさばくとかはしていなかった。

どちらかと言えば、ゴミに近い物をただみたいな値段で引き取って、直して安く売るような、リサイクル業に近い商売だったみたいだ。



七月のある日曜日、種田さんは軽トラックのハンドルをボヤきながら握っていた。

「不景気だ、やってられない。」

種田さんは普段は駅前に小さな店を構えて商売をしていたそうだが、その日は県の運動公園で行われた『ふるさと祭り』のフリーマーケットに種田さんにとって安くない出店料を払って店を出していた。しかし全く売れなかった

暑い季節のお祭りでそんな店を出して商売になるかなんて、考えてみれば分かりそうなものだ。しかし種田さんにはそれが分からなかったらしい。

だからその時、種田さんは売れなかった商品を軽トラックの荷台に載せて帰る最中だった。

時刻は黄昏時、よく『逢う魔が刻』なんて言い表される時間帯だった。
まるで鮮血を彷彿とさせるような赤い夕陽が空を染めていて、綺麗なんだけどなんだか禍々しいっていうか、不気味な印象を抱かせる夕焼け空だったそうだ。

「なんでここまで全く売れないんだ
良い物なのに」

その日、種田さんが出店に並べた商品は家具類だった。大きい物は箪笥や食器棚、小さい物はランプシェードや折り畳み式の腰掛けなどの品揃えだった

家具としては決して悪い物ではなかった。古い品であったとは云え、種田さんが丁寧に補修メンテナンスをして
必要ならば金具とかの部品を取り換え綺麗に磨きあげた物だった。それを格安で販売していたのだ。

種田さんによれば、若い頃に木工品の職人をしていただけあって、種田さんの手によってよみがえった家具はそれなりに見事な物だったそうだ。
けっきょく、種田さんの適性はあくまで職人であり、商売人の適性はとことん欠如していたということだろう。

まぁそんなことは、この話とは直接関係ないのでこれぐらいにしておく。

重要なポイントは、七月のある日曜日の夕刻に、種田さんは売れなかった商品を積んで軽トラックで帰途についていたことだ。

「店に戻る気にもならない。少しドライブがてら遠回りして帰るか」

交差点に差し掛かった時、本当だったら道を真っ直ぐに進み、駅前の店に向かうところを、右折して道幅の狭い農道に入って行ったんだ。
少し気晴らしに遠回りして、自宅にちまおうか帰ろうってことにしたからだ。

これはあくまでも結果論に過ぎないけど、その選択が種田さんの運命を変えてしまったと言っても過言ではない。


農道をしばらく行くと、集落に入って行った。いかにも何世代も前からこの地で農業やってますって感じがする立派な建前の日本家屋が深々とした屋敷森に囲まれているそんな家が何軒かあった。

そして集落の一番奥、その集落の貯水池の手前のところに、その中でも一際大きい家というよりも、屋敷と呼んだ方が相応しい日本家屋が堂々と建っていた。
いかにもお金をかけていますと言いたげな門構えには、『蘆谷秀尚(あしやひでなお)』と立派な大理石で出来たような表札が掲げてあった。

「ああ、アシヤ建設の社長の家ってこここだったのか」

十年前、アシヤ建設は全国的にみれば中堅のゼネコンだったけど、種田さんの住む地方では代表的な会社だった。
もっとも、今は不況の煽りで見る影もなくなってしまったけど

「なるほどね。アシヤの社長の一族なら、このお屋敷に住んでいるのも納得だ。」

種田さんは、日本家屋なんかも大好きだから、ゆっくりと眺めながら蘆谷邸の周りを徐行しながら走らせた。
武家屋敷の佇まいを思い起こさせる黒塀が敷地の周りを取り囲んでいる。軽トラックの運転席から見える母家の遠さに、庭の広さを思い知らされる。

「流石にこんだけ広いと、ここまで生活音とか届かないよな。」

種田さんはそんなことを呟きながら屋敷の周囲をゆっくりと廻っていたんだ。

「あれっなんだろう」

門から時計回りに廻って、ちょうど門と反対側にある勝手口のところに、四角い紅い物が見えた。

その手前で軽トラックを停めて降りて近づいてみると、高さが150?位で幅が60?、そして奥行き30?位の戸棚が置かれていた。

「これは凄い。見事な品だ。」

どんな人でも一目見たらそう思うような戸棚だった。家具を普段から扱っている種田さんには特にその戸棚に費やされている良質な木材等の材料、作り上げた職人技の高さが分かる逸品だった。

ぼくにはそこらへんの知識がないし
種田さんもくわしくは話してくれないから、その戸棚がどんな物なのかは説明は出来ない。とにかくぼくたちの家にあるような戸棚とは全然違う、高級な工芸品のような戸棚だったそうだ。

「すげえこれ漆塗りじゃないか。これは焼き物とかを集めている金持ちが
コレクションを飾るために作らせた特注品だぜきっと」

種田さんは戸棚をしげしげと眺めた。
すると一番上の棚に紙キレが入っていた。紙には『廃棄』と書かれていた。
種田さんは小躍りしたような気持ちになったそうだ。

「じゃあ、これ貰ってもいいんだよな。けど物が物だから断りを入れた方がいいよな。」

いつもの種田さんなら、紙切れを見た時点で即刻、軽トラックの荷台にのせていただろう。種田さんを躊躇わせて慎重な行動をさせるくらいに、素晴らしい高価そうな戸棚だった。

「とにかく、凄い戸棚だったんだ。古い物だけど、それが渋みを出して、魅力を更に増させるようなやつだった」

読んでくれている人のなかには、戸棚が凄いっていうのが何度も出てきて
うんざりしてきた人もいるかも知れない。
ぼくも種田さんからうんざりする程
戸棚が凄い物だったって言葉を聞かされた。そのくせに種田さんは、それがどんな戸棚かは詳しく話してはくれない。ぼくがその矛盾を指摘したことでしょうあるんだけど、種田さんは一言ポツリと

「思い出せないんだ。倒れた時のショックのせいかも知れねえ。けどなんだか、脳みそが思い出すのを拒んでいるみたいでよ。」

との言葉だった。戸棚だけじゃなくて種田さんはその夜に起こったことを何が起こったかは覚えているけど、映像としては覚えていないんだ。


脱線した話を元に戻すことにする。種田さんは勝手口の呼び鈴を押した。

ピンポーンピンポーン

「はいっ、何のご用でしょうか」

勝手口から三十くらいの、痩せた色の白い女性が出てきた。エプロン姿から家政婦のように思えた。

「わたし、古物を扱っている物で種田と云います。表の戸棚は捨てるのですか、もしよろしければ引き取らせていただけませんか」

「ええっ、若奥様からクリーンセンターに持っていくようにと言われておりますので、どうぞお持ち下さい。」

クリーンセンターは市の郊外にあるゴミの集積場であり、粗大ゴミを直接持ち込んで処分費用を払い、引き取ってもらえる場所だった。粗大ゴミは回収日が月に二回と少ないので、そのように処分する人がけっこう多いのだ。

蘆谷家にとって、戸棚はあくまでゴミだったようで、家政婦さんは処分費用を種田さんに渡そうとした。さすがに気がとがめたので、種田さんは断りを名刺を渡した。

「何か廃棄品がありましたら、引き取らせて頂きますので、連絡を下さい」

家政婦さんは虚ろな表情で、名刺を受け取り、勝手口から中に消えて行った。その様子から廃棄品があっても
連絡は来ないであろうことは推測できた。戸棚をただで手に入れた種田さんには、そんなことはどうでもよいことだった。


戸棚を丁寧に軽トラックの荷台に積み込むと、三十分くらいかけて自宅に帰りついた。種田さんは自宅のガレージに戸棚やその他の売れ残りの家具を置き戸棚にはブルーシートをかけた。
ガレージは種田さんのご両親が存命で農業を営んでいた時に、農機具置き場として使っていた物を作業場として使っているとのことだった。

家具を荷台から下ろすと、種田さんはまた軽トラックに乗り、隣の自治体が運営する温泉施設に出かけて行った
仕事終わりに温泉で汗を流し、温泉施設の食堂で夕食を済ませるのだ。
これがご両親は他界して、結婚せずに独りで生きている種田さんの夏場の過ごし方だったそうだ。



それから、二時間位が経過した時、種田さんは再び自宅に帰りついていた。

「やれやれ、今日は売れなかったけど、あの戸棚が手に入ったから、まあよしとしよう。あれは骨董品屋に店内の商品棚として勧めるのもありだな」

そんなことを考えながら、種田さんは居間の座卓の前に座りテレビを見ながらビールを飲んでいた。

暑かった一日の疲れと、エアコンの涼しさ、そしてビールを飲んだ酔いのために心地好い眠気が押し寄せてきた。

「このまま寢ちまおうか。けど、戸締まりしてないしなぁ」

種田さんは頭をふり眠気と誘惑を振り払い立ち上がった。

ボンヤリした頭で家の中を回り、窓の鍵を締めていった。そして最後に玄関の鍵を締めるために、玄関に向かった
戸を閉めようとした種田さんの顔を生ぬるい風が撫でた。日中は風はなかったのに、いつのまにか強く吹いていた


ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ
シロヨ、ザワザワザワザワ、シマエヨ、ザワザワザワザワ
ザワザワ、オトナシクシロヨ、ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワキャキャケケケザワザワザワザワザワザワ、ナンダババアジャン、ザワザワザワザワザワザワ

その時、種田さんの家の隣の雑木林から、風にそよぐ木の葉の音に混じり人の声がかすかに聞こえてきた。種田さんの眠気は一気に吹き飛んだ。


種田さんの眠気が吹き飛んだのには訳があった。声がした隣の千坪位の雑木林ではガラの悪い十代の少年たちがタバコを隠れて吸ったりしていることがあった。ボヤ騒ぎも起こっていた。
それに一度はクルマに無理矢理乗せられた若い女性がこの雑木林で乱暴された事件も起こっていた。

つまり種田さんにとって、隣の雑木林に人の気配がするということは、厄介な事に繋がりかねない忌々しいことであったのだ。

「行ってみて、場合によっては注意しなきゃな。けど最近の若い奴はシャレにならないことを平気でやるからな。」

用心のために、仕事道具の釘抜きをベルトとズボンの間に挟んで、懐中電灯を持ち種田さんは雑木林に向かって行った。

時刻は午後九時を回ったところだった。暑かった日中とさほど変わらないムワンとしたなま温い湿った風が首筋や頬をなぜた。じんわりと背中が汗で湿ってくるのを感じた。

「気持ち悪いな、せっかく風呂に入ったのに、今夜も熱帯夜か」

種田さんの家と雑木林との境は高い板塀で区切られてあった。だから種田さん宅の敷地から雑木林の様子を見ることは出来なかった。そこで種田さんは一旦自宅前の道に出て雑木林の前に行った。距離にして三十メートルの移動であった。雑木林の前から懐中電灯を翳して、雑木林の中をうかがう。しかし人の気配は感じられない。

「気のせいだったかな、そもそもこんな灯り一つないような暗いところにわざわざ人が来るわけないか」

声を雑木林の方から聞いて、これまでの経験から嫌な予感がして、慌てて駆けつけた種田さんだったが、暗闇により冷静させられた。
そういえば少年たちがタバコを吸っていたのも日の出てる時間帯だった。若い女性が乱暴されたというのも日中の事なきをだと聞いている。

「なんださっきの声は気のせいか」

種田さんはそう結論づけた。種田さんは自宅に戻ることにし、種田さんはきびすをかえして、足早に自宅に向かった。


家に帰り着いた種田さんが、自宅の玄関の扉を開けようとした時、背後から声をかけられた。

「あのう、すいません」

「わっなに、なに」

突然のことで、ビックリして身をすくませながら振り返ると、三十代の痩せた女性が立っていた。

「ああ吃驚した。あんたはたしか」

「はいっ、夕方お会いしました。蘆谷様のお宅で家政婦をさせて頂いている者です。田辺京子と申します。」

女性は種田さんが戸棚を貰い受けた時に会った、蘆谷家の家政婦だった。

「ああ、あの時の、それにしてもこんな時間にどうしたんです。」

『やはり戸棚は廃棄する物ではないから返してくれないか』

そんなことを言い出されるではないかと思い、種田さんはヒヤッとしていた

「あのう、すいません。実は蘆谷様のご用事でお伺いしたのではないのです。実は........。」

田辺京子と名乗るその女性はポツポツと抑揚のない声で、訪問してきた理由を話しだした。

あの戸棚を勝手口から外に出したのは蘆谷家の人の指示で、応接間で使用している家具の配置換えをしていたということであった。
その時、彼女は指輪していたのだが指輪で高価な家具を傷つけてはいけないと考えて外したそうだ。
しかしその時に着用していたエプロンのポケットが破れており、仕方なくあの戸棚の引き出しに入れておいた。
しかし、それを忘れてしまい戸棚の引き出しに入れっぱなしにしていたのを種田さんが貰い受け、持って帰ってしまったということであった。

「それで、蘆谷様のお宅でのお仕事が終わり帰ろうとした時に指輪がなくなったのに気づきまして、先ほどいただいた名刺をたよりにお伺いしたのです」

戸棚を取り返しに来たのではないと分かり種田さんはホッとした。しかし、それも束の間のことであった。種田さんは気持ち悪くなっていた。

田辺京子という女性の気味が悪かったのだ。暗いなかであるからはっきりとは言えないが、彼女の顔は痩せすぎてる印象があるが決して醜くはない。むしろどちらかと言えば美人と言えなくもない。

しかし、彼女の話し方には全く抑揚がなかった。下手くそな素人が芝居をしていて台詞を棒読みしているようだった。

「裸になる前のAV 女優の演技の方がまだ自然なしゃべり方をする。」

訳の分からない喩えであるが種田さんの感想だ。

そして顔も無表情だった。まるで能面のようであり、まばたきすらしていないように思えた。困ったような話をしていても、田辺京子は声にも表情にもそんな調子が感じられなかった。

「それにその時ははっきりとは分からなかったけれど、何だか彼女の話には違和感を感じていた。」

とも種田さんは語った。

『気味の悪い女だなあ、戸棚を確認して貰ってさっさと帰って貰おう。』

そう考えた種田さんは、田辺京子を戸棚の置いてあるガレージに案内した

ガレージは、種田さん宅の敷地に門から入って左奥の場所にあった。そしてガレージの背後には板塀があり隣との境界線になっていて、その向こうは雑木林であることは先程説明した。

ガレージの入り口は元はシャッターであったのを種田さんが開き戸に変えていた。

ガレージの入り口の前に立てば敷地奥にある母屋の縁側と庭の一部を潰して作ったカーポートとそこに停めてある軽トラックを見ることが出来る。更に種田さんは防犯を考えて、カーポート周辺を明るくするために照明をつけていた。そのためガレージの開き戸を開けようとする種田さんは、視界の端で愛用の軽トラックを捉えることが出来た。

「ああ、名刺入れを軽トラックに置き忘れてたなあ」

その時、種田さんは先ほどの田辺京子の話を聞いた時に感じた違和感の正体が分かったのだ。

「田辺さん、あのう」

種田さんは五メートル程度後ろに立っている田辺京子に話しかけた。

「ハイナンデショウ」

田辺京子はさっき以上に棒読みのような言葉で返事をする。種田さんは背筋に寒気を感じながら質問を続けた。

「田辺さん、さっき夕方渡した名刺を頼りにここに来たって」

「エエイイマシタ」

やはり、棒読みの感情の籠らないしゃべり方で田辺京子は応えた。

「名刺には○○駅前の店の番号と住所しかないんだ。ここ自宅の電話は両親が死んだあと、ほとんど使うことないから解約したんだ。だから、電話帳とかにも載ってないんだ。」

「ハハハハハハハハハハハハハハハ」

田辺京子は何故か笑っている。全く抑揚がない。笑い声というよりも、何かしらの影響で、声帯が振動してだけという印象の笑い声である。

さっきまで汗ばんでいた種田さんの背中の汗は完全にひいていた。
熱帯夜だというのに鳥肌すら立っていた。背後に立っている田辺京子の不審さや気味の悪さは最大限になっていた。

「アハハハハ、ピシャビックリアハハハハ、アハハハハウケウケケッケッケッケッケッ」

突然、田辺京子は意味不明な叫び声をあげた。無表情のままで、乾いていてそしてけたたましい笑い声をたてながら、身体や手足を揺らせながら、その様は吊り下げられたマリオネットを連想させた。

「と、とだな、確かめて来ますから」

種田さんはそれだけをやっと言ってガレージの中に入り、開き戸を閉め鍵をかけた。

「これ以上気味が悪くて得たいの知れない女と一緒にいるのはごめんだった」

とは種田さんの言葉だ。
とりあえずほっと一息、安堵の溜め息をついた。しかしその安堵感は一瞬で消え去った。

「ガレージの中で人の気配がしたんだ。それも一人や二人でなくて沢山の人の気配がしたんだ。分かるかななんだか、人が沢山いる場所の酸素が薄い感じだった。息苦しささえ感じたんだ。」

種田さんは手探りで照明のスイッチを探り、スイッチをいれた。蛍光灯が白くか弱げな光を放った。

ジージージージージージー
ジージージージージージー

蛍光灯は寿命が近いことを知らせる儚げに点滅を繰り返していた。

「えっなんだよ、何なんだよこれはっ」

イマニモツマリソウダゼ
ダメジャネェコレウケウケウケウケウケ
バレテヤンノバレテヤンノハハハハハ
ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケシンジャエ
ケケケケシンジャエシネシネシネシネハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ


種田さんは、今度は気配なんて曖昧な物ではなくて人の声をはっきりと聞いた。その声の調子から、種田さんはそはっきりと分かった。
さっき聞いた声、雑木林からしたと思っていた声は、このガレージからしていたんだ。
いやブルーシートを被せた戸棚の方からしていたんだと

「何なんだよ。いったいこれは」

ヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ
ハハハハハハハハハハハハハハハ
シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネツマレツマレツマレツマレツマレツマレケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッケッ

明らかに戸棚からの声は大きくなっている。あまりのことに種田さんの身体が動かなくなっていると......

バサッ
ブルーシートが落ちて、その下にある戸棚が露となった。

「アアアアア、ウワーッ」

種田さんは腰を抜かして悲鳴をあげた。

戸棚にはゴムマリ位の大きさの人の頭が並んでいた。戸棚に棚は三つあったそれぞれの棚に五つ並んでいる。

「八百屋の棚にこだまスイカが並んでいるようだった。」

その十五個の同じような顔が口々に好き勝手なことを喋っているのである。

オメエジャナインダヨ、ナンダヨイマニモツマンジャナイカヨ、ハハハハハハシネシネシネシネシネシネバイインジャナイ、ケッケッケッケッツマレツマレツマレツマレシネシネシネシネ
ハハハハハハハハハハハハシネシネハハハハハハシネシネハハハシネシネシネシネシネシネ

髪もなく、眉もなく、鼻も耳も唇も削げて男か女かも分からない生首たちは、ただ血走った目をして、嘲笑と悪意を種田さんに向けるのだった。


その時、腰を抜かしてへたりこんでいる種田さんの肩をポンッと叩く者があった。

「ドウカシタンデスカ」

戸棚に目がくぎ付けで振り向くことも出来なかったが、声から田辺京子だと分かった。
気味の悪い変な女だが、その時の種田さんには地獄に仏のように思えた。
戸棚を指さしながら応えた。

「どうかしたかって、田辺さんにはあれが見えないんですか、戸棚に顔が顔がいっぱいあって」

「ハハハハハハ」

何故だか田辺京子は抑揚のない声で笑い出した。

「笑い事じゃないですよ。っていうか、田辺さんどうやってガレージに入ったんですか。たしか鍵をかけたはず」

「ドウシテデショウカ、ドウシテデスカ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

「なんなんだ。あんたは」

種田さんは振り向いた。

「ギャーッ」

田辺京子の顔はそれこそ、落としたスイカのようにぐちゃぐちゃになっていたのだ。


ハハハハハハシネシネシネシネシネハハハシネシネシネシネハハハギャハハハハハハハハハツマレツマレツマレツマレシネシネハハハハハハシネシネシネシネハハハツマレツマレシネシネハハハハハハシネシネハハハハハハハハ

戸棚の顔たちと田辺京子が一斉に笑い出した。種田さんを嘲り、悪意をぶつけるような笑いだった。

ヌル〜ベチョベチョベチョ

種田さんの頬に田辺京子の右の目玉と
頭の中身が垂れかかった時、種田さんの目の前に火花がひかり、種田さんの意識は暗い闇に消えていった。




コメント1に後日談

コメント(4)

種田さんの意識が戻ったのは、それから五日後だった。気がつくと病院のベットにおり、左の手足の自由が効かず、起き上がることも出来なくなった。種田さんは脳出血を発症していたのだった。

種田さんの隣人があの夜、種田さんの悲鳴を聞いてかけ、ガレージの鍵を壊し中に入り種田さんが倒れていを発見して、救急車を呼んだそうだ。

入院当初、身寄りもなければ貯金も無い状態の種田さんは今後のことを心配したそうだが、何故か蘆谷さんの秘書の一人が生活保護と介護保険の申請や入退院の手続き、ぼくたちの老人ホームへの入所の手続きをしてくれたそうだ。

流石に種田さんは、これまで縁も所縁もない自分に何故そこまでしてくれるのか訝しく思っていたそうだ。
そこで一度だけ、蘆谷秀尚さんが見舞いに訪ねてくれた時に理由を訊ねた。
するとこんなことを話したのだった。

「種田さんは戸棚が何かしら曰く付きの物だったと思っているだろうけど、実はそうではない。ここだけの話にして欲しいけど、実は蘆谷の家その物に、異界の者たちが巣くっているんだ。」

種田さんが倒れたあの日、誰もいなかった。蘆谷氏は仕事で留守にしていた。それに、家政婦は休みを取っていて誰もいなかった。
それなのに夜帰宅して、居間に行ったら戸棚が一つなくなっておら、種田さんの名刺が落ちていたのだそうだ。それを頼りに、種田さんの元にたどり着いたわけなのだ。

「私の家にある物を棄てる時は必ずお祓いを済ませてから、屋外に出すようにしている。そうしなければ、他人様に迷惑がかかるからね。ただ奴等は人のふりをして、外部者を騙して外に出ようとする。つまり種田さん、あんたは蘆谷の家の忌み事に巻き込まれたんじゃ。だから出来るだけのことはさせて貰う。」

「奴等とは誰なんです」

種田さんは訝しく思い聞き返した。

「それは言えない。しかし奴等は蘆谷の家を廃れさせようとしているんだ
現に妻も息子たちも、その嫁たち、孫たちもみんな逝ってしまうた。蘆谷家の人間は私を残すのみじゃ」

ちなみに田辺京子という家政婦は蘆谷家に出入りしていないとのことだった。

「つまり、私は蘆谷さん家の曰くのおこぼれをもらったようなもんだ。」

種田さんはこう締めくくった。


これで種田さんの話は終わりだ。最後に蛇足になるけど、ぼくが見た物について話をしておく、種田さんが入所してからしばらくして、ぼくは種田さんに頼まれて、私物を種田さんの家に取りに行った事がある。
その時は種田さんの体験談を聞いていたから、ガレージを覗いてみた。
蘆谷氏により戸棚は片付けられていると思ったが、ブルーシートをかぶせられた状態で戸棚は残っていた。
ぼくがブルーシートを捲ってみたが、小汚ない人の顔のような染みがいっぱいついた戸棚があっただけだった。




前半、「なんかにほん昔話みたいな語り口で和むー」と思ってたら後半((((;゚Д゚)))))))
めちゃめちゃ怖いΣ(゚д゚lll)

お風呂入る前に読んでしまった(>人<;)

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