ふと寝苦しくなって目を開けた。音と振動からするとまだ高速を走っているのかな。
今、何時……携帯をまさぐるが見つからない……ああ、預けたんだっけ。
照明の薄暗いバスの車内を見回す。
運転席のすぐ後ろは相変わらず分厚いカーテンで閉ざされ、外の様子はわからない。さっき窓を見ようとしたら真っ黒に塗りつぶされていたし。
携帯ないと暇つぶせないな……と思いつつも、ケンジの言葉を思い出す。
「行き帰りも含め、向こうでの様子が全部、面接みたいなもんだからな」
隠しカメラでもついているのか気になるところだけど、探してるのをチェックされたくはないし。
つい出そうになったため息を、寸前で飲み込む。
着くまでは寝よう。
通路を挟んだ向こう側座席の女の子をちらっと見る。寝ているみたい。同い年くらいかな。けっこう可愛い子だよなぁ。
その寝顔を、閉じた瞼の裏側にこっそり連れ込んで、僕はそのまま眠りに落ちた。
次に目が覚めた時にはバスは止まっていた。
あ、海の匂い？ 着いたのかな？
伸びをしてふと横を見ると、例の彼女も同じタイミングで伸びをしている。同じポーズで目が合った僕たちは一緒に笑った。
「えー、皆さーん。起きて下さーい」
明るいきゃぴっとした声に反応して前を見ると、バスガイド姿の進行役の人がマイク片手に敬礼している。
「皆さん、お疲れ様でした♪ どうですか？ お疲れですか？」
その後、手を耳にあてて「聞く」仕草をする。
一瞬の間のあと、誰かが返事をした。
「だいじょぶでーす」
あ、そうか！ これ！ これも面接の一部かも？
「快適に眠れました！」
僕も慌てて返事をする。
「それはよかったですー♪ さて、皆様にはこれからバスを降りて、お宿の方へ移っていただくのですが。その前に２、３、注意点がございます」
ガサガサと音がしてハッとする。彼女はメモ帳とペンを取り出している。
うわ。やられたなー。僕はメモるのいつも携帯だったから……。
「ひとつ。お預かりした携帯電話は旅の期間中、原則としてお返しできません。責任を持ってお預かりいたします。これは旅を楽しむための我が社の方針でありますが、もしもの用事の場合は、わたくしどもにご相談下さい」
長っ！
今の暗記テストみたいなの、後でやらされるのかな？
「ひとつ。カメラはわたくしどもの提供するものをお使い下さい。今回のミステリー・リゾート・ツアーでは、古き良き時代を楽しんでいただくためインスタントカメラを使っていただきます。もちろん撮影された写真の現像と、ネガを電子的に取り込んだＣＤとは後でお客様のご自宅へ配送いたします」
……だめだ。メモ取ってたとしても覚えられない。
あ！
そうだよ。彼女に後で見せてもらおう。個人的に話しかけるチャンスじゃないか！
そのあとも注意を幾つか言っていたけど僕はぼんやりと別のことを考えていた。何でこんな面倒そうな面接を受けたんだ自分って。
ケンジと出遭ったのは一昨日の夜だった。
大学４年にして就活がうまくいってなかった僕は、既に内定もらった友達と呑んでいた。ノウハウとか聞きたくて。
そこでトイレに行ったときだったんだ。ケンジに声をかけられたのは。
「聞こえたよー。仕事探してるんだって？」
はじめは馴れ馴れしいやつだなって思ったんだけれど、イントネーションで同郷かもと思って声かけたって言われたせいか、友達と別れたあとに合流して盛り上がったんだよな……あれ？ 結局、同郷だったのはケンジじゃなくてケンジの母親だったんだっけ？
三次会の途中くらいからあんまり覚えてないんだよな。
翌朝、アパートにいつの間にか戻って寝ていた僕の隣にケンジ。呑みは全部おごるから泊めてくれって話だった。「お礼」はそれだけじゃない。ケンジが「美味しい思いをしている」っている仕事を紹介してくれた。それがこのミステリー・リゾート・ツアー……のスタッフ。
ミステリー・ツアーってのはお客が目的地を知らないまま行く旅行で、普通の旅行に行き飽きた人が参加するらしい。これはそのリゾート限定版。バックは大手の旅行会社らしいんだけれど、客が特殊だから社名を出すのも実際の社員を使うこともできないんだって。
特殊だなんて怪しいなとも思ったんだけど、ケンジのあの一言が効いたなぁ……
「すげーよ。セレブっぽい美人の乱交パーティのお相手させられたんだぜ！」
滅多に無いことだよとは前置きあったけど特殊ってそういうことか。他にもお忍びの芸能人が来たりとか。もちろん写メとかサインとか禁止なんだけど、たまに生で唄ってくれる人も居るとか。あるんだな、そういう世界が。
そのまま夜までケンジとダラダラ過ごし、そして真夜中出発のこの「面接」へ僕は案内されたんだ。本当のツアーも、この時間に出発ってことで。
そうそう。
面接のポイント。はじめはお客の気持ちをわかってもらうために「客」としての立ち位置から参加……という名目だけど、実はこの時から面接ははじまっていて、何気ない動作とかチェックされているって。
「……ということです。では降りて下さい！」
え。
ヤバイ。肝心なとこまで聞き逃してる！
僕は慌てて彼女に声をかけた。チェックされるかもだけど、背に腹は変えられないからなぁ。
「ごめん。ちょっと今、聞き逃しちゃって……」
すると彼女はにっこり笑って教えてくれた。
「荷物を置いたらまず健康診断があるんだってよ」
やさしいなぁ。そしてやっぱり可愛い。近くに寄るとほんのり甘い香りがする……うわー。ヤバイ。僕、この子、好きかも。
その時、運転席と僕らの座席とを隔てていたカーテンが開いた。その向こうはまだぼんやりと薄暗い。早朝なのだろうか。それでも波の音はざざーんざざーんとバスの車内へと流れ込んできていた。
僕らは順序良くバスから降りてゆく。僕は彼女のすぐ後をついてゆく。脚長っ。けっこうスタイルいいなぁ……あ。
ひょっとするとこの子も金持ちの乱交パーティの相手なんかを……うわー。なんだか告白してもいないのに振られた気分。
バスを降りた後、最初に目に付いたのは白い高い壁だった。異国情緒って言うのかな。ギリシャとかスペインとかの高級なリゾートのイメージがぴったり来る感じ。
壁の外の海がどんな海なんだろうと期待が膨らむ。
まずはそれぞれの部屋へと案内される。スタッフルームが地下なのは寂しいけれど、個室だよ個室！
四畳はあってベッドは壁に折りたたまれているタイプだからかなり広く感じる。
この広さを一人で使っていいってけっこう贅沢じゃない？ やっぱセレブ相手のバイトだと待遇もいいのかな。
女子は地下一階、男子は地下二階。スタッフ用ロビーがある一階からは螺旋階段を降りてゆく。
クローゼットにジャケットをかけ、ベッドに寝転がって健康診断の開始を待つ。
ああ、彼女をここに連れ込みたいなぁ……妄想がふくらみ過ぎて気をつけないと「面接」のことを忘れそうになる。いやいやそれじゃダメだ。まずは受からないと。
ピィィィ！
え、ナニナニ？
あ、入り口近くにインターホンがついている。で、出るんだよね？
「あ、はい」
「健康診断を開始します。２階まで階段を使って上がってきてください」
「わかりました！」
健康診断はそこそこ時間をかけて終わり、ひとまず自室へと戻る。
ＴＶの健康番組で芸能人がやっているようなＲＯＭみたいな名前の大きな機械。すっぽり包まれてうるさかったなぁ。
ＶＩＰ相手の仕事するにはあのくらい徹底した検査するんだな。血液も採られたし。
身長と体重と視力くらいしか測ったことがない学校の健康診断とかと比べたら、圧倒的だよ。
とりあえず自室待機ってことだけど……彼女に会いたくてつい、一階でロビーへと寄り道してしまう。
「あれ？」
僕らが入ってきた分厚いガラスの扉は鍵がかかっているようで開かない。しかも既にバスも居ない。ガラス扉を通して見える視界は、白亜の壁が高くそびえて直線だけで構成されている感じ。
あきらめてロビーにあるソファに深々と座る。
しかし見事に何もないところだな。
全体的に白い建物の中には、ジュースやタバコの自販機すらない。印象としては病院の待合室に近い感じ……ただ、壁にポスターとか一切貼ってないけれど。
「……部屋に戻るかな」
その時、ロビーに誰かが来た……彼女だ！
ぶんぶん手を振ると笑顔で応えてくれた。
「ねぇ、健康診断、すごくなかった？」
「うんうん。ＭＲＩやるの私初めて！」
「そ れ だ ！」
「え、何が？」
「エムアール何とか」
「ＭＲＩ？」
「うんうん」
「あは、あなたって面白い人ね」
「そ、そうかな……」
照れるなぁ……そんな僕の耳元に、彼女の顔が近づいてくる。
ドキドキ。
「ねぇ、君はタバコ持ってる？」
「……え？」
「健康診断あるって聞いてたから置いてきたんだけど、やっぱ口寂しくて」
「あ、えーと……へ、部屋にあったかな」
なんで僕は嘘をついてしまったんだろう。タバコなんか吸わないのに……簡単だ。彼女ともっと話をしていたかったから。そう。いざとなったら勘違いだったって言い訳すればいい。
僕に続いて彼女が部屋に入ってくる。
「へー、男子部屋も女子部屋と変わらないんだね」
「そ、そうなんだ」
相槌を打ちながらも、タバコを探すフリをする。
「ね、君はどうしてこの面接に？」
彼女はベッドに腰掛けて待っている。っつーか、キュロットだと思っていたらまさかのミニスカ！
「あ、えーと、友達に誘われて」
「へー。あたしもだよ」
「それってケンジ？」
つい聞いてしまう。
「ケンジ？ 女の子だよ。ヨーコさんって人」
どこかでホッとする自分。
「ね」
彼女は立ち上がり、僕のすぐ背後まで来た。
「な、何？」
「君、ひょっとして面接官？」
……そっか、彼女が面接官って可能性もあったのか。僕は一瞬、真っ白になる。さらに追い討ちをかけるように、彼女はそのまましがみついてきた。背中に柔らかい感触が……うわわわわ。
ピィィィ！
「わ」
「きゃ」
突然鳴ったインターホン……ま、まさかこの部屋盗撮されている？ ビクつきながらもインターホンに出た。
「は、はい」
「面接合格です、深く深呼吸して下さい」
突然のことに戸惑いながらも、僕は咄嗟に指示に従った。
シューーーーーー！！
不意に視界が真っ白い霧のようなものに包まれる。
なにこれ……咳き込みながら状況を把握しようと……するけれど体が急に重く感じる。彼女も僕にもたれかかってきて、ああ、柔ら……かいな……
「……なんで、二人も居るの？」
「よろしくやろうって連れ込んだんじゃねぇ？」
「この子、肺ガンとＨＩＶ感染とダブルの子だよね？」
「今回女子は不健康なのばっかりだな」
男たちの笑い声が遠くで聞こえる。
でも僕の体はちからがはいらない……
「とりあえず早く運ぼうぜ」
朦朧とする意識の中、持ち上げられた感覚。
「合格おめでとさん」
「もっともこいつってよりゃこいつの内臓さんが、だけどな」
笑い声が、もっともっと遠くなる。
(終)
今、何時……携帯をまさぐるが見つからない……ああ、預けたんだっけ。
照明の薄暗いバスの車内を見回す。
運転席のすぐ後ろは相変わらず分厚いカーテンで閉ざされ、外の様子はわからない。さっき窓を見ようとしたら真っ黒に塗りつぶされていたし。
携帯ないと暇つぶせないな……と思いつつも、ケンジの言葉を思い出す。
「行き帰りも含め、向こうでの様子が全部、面接みたいなもんだからな」
隠しカメラでもついているのか気になるところだけど、探してるのをチェックされたくはないし。
つい出そうになったため息を、寸前で飲み込む。
着くまでは寝よう。
通路を挟んだ向こう側座席の女の子をちらっと見る。寝ているみたい。同い年くらいかな。けっこう可愛い子だよなぁ。
その寝顔を、閉じた瞼の裏側にこっそり連れ込んで、僕はそのまま眠りに落ちた。
次に目が覚めた時にはバスは止まっていた。
あ、海の匂い？ 着いたのかな？
伸びをしてふと横を見ると、例の彼女も同じタイミングで伸びをしている。同じポーズで目が合った僕たちは一緒に笑った。
「えー、皆さーん。起きて下さーい」
明るいきゃぴっとした声に反応して前を見ると、バスガイド姿の進行役の人がマイク片手に敬礼している。
「皆さん、お疲れ様でした♪ どうですか？ お疲れですか？」
その後、手を耳にあてて「聞く」仕草をする。
一瞬の間のあと、誰かが返事をした。
「だいじょぶでーす」
あ、そうか！ これ！ これも面接の一部かも？
「快適に眠れました！」
僕も慌てて返事をする。
「それはよかったですー♪ さて、皆様にはこれからバスを降りて、お宿の方へ移っていただくのですが。その前に２、３、注意点がございます」
ガサガサと音がしてハッとする。彼女はメモ帳とペンを取り出している。
うわ。やられたなー。僕はメモるのいつも携帯だったから……。
「ひとつ。お預かりした携帯電話は旅の期間中、原則としてお返しできません。責任を持ってお預かりいたします。これは旅を楽しむための我が社の方針でありますが、もしもの用事の場合は、わたくしどもにご相談下さい」
長っ！
今の暗記テストみたいなの、後でやらされるのかな？
「ひとつ。カメラはわたくしどもの提供するものをお使い下さい。今回のミステリー・リゾート・ツアーでは、古き良き時代を楽しんでいただくためインスタントカメラを使っていただきます。もちろん撮影された写真の現像と、ネガを電子的に取り込んだＣＤとは後でお客様のご自宅へ配送いたします」
……だめだ。メモ取ってたとしても覚えられない。
あ！
そうだよ。彼女に後で見せてもらおう。個人的に話しかけるチャンスじゃないか！
そのあとも注意を幾つか言っていたけど僕はぼんやりと別のことを考えていた。何でこんな面倒そうな面接を受けたんだ自分って。
ケンジと出遭ったのは一昨日の夜だった。
大学４年にして就活がうまくいってなかった僕は、既に内定もらった友達と呑んでいた。ノウハウとか聞きたくて。
そこでトイレに行ったときだったんだ。ケンジに声をかけられたのは。
「聞こえたよー。仕事探してるんだって？」
はじめは馴れ馴れしいやつだなって思ったんだけれど、イントネーションで同郷かもと思って声かけたって言われたせいか、友達と別れたあとに合流して盛り上がったんだよな……あれ？ 結局、同郷だったのはケンジじゃなくてケンジの母親だったんだっけ？
三次会の途中くらいからあんまり覚えてないんだよな。
翌朝、アパートにいつの間にか戻って寝ていた僕の隣にケンジ。呑みは全部おごるから泊めてくれって話だった。「お礼」はそれだけじゃない。ケンジが「美味しい思いをしている」っている仕事を紹介してくれた。それがこのミステリー・リゾート・ツアー……のスタッフ。
ミステリー・ツアーってのはお客が目的地を知らないまま行く旅行で、普通の旅行に行き飽きた人が参加するらしい。これはそのリゾート限定版。バックは大手の旅行会社らしいんだけれど、客が特殊だから社名を出すのも実際の社員を使うこともできないんだって。
特殊だなんて怪しいなとも思ったんだけど、ケンジのあの一言が効いたなぁ……
「すげーよ。セレブっぽい美人の乱交パーティのお相手させられたんだぜ！」
滅多に無いことだよとは前置きあったけど特殊ってそういうことか。他にもお忍びの芸能人が来たりとか。もちろん写メとかサインとか禁止なんだけど、たまに生で唄ってくれる人も居るとか。あるんだな、そういう世界が。
そのまま夜までケンジとダラダラ過ごし、そして真夜中出発のこの「面接」へ僕は案内されたんだ。本当のツアーも、この時間に出発ってことで。
そうそう。
面接のポイント。はじめはお客の気持ちをわかってもらうために「客」としての立ち位置から参加……という名目だけど、実はこの時から面接ははじまっていて、何気ない動作とかチェックされているって。
「……ということです。では降りて下さい！」
え。
ヤバイ。肝心なとこまで聞き逃してる！
僕は慌てて彼女に声をかけた。チェックされるかもだけど、背に腹は変えられないからなぁ。
「ごめん。ちょっと今、聞き逃しちゃって……」
すると彼女はにっこり笑って教えてくれた。
「荷物を置いたらまず健康診断があるんだってよ」
やさしいなぁ。そしてやっぱり可愛い。近くに寄るとほんのり甘い香りがする……うわー。ヤバイ。僕、この子、好きかも。
その時、運転席と僕らの座席とを隔てていたカーテンが開いた。その向こうはまだぼんやりと薄暗い。早朝なのだろうか。それでも波の音はざざーんざざーんとバスの車内へと流れ込んできていた。
僕らは順序良くバスから降りてゆく。僕は彼女のすぐ後をついてゆく。脚長っ。けっこうスタイルいいなぁ……あ。
ひょっとするとこの子も金持ちの乱交パーティの相手なんかを……うわー。なんだか告白してもいないのに振られた気分。
バスを降りた後、最初に目に付いたのは白い高い壁だった。異国情緒って言うのかな。ギリシャとかスペインとかの高級なリゾートのイメージがぴったり来る感じ。
壁の外の海がどんな海なんだろうと期待が膨らむ。
まずはそれぞれの部屋へと案内される。スタッフルームが地下なのは寂しいけれど、個室だよ個室！
四畳はあってベッドは壁に折りたたまれているタイプだからかなり広く感じる。
この広さを一人で使っていいってけっこう贅沢じゃない？ やっぱセレブ相手のバイトだと待遇もいいのかな。
女子は地下一階、男子は地下二階。スタッフ用ロビーがある一階からは螺旋階段を降りてゆく。
クローゼットにジャケットをかけ、ベッドに寝転がって健康診断の開始を待つ。
ああ、彼女をここに連れ込みたいなぁ……妄想がふくらみ過ぎて気をつけないと「面接」のことを忘れそうになる。いやいやそれじゃダメだ。まずは受からないと。
ピィィィ！
え、ナニナニ？
あ、入り口近くにインターホンがついている。で、出るんだよね？
「あ、はい」
「健康診断を開始します。２階まで階段を使って上がってきてください」
「わかりました！」
健康診断はそこそこ時間をかけて終わり、ひとまず自室へと戻る。
ＴＶの健康番組で芸能人がやっているようなＲＯＭみたいな名前の大きな機械。すっぽり包まれてうるさかったなぁ。
ＶＩＰ相手の仕事するにはあのくらい徹底した検査するんだな。血液も採られたし。
身長と体重と視力くらいしか測ったことがない学校の健康診断とかと比べたら、圧倒的だよ。
とりあえず自室待機ってことだけど……彼女に会いたくてつい、一階でロビーへと寄り道してしまう。
「あれ？」
僕らが入ってきた分厚いガラスの扉は鍵がかかっているようで開かない。しかも既にバスも居ない。ガラス扉を通して見える視界は、白亜の壁が高くそびえて直線だけで構成されている感じ。
あきらめてロビーにあるソファに深々と座る。
しかし見事に何もないところだな。
全体的に白い建物の中には、ジュースやタバコの自販機すらない。印象としては病院の待合室に近い感じ……ただ、壁にポスターとか一切貼ってないけれど。
「……部屋に戻るかな」
その時、ロビーに誰かが来た……彼女だ！
ぶんぶん手を振ると笑顔で応えてくれた。
「ねぇ、健康診断、すごくなかった？」
「うんうん。ＭＲＩやるの私初めて！」
「そ れ だ ！」
「え、何が？」
「エムアール何とか」
「ＭＲＩ？」
「うんうん」
「あは、あなたって面白い人ね」
「そ、そうかな……」
照れるなぁ……そんな僕の耳元に、彼女の顔が近づいてくる。
ドキドキ。
「ねぇ、君はタバコ持ってる？」
「……え？」
「健康診断あるって聞いてたから置いてきたんだけど、やっぱ口寂しくて」
「あ、えーと……へ、部屋にあったかな」
なんで僕は嘘をついてしまったんだろう。タバコなんか吸わないのに……簡単だ。彼女ともっと話をしていたかったから。そう。いざとなったら勘違いだったって言い訳すればいい。
僕に続いて彼女が部屋に入ってくる。
「へー、男子部屋も女子部屋と変わらないんだね」
「そ、そうなんだ」
相槌を打ちながらも、タバコを探すフリをする。
「ね、君はどうしてこの面接に？」
彼女はベッドに腰掛けて待っている。っつーか、キュロットだと思っていたらまさかのミニスカ！
「あ、えーと、友達に誘われて」
「へー。あたしもだよ」
「それってケンジ？」
つい聞いてしまう。
「ケンジ？ 女の子だよ。ヨーコさんって人」
どこかでホッとする自分。
「ね」
彼女は立ち上がり、僕のすぐ背後まで来た。
「な、何？」
「君、ひょっとして面接官？」
……そっか、彼女が面接官って可能性もあったのか。僕は一瞬、真っ白になる。さらに追い討ちをかけるように、彼女はそのまましがみついてきた。背中に柔らかい感触が……うわわわわ。
ピィィィ！
「わ」
「きゃ」
突然鳴ったインターホン……ま、まさかこの部屋盗撮されている？ ビクつきながらもインターホンに出た。
「は、はい」
「面接合格です、深く深呼吸して下さい」
突然のことに戸惑いながらも、僕は咄嗟に指示に従った。
シューーーーーー！！
不意に視界が真っ白い霧のようなものに包まれる。
なにこれ……咳き込みながら状況を把握しようと……するけれど体が急に重く感じる。彼女も僕にもたれかかってきて、ああ、柔ら……かいな……
「……なんで、二人も居るの？」
「よろしくやろうって連れ込んだんじゃねぇ？」
「この子、肺ガンとＨＩＶ感染とダブルの子だよね？」
「今回女子は不健康なのばっかりだな」
男たちの笑い声が遠くで聞こえる。
でも僕の体はちからがはいらない……
「とりあえず早く運ぼうぜ」
朦朧とする意識の中、持ち上げられた感覚。
「合格おめでとさん」
「もっともこいつってよりゃこいつの内臓さんが、だけどな」
笑い声が、もっともっと遠くなる。
(終)
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コメント(36)
> 篤人♯3さん
日本の毎年の行方不明者は、「捜索願」の提出数だけでも10万人を超えるそうです。
消えた人の使い道として思いつくのが「玩具」と「部品取り」です。
遊びに使われるより内蔵のほうが、より身近感がわくかなーって思って企画段階からこちらに。
人じゃなく中身の「面接」ってのは外したくなくて。
> 高床式Benzヒロ48さん
ありがとうございます。
脱いだパンツに「ごめん、寒かったろ？」って布団かけてあげて下さい。
そして続きは……うん。そうですね。そのうち。はい。
> シュウトさん
あ。
シュウトさんの名前見て、某メリーさんを書きかけ放置してるの思い出しましたｗ
そ、そっち先にやらなきゃだし！
ね？
ね？
> ゆあ先生
オチが途中から見えてしまうかなーってのが気掛かりなんですが、バトルロワイヤル印象意見が比較的強かったのがちょびっとだけ安堵です。
5000字以内を目標にしてたから、あんまり展開増やしたくないなーってのもあり。
逆にバトルロワイヤル臭を出すのも手かな？
腕時計とかはめられて……「心拍数を調べるためのものです」って言われるのに外せない？みたいな。
タイトルはとりあえずで出したけど、どんなもんでしょ？
日本の毎年の行方不明者は、「捜索願」の提出数だけでも10万人を超えるそうです。
消えた人の使い道として思いつくのが「玩具」と「部品取り」です。
遊びに使われるより内蔵のほうが、より身近感がわくかなーって思って企画段階からこちらに。
人じゃなく中身の「面接」ってのは外したくなくて。
> 高床式Benzヒロ48さん
ありがとうございます。
脱いだパンツに「ごめん、寒かったろ？」って布団かけてあげて下さい。
そして続きは……うん。そうですね。そのうち。はい。
> シュウトさん
あ。
シュウトさんの名前見て、某メリーさんを書きかけ放置してるの思い出しましたｗ
そ、そっち先にやらなきゃだし！
ね？
ね？
> ゆあ先生
オチが途中から見えてしまうかなーってのが気掛かりなんですが、バトルロワイヤル印象意見が比較的強かったのがちょびっとだけ安堵です。
5000字以内を目標にしてたから、あんまり展開増やしたくないなーってのもあり。
逆にバトルロワイヤル臭を出すのも手かな？
腕時計とかはめられて……「心拍数を調べるためのものです」って言われるのに外せない？みたいな。
タイトルはとりあえずで出したけど、どんなもんでしょ？
> しゃちん
ごめんよう。今度北海道行ったとき、スープカレーのイエローで揚げハバネロトッピングをおごってあげるから！
> ゆあ
だ、だってあの頃はまだそんなに仲良くなかったからっ
いや、仲良くない人に卑猥呼ばわりもどーだって話ですがｗ
流れとしては
自分の日記容量、フォト容量がいっぱい→しょうがない外出しするか（写真系コミュ作成、物語は別SNSで展開）→別SNSはほぼ撤退→mixiでとに怖とかTHE怖とかに投稿してみ始める→埋もれるな→仕方ないmixiで文章系もコミュ作るか→せっかくだから過去の作品も再掲載するか→半面誘われたから入ってみたよ→最近、The怖より半面でのほうがアップ率高くない？←今ここ。
容量あるなら全部一箇所にまとめたい派。あっちもこっちもって、ゆとりないと出来なくて。
自コミュは、人に見せる(エンターテイメント)ことよりも、自分で管理するための意味合いが強いから「よそにアップすること」自体にはコミュ問わず抵抗はないのね。
ただ、新しいコミュに入るためにどれか抜けるコミュを選ぶのが面倒ってだけ。って抜けるコミュを選ぶってアダルティな響き。って話ずれてごめん。
108制限は美学でもあるんだけど、同時に、自分が負担を感じずに把握できる流れの上限でもあるんだよね。実際、休眠コミュや呑み会の時だけ活発化する打ち合わせコミュも多いんだけど、そういうの含めて100くらいが限度かな。全部動いているコミュばかりだった頃は50が限度だったｗ
今、ちょっと多めにmixiに居るけれど、やりたいことあるときは数日とか数ヶ月とかmixi放置もするし、放置することに後ろめたさを感じたくないので、なるべくなら負わない方向に流れたいｗ
長さがある１エピソードでも、コメ使ってまとめてアップってんなら、そんなにトピ一覧も占領しないし、そのペースならここでもいいかなとは思ってますよｗ
迷惑かけない程度に、ゆるく行きますｗ
ごめんよう。今度北海道行ったとき、スープカレーのイエローで揚げハバネロトッピングをおごってあげるから！
> ゆあ
だ、だってあの頃はまだそんなに仲良くなかったからっ
いや、仲良くない人に卑猥呼ばわりもどーだって話ですがｗ
流れとしては
自分の日記容量、フォト容量がいっぱい→しょうがない外出しするか（写真系コミュ作成、物語は別SNSで展開）→別SNSはほぼ撤退→mixiでとに怖とかTHE怖とかに投稿してみ始める→埋もれるな→仕方ないmixiで文章系もコミュ作るか→せっかくだから過去の作品も再掲載するか→半面誘われたから入ってみたよ→最近、The怖より半面でのほうがアップ率高くない？←今ここ。
容量あるなら全部一箇所にまとめたい派。あっちもこっちもって、ゆとりないと出来なくて。
自コミュは、人に見せる(エンターテイメント)ことよりも、自分で管理するための意味合いが強いから「よそにアップすること」自体にはコミュ問わず抵抗はないのね。
ただ、新しいコミュに入るためにどれか抜けるコミュを選ぶのが面倒ってだけ。って抜けるコミュを選ぶってアダルティな響き。って話ずれてごめん。
108制限は美学でもあるんだけど、同時に、自分が負担を感じずに把握できる流れの上限でもあるんだよね。実際、休眠コミュや呑み会の時だけ活発化する打ち合わせコミュも多いんだけど、そういうの含めて100くらいが限度かな。全部動いているコミュばかりだった頃は50が限度だったｗ
今、ちょっと多めにmixiに居るけれど、やりたいことあるときは数日とか数ヶ月とかmixi放置もするし、放置することに後ろめたさを感じたくないので、なるべくなら負わない方向に流れたいｗ
長さがある１エピソードでも、コメ使ってまとめてアップってんなら、そんなにトピ一覧も占領しないし、そのペースならここでもいいかなとは思ってますよｗ
迷惑かけない程度に、ゆるく行きますｗ
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