THE　半ば面白い話（仮）コミュのロシアうるるん滞在記　（ｶﾌﾞｾｲ）

実は僕は中３の時、南北海道の柔道使節団に選ばれて、一週間ロシアに行った事がある。
しかもホームステイ。

出発の朝、空港のロビーに集められた中学生使節団12名。
その全員が初海外だった為、皆期待と不安も口にしていたが大半は期待の声。

『何しろ使節団だからな。』
『下手したらビジネスクラスくらい乗れるんじゃないか』

そんな純粋な少年達の淡い期待は、ものすごい裏切られ方をした。

乗せられたのは普通の旅客機ですらなく、木製じゃねえか？と疑いの声があがるくらいオンボロのプロペラ機だった。

“ライト兄弟の試作品だ”と言われても信じるしかないようなこの飛行機でロシアまで行けるのか？

そんな不安が僕達を襲う。
僕は綺麗に背筋を伸ばし、黙ってまっすぐ前を見てる事しか出来なかった。

そうこうしている内に無事ロシア到着。
この時ほど本気で神に感謝した事はない。

空港ではホームステイ先の家族の皆さんが、日本語で書かれた横断幕を掲げて出迎えてくれた。
１家庭に１人なので、12世帯でのお出迎え。
熱烈な歓迎に、僕は感動した。

横断幕の日本語が『ようととロスアへ』となっていた事を除いて。

そして、ホームステイ先の人とご対面。
僕は美しい女性の家庭だった。
下がり切った僕のテンションが、星の位置まで急上昇した事は言うまでもない。

だがその５秒後、上がりすぎた僕のテンションがバンジージャンプした。

その人がナターシャと自己紹介したのだが聞き取れず、聞き返したら

「ノァトォアーシャアアア！！！」
とブチ切れられたからだ。

この人怖すぎる…

ブチ切れられた後、車でナターシャ宅に向かう約２０分間、彼女は沈黙を守ったままだった。
そしてその日の夕食に、僕に出されたのはスープとパンだけだった。

僕はカルチャーショックを通り越して、ただただショックだった。
何しろ出会って約３分で切れられたのだから…

この日、パンをかじりながら僕は決意した。

『よし、ゴマをすろう！』と。

次の日から何を言われても『ダー（はい）、OK』か『スパシーバ（ありがとう）』と答えるようになった。

そんなイエスマン作戦が奏功したのか、だんだん打ち解けてきて、お互いの文化や習慣を教え合ったり、トランプで楽しんだりするまでに仲良くなった。

息子のユーリは、僕に添い寝をせがむまでになついてくれた。

そんな楽しい時間はあっという間にすぎ、ついにお別れの時。

飛行場のロビーで、ナターシャは泣きながら『日本に着いたら見て』と手紙を渡してくれた。

僕も泣きながらナターシャ一家と抱擁し、最後まで見送ってくれているナターシャ一家に手を振りながら『ライト兄弟の試作品』に乗り込んだ。

そして席に座ると、涙を吹きながら手紙を開いてみた。

全文ロシア語だった。
読めずにまた泣いた。