公開前の映画情報コミュの剱岳点の記

「劔岳点の記」
　09年6月20日、丸の内ＴＯＥＩ?ほか公開
　東映配給　　上映時間：139分
　監督：木村大作
　出演：浅野忠信、香川照之、松田龍平、モロ師岡、蛍雪次朗、仁科貴、蟹江一平
　　　　仲村トオル、宮﨑あおい、小澤征悦、新井浩文、鈴木砂羽、笹野高史、石橋蓮司
　　　　國村隼、井川比佐志、夏八木勲、役所広司
　http://www.tsurugidake.jp/

黒澤明監督率いる"黒澤組"に18歳で入り、そこで薫陶を受けた後に、「八甲田山」「復活の日」など過酷な自然環境を描いた映画を撮影したことで知られる木村大作。氏の映画生活50年目、50作品目にして初の監督作品です。原作は新田次郎の同名小説。

＜あらすじ＞
明治40年。地図の測量手として実績を上げていた柴崎は、突然陸軍参謀本部から呼び出され、「日本地図最後の空白地点、劔岳の頂点を目指せ」と命じられる。当時、陸軍参謀本部に所属している陸地測量部が日本国内の測量を行い、数多の山頂に三角点を設置、地図を作ってきた。宗教登山の目的以外では、ほとんどの山は陸地測量部によって初登頂されてきたが、未だに登頂されていないのは劔岳だけ。また、創立間もない日本山岳会の会員も剱岳の登頂を計画しており、軍としては山岳会に先を越されることを許すわけにはいかなかった。柴崎はその命を受け、剱岳付近に詳しく、人柄も優れた案内人・宇治長次郎らとともに、未踏峰の劔岳の登頂に挑む――。

とにかくこの映像を、本物の役者を使って撮った、ということ自体が驚き！　撮影現場に向かう時はヘリを使わず、スタッフは機材を背負い、キャストも自分の足で登ったというから、並大抵な現場じゃなかったことが想像できる。ＣＧやセットでは表現できない、大迫力の自然がスクリーンに迫ってきます。

たとえば、大俯瞰で映し出された尾根に、小さい点のような登山隊がポツポツンと描かれる風景。見た目はＴＶのドキュメンタリーなどでよく見かけるものではあるけど、登山家ではなく役者が実際に演じているものを大スクリーンで見ていることを考えると、ある意味奇跡というしかない。

雪渓での滑落シーンも実際の人間を使い、それを助けにいく人は杖をストック代わりにして、踵で氷壁を滑り降りてゆく。その場面では、思わず驚嘆の声を上げてしまいそうになりました。

「復活の日」で実際に南極ロケを敢行した木村氏の意地というか執念の結晶でしょう。ドキュメンタリー番組というか、剣岳の環境ビデオ的なところはあるんだけど、これらを見るだけでも劇場に足を運ぶ価値は十分にあると思います。

剣岳の頂上に三角点を建てる。その目的のために前人未踏の難壁に挑み、自然の猛威に揉まれ、挫折しかけながらも、留守を守る家族を思い出し、不屈の精神でついにはその目的を果たす。ストーリーはシンプルだし、捻りも寄り道もしない。ただ、映像の驚異だけで140分を見せ切ります。

「点の記とは……」という説明で始まる物語は、ストレートに時間軸に沿って展開されます。物事の説明は詳しく言葉で語られ、心情描写は一言もしゃべらずに表情で語る。または歌（笑）。まさに質実剛健というか、50年代の映画を見ているような錯覚に陥りました。台詞回しも昭和チックだし。

あと、驚いたのがエンドロール。私はこんな変わったエンドロールを見たことがありません。ある意味、この作品の精神を物語っているものかも。

どこか飄々とした浅野忠信は、ちょっと明治男子とは違うイメージ。山案内役の香川照之は心憎いうまさです。やはり、この中で異彩を放っていたのは仲村トオルでしょうか（笑）。　あと、陸軍少将役の笹野高史、軍服が似合わね～。

私的採点：4.0点寄りの3.5点（5点満点）

　　　　　　　　　　　　　　　09年5月15日　東映試写室