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eine kleine Miniaturgartenコミュのつむじ風の恋

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塵旋風の発生要因は、まず、太陽光などによって地表の温度が上がり、同時に地表付近の大気が熱せられることで上昇気流が発生する。そこへ水平方向に吹く強風が加わり、上昇気流に渦度(鉛直軸の回転)が発生することで塵旋風になると考えられている。つまり、塵旋風が発生する時の上空は強い日差しの晴天であることが多い。これは、竜巻が発生する時の上空の様子とは大きく異なる点である。

*

はじめに言っておくが、僕にはなにも取り柄がない。ただのしがない高校生。これと言って部活に入っているわけでもなければ、勉強ができるわけでもない。たったひとつの楽しみと言えば、教室の窓側の席で柔らかいそよ風にあたることくらいだった。席替えでいつも窓側を希望するので、僕はクラスのやつからウィンドウとあだ名を付けられていた。
そんな僕が頼まれごとをしたのは、ある肌寒い冬の日であった。
お天気お姉さんが「今日は風が冷たいので温かい格好でお出かけください」というので、僕はいつも巻かないマフラーを巻いた。黒い学生服に合うように、黒いマフラーっていう何の面白味もない無難なチョイス。
新宿駅南口、ドトールの前に立って、携帯をいじっている。
相手は、「チェルシー」と名乗る女性…たぶん。

―――
Re:Re:Re:Re:
南口ドトールの前に着きました。
全身黒い服装です。
カバンは、若干紺色がかっています。分かりにくいですよね、すみません。
―――

チェルシーから返信が来る。

―――
Re:Re:Re:Re:Re:
ではそのまま待っていてください。
いま、下北沢を過ぎたところです。
お誘いした側なのに遅れてしまい申し訳ありません。
―――

チェルシーと名乗る女性と僕が連絡を取り始めたのは、一週間ほど前のことだ。
僕のTwitterに突然見知らぬ人からリプライが来たのだ。

―――
@wind______ow
はじめまして。いきなりですが、私のこと、助けてくれませんか?
―――

その突然のリプライに僕は驚いた。いつもならこんなのスルーする。でも、僕のなかの何かがこの人と会うべきだと言っていたのだ。取り柄のない僕に救いを求める人、というのに若干の優越感と傲りがあったのかもしれない。

とにかく僕は彼女をフォローし、ダイレクトメールを何通かやりとりした。そして、会うことにした。

チェルシーは彼女からの情報によると26歳の女性らしい。アメリに憧れて短くした黒髪のショートヘアーがお気に入りらしい。好きな服装はスキニー。一週間のうち5回は黒いスキニーで過ごしているらしい。
彼女はスカートは嫌いらしかった。「女性の服装でスカートとパンツどちらが好き?」と聞かれ、とっさに「パンツです」と答えると、彼女から嬉しそうな顔文字が返って来た。彼女は少し可愛らしい人だった。会ったことはないが、そんな感じがした。

そんな彼女と会うことになったのは、彼女が僕に助けを求めているからだった。

ダイレクトメールを送れるようになってすぐ、なぜ僕に助けて欲しいのか、何から助けてほしいのか聞いたけど、理由は返ってこなかった。
とにかく詳細は、会って話すとのことだった。

ソーシャルメディアが普及したとは言いつつも、こんなどこの誰かもわからない人と会うことに怯えはあった。
もし、殺人の手伝いとかだったら?寧ろ、もう既に警察に追われていて、チェルシーは殺人犯だったら?

でも、そんなネガティブな気持ちよりさらに大きかったのが、「誰かを助けたい」という僕の傲りだった。

携帯のバイブレーションが二回鳴る。チェルシーからのメールだった。

―――
Re:Re:Re:Re:Re:Re:
もう着きます!
同じく、全身黒い服でいるのが私です。
―――

そのメールが来てから三分後、ちょうどカップラーメンが出来上がるかというくらいの間隔で、右肩を叩かれた。
見ると僕より少し背の高い、すらっとした女性が微笑みかけていた。

「待たせちゃって、ごめんね」

僕はその女性の唇に目を奪われた。目が冴えるような真っ赤な口紅をしていた。白い肌と、黒髪とのコントラストがあまりにも綺麗で、僕は一瞬でノックアウトされた。
頭がフラフラし、体温が上がっていくのがわかった。僕は一目惚れをしたのだ。

チェルシーは僕の腕を引っ張り、電車に乗らせた。
山の手線渋谷・品川方面行き。

「どこへ行くんですか?」

「えっと、原宿。」

山の手線は椅子には辛うじて座れないくらいの微妙な混み具合で、僕たちはドアの横に立っていた。
チェルシーはまだ僕の手を掴んでいたので、僕の手はまるで借り物のように熱くなっていた。

その4分間はまるで永遠かのように長く感じた。

原宿に着き、改札の前になってようやくチェルシーは僕の手を握ったままだということに気づいたみたいだった。

「ごめん!」

チェルシーは僕の手を離した。
滞った血管が息を吹き返すかのように血流を取り戻すのがわかった。

竹下通りを無言のまま抜け、チェルシーは通りのお店をしきりに気にし出した。

「僕に助けられることは、何ですか?」

僕は思いきってチェルシーに聞いてみた。

すると、チェルシーは思いもしなかった答えを返した。

「えっと、デート、してほしかったの」

「私、今までずっと黒い服ばかり着ていて、白い服を着たことがないの。だから、思いきって白い服を買おうと思って。でも、一人で行くのは気が引けたから、君に助けを借りようと思ったの」

「でも、なんで僕なんですか?」

「えっと、笑わないで聞いてくれる?」

チェルシーはもじもじしながら話しはじめた。

「私、実はつむじ風サークルって団体に入ってるの。つむじ風って、地表の温度が高くなってそこで発生する上昇気流と、水平方向に吹く風がぶつかってできるんだけど、それって、人と人との化学反応にも当てはまると思うの。それで、Twitterで風を名乗るあなたに声をかけた。私と一緒に、つむじ風を作ってほしかったから」

結局チェルシーはラフォーレのどこかのお店で白いワンピースを一着買い、原宿駅で僕と別れた。

なんだかとても不思議な一日だった。
後でつむじ風サークルについて調べようとしても何も出なかったし、チェルシーのアカウントも消えていた。
まるでそれが空想であったかのように、日々は退屈なものに戻っていった。

でも、あの時熱くなった手の感覚は今でも思い出せる。色は付けられないけど、僕にだけわかるつむじ風色の感覚が。

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