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東日本大震災記録コミュの178.東日本大震災からの経済的復興に向けて 常識を超えた常識を創造し、活用せよ 神戸大学大学院経営学研究科教授 加登 豊

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 いまから16年前、1995年1月17日未明に起こった阪神・淡路大震災は兵庫県から6402名の尊い命を奪った。その中には44名の神戸大学学生も含まれている。私自身も友人や知人を失った。自宅は半壊し、両親は約1年の疎開を経験した。しかし、東日本大震災(東北・関東大震災)は、その阪神・淡路大地震をはるかに上回る被害をもたらした。

経済復興のキーワード

 災害復旧、被災者の探索、医療救護、救援物資および住宅の確保、エネルギーの確保、原子力発電所問題の解決、被災者に対する経済的支援、被災者支援情報の提供、風評被害の防止等、直面している難題を次々と解決する必要がある。

 それに加えて、震災によって生じた、また生じつつある経済的被害への対応が必要である。大災害への対応を急がれている今、経済活動の支援は中長期的課題であるとみなされる傾向がある。もちろん、優先順位は災害復旧にある。しかし、中長期的課題を二の次にしてはならない。いま適切な意思決定を行い行動することが、中長期的課題の解決には不可欠なのである。

 ここでは、東日本大震災からの経済的復興に向けての指針を示したい。経済的復興のキーワードは「早期対応」「孤島発想からの脱却」「ネットワークの活用」である。

 平常時の常識は、緊急時には無力である。ただし、私たちの発想の大部分は平常時を前提にして行われる傾向があるので、誤った意思決定を行う可能性が高い。平常時に、大胆、唐突、思いつき、非常識、実行不能などと一刀両断されてしまうような方策の中に、正しいものが含まれている可能性が高い。

 孤島発想を捨てれば、ネットワークを活用するアイデアが自然に生まれてくる。このようなアイデアの中に、正しい行動のヒントが潜んでいる。本論に入る前に、まず、企業ダメージの現状を把握しておこう。

2011年3月28日 ダイヤモンドオンライン
http://diamond.jp/articles/-/11634

企業ダメージの現状

 今回の大震災で企業が受けたダメージの詳細は報道されていない。しかし、モノづくりの仕組みを知っていれば、予想をはるかに越える経済的ダメージがあることがわかる。経済的復興は、気の遠くなるほどの長い道の先にある。

 工場設備の損傷、部品や部材・原材料の調達困難性、不安定なエネルギー供給、モノづくりエキスパートの死亡/行方不明、物流の寸断によるロジスティックスの崩壊などが重なると、モノづくりを行うことすらできなくなる。工場設備の損傷状況を確認し、正常稼働できる状態に復帰するには時間がかかる。

 製造設備が機能する状態であっても、部品や部材・原材料が一つでも欠ければモノづくりはできない。物流が寸断されると燃料の円滑な調達はできないし、計画停電が実施され、2次災害防止のためのガス供給制限によってエネルギー供給が不安定なので、長時間にわたる連続生産は不可能になる。また、製造現場のすべてを知るモノづくりエキスパートなしでは、円滑な製造や品質の安定を確保することはできない。

 平穏時に策定された危機管理マニュアルでは、対処できない災害がわたしたちを襲った。このようなときの決定の良否が、復興の成果やスピードを決定する。まずは、中長期的な視点から、現時点で日本企業がとるべき行動を説明する。

企業が取るべき方策

1.横並び発想の活用

 平常時に日本企業の暗黙の行動基準である「横並び発想」を、危機に直面しているいまこそ採用すべきである。平常時の横並び発想は、範とする企業(多くの場合は、業界トップ企業)と同様に考え、同様に行動するというものである。

http://diamond.jp/articles/-/11634?page=2

 しかし、危機に直面しているいま、各企業は、自社(および取引先と関連企業)だけでの問題解決に東奔西走している。同業他社の動向に関する情報収集は不十分だし、情報共有が図られているとは思えない。各社は、自社の早期の生産再開にむけて懸命に努力している段階にとどまっている。

 このようなときに、いつもの横並び発想がなぜいま採用されないのだろう。単なる横並びの域を越えて、業界全体としての情報共有・連携をはかり、自社他社の区別なく、製造設備、部品、部材・原材料、人的資源の企業の枠を越えた融通を行い、産業復興に取り組む必要があるだろう。

「社外秘情報は公開できない」「自社工場を競争企業には見せられない」「他社のために社員を助っ人にだすことはできない」。これらは、いずれも平常時の発想である。産業復興が第一義であるいま、平常時発想は時限付きで捨て去らなければならない。

 このことは、自社およびグループ企業で閉じた「孤島」発想を捨て、より広域(業界や経済団体)のネットワークの活用、ないし、新しいネットワークの構築をはかることを意味する。

2.JIT生産を堅持する

 一部マスコミ報道に、「売れるものを、売れるときに、売れる量だけつくる」JIT(ジャスト・イン・タイム)生産システムに代表される日本的モノづくりが問題である、というものがある。このようなあまりにも初歩的な誤った記述が社会不安を増幅する。

 多種多様な部品、部材・原材料が複数企業の連携によって準備され、最終製品となるモノづくりは世界中どこでもごく一般的に行われているので、今回のような大災害が起これば生産が停止するのは当然である。検討すべきは、部品、部材・原材料を地理的にも分散した複数企業から調達する複社発注方式を徹底することである。

http://diamond.jp/articles/-/11634?page=3

 複社発注方式の考え方は非常に優れているが、製品の高度化や差別化が進んだ結果、製品づくりに必要な部品、部材・原材料が国内(場合によっては、世界中)で1社しかつくれない状況となっているものも少なくない。この企業が被災すれば、生産は停止を余儀なくされ、生産再開までに時間を要することになる。

 複社発注方式の徹底とともに、どこにでも手に入る部品や部材・原材料(つまり、汎用品)でモノづくりができるよう、今回の経験を糧にして、設計や調達も含めて製品開発のあり方を基本から見直した方がよい。モノづくりの専門家にしかわからない微妙な差別化や技術は、消費者にはわからない。モノづくりが唯我独尊に陥っていないかどうかをこの際、再吟味することも必要である。

3.値上げ、出し渋り、買い占めの防止(倫理的行動の遵守)

 被災地以外に立地する企業は、災害特需の恩恵を受けることがある。経済原理からすれば、需要が供給を大幅に上回る状況では価格上昇が生じる。

 しかし、日本経済全体が危機を迎えている今回のような非常時には、値上げや近い将来の価格上昇をにらんだ出し渋りは、非倫理的な行動であることを心すべきである。また、産業全体に影響を与えるような買い占めも行ってはならない(実は風評に影響された個人の買い占め行動が、問題を増幅させることも知っておいたほうがよい)。

 このような状況では、業界団体や経済団体がイニシアティブをとり、企業の非倫理的活動を管理監督する役割を果たすとよい。これらの団体は、親睦団体ではない。日本経済の健全な成長のために、個別企業では手に負えない問題の解決に向けて行動することが望まれる。

http://diamond.jp/articles/-/11634?page=4

4.最小限の経営活動は何かを考える

 阪神・淡路大震災の当日、倒壊した家屋、新幹線の落ちた橋げたの横をすり抜け、ガス漏れの臭いが立ちこめる道路を通って、通勤のため最寄りの駅に向かうネクタイを締めた数多くのビジネスマンを見かけた。

 家族、親族、友人等の安否確認に追われていた私には、この人の流れに違和感を覚えた。状況をみればするべきことは山積しているにもかかわらず、なにごともなかったように「仕事があるから会社に向かう」人が多数いたのである。計画停電の影響で運休になった路線から、運行中の電車に乗車するために長い列を作り首都圏に向かおうとする人々にも、同種の思いを持った。

 この大震災をきっかけとして、自社にとって必要不可欠な仕事は何か、どれだけの人員が必要なのかを検討するとよいだろう。そして、震災ボランティアが被災地に入る体制が整う前に、有給でボランティア休暇がとれる制度を設けるとよいだろう。ただ、会社の業務に必要不可欠な人々の多くが、ボランティア休暇の申請を行うという皮肉なことが生じるかもしれない。

5.雇用の確保

 このような困難な時期だからこそ、雇用の確保を通じて社会の安定をはかる責任が企業にある。すでに少なくない数の企業が、次年度の採用に関して、新卒者の採用選考スケジュールの延期を決定している。4年制大学の場合、事実上、3年生の10月から選考が始まる。この企業にとっても学生にとっても不幸なシステムが、今回の大震災で少しでも是正される動きは皮肉であるが望ましい。

 ただ、生産再開のめどすらたたない企業も少なくない。いま、対応策を講じなければ、すでに今年度に決定している次年度採用数を下方修正する企業が続出することになるだろう。予期できない自然災害だけでなく、社会情勢の変化、為替相場の変動、企業不祥事の発生などによって、企業業績が低迷を始めると、新規採用の抑制を含んだ人員整理を行うことは、いたしかたないことだという認識が企業にある。

http://diamond.jp/articles/-/11634?page=5

 人的資源はあらゆる経営資源の中でも、とりわけ重要であると考えられており、「経営は人で決まる」と主張するトップマネジメントが多いにもかかわらず、人的資源への投資をコントロールするのはなぜなのだろう。苦しいことはわかっている。ただ、これまでの上記のような行動が企業運営にいかに悪影響を残してきたかを忘れて、また再び誤った行動をとるのだろうか。

 現状では、雇用の維持を個別企業の負担のみで行うことは困難であろう。後述するように、国からの支援(補助金、雇用確保企業への税金軽減など)が必要ではあるが、制度ができてから行動するのでは遅きに失するだろう。

 まず行うべきことは、被災した企業こそが立案済みの雇用計画を100%実施すること、そして、現在の雇用を確保することを社会に公表し、粛々と実施に移すことである。社会に本当に貢献している企業はどこなのかを、被災者のみならずすべての国民が見守っていることを忘れてはならない。

6.マスコミへの要望

 マスコミ、とりわけテレビへの多種多様の批判を、どのようにテレビ局は評価しているのだろう。各局個別にできる最大限の努力は評価する。しかし、マスコミもまた「孤島発想」に縛られたままである。

 いま必要な情報は、被災者支援情報(物資、住環境、医療など)、現状把握、原子力発電所関連、世界の報道など多岐にわたっている。これら情報を限られた時間枠のなかにちりばめることをやめ、各局の連携により、「原子力発電所情報はこのチャンネル」「被災者支援情報のすべてはあのチャンネル」という分担放映はすぐにでも実施すべきである。

 コマーシャルの入稿も少ない現状では、テレビ局はその公共性をフルに発揮し(まさか、公共広告を流し続けることが公共性の発揮であるという勘違いはしていないとは思うが)、テレビというメディアの有効性をフルに発揮できる体制を構築するべきである。

http://diamond.jp/articles/-/11634?page=6

 被災者、そして、一般聴衆がいまなにを望んでいるかを知ることが基本である。視聴率という「代理変数」に頼ったビジネスモデルを再考するよい機会が与えられたと考える関係者は、存在するのだろうか。

 経済的復興に向けた個別企業の活動には、頭が下がる思いである。しかし、企業それぞれの努力だけでは克服できない難問に直面していることが、どれほど認識されているのだろうか。現存するネットワークをすべて活用しても解けない問題がある。

 それなら、やるべきことは、より広域ネットワークである競争企業との連携(競争企業との連携という平常時の非常識が、緊急時には常識とならなければならない)、業界団体や経済団体という単位で活動を行い、日本産業の1日も早い復興に向けてのアクションが必要である。そして、次に述べるように、個別企業や業界団体・経済団体での対応に限界がある事項、特に経済的支援は、政府主導で行われなくてはならない。

政府がとるべき方策

 なによりも現時点で必要なことは、正確な情報の適時開示である。そして、復興に対して強いリーダーシップを発揮し、被災者のみならず国民に安心感を与えることである。

1.社会の安定化に対する対策

 社会安定は経済活動の基盤である。みんな日本では暴動も略奪も起こらないと信じている。しかし、社会的安定が蝕まれ生活必需品の安定供給に翳りが生じると、何が起こるかはわからない。すこしずつ臨界点に近づいているという認識のもとに、適切な施策を実施することが必要である。

 企業活動に必要な物資、電力、ガス、化石燃料等に限らず、わが国産業で生産設備が稼働できる状況になったときに、必要とされるあらゆる物資については、個別企業が自助努力で対応すべき部分と、国家レベルで対応すべきものの識別を行った上で、後者については強いイニシアティブを発揮しなければならない。

http://diamond.jp/articles/-/11634?page=7

 エネルギー供給は私企業が担っているという理由で国家が関与しないというのは、平常時の常識でしかない。期限を限って、わが国企業の生産活動が円滑かつ迅速に立ち上がることへの支援が必要である。

2.震災復興資金の確保

 個人のみならず企業の震災からの経済的復興には、莫大な資金が必要となる。災害の規模や広がりをみるまでもなく、神戸・淡路大震災の時とは比較にならないほどの金額が必要となる。

 期限限定付きの震災復興消費税の導入や国債発行等が検討されているようであるが、いかにも「孤島発想」である。ただでさえ財源不足が憂慮されている上に、震災復興資金を国内で調達することに発想が限定されるようであれば、さらに将来に借金を積み増すことになり、財政破綻(国家倒産)のリスクは高まってしまう。日本国債の海外保有率は10%をはるかに下回っている。

 世界各国は、GDP世界第3位の日本経済の動向に注目するとともに、その健全な運営が世界経済の安定には不可欠であることを熟知している。それならば、震災復興に必要な資金を世界から支援をしてもらう方策を真剣に検討すべきだろう。

 米国財務省証券保有額は、円高の現在でも50兆円を越えている。これに見合った返済期限を設けない(あるいは超長期の)超低利の国債を世界各国に引き受けてもらう依頼を行うとか、無償あるいは低利のODA(政府開発援助)を一時減額し、減額見合い分を災害復旧に当てるとか、平常時には実施が極めて困難な施策を真剣に検討してもよい。

 金融の専門家からは、素人アイデアと一蹴されるだろう。しかし、「お金がない。だから、できるだけ返済に関して負担感のないお金を借りたい(あるいは、無償供与してほしい)」というのは、きわめて自然な発想ではないだろうか。

 また、為替市場や株式市場に流入する投機マネーの投資額に対して、一定の災害復興義援率を設定し、「投機家の善行」を促すことも悪くないアイデアだと思われる。

http://diamond.jp/articles/-/11634?page=8

 このような施策が獲得した資金は、震災復興のため、そして、企業活動への支援に活用する。とりわけ、雇用確保支援は短期的には成果にむすびつかないかもしれないが、中長期的にみてわが国の経済力を維持向上させるためには、ぜひとも必要である。

 これらはアイデアの一部にすぎない。日本の英知を集積し、数多くのアイデアを集め、それを集約し適切な施策にとりまとめ、すばやく実施に移す。復興のためには、平常時の常識にとらわれない斬新な施策パッケージ作成・提示して、社会的不安感を払拭するとともに、迅速な実施へとつなげる必要がある。

グローバル社会の反応から
わが国の現状を知る

 世界は、この大震災からの日本の復興力を見ている。個人、企業、国家のレベルでの対応だけでは足りないことも、十分に承知しているだろう。したがって、日本の存在が世界経済全体のために不可欠であるという判断がくだされれば、私たちの予想をはるかに上回る支援の手が差し伸べられることになるだろう。

 万が一、支援が十分に行われないということになれば、それは現在GDP世界第3位の日本が将来のグローバル経済ネットワークにおいてそれほど重視されていないことを示している。つまり、Japan Passingが私たちの理解以上に進んでいることが確認できる。

 世界のわが国に対する震災支援のありようが、日本の国際社会における評価であるといってよい。評価を恐れてはいけない。日本政府は、躊躇なくあらゆる国際支援の呼びかけを行ってほしい。

 なお、神戸・淡路大震災で被災した神戸大学大学院経営学研究科の教員は、それぞれの専門の立場から『ビジネスインサイト』第10巻(1995年夏)を「復興のダイナミズム―震災・人間・組織・インフラ―」という特集号として発行した(発行元:現代経営学研究会(現:NPO法人現代経営学研究所)。また、被災地にある神戸大学の震災関連の諸活動についての報告等は、神戸大学のホームページを参照してほしい。

http://diamond.jp/articles/-/11634?page=9

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