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東日本大震災記録コミュの173.柏崎原発、褒めるべき点・反省すべき点

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2007年8月1日 経営コンサルタント 大前 研一氏

 今年(2007年)7月16日、新潟、長野で震度6強の地震が起こった。新潟県中越沖地震である。被災家屋は8000棟を超え、まだまだ復旧には時間がかかる見通しだ。

 このニュースを注意深く見ている人なら、一つ気づくことがあると思う。「マグニチュード6.8だって? 被害の割に大型の地震ではないな」と。そう、マグニチュードだけに注目すると、この地震は日本にあっては飛びぬけて大きなものとは言えない。今回の地震の特徴は、その規模の割に被害が甚大だった点にある。

 地震の発生場所に大きな活断層があった。活断層とは、いってみれば常に地震を起こすためのエネルギーが貯えられている場所である。しかも「悪いことに」と言うべきか、その活断層の上には柏崎刈羽原子力発電所があった。同発電所もまた想定外の被害を被ったために、「使用済み燃料のプールの水が外に流れ出た、大気中に放射能が漏れた」などと、テレビや新聞のニュースで取り上げられている。わたしが見るに、あたかも原子力発電所で臨界事故が起こったかのような、危険なとらえ方をされているように感じる。

 確かに弱い放射能が外に漏れた。それは事実である。6号機では使用済み燃料プールの水が溢れ、海に流れ出た。7号機からは空気中に放射性物質が漏れた。また、地震のための故障、破損箇所が60カ所、見つかっている。しかし、だからといって、今回の事故があたかも大惨事寸前のものであったかのような報道は、本質を伝えず誤解を招くだけだ。

 わたしは原子力工学で博士号を取り、その後数年間ではあるが原子炉の設計でメシを食っていた人間である。今回の事故は専門家の立場から見ると地震に対する基本動作としては「見事、想定通り」と褒めていいほどの部類に入る。

 一方、想定外の規模の地震が起こったという貴重な経験から、従来の設計思想に欠けていた今後対処しなくてはいけない貴重な教訓も得られた。いたずらに大騒ぎするのではなく、想定外の地震に見舞われた時に、想定通り機能したことは何で、想定してなかったようなトラブルは何であったのか、またその原因は何であったのか、そうした分析を行い、それを周辺住民だけではなく、全世界の関係者と共有しなくてはならない。世界中の原子力関係者が今回の貴重な経験をもとに原子炉の安全性を一層高める努力をすることがいま求められている。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/91/index.html

原子力発電所の地震対策を世界中に示した

 まず原子力発電所(以下、原発)がどういうものかを解説しておきたい。

 柏崎刈羽原子力発電所は、全部で7基の原子炉があり、同じ敷地内の二つの場所に分かれて設置されている。一つの場所にある原発としては世界最大だ。しかも桁違いに規模が大きい。世界最大の東京電力の原子力依存度は40%くらいと思われるが、その約半分がここから供給されている。

 この設置場所は、事前調査では活断層については大丈夫とされていたのだが、なんと今回の地震で活断層が真下にあるということが分かったのである。しかし本当は、活断層の上に原発があるからといっても心配する必要はないのだ。原発は、建築するときに地中の岩盤まで掘って固定する。だから活断層があったとしても、岩盤そのものが割れたりしない限り炉心部分は影響を受けないように作られている。そして岩盤が割れるということは、通常は考えにくい。

 巨大な地震が来ても心配はないのか、想定外の大地震に対処できるのか、多くの人は不安を感じていることだろう。しかし本当に心配すべきは、むしろプラント建設工事に手抜きはなかったか、設計に抜かりはなかったか、ということだ。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/91/index1.html

地震対策に2重3重の防波堤

 原発で一番恐ろしいのは、炉心の臨界状態が止まらないことである。だから地震が来たときの対処は、「原子炉を緊急停止させる(これをスクランブルと言う)」、この1点だ。

 原発は、当然ながら地震を想定して設計・建設している。だいたいの原発は、200ガル(ガルは加速度の単位で、1ガルは1秒間に秒速1センチの加速)あたりを上限に想定されている。そして水平方向に120ガル、垂直方法に100ガルというレベルの加速度を持つ地震が来たら、原子炉が自動的に停止する設計になっている。そのために付いているのが制御棒だ。原子炉の中の制御棒が挿入されて、停止する仕組みだ。これが最初の地震対策である。

 柏崎刈羽原子力発電所で使われているBWR(沸騰水型)というシステムでは、原子炉の上は沸騰した熱湯・蒸気がわき上がっているので制御棒は下から挿入する構造になっている。PWR(加圧水型)は圧力が加わっており高熱ではあるが液体水なので制御棒は上から挿入する仕掛けになっている。重力に逆らわないのでいざというときには落とすだけで制御棒は自然落下で挿入される。もっとも下から挿入するBWRは、地震のときには燃料集合体を支える炉心の支持板から入るので、かりに燃料の上の方が大きく揺れていても差し込むのには都合がいい。今回も想定外の加速度の中で4基とも問題なく入った。

 こうした話を始めると、読者の皆さんはいろいろな言葉に迷いを覚えるに違いない。原子力関係者は一般の人々と共通言語を持たないために、詳しく説明することを避けて、「安全ですから心配ありません」ということを言いたがる。一方、住民説明会などで出てくる質問は「絶対に安全か?」というものである。すべての動くものに絶対安全などということはない。自動車でも自転車でも想定外の状況に陥れば危険極まりない。要するに想定される危機に関して十分な対策がとられているのか、想定外のトラブルに対して十分なバックアップが施されているのか、ということである。

 そこで、くどいようだが原子炉の設計に独特の思想を説明しておきたい。原子炉において想定外の状況が起こったときに重要なことは、第一に臨界状態で核反応を続けている炉心を安全に停止させることである。今回は設定した地震波を検知した段階で稼働していた4基の原子炉のすべてに制御棒が挿入されスクラム(緊急停止)している。この基本動作が正常に行われたので、すべての原子炉は制御された。後の調査で、実際の地震波はスクラム設定の値(横波120ガル、縦波100ガル)をはるかに超えるもの(600ガル、所によっては1000ガル)であったことが判明している。

 こうした激しい揺れがある場合、“昆布の林”のような縦に長い燃料集合体が林立している炉心に制御棒が入らない場合が想定される。揺れで大きく湾曲していたり、変形していたりすることが想定されるからである。その場合を想定して、制御棒が入らなかったら実際の原子炉(柏崎の沸騰水型原子炉のような場合)ではほう酸水がプランジャーポンプで注入される仕掛けになっている(下図左上にあるタンク)。冷却水にほう酸という強い中性子の吸収剤を混入させれば、炉心が変形していても原子炉を停止させることができるからである。

 ではなぜ最初からより確実なほう酸を注入しないのかと言えば、それはその後、冷却水からほう酸を除去するために相当な時間をかけて洗浄しなくてはいけないなど作業が複雑になるからである。誤って停止した場合など再起動に多くの時間がかかるのは避けなければならない。そこで普通は被覆管に覆われた炭化ホウ素かハフニウムの制御棒を入れて停止する、という仕組みである。炭化ホウ素やハフニウムはほう酸と同じく核分裂を増殖させる中性子を吸収する性質(これをポイズンすなわち“毒”と呼んでいる)がある。これで“臨界状態”を下火にし、安全に停止させることができる。今回は最初の大きな地震波を検知した状態でいずれの原子炉もすぐに通常の制御棒だけで停止させている。つまり想定外の強い地震波が来ても、通常の制御棒によるスクラムが機能した、ということである。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/91/index2.html

6段階の炉心制御、今回は第2段階にとどまる

 今回の想定外の大地震では、最初の防波堤である制御棒の対処で、ちゃんと原子炉は止まった。加速度は600ガル、3号機の上部では2058ガルにもなった、と報道されたので、実際に設計されていた当時想定していた上限の200ガルよりもはるかに強い地震だったことは間違いない。わたしは、「これだけ大きな地震だから、もしかしたら制御棒だけでは止まらず、状況によっては炉心変形、配管のギロチン破断の可能性もあるのではないか」と注目していた。

 ところが、わたしの心配をよそに、制御棒だけで原子炉は止まった。想定の何倍もの大地震であるにもかかわらずだ。これは、設計どおり、仕様どおりのことであり、原子炉にとって未曾有の地震であっても無事原発の事故は未然に防ぐことができたわけだ。科学者として見たら、これはとてもうれしいことであり、“最高”と言いたい。発電所の敷地内では、最大1.6mもの段差ができたり、変圧器のパイプが外れて油が流れて火災を引き起こしたりしたが、肝心の原子炉の中は正常に機能した、ということになる。

 原子炉は一体どういう安全設計・思想になっているのか。その設計段階における考え方、思想をより広く一般の人に理解してもらうよう原子力関係者はもっと努力しなくてはいけない。なぜなら、恐らくほとんどの人は何回聞いても「分からない」という反応を示すだろうから。そして、その最大の理由が、設計思想が普通の構造物とは全く異なっており、(ホリエモンではないが)想定、とか想定外、ということを前面に押し出しているからである。想定外のことが起こっても、原子炉は安全でなければならない。つまり、想定できない最悪の事態に対しても原子炉は付近住民に危害を与えないような、とんでもない高価な、場合によっては(安心のための)無駄な、仕掛けが埋め込まれているのである。

 そこで原子炉の最大のリスクである炉心の制御に関して、もう一度段階を追って説明したい。

定期点検や燃料棒の交換などのためにオペレーターが制御棒を挿入して停止する
地震や火災、水害、オペレーターの失神、など想定されるトラブルに対しては自動的に制御棒が挿入されスクラム(緊急停止)される
その際、制御棒が何らかの原因で挿入できない場合には、ほう酸水を冷却水に緊急注入しスクラムする
冷却水を循環する大口径のパイプなどが破断して炉心が冷却できなくなった場合などには緊急冷却装置が作動して炉心を冷却する
すべてがうまく行かないで炉心溶融などの非常事態に至った場合には放射性のガスが大量に放出されるが、想定されるすべての場合にも圧力容器、格納容器の中に閉じこめられ、外部へ放射能の遺漏を防ぐ
何らかの理由で格納容器が破壊され、外部に放射能を含むガスや物質が洩れる、飛び散る、などの恐れがある場合には周辺住民に緊急避難命令が出される
 今回一部週刊誌などでは上記で言えば6.の“(大事故)一歩手前”などと書き立て国民の不安心理をあおり立てているが、実際には2.の状況ですべて想定通りに停止している。またその後も緊急ディーゼル発電機がこれまた想定通りに起動して炉心停止後の崩壊熱の除去も今のところ正常に行われている。つまり、原子炉の設計時に考えられた最も基本的な思想が正しかったことが証明され、巨大地震であっても原子炉は制御可能である、という貴重な経験が得られた。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/91/index3.html

貴重な経験を基に大いに議論すべき

 原子炉の場合には設計時には関東大震災などの今まで起こった最大規模の地震波を入力して、それでも安全なように設計されている。また実際にモックアップ(小型模型)を作って振動台の上に乗せ、いろいろな地震の波形、強度、などを繰り返し実験して安全性を確認している。しかし、何と言っても、本当の地震で試されているわけではない。試したいと思っても、そういう機会は今まで世界のどこでも巡ってきたことがないからだ。

 原子力発電所の設置に当たっては地震の起こりにくい所を選んでいるので、なかなか実際に巨大地震に巡り合うことがないからである。今回は不幸にして事前調査で調べらきれなかった古い活断層が世界最大の原子炉クラスター(総計800万キロワット以上を発電する7基の原子炉が一カ所にある)柏崎・刈羽地区の真下にあり、しかも想定を超える巨大地震が実際に襲ってきた、ということである。つまり、今まで机上や振動台実験では取れなかった実際のデーターが豊富に取れたという点において、これはまことに貴重な経験である。

 また今までに判明したことから言えば、日本の原子炉はこうした経験からも相当安全性が高いことが検証されてたと言っていい。これをIAEAに隠したり、あるいは住民に間違った説明をしたりしたのでは、人類の損失である。下記に述べる反省点も含めて今後のために何をどう変えていったらいいのか、識者を交えて大いに議論してもらいたい。

 世界中の原子力発電関連の人々はおそらくそうした日本のイニシアティブを歓迎するだろうし、少なくとも日本の原子炉を危険だとか、大きな不備がある、という解釈はしないだろう。「災い転じて福となす」最善の方法はトラブルの原因を分析して、改善策をしっかり打ち出していくことであろう。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/91/index4.html

原子炉の外では課題も残った

 だがわたしの話のなかで大いに褒めていいのは原子炉の中の話だ。原子炉の外では、大きな問題があることが判明した。設計者としての反省点も見付かった。また、今後緊急に取り組まなくてはいけない改善点が見えてきた。

 改善点は大きくわけて三つある:

プラントとしての耐震設計が抜け落ちていた
個々の機器の吟味が足りなかった
情報発信が国内選挙対策向け・地元向け中心で、世界に対する配慮が欠けていた
 まず第一の点であるが、炉心の耐震設計と、その配慮の細かさに比べて、原子力発電所全体、あるいはプラントとして一貫した地震対策がなされていなかったことが判明した。その最大の問題は“7基の原子炉が全部停止した”ことであろう。地震発生時は、もともと3基は定期点検などで止まっていて、稼働していたのは4基である。その4基が、地震の揺れを感じて一斉に停止したのだ。この柏崎の原発では、7基の原子炉のうちどれかが動いていることを前提とした作りになっている。どれかが動いていたら、そこから電気を送ってもらい、炉心停止後にも発生し続ける原子燃料の崩壊熱を除去する。また、この電気は停止後も何年にもわたって発生する崩壊熱を冷やすことに用いられる。原子炉を止めても放射線を大量に出す物質が作られてしまっているので実はこの熱の除去をずっと行わなくてはいけない。

 もちろん個々の原子炉にはディーゼルの緊急発電装置が付いており、今回も一斉にこれが立ち上がった。しかし、ディーゼルに対する信頼性はイマイチである。またそれほど長い時間動くようにも設計されていない。全部が止まってしまったら、冷却水を回す電気をよそから持ってこないといけない。しかし、地盤が1.6メートルも陥没するような事態になれば、送電線が切れたり、鉄塔が倒れたりすることも想定しなくてはならない。だから外部電源が取れない状況で、内部に安全度の高い小型の火力発電所のようなものを併設する、あるいはもう少し本格的な自家発電装置を設ける、などを考慮しなくてはならないことが判明した。

 さらに今回は炉心の燃料集合体に損傷が無いかどうか調べるため、原子炉の圧力容器のふたを取り外そうとしたら、6号機の天井のクレーンを動かすモーターの車輪とモーターの結合部分が破断していることが判明した。

 この写真を見てみると破断面がさびていたように見える。詳細は電子顕微鏡で調べる必要があるが、もしこれがさびで、しかもこのように深い部分でさびが発生していたなら、これは材料選択の誤りか、製造工程の問題であった可能性が高い。鉄のような金属の場合には大きな圧力が加わった場合こうした亀裂から一気に破断が伝播する脆性(ぜいせい)破壊をおこす。ステンレスのような材質が使われているとさびにくいし、面心立方構造のステンレスであれば比較的破断には強い。

 このような部分をステンレスにすることは稀であるが、修理しにくい天井クレーンのようなところがさびる、というのは当然想定外であったろう。だから、今後は一定期間を経たら交換するなど、新たな指針が必要になる。なぜならBWRの場合、ふたを取り外さない限り、観察用のカメラを入れて燃料を点検することもできないし、ましてや破損した燃料集合体を冷却プールに移動することもできない。つまり、クレーンは炉心と同じ安全基準を満たしていないとどうにもならないということが明らかになった。

 炉心の耐震設計は完璧でも、格納容器内にあるすべての機器やシステムが同じ耐震基準を満たしていなければ、次の段階に進めないということが分かった。今回は4基のうちの3基はクレーンの損傷を免れているが、一つが損傷したためにこうした問題が浮かび上がってきた。これまた貴重な経験である。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/91/index5.html

放射能漏れに二つの問題点

 同じようなプラントシステムの問題として、放射能が漏れたことが挙げられる。

 原発では、燃料集合体を原料として用いるが、使用済み燃料は相当長期間にわたって発熱するためにこれをすぐにどこかへ持っていくわけにはいかない。通常は一定期間炉心上の外に出してプール内で冷却し、その後は格納容器の外側に出してさらに長期間にわたって冷却する。また最近いくつかの地方自治体にさらに長期の保存を依頼して50年単位でそのまま保存しておこう、という考え方である。もし燃料が必要なら、途中でこれを引き出して、核分裂で生成された元素と、燃料として再使用するウランやプルトニウムを分離する作業に入る。炉心から取り出した燃料はまだかなり発熱するので当分の間は水のつまった冷却タンクに入れている。タンクは微温湯くらいの熱を持つので発生する蒸気を逃すためのスリットが開けられている。

 今回はタンクの水が地震の起こした波でバシャバシャと揺れ、その一部がスリットから溢れ出た映像が公開されている。それが下に落ちてきて原子炉内部の床が水浸しとなり、その一部が排水管を通じて海などの外部に流れ出たのではないかと思われる。この水が放射能を帯びていた、ということでこれは想定外である。水がタンクから溢れ出る、ということももちろん想定外である。

 これには二つ問題がある。一つは(当たり前の話だが)そもそも水はこぼれてはいけないということだ。今後はさらに大きな揺れを想定して、使用済み燃料貯蔵タンクの壁に邪魔板(トイをさかさまのにしたようなもの)を付けるなどして万が一の場合にもダンパーのようなもので水を戻すなどの措置が必要となる。さらにはスリットではなく密閉し、蒸気を逃す管だけにする、なども考えられる。つまり、これに対しては、対策が比較的取りやすい、ということだ。

 一方、もう一つの問題は、本来であれば貯蔵タンクの水は放射能を持ってはいけないということだ。わたしが察するに、恐らく燃料棒の中に割れたものもあったのだろう、そこから放射性のガスが発生して、漏れてしまったのかもしれない。「ヨウ素が検出されている」という報道もあるので、核分裂で生成したガスが漏れて出た可能性がある。通常は燃料集合体に長年の間には水あかなどが着き、それが核分裂で放射能を帯びる、ということも考えられる。現場のオペレーターに聞かないと分からないが、いずれにしても、この問題の方が水漏れよりはやっかいだと思われる。原因を分析し上記二つのケースのいずれなのかを特定すれば対策はおのずと出てくる。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/91/index6.html

問題が一気に吹き出した機器や配管

 第二の問題は個々の機器や配管などの問題である。これは写真で見る限り大きな問題を残した。格納容器の外側の建家や機器は耐震性に関しては炉心に比べかなり緩い基準となっているものが多い。今回の例で言えば変圧器の火災事故である。これは配管がずれて中につまっている油が外にでてきて引火したのではないかと言われている。つまり、変圧器などの付帯設備やその土台なども相当強固に作り、十分な耐震性を備えていないといけない。

 またその後の消火作業も手間取った。化学消防車なども不備であった。今回の不具合は全部足して60くらいあったと報告されているが、それらのほとんどが機器や配管の問題である。炉心と同じくらいのきめ細かい耐震設計を施さなくてはいけない。

 おそらく世界中で遭遇したことの無いくらいの強烈な2000ガルを超える加速度で揺さぶられたので、こうした問題が一気に吹き出した。地盤も大きくずれている。今となっては一つずつ事故・トラブル調査をして十分な対策を施すことを考えなくてはならない。いたずらに早く復旧しよう、と焦る必要はない。

 電力は今年の夏のピークには大幅に不足するだろう。通常真夏の甲子園の最終戦のころが電力需要のピークである。今年は甲子園を見る人は窓を開けて冷房を消してもらわなくてはならないだろう。銀座のネオンも夜の十時には消す、ということも必要かも知れない。寝苦しい夏の夜でも、クールビズ(28度)でがまんしてもらう、など国民の広い協力が必要となる。

 東京電力も他の電力会社から電気を譲ってもらうということだが、他のところもそれほど余裕があるとも思えない。さらに柏崎の教訓を生かそうと、原発を補修・強化しなくてはならない所もでてくるだろう。この作業は数カ月というよりは数年、と考えた方がよい。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/91/index7.html

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針小棒大の風評被害

 第三の問題は風評被害である。今回のニュースは衝撃的な形で世界を駆け巡った。その理由の一つは甘利明経済産業大臣が東電の勝俣恒久社長を呼びつけて、報告が遅い、と事故当日に怒ったことである。いくら選挙前といっても、これは不用意なパフォーマンスである。

 通常こうした激甚事故の場合に、まず監督官庁が言うべきことは、「十分に調査をし、緊急に対処すべき事柄、あるいは今後改善すべきことが明らかになれば、それを直ちに報告せよ」ということだろう。実際、当の東電とて、それ以外にしようがない。原子炉の設置に関しては何重もの安全審査を受けているわけで、想定外の地震が来ていろいろ不具合が見つかっても、それは電力会社だけの問題ではない。監督当局が記者を呼んで、報告遅れ(2時間)を怒っている場合ではないはずだ。むしろ大変な事態だから、一緒に原因究明して、善後策、抜本策が必要なら全力で取り組もうと言うのが筋である。

 今回は最も恐れていた炉心、およびタービンが今まで判明した限りでは無傷であった。原子力発電所の膨大な施設の中にはかなりの問題も出たが、それらはこれから順次取り組めばいい。

 問題は、大臣が社長を呼びつけて怒ったことで、よほど(隠匿などの)悪いことをしたのではないかという印象を与えたことである。海外、少なくとも先進国ではこのような官尊民卑の映像は想像できない。果たして、イタリアのセリエAのチームは放射能漏れの恐れのある国に行きたくない、と来日予定をキャンセルした。またロシアのテレビ局では日本海の対岸ウラジオストックあたりが放射線で汚染されないか、ガイガーカウンターによるモニターを開始した、と伝えている。針小棒大もいいところだが、これが情報というものの恐ろしさである。

 海外のメディアの中にはチェルノブイリや米国のスリーマイル島の事故並みの損害と伝えているものもある。上述した原子炉事故の段階を使えば、チェルノブイリは第6段階、スリーマイル島では第5段階である。

 日本政府が第2段階で終わった今回の事故に対して「基本動作はすべてうまく行った。想定をはるかに超える地震に見舞われたが、設計通り炉心は停止し、タービンは飛び散ることもなく無事であった。2000ガルという想像を超える揺れの影響で損傷した機器、配管が出てきた。これらの修理、善後策に取り組む。原子炉の安全をいっそう高めるために事故の調査にはIAEAのメンバーも加わって全力で取り組む。そこから得られた教訓は世界の原子力関係者に伝える」と発表するのが筋である。今ごろになって、甘利経済産業大臣が「風評被害がでている。人体には全く影響がないので旅行をキャンセルしたり、海産物などの買い控えはやめて欲しい」と述べている。鏡の前で自分に向かって言ってもらいたいせりふである。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/91/index8.html

賢者としての態度を

 この地震で故障個所が60も見つかったという。ところがこれは実は極めて少ない数だ。スウェーデン企業の所有するドイツの原発などは環境グループの要求もあって最近綿密に調べてみたら、(地震に襲われたわけでもないのに)800くらいの不具合が見つかった。それに比べたら、大地震の後に60個なんて少ないのではないか、とわたしは思っている。我々が普段運転している自動車だって、車検に出せば問題点はいくつも見付かるだろう。機械とはそういうものだ。

 そうは言っても今回の地震はすべての原子炉設計者の想定をはるかに超えるすさまじいものだった。これからまだまだ調査をしていくうちに新たな発見が出てくるだろう。特に炉心の燃料集合体を引き上げてみたときに、今回の事故がどのくらい深刻なのか、「真実の瞬間」があるかもしれないとわたしは思っている。

 事故は起こってしまった。賢者はそれから次の事故を防ぐ方法を考える。愚者は怒ったり、泣いたり、感情的になって、現実を見ようとも、教訓を学ぼうともしない。次の被害がどのくらい差し迫っているかいたずらに騒ぎ立てる。石油に代わる代替エネルギーは日本にとって原子力以外にない。代案は電力使用量を半減することだけである。そしていよいよ最悪の事態に至る。

 国民が今の電気の利便性を維持したいと思うなら今回の地震で判明した問題点は「すべて次に活かしていきたい」と考えべきであろう。そして、それこそが賢者の真に建設的な態度である、とわたしは思う。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/91/index9.html

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