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むしむしと湿気の酷い夜。
家でクーラーでもかけて寝てれば良い時間である……がしかし俺は、不幸にも緩やかな下り坂を自転車で流していた。
着ているTシャツは汗でジットリと濡れている。
そして、自転車の巡航速度で生まれる風がそこを局所的にを冷やしていく。それは心地いいような、気持ち悪いような……なんともいえない感覚は、これはこれで立派な夏の風物詩でもある。こんな経験は近代的な快適性とかけ離れた行動をとっているからこそ体験できるのであって、こういうのも悪くはない。むしろ日本の夏に染まっている感触を得て、幸せの部類に入るのだ。
などと、ごもっともに思えなくもない言い訳を自分にしている間にも自転車は下り坂を走破し、更に夏へと近づけるべく上り坂へとチェンジ。無慈悲な交通事情にため息をつきたくなるところではあるが、こういうのは気合が大切だ。
ペダルを強く踏み込むべく、身を起こして立ち漕ぎ体勢へとうつる。
坂に入って自然と重くなるペダル。
ギアチェンジなどというものは、母のママチャリにはついていないために人力頼みでえいさっこらさっと自転車はきしみながら登って行く。

コメント(4)

……と、
「おそかったじゃない」
肩に声がかかり、自転車の荷台に加重を感じた。
当然のように更に重くなるペダル。なんとかそれを踏みしめて、よろけそうになる自転車をなんとか立て直した。
「緊急招集なんだから仕方がないだろ。風呂あがりにゆっくりしたいところをこうして来てるんだから、足もよこさずその言い草はないだろ」
ふりかえる気もなく声を返す。弛んでるわねと勝手に納得した独り言が虫の音に混じっただけで、特に会話にならなかったが……まあいつものことだ、気にしない。
気にはしないのだが……、
「煮星(にぼし)。また太っ……」
気にかかったことは、相手にとって気にしていることだったらしい。ずぶっと……鋭いものが背中に食い込むのを感じて、俺は出掛かっている結びの句をとめざるを得なかった。
せめてもの不満を訴えるべく、後ろをじっとりした目でにらみつけてやる。視線の先には、すました顔でそっぽを向いている黒猫がいた。もちろんただの猫ではない。このごろ酒のつまみの味を覚え始めたおっさん臭い黒猫である。こいつが妖怪であることなどどうでもいい。俺は嫁ぎ先のいないであろうことに同情してみせるぐらいでしか、怒りの矛先を収める方法が思いつかなかった。
長く厳しい坂を越えて、駅前のバスロータリーに出るとやっと一息つける。
自転車を人目のない場所に鍵をかけて隠すと、いつの間にか降りていた黒猫がこちらに来いと促していた。どうやら一息つく暇も与えてくれないらしい。そんな狭量と運動不足で太るのだというつっこみは、汗と一緒に拭い去って後をついていく。駅へと続く階段をのぼっていって、見上げればいつもの景色が広がっていた。
一本の強大な杉の木。
かつては交通の道しるべとして使われていたとされる一本杉は、樹齢千年行くとか行かないとか。
先の戦争でも焼き落ちることのなかったこの木は、今もこの街のシンボルとして我々を見下ろし、そして惹き付ける。
その対象は、人ばかりではない。
「深度……1」
つぶやき、息を吐き、吸って……止める。
霧散するかのように広がっていく右手の存在感。これこそが「構成家」の能力発動を示す感触である。
腕の感覚を腕周りの大気に張りめぐらせていく。それは神経と言う根っこを伸ばし、空に蜘蛛の巣でもかけているようなものだ。
こうして世界の存在を掌握し、ひらいていた手の平を親指から握りこんでいく。
それにつられて起こったのは風。
握り締められた拳の数十センチ先の空気が圧縮されたことによっておこったものである。
「気づかれたか」
簡易登録機による魔法経路への介入。
どうやらすぐにバレたらしい。目標の反応は、人気のない公園から自分たちのいる商店街目掛けて一目散に向かってきている。
「レジ、準備はいいか?」
「準備だけなら十二分です。ただ、勝率は……」
「分かってる。多く見積もったって五分五分ってとこだろ。
 けど、今回ばかりはこっちも引けない。ここでやつをとめる。それだけだ」
「……了解です」
相棒を言葉の上だけでも吹っ切らせてやり、戦闘準備は完了。
作戦の成功を祈る間もなく敵さんはやってきた。シャッターのおりた店をいくつか眺めて、簡単な呪文を紡ぐ人形。
それをさせじとこちらも介入開始。論理的な存在根拠を周囲から選り集めて糸にしておいたものをレジの能力で物質化。この平和な世の中には商店街で大爆発が引き起こされる要素なぞどこにもないことを訴える正論の網は当初の予定通りに展開。人形の呪文を無効化させる結界を商店街に張り巡らせた。
これで人形の呪文や魔法陣の類は封じることが出来るはずである。もちろんこちら側の能力もある程度失うことにはなるが、その点においては対抗策も考えてある。
結界を形成する網目の概念の中に、網のかからない歯抜けの部分をあらかじめ用意しており、その地点は結界の能力がかからないようにしておいた。ある程度パターンを決めて流動するその地点のデータはもちろんレジに入力してある。人形の魔法を封じた上で、こちらが魔法を使うことの出来る土壌の形成。これによって、戦力はやっと五分五分になる。

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