ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

NW2ndキャンペーンコミュの皇剣司の事件簿〜ナイトウィザード2ndキャンペーン外伝

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
今キャンペーンの前日談。剣司サイドです

登場人物
皇 剣司
この外伝の主人公。魔剣使い・アタッカー。高校一年

津上 涼
輝明学園冬木校の2年、魔獣使い・ディフェンダー。高城悠紀のクラスメイトでもある。

アリス・カンザキ
時計塔所属の魔術師・キャスター。魔術を人形に込め使役する人形遣い。17歳

白鳳 霊華
輝明学園冬木校に通う2年、陰陽師・ヒーラー。アリスとは旧知の仲。

コメント(12)

数年前南アルプス上空
一機の旅客機が炎に包まれ闇夜に沈んでいく。それはやがて地に落ち乗客、乗員たちの亡骸は焼き尽くされることだろう。
 その様子を少女は空の上から悲しげな瞳で見下ろしていた・・・

 少年はその日、孤独となった。多くの人々のすすり泣く声の中、ただ一人物言わぬ両親の亡骸の前にやってきていた。悲しくないわけではない、憤りを覚えないわけではない・・・だが、何より彼を襲っていたのは訳もなく襲ってくる無力感であった。
 そんな時、彼の元にやってきた人物がいた。
「皇剣司君・・・ですね?」
「・・・そうですが、あなたは?」
「私の名は小泉藍(あい)、あなたのお父様のお仕事を手伝っていた秘書よ。」
 彼女はそう自己紹介をする。顔つきは端整で服装もスーツを着こなしていた。
「父さんの・・・? それで、その秘書さんが、何の御用です?」
「単刀直入にいうと、今日から私が名目上の保護者になりまず。同時にあなたが成人するまでの後見人と管財人も兼ねますので。」
「・・・はぁ・・・」
「・・・現状ではわからないでしょうが、あなたやあなたのお家のような家庭を取り巻く法律というは少々厄介なんですよ。・・・まずはご両親を送ること・・・後の話はその後です。」
 その後、小泉藍と名乗る女性のおかげで両親の葬儀も滞りなく行われた。
 そして・・・彼女は剣司の世話をする人間も手配していた。
「日本家政婦協会から派遣されてまいりました、伊藤真夜(まや)と申します。今日からお世話になります。」
 葬儀の翌日、そういってやってきた女性は年若いかわいらしい人だった。話を聞くと昨年高校を卒業したばかりらしい。
 こうして孤独な生活になるはずが生活が一変したのであった。年が近いこともあり、まるで姉弟のようであった。
 事故から二年の月日が流れた。その間、さしたる事件もなく平和に過ぎていった、少なくとも表面上は。
そんなある日・・・いつものように木刀で素振りをしていると斜向かいに住む年上の幼馴染、高城悠紀がやってきた。
「あれ、悠紀さん、どうしたの?」
「・・・剣司、お前に伝えなければならないことがある」
「えっと、毎度の大予言?」
「・・・そうだな、信じるかどうかはお前次第だが・・・いずれ私はお前の敵になる・・・覚えておけ・・・」
「・・・いずれ・・・ね。すぐってわけじゃなんでしょ? それならそのときになって考えるよ。 それまでは今までどおり付き合ってくれるんでしょ?」
「フッ・・・違いない・・・」
 その日はそうして別れたが、それがすべての始まりだった・・・


 輝明学園冬木町校学園寮
「くぅぅぅ・・・」
 寮の一室で一人の青年が痛みにもだえ苦しんでいた。定期的に起こる発作とはいえ、苦しいのには変わりない。しばらくして落ち着いたころ、それを見計らったかのように0−Phoneが鳴り始める。
「・・・ああ、あんたか・・・なるほど、いつもの仕事か。・・・ああ、わかった。」
 彼は電話を切ると受信した資料に目を通す。
「さてと・・・かわいい後輩のために人肌脱ぎますかねぇ・・・」

 赤羽神社冬木町分社
 一人の巫女が境内の掃き掃除をしていた。長い黒髪を鮮やかな紅いリボンで纏めた美しい女性だった。
 不意に強風があたりを駆け抜け、そのせいだろうか、ご神木の若い枝が折れ、地に落ちた。
「・・・凶兆ね・・・侵魔がまたこの街で・・・」

 冬木町伏姫邸
 この街の名士である老人の前で、金髪の少女が話をしていた。
「・・・以上です、伏姫翁。」
「・・・すまないな、こんな個人的な理由で時計塔の魔術師たる君にここまで出向いてもって・・・」
「構いませんよ、こちらとしても日本での仕事のついでなのですから。それに、あなたには個人的にいろいろとお世話になっていますから、彼女の近況をお話するくらいならどうということはありません。」
 そういうと彼女は老人の前を辞し、館を後にした。
「さて・・・この街に魔王ジクリットが現れるというのが師の予見ですが・・・」

冬木町とある街角
一組の男女が喧嘩をしているようだった。だが、その周囲は異様なまで紅く・・・そう、空には煌々と紅い月が昇っていた。
「おい・・・おい、冗談だろ? なぁ!?」
「いや・・・お願い、助けて・・・」
 女性の手は鋭く尖った爪が生えており、その爪によるものだろうか、男の服はボロボロになっていた。
「ば・・・化け物!」
 男の声に女の絶叫が重なり、男の胸板を女の腕が貫いていた。
『恋人に化け物呼ばわりされた挙句、自分の手で殺した感想はさぞ絶望したでしょうねぇ。それとも怒りや悲しみのほうが大きいかしら? まぁ、ちょっとした感情なら絶望のスパイスにはちょうどいいわね。・・・それじゃぁ、いただきます。』
 その女の背後に現れた影が女を飲み込み、景色が元に戻ると、雑踏に無残な死体が現れ周囲に悲鳴が響くのだった。
冬木町街頭
「先輩!」
 ある日の学校帰り、剣司を幼馴染の沙条彩香が声をかけてきた。
「ん? どうした、彩香・・・今帰りか?」
「はい、それで今度の日曜なんですけど・・・」
「また試合か? 暇があるから応援に行ってもいいけど・・・いくらOBだっていっても、部が違うのにいつまでも顔出すってわけにも行かないだろう。」
「あ・・・そうですね、ご迷惑ですか?」
「あ、いや、迷惑ってわけじゃない、ただ、他の連中に悪いかなって・・・」
「そんなことありませんよ。応援が多いほうがみんながんばれますから。」
「ん・・・そうか。じゃ、いかせてもらうよ。」
「はい、じゃぁ、そのときはお弁当を作っていきますから楽しみにしててくださいね。」
 満面の笑みでそう宣言する彩香。小学校のころからの付き合いの友人の妹で、両親を失った直後はいろいろと励ましてもらったものだった。
 そうやって雑談をしながらしばらく歩くのがほぼ日課だった。
(・・・友達よりもその妹と仲がよくなるって言うのもどんなもんなんかね。まぁ、兄弟がいるわけでなし、兄貴の気分ってこんな感じなのかもしれないけど)
 他愛もない会話をしていると、いつの間にか別れる場所に着き、そのまま別れるのだった。

高城家玄関
ぴんぽ〜ん
 剣司の家の斜向かい、高城家を訪れた一人の男がいた。
「・・・なんだ、津上・・・お前がうちに来るとは珍しい。」
 男の名は津上涼、輝明学園冬木校の生徒であり、高城悠紀の級友であった。
「ああ、ちっと依頼でな。お前の幼馴染の皇ってやつのことを聞きに来た。」
「ふむ・・・依頼か。みたところ、侵魔絡みといったようだが・・・手を貸そうか?」
「それには及ばないさ。必要なら誰かから連絡があるんが俺らの稼業。何もないならわざわざ首を突っ込む必要はないさ。」
「そうか・・・。ああ、剣司のことだったな。どんなやつかといわれれば・・・ありていに言えば馬鹿だな。」
「おいおい。」
「いや、頭が悪いとかじゃなく、他人が困っているのを黙ってみていられない・・・たとえ自分に不利益になることだとしても、だ。普通はそういうところは折り合いをつけているんだが・・・」
「お人よし・・・か。性格は悪くなさそうだが、お前からみたら確かにばかばかしいのかもしれないな。」
 彼、津上涼は学園に入学して以来、悠紀と何度かウィザードとしていくつかの事件に関わっている。故に、悠紀が感情よりも計算で動くことが多いと思っているのだ。
「・・・昔からそんなだからな・・・おかげで何度面倒を見てきたことか・・・」
 悠紀の目はどこか遠いところを見ているようだった。
白鳳神社
 巫女が縁側でお茶をすすっていると、そこに訪れた影があった。
「・・・遅かったわね。」
「・・・まったく、わかってるんなら自分から動きなさいよ。」
 巫女の名は白鳳霊華。輝明学園に通う巫女生徒である。一方、訪ねてきた金髪の少女はアリス・カンザキ、時計塔所属の人形遣いであった。そして、この二人もまたウィザードとして何度も事件を解決してきた間柄だった。
 また、侵魔がらみの事件において、霊華は妙に勘が鋭く、魔の気配に敏感であった。
「いやよ、個人的に動いたって実入りが少ないし、リスクのほうが大きいもの。」
「だったら涼でも頼ったら?」
 実はこの二人、津上涼とも面識があったりする。
「それもいや。あいつはほとんどボランティアで動くから、報酬山分けも期待できないの。アリスならその辺の融通が利くもの。」
「・・・そんなにお金をほしがってどうするのよ?」
「宗教法人も施設維持にはお金がかかるのよ・・・」


冬木町街頭
 沙条彩香は混乱していた。周囲にいた人並みが急に消え、頭上には紅い月・・・
(あらあら・・・おいしそうなプラーナの持ち主だこと・・・その心、どうやって絶望に染め上げてあげようかしら・・・)
 彼女の周囲に異形へと変異した猫が集まり始めた。
(恐怖におののくのはいいけど、絶望には程遠いわ・・・あら?)
 その意志は自身の月匣に侵入者に気付いた。
 異形の獣たちが黒い影になぎ払われると、二人の少女が彩香を守るように現れた。
(やれやれ・・・もうウィザードに嗅ぎ付けられたみたいね。とりあえず、ここは退散しようかしら。)
 憑かれしものがすべて倒されると、その意志は月匣を解きその場を後にした。
「・・・大丈夫?」
「あ、はい・・・あの、あなたは・・・?」
「名乗るようなものじゃないわ。とりあえず、今あったことは忘れたほうがいいわね。悪い白昼夢でもみたと思っておきなさい。」
 アリスの言葉に腑に落ちない顔のまま、彩香は二人と別れた。
「・・・いいの? 月匣の中で意識を保っていたってことはあの子もウィザードとしての資質があるはずよ? また狙われる可能性だってあるのに・・・」
「関わらないでいられるほうが幸せよ。それに、彼女なら大丈夫よ、たぶん。」
「たぶんって・・・まぁ、あなたなら確証もなしにそういうことをいうわけがないから、大丈夫なんでしょう。・・・それより、逃げた魔王を追わないの?」
「闇雲に追っても捕まえられないわよ。まず、この街に来た原因を探らないと・・・」
皇家
基本的に家の中の掃除は真夜がすることになっているが、倉庫となった離れと剣司の部屋だけは剣司が担当している。前者は大きく重いものが多いため、後者は賢明な男子諸君なら想像できるだろう。
そして、この日、剣司は離れの掃除をしていた。掃除とはいってもほとんど荷物の移動と埃を履く程度であるが。
「爺ちゃんも骨董趣味だったんだろうけど、こんなにたくさんよく集めたもんだよな・・・と」
 荷物の多さに辟易しながら作業をしていくうちに、奇妙なものに気が付いた。床板に敷かれていた絨毯に四角く盛り上がった部分があったのだ。そこは荷物が置かれていた場所で絨毯が沈み込みこそ、盛り上がっていることなどありえなかった。
(何か・・・あるのかな?)
 剣司が絨毯をめくり上げると、そこには一見して地下への扉とわかるものが存在していた。
(地下室? わざわざ隠しているって事は、大事なものでもあるのかな?)
 このとき、剣司は未知への好奇心に突き動かされていた。
 電源を見つけ、階段を下りるとそこにあったのは、膨大な数の古書類が詰まれた石造りの部屋だった。その中央に一本の剣が突きたてられていた。
「・・・なんだ? 剣? たしか・・・武器の図鑑にあったクレイモアって剣だよな・・・」
 思わず手に取ろうとするが、触ろうとした瞬間、何かにはじかれ手がしびれる
『・・・汝にまだ不用なり・・・』
 頭の中にそんな声が響く・・・さすがに気味が悪くなりあわててその場を後にする剣司だった。

???
『・・・この波動は・・・やっと俺との闘争の入り口に立ったか・・・だが、そのときまはまだまだ先か。・・・ただ待つのはつまらんな・・・少しは楽しませてもらうとしよう』
 その意志はそういうと策を練り始めた。
高城家
 津上が訪れた翌日、再び来客がやってきたようだった。
「悠紀、いる?」
「・・・霊華か・・・まったく、昨日といい千客万来だな。それで、何か用か?」
 悠紀と霊華、学園で比較的親しい・・・というよりも、成績が僅差で常に悠紀が勝っているため、いつも霊華が突っかかってくるのであるが。
「ちょっと、霊華、ここに来て何かわかるって言うの?」
「うん? そいつはなんだ?」
「あ〜・・・とりあえず、中で話さない?」
 三人はそのまま客間に移動すると自己紹介を済ませる。
「それで・・・どうして俺のところなんだ?」
 悠紀が霊華に問うと、少し顔を赤らめてあわてた感じでこう答えた。
「そ・・・それは、侵魔がらみのとき、あんたが時々妙に詳しかったりするから・・・情報がはやいと思ったからよ。」
「ふ〜ん・・・そんなもんかね? 俺も聞きかじった程度しか知識はないぞ?」
「多少の知識でもあればお聞きしたいわね・・・魔王ジクリットという侵魔なんだけど・・・?」
 アリスは知りえた情報を悠紀に語るが、悠紀の表情は思いのほか芳しくない。
「う〜む・・・同じ名前で別の魔王の手下なら聞いたことがあるような・・・」
「同じ名前ねぇ・・・一体どんなやつなのよ?」
「その魔王の名前は忘れたが、斜向かいの幼馴染の先祖が封じた魔王だったはずだ。ジクリットてのはその手下で、魔王を心酔していたはず・・・特殊な能力がない小物だけに他の裏界魔王も相手にしていないらしい。」
「ふ〜ん・・・」
「もっと詳しく知りたいなら・・・そうだな、その幼馴染・・・剣司に昔の史料でも見せてもらえばいいんじゃないか? ・・・もっとも、あいつは素質はあっても覚醒していないからな。協力を仰ぐなら少し手を考えたほうがいい・・・まぁ、津上のやつがガードについているらしいから、近々目覚めるのかも知れないが。」
「なるほどね・・・」

???
(ククク・・・そうか、あいつがいるのなら好都合・・・)
皇家
翌朝、剣司は登校しようと玄関にいたが、それを呼び止める声があった。
「待って、剣司くん、お弁当忘れてるわよ。」
 そういって弁当袋を手に提げた黒いセミロングの女性がパタパタとやってきた。
「あ・・・ごめん、真夜さん、急いでたもんだから・・・」
 受け取った弁当をバックに詰め込むと、剣司はバックと竹刀袋をつかんで飛び出していく。
「気をつけなさいよ〜。」
 困ったような表情で剣司を見送る真夜。
 その真夜を影から見つめるものがあったことを、誰も知る由はなかった。

冬木町街頭
 この時、剣司は人生で経験したことのない窮状にあった。
 周囲を取り巻くのは赤い眼をした多数の獣たち・・・よくみればあるものは身体が裂け、あるものは異形に変異していた。
(なんなんだよ・・・悪い夢でもみてるのか?)
 話は少し前にさかのぼる。
 剣司たちは放課後、いつもどおりの帰り道を通り、別れたところだった。
その意志は先に逃した獲物、沙条彩香を再び狙おうと網を張っていた・・・だが、その網に本来の目的につながるものがかかったのだ。
(この魔力の残滓・・・間違いなくあのお方の仇敵の一族のもの・・・ならば、あの方の復活を阻止される前にその芽を摘んでおくとしましょう・・・)
 そして、それは自らの領域=月匣を作り出し、対象・・・剣司を飲み込んだ。
 そして時は現在へ。
 獣たちは牙をむき、爪を立てると一斉に襲い掛かってくる。
 だが、それよりも一瞬早く何者かが剣司の襟首をつかんで後ろに放り投げ、攻撃目標を失った憑かれしものたちは再び包囲の輪に戻り闖入者に威嚇を始めた。
「やれやれ・・・早く逃げろ・・・といってもこの状態じゃ逃げようもないか。できるだけ俺から離れるなよ。」
 剣司はその制服と態度から自分の学校の先輩だとわかった・・・が、あまり見覚えのない人物からの言葉に余計に混乱する。
「あ・・・え?」
 だが、そんな状態などお構い無しに、異形の者たちは襲い掛かる。
「クッ・・・見せたくなかったが、悠長なことは言ってられんか・・・鎧装《アーマーフォーム》!」
 彼の背後の空間に魔方陣のようなものが浮かび、そこから緑色の昆虫を思わせる鎧が出現し、男−津上涼の身体を覆う。全身を覆う《パワードフォーム》に分類されるそれは涼の姿を異形の戦士へと変貌させる。
「やらせん!」
 さらに月衣から取り出した箒:アイゼンブルグを構えるとわが身を盾に剣司をかばう。
 だが、攻撃は四方から行われる・・・涼の背後で別の異形が剣司に襲い掛かっていた。
「く・・・間に合わん!?」
 しかし、そこで剣司は彼が思いもよらない行動に出た。手にした竹刀袋から木刀を取り出すと(大抵形【かた】の練習のために木刀も持ち歩いている)襲い掛かってくる獣を叩き落していた。
(ほう・・・金剛剣か・・・)
 不完全ながらその身にすでにウィザードとしての力が宿っていることを見抜く涼。
しかし、二人で立ち向かうにはあまりに敵が多い。さらに異形の猛攻は続く。
(ふふ・・・たかがウィザードの一人くらい増えたところでこの状況をどうにかできるわけが・・・?)
 その意志・・・魔王ジクリットは更なる乱入者を感知した。それと同時にあるものは激しい水流に飲み込まれ、あるものは飛来した護符が炸裂し闇の固まりにその身を削り取られていた。
「まったく・・・こういうのは勘弁してほしいわね・・・」
「まぁ、恩を売っておいたほうが協力を仰ぎやすいんじゃない?」
 声の主を探すと、そこに円形に浮かぶ数体の赤い人形を従えたアリスと破魔弓を構えた霊華の姿があった。
「霊華か・・・助かる。」
「津上、あんたを助けたんじゃないからね・・・私が用のあるのはそっちの子のほうよ。」
「何でもいい、こいつらを蹴散らすぞ。・・・そっちのあんたも手伝ってくれ!」
「まったく・・・人に頼む態度じゃないわね・・・でも、私も霊華と同じだし、ここは共同戦線で行きましょうか・・・」
 こうなると生半可な戦力ではウィザードたちにかなうわけもなく・・・あるものは拳で叩き潰され、あるものは人形の槍に貫かれ(魔装:カースドール)、剣司への攻撃は霊華の護符が割り込んで防ぐ・・・お互いが得意とするところが異なるがゆえにはっきりとした役割分担で敵を殲滅していく。
 しばらくたつと、あれほどいた異形もすべてが地に伏していた。やがてそれも多くが消滅していく。
「な・・・なんだったんだ、今のは・・・」
「・・・あ〜、詳しく説明してやるから場所を変えよう・・・」
「・・・そうね、私たちもあなたに用があったのよ、皇剣司君。」
「何事も最初が肝心だしね・・・」
 一人驚く剣司に向かい三者三様に声をかける。釈然としないが、剣司は危ないところを救われた事実があり、三人とも年上であることもあってとりあえずその場を移動した。
???
「く・・・どうして・・・こうもウィザードが絡んでくる!? まだ、あのお方の依り代さえ見つけていないというのに・・・」
 魔王ジクリットはあせっていた。二度も獲物をウィザードに邪魔され、上質なプラーナを手に入れ損ねたのだ。表界に存在するのに必要なプラーナは力の強さに比例する。多数のイノセントを闇雲に襲うよりも未覚醒のウィザードから奪ったほうが効率はよい。ましてや多数の僕を呼び寄せたのだ、かなりの消耗をしていた。
『まったく・・・これだからお前は・・・』
 ジクリットの背後に新たな影が現れた・・・それは獅子のような影であるが実体ではなかった。
「あ・・・あなた様は・・・」
『久しいな、ジクラット・・・もっとも、俺のほうはまだ依り代に縛られてるから、こうして影を送ることしかできんがな。』
「そ、それでは・・・・?」
『俺はいずれ復活する・・・だが、そのためには必要なものがある・・・わかるな?』
「は・・・はい、そのためにもあのウィザードたちを血祭りに上げ、そのプラーナを主に捧げます」
『・・・では、お前に策を授けよう・・・』

皇家居間
「そんな話を信じろと・・・?」
 剣司は戦闘の後、霊華とアリスが家に用があるということで礼をする意味も含めて、三人を家に招いたのだった。そして、そこで彼らは自らの力とその力が剣司にもあることを告げた。
「信じるかどうかはお前次第だ、知っても関わらないで済むならそれに越したことはないんだからな。」
「・・・そうね。まぁ、自分の身を守るくらいはできるようになったほうがいいけど。」
 涼の言葉に霊華が同意する。平凡な人生を歩むことができたならそれはそれで幸せだったのではないか・・・ウィザードの誰もが一度は思うことである。
 だが、そんな二人に反してアリスは剣司に力の解放を勧めた。
「力があるならきちんとそれを制御する術を身につけるべきよ・・・さもないと、自分にも周囲にも不幸を呼んでしまうわ・・・実際にそうなった事例はいくつもあるもの。」
 そういうとその顔に影を落とす。
 そんな時、居間に真夜がやってきた。
「剣司くん、ちょっとスーパーに行ってくるからお留守番頼める?」
「あ・・・うん、行ってらっしゃい。」
 真夜の背中を見送ると、剣司は気を取り直し3人に向きなおす。
「・・・とりあえず、祖父の資料のほうは離れにありますし、そちらから当たってみましょう・・・」
冬木町街頭
「こんばんは、お嬢さん・・・♪」
 買い物袋を提げた真夜の前に、近所では見かけない少女が現れ声をかけてきた。
 そして、そこで真夜の意識は途切れた。

皇家離れ
 離れに移った一同は積み上げられた史料の中からそれらしいものを探していたが、思うようにははかどらなかった。
「魔王の名前がわかっているだけじゃ、そんなに簡単にいくわけがないな・・・」
 涼は大量にある史料に辟易しながらそうつぶやいた。
 そんな最中、不意に周囲の雰囲気が剣呑なものに変わっていく・・・
「月匣!? この家を包み込んで?」
「直接狙いに来たのか?」
「・・・ということは・・・ジクラットの狙いは・・・剣司くん!?」
 離れの扉が開け放たれると、そこに真夜の姿があった・・・だが、その瞳は虚ろで、だらんと垂れ下がった両手の爪は鋭く伸びていた。
「・・・剣・・・司く・・・ん、逃・・・げて・・・」
 彼女には少なからず意識があり、同時に他者の意志で身体を動かされる苦痛を味わっていた。
 その周囲に多くの異形と化した獣が続く・・・一瞬の間が生まれ、すぐに襲い掛かってくる。
 鎧装した涼が襲い掛かる敵を迎え撃つが、やはり数の多さはいかんともしがたく、一部が霊華たちのところまでやってくる。
「真夜さん・・・どうして・・・?」
「・・・あれは私たちの敵、侵魔に取り憑かれた状態・・・救うには戦って瀕死にするしかない、一歩間違えば絶命する・・・それでも救いたいというなら、あなたは力を振るう覚悟をしなければならない・・・」
 剣司の問いにアリスが答える。放しながら器用に獣の攻撃をノワール(防御魔法を仕込んだ黒い人形)で防ぎつつ、クリムゾン(攻撃魔装:カースドール)で迎え撃つ。
「皇・・・本当に大切なものがあるときは自分で決めろ・・・決めたのなら俺たちはその手助けをしてやる・・・」
「・・・ま、確かに一人よりは人数がいたほうが多少はましかもね・・・でも、やろうと思わなければどうしようもないわよ。」
 涼と霊華がそれぞれ続ける。
「・・・助けられる・・・のなら・・・」
 剣司の中の何かに火がついた。瞳に輝きがあふれ、四肢に力が宿る。
 次の瞬間、足元の絨毯をめくると地下への階段を駆け下りた。
「この離れに地下室があったなんて・・・でも、何をしに?」
 戦闘は続行されていた。数の多い異形の獣は多少ながら減ってはいたが、大勢に変化はない。だが、アリスが意識を剣司に向けたとたんに、別の方向から攻撃がやってくる。
(防御魔法・・・だめ、間に合わない?)
「アリスさん、頭を下げて!」
 そう思った瞬間、剣司の声が飛んでくる。反射的にしゃがむとその上を地下室から飛び出した剣司が飛び越え、襲い掛かってきた獣たちを一閃した。
「お待たせ。」
「・・・なるほど、それがお前本来の“力”か・・・」
 剣を構える剣司、真夜の攻撃を防ぐ涼がそれを見つめる。
 すでに異形の獣はそのほとんどが掃討されつつあった。もとより、アリスの攻撃で相当数が屠られていたのであるが、そこに剣司が参入したため戦況が一変したのである。
 剣司が一閃二閃するだけで獣たちがなぎ払われ、アリスの攻撃も相まって残るは真夜だけになった。(無論、その間も真夜の攻撃はあったが、すべて涼に阻まれ傷も負わせられていない)
「・・・あとはこの人を助けるだけだ・・・だが、おそらくお前の攻撃力じゃ一発勝負・・・強弱が行き過ぎても救えない・・・」
「・・・一か八かでも賭けないことには救えない・・・それなら!」
 意を決して剣を構える・・・その時、一瞬身体から力が抜けるような感覚が起きたかと思うと、刀身の鋭さが増す。
「たぁぁぁぁぁあ!」
 間合いに踏み込むと同時に気合とともに剣を叩き込む・・・肉に食い込む感触が手に伝わり、一瞬眉をひそめるがそのまま振りぬく。同時に血しぶきが舞い剣司自身が返り血で紅く染まる。体勢が不安定だったことが幸いしてか斬撃は骨までは絶たず、剣の威力で真夜は吹き飛ばされる。
「・・・どう・・・だ?」
 息を整えながら剣を構えなおし、真夜のほうに視線を向けると倒れた彼女から何かが抜けていくのが感じられた・・・直感的にわかったのだ。
「真夜さん!」
 剣を投げ捨て、真夜に駆け寄る剣司・・・他の三人もそれに続く。
 血だまりの中でか細い息をしながら真夜は剣司に笑顔を向けていた。
「剣・・・司くん・・・ごめん・・・ね・・・・」
「そんなこと気にしなくていいから・・・まず傷の治療を!」
 そういいながら、霊華のほうを向くが、霊華は顔を横に振る・・・回復魔法で治療できる程度の傷ではないのだ。むしろ話せるほうが奇跡といっていい。
(・・・やはり力の制御ができていないか・・・)
 涼は予想の範疇の出来事であるため、大して気にした風でもなく冷静に分析する。実際、侵魔に憑かれた人間を救うのは容易ではないのだ。
「・・・私・・・気付いたら・・・剣司くんの前にいて・・・でも・・・身体が勝手に動いて・・・」
「・・・しゃべらないで・・・」
 真夜の言葉に剣司はつらそうに声をかける。実際に口元から血が流れ、言葉の合間にも咳き込んでいるのだ。そして、剣司はみた・・・真夜の手足が徐々に透けていくのを・・・。
「・・・剣司くん・・・私ね・・・弟がいたんだよ・・・でもね・・・両親も弟も事故でなくして・・・」
「真夜さん?」
「・・・私・・・みんなのところに行けるかな・・・ごめんね・・・剣司くんにつらい思いをさせちゃって・・・でもね・・・私は・・・いなくなった弟みたいに感じてたの・・・だからね・・・楽しかったよ・・・あ・り・が・・・」
 真夜の言葉は最後まで語られず・・・彼女は光となって消えていった・・・

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

NW2ndキャンペーン 更新情報

NW2ndキャンペーンのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング