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怖い話で眠れなくする!!コミュのつきまとう女 ※長編創作 3

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711 :夜 ◆lWKWoo9iYU :2009/06/17(水) 22:59:02 ID:kOT+Y6Db0
暫く俺は夜景を眺めていた。こんなに落ち着いた環境は久しぶりだ。
ジョンはひたすら、ノートPCで計画書を作成していた。
「なあ、ジョン」
「なんですか?」
「俺のような人間は他にも居るのか?こんな風に、訳も分からず取り憑かれてしまう人間が、俺の他にも…」

ジョンは静かに溜息をつく。
「多いですね。でも、お兄さんは運が良い部類に入ります。俺たちと出会いましたから。
多くの人は、何も出来ずにただ死ぬだけです。最初にお兄さんが言ったように、
自分がおかしいのだと思い込んで、大概の人は死にます」

ジョンはタバコに火を点け、煙を深く吸い込んだ。
「近年の自殺者数は、年間3万人以上になります。一日に100人は自殺しているのです。
死因不明や行方不明を含めると、もっと居るのかもしれません。
社長は言っていました。『日本人の守護霊が年々弱くなっている』と。
その為、本当に小さな悪霊にも、簡単に取り憑かれてしまう人間が増えた。
勿論、全部が全部悪霊の仕業とは言えませんが、『これは本当に悲しいことなのだ』。そう言っていました」
「守護霊…か。さっきも言ったが、俺は霊とかには疎い。守護霊ってのは、なんなんだ?」

ジョンはノートPCから手を放し、こちらに振り向いた。
「守護霊と悪霊…同じ霊という字で表現しますが、根本的には全く異なる存在です。
悪霊は、自分自身の感情と意志に依存し存在します。
逆に守護霊は、人間の温かい記憶に依存して存在します。
悪霊の強さは、自身の念の強さに左右され、守護霊の強さは、人の温かい記憶よって左右されます」


713 :夜 ◆lWKWoo9iYU :2009/06/17(水) 22:59:43 ID:kOT+Y6Db0
「温かい記憶?それはなんだ?」
「優しさですね。人は誰かに守ってもらったり、助けてもらって、優しさを身につけます。
助け合いの精神です。その精神が、守護霊の力になるのです」
やっぱり俺にはよく分からない。ただ、ジョンが真剣なのは分かる。

「それって何かの宗教か?」
「いえ、社長の受け売りです。俺たちは宗教団体ではないです」
ジョンの言うとおり、日本人の守護霊とやらが全体的に弱くなっているなら、
それは助け合いの精神の欠如が原因か…。

確かに悲しいことではある。
なら俺も、その助け合いの精神が無いが故に、こんなことになってしまったのか。
「お兄さんの守護霊は強いですよ」
「なに?」
「さっきも言いましたけど、お兄さんは本来、死んでいてもおかしくなかった。
それくらい強烈な奴に憑かれたんです。でも、お兄さんは死んでいない。守護霊が守ってくれているんですよ」
「俺の守護霊って…?」
「お父さんですよ。お兄さんのお父さんが、お兄さんを守ってくれています。
ギリギリの勝負ですけどね。本当に良く頑張ってくれています。
お兄さんは、良い人に育ててもらったんですね」

それを聞くと、俺は黙って窓の外に広がるキレイな夜景を眺めた。
キレイな夜景が、うっすらとぼやけて見えた。


714 :夜 ◆lWKWoo9iYU :2009/06/17(水) 23:00:24 ID:kOT+Y6Db0
夕飯にジョンがスパゲティを差し出した。
「食って下さい。これから先、体力勝負になりますから」
ジョンには申し訳ないが、今の俺に食欲はなかった。
半分ほど手をつけて限界だった。
それを見てジョンは溜息をつく。

俺はこの先の不安で心を締め付けられていた。
訳も分からないままに騒動に巻き込まれ、こうしている。
納得がいかなかった。どうしてこんなことに俺は巻き込まれたのか。
自問自答してもジョンに聞いても、俺の心は納得しなかった。
窓の向こうに見える景色の中では、今も人々が移ろうように流れていく。
かつては俺もあの流れの中に居た。
あの日々に戻りたかった。

思いふけっていた俺の耳に、窓の縁から何かが張り付くような音がした。
音の方向に眼をやると、俺の瞳孔は一気に開いた。
人の手が窓の向こう側に張り付いている。
ここは地上20階。ベランダも無い。人が立てるような場所ではなかった。

そんな場所に人の手がある。俺はジョンの名を叫んだ。
その瞬間、ジョンは俺の前に立ちふさがり、「窓から離れてください!!」と叫んだ。
ジョンは携帯を取ると、どこかに電話し始めた。

俺は窓の手から視線を外せずにいた。
「大丈夫です。俺が居ます。この部屋の中には入って来られません」
震える俺にジョンはそう言った。
その時、ゆっくりと手の主が這いずるように動き出す。
俺は手の主の顔を見た瞬間に、頭を打ち抜かれるような衝撃を食らい絶句した。
手の主は俺だった。


715 :夜 ◆lWKWoo9iYU :2009/06/17(水) 23:01:04 ID:kOT+Y6Db0
窓の向こう側に俺がいた。どう見ても俺だった。
俺の頭は完全に真っ白になった。
どうして俺が窓の向こう側に張り付いているんだ。
俺はここに居るのに、窓の向こう側にも俺は居る。俺の頭は完全に混乱した。

「社長、俺です!ジョンです!マズイことになりました!
ドッペルゲンガーです!お兄さんのドッペルゲンガーが出ました!俺の眼にも見えます!!
今は窓の外に居ます!!はい!!御願いします!」
ジョンの電話先は社長だった。何かを社長に御願いし、ジョンは携帯を切る。

「お兄さん、あいつに絶対に触れないで下さい!!
触れたら、俺でも社長でも、お兄さんの命を助けられない!!」
窓の向こう側のもう一人の俺は、激しく狂ったように窓を叩き始めた。
その衝撃音が連鎖するように、部屋中から鳴り響く。
「開けろぉおお!!開けろぉぉおおおお!!」
俺が窓の外でそう叫んでいた。
俺は縮こまりながら、心の中で『止めてくれ、もう止めてくれ!』と何度も叫んだ。

ジョンは「速くしてくれ、速くしてくれ」と呟く。
次の瞬間、ジョンの携帯が鳴り響く。
携帯の着信音に、窓の向こう側の俺は驚いた表情を浮かべると、溶けるように消えていった。
「なんだ!?あれはなんなんだ!?ジョン!?俺が居た!!俺が居たぞ!!!」
怒鳴る俺を無視して、ジョンは携帯で話をしている。
「はい、消えました。有難う御座います。はい…はい…分かりました」
俺はもう何がなんだか訳が分からなかった。


716 :夜 ◆lWKWoo9iYU :2009/06/17(水) 23:01:47 ID:kOT+Y6Db0
ジョンはソファに腰掛けると今起きた事態を説明しだした。

「非常にマズイです、お兄さん。窓の外に居たお兄さんは、あの女、奈々子が作り出した、お兄さんの分身です。
あの分身に触れると、確実に死にます。俗に言う、ドッペルゲンガーって奴です。
これは、女がお兄さんを本気で殺しに来た証拠です。
ドッペルゲンガーの殺傷能力は異常に高いんです。
多分あの女は、お兄さんをゆっくり苦しめてから殺すつもりだった。
その方が、お兄さんは強い悪霊として育ち、女にとって役に立つからです。
でも、俺たちが現れた。だから、早急に殺すことにしたんだと思います。
実を言うとお兄さんの中に、社長特製のファイアーウォールを仕込んどいたんです。
普通の悪霊なら、身動き一つ取れなくなるはずです。
それをあの女は軽々と突破し、お兄さんの分身を作り上げた。
更に悪い事に、俺はお兄さんの分身を見ようと思って、見た訳ではありません。あの女に強制的に見せられた。
つまり俺も、いつの間にか女に侵入されていたんです。
さっきのは、社長に御願いして払いました。今の俺にはあれを払う力はありません。
俺にとって何よりもショックなのは、夢の中ではなく現実の中で、
女があそこまでリアルなお兄さんの分身を作り上げ、俺とお兄さんの中に、同時に具現化したことです。
俺はその前触れに全く気付かなかった。女が俺の遥か上の存在だという事を、心底思い知らされました」
呼吸を乱しながら、ジョンは悔しそうな表情でそう言った。
俺の体は、未だに震えが止まらなかった。ジョンの話が、更に俺の恐怖心を煽る。

俺はジョンに怒鳴った。
「じゃあ、どうするんだよ!?」
ジョンは俯いた。
「どうしよう…」
そう言うとジョンは、頭を抱えて塞ぎ込んだ。


724 :ホテル ◆lWKWoo9iYU :2009/06/17(水) 23:48:58 ID:kOT+Y6Db0
地上20階に位置する豪華なホテルの一室。
キレイなインテリアが並ぶこの部屋に、似つかわしくない二人の男。
一人は恐怖で小刻みに震え、一人は頭を抱えて俯いている。
俺とジョンだ。

俺たちは、敵の強大さに打ちのめされていた。
俺の心は絶望感でいっぱいだった。逃げることだけを必死で考えていた。
「ジョン、サラ金でも闇金でも何でも良い…借金して200万揃える。だから、社長に俺の除霊を頼んでくれ…」
ジョンはタバコに火を点けると頭を横に振った。
「無理です、お兄さん。社長は、一度言ったことを絶対に曲げません。
俺に除霊をやらすと言ったからには、例え俺が死んでも、お兄さんが死んでも、社長は手を出しません」

俺はテーブルに拳を叩きつけた。
「ふざけるな!!俺の命が懸かっているんだぞ!!!」
「お兄さん」
「お前だって、あの女には勝てないって言ったじゃないか!!!」
「お兄さん」
「200万で足りないなら300万だって用意する!!だから俺を助けてくれ!!!」
「お兄さんっ!!!!」
ジョンは声を荒げて立ち上がった。
「俺を…信じてください」


725 :ホテル ◆lWKWoo9iYU :2009/06/17(水) 23:49:38 ID:kOT+Y6Db0
「お前を…信じる…?」
ジョンは真剣な眼差しで俺を見つめる。その鋭い眼光に俺は戸惑った。
「俺はお兄さんを守ります。お兄さんは俺が絶対に助けます。
だから、俺を信じてください。俺はお兄さんを守る為に命を懸けます。
例え、俺が死んでも…絶対にお兄さんは俺が助けます」
俺は困惑した。こいつ、何でそこまで言えるんだ?
「そこまでお前が、俺を守りたい理由はなんだ?お前だって危ないんだぞ?」

ジョンは黙り込むと深く溜息をついた。
「俺たちが除霊をする時、対象者の守護霊の力を借ります。
つまりお兄さんの親父さんです。お兄さんの親父さんと沢山話をしました。
ジョンって名前…、お兄さんの家で、昔飼っていた犬と同じ名前なんですね。
親父さん、笑っていました。俺は未熟だから、お兄さんの親父さんと話しているうちに、
親父さんに感化されてしまったのかもしれません。
今では…お兄さんが、俺の本当の兄貴のように思えるんです…」

「お前…」
「親父さんのお兄さんを守りたいという気持ちは本物です。
親父さんは死ぬ寸前に、お兄さんや娘さん、それに奥さんのことを思っていました。
『すまない』。そういう気持ちでいっぱいだったんです。
だからこそ今でも親父さんは、お兄さんたちを必死で守っているんです。俺はその気持ちに応えたい」

それを聞いた俺は足元から崩れ落ち、その場に跪いた。
ジョンが俺の肩を掴む。
「俺を…信じてください」
俺の肩を掴むジョンの手は、温かった。


726 :ホテル ◆lWKWoo9iYU :2009/06/17(水) 23:50:19 ID:kOT+Y6Db0
深夜、俺は眠れずにいた。少しでも油断することが怖かった。
「ジョン、俺の親父は大丈夫なのか?あんな女と戦っているんだろ?」
ジョンはノートPCのキーボードを叩きながら答える。
「女はお兄さんだけでなく、お兄さんの家族にも侵入しようとしています。
だから、お兄さんの守護は俺に任せてもらって、親父さんにはそちらの守護に専念してもらっています」

俺は頭を抱えた。
「なんてこった…。あの女、俺の家族にまで…」
「大丈夫です。親父さんが守ってくれます」
俺はコップの水を飲んだ。
「なあ、ジョン。俺の守護霊が親父だってのは、なんとなく分かった。
でも、お前の守護霊は居ないのか?ほら…、お前、身内が居ないって言っていたし…」
「居ますよ。俺の守護霊は社長です」

「はあ?お前、社長は生きているだろ?」
「守護霊も悪霊も、生きているか死んでいるかは関係ありません。
一言に霊と言うと、死んだ人を想像するかもしれませんが、違います。
さっきも言いましたが、悪霊は自身の感情や意志に依存して存在し、守護霊は温かい記憶に依存して存在します。
俺の中で社長の温かい記憶がある。だから俺の中で社長が形成され、俺の守護霊として存在しています。
これは俺だけじゃなく、普通の人も同じです」
俺はコップの中の水を見つめた。
こいつに出会ってから、不可思議なことばかりを聞かされる。


728 :ホテル ◆lWKWoo9iYU :2009/06/17(水) 23:51:00 ID:kOT+Y6Db0
不意にチャイムの音が部屋に鳴り響く。俺は驚いてソファから滑り落ちた。
「こんな時間に誰だろう?」
ジョンが立ち上がり、玄関口に向かう。
「おい、大丈夫なのか!?あの女じゃないのか!?」
ジョンは微笑みながら、「大丈夫ですよ」と答えた。

玄関を開けると、そこには社長が居た。
社長は部屋の中に入るとソファに座り、タバコに火を点ける。
「調子はどうかしら?若年性浮浪者モドキ君…」
じゃ…若年性浮浪者モドキ君…。なんだか、この人に勝てる気が全くしない。

ジョンがグラスにワインを注ぎ、社長に差し出す。
「こんな深夜に、どういった御用件ですか、社長?」
「ああ、あんたがメールで送ってきた計画書ね…、読んだわ。筋は悪くないわね」
「有難う御座います」
「でも、決定的な勘違いをしているわ」
「勘違い?」

ジョンの表情が曇る。
「まあ、仕方ないわ。私もそれに気付いたのは、ついさっき。お前が気付かないのも無理は無い」
「どういうことですか?社長?」
社長は灰皿にタバコの灰を落とす。
緊迫した雰囲気が部屋に充満していた。


729 :ホテル ◆lWKWoo9iYU :2009/06/17(水) 23:51:40 ID:kOT+Y6Db0
社長はワインの入ったグラスに口をつける。
赤いワインの入ったグラスを、しなやかに扱う指の動きが印象的だった。
「先刻、この若年性浮浪者モドキ君の、ドッペルゲンガーが現れたわね」
「はい。俺も強制的に見せられました。俺も侵入されていたんです」
ジョンは悔しそうな表情を浮かべる。

「私はお前の現場実習開始当初に、安全装置として、若年性浮浪者モドキ君に予め防壁を仕込んどいた。
万が一を考慮してだ。だが、それは突破され、あまつさえ奴はドッペルゲンガー作り出した。
私の見立てでは、あの薄汚い女にそんな力は無かったはず。違和感を覚えないか、ジョン?」

「確かに俺も驚きました。まさか社長のファイアーウォールが破られるなんて…
でも、違和感と言うのはなんですか?何かあるんですか?」
社長は深くタバコを吸い込んだ。
「あの薄汚い女は、中心ではあるが本丸ではない。ということだ。
私ですらさっきまで気付かなかったほどに、本丸は深いところに居る。
恐らくそいつは、死人ではなく生き人の可能性が高い。
しかも、かなりの腕前の持ち主だ。こいつは予想以上に根の深い問題だな」

俺は黙って話を聞いていた。なんだか、話がとんでもない方向に向かっている。
「そっちの本丸の方は私に任せろ。
こいつは、若年性浮浪者モドキ君の依頼の範疇を越えている。
タダ働きでやるのは嫌だが、仕方あるまい。放置するにしては危険すぎる。
ただし、薄汚い女並びに3人の男は、ジョン、お前が責任をもって除霊しろ。
いいか?浄霊しようとしなくていい。除霊することに専念しろ。分かったか、ジョン?」
社長はそう言うと、グラスの中のワインをしなやかな手つきで飲み干した。


730 :ホテル ◆lWKWoo9iYU :2009/06/17(水) 23:52:21 ID:kOT+Y6Db0
社長が部屋から退室し、再び俺とジョンの二人きりになる。
去り際に社長がこんなことを言った。
「この件が終わったら、父親の墓参りに行けよ。寂しがっているぞ。あと、寝ろ。眼の下のクマが酷いぞ」
そういえばここ最近、あまりにも色んなことが起きて、ろくに親父の墓参りにも行ってなかった。
この騒動から無事に生きて帰れたら、親父の墓参りに行こう。俺はそう思った。

俺はソファに座り、惚けていた。なんだか、とても疲れた。
眠ることが怖かったが、睡魔には勝てなかった。
俺はいつしか眠りに落ちていた。

気が付くと俺は、どこかのビルの屋上に立っていた。
「ここは?」
深夜のビルの屋上に冷たい風が吹く。
「ジョン!?おい、ジョン!?」
大声でジョンに問いかけるも、返事は返ってこなかった。

俺は辺りを見渡すと、視界の端に何か居ることに気付いた。
その瞬間、頭に殴られたような強い衝撃が走る。俺は力なく、その場に崩れ落ちた。
地面に倒れた俺を、見たことの無い巨躯の男が見下ろしていた。
「なんだ…お前…?」
男はしゃがみこむと、俺の髪を掴んだ。
「悪足掻きするなよ。どうして素直に死なない?」
男の後方にキチガイ女と医者、警察官、看護師の姿が見える。
俺の全身の血が沸騰した。




つきまとう女 ※長編創作 4へ
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つきまとう女 ※長編創作 2
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