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怖い話で眠れなくする!!コミュの赤緑シリーズ 歪みの心

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大学の図書室。
今日も彼女はいつも通り、同じ場所に座る。
レポートを書いていることが多いが、普通に本を読んでいるときもある。

彼女の趣味は知っている。
トルストイ、ミルトン、ロマン・ローラン…様々なジャンルの海外文学が好きなようだ。

彼女は、誰もが地味だと思うような眼鏡を掛けているが、とても可愛らしい顔をしている。
いや、見た目だけじゃない。
性格がとても良い。根が善良で、優しい人だ。
数回会話を交わしたことがあるくらいだが、俺にはそれが分かった。

俺の他に彼女の本質を見抜ける人なんて、居ないだろう。
周りの男は彼女に目を向けることもなく、俺はすっかり安心していた。

それが失敗だったのだ。
まさか彼氏ができるなんて、想像もしていなかった。

俺を差し置いて。

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鮎川古乃羽。
古乃羽。このは。何て可憐な名前だろう。
彼女の友達は、誰もが古乃羽、と呼んでいる。
俺も、俺の中でだけそう呼んでいる。
さすがに面と向かっていきなり下の名前で呼ぶと、相手を驚かせてしまうだろうから。
俺の優しさだ。彼女もそのうち知ることになるだろう。いや、もう知っているかもしれない。
優しさってのはこういうものだろう。
無理に押し付けたり、ひけらかしたりするものじゃない。

きっとあの男はそんなこと、考えたこともないだろう。
あの男…雨月、と言うらしい、あの男。

奴は古乃羽のことを本当に分かっているのか?
ただ、可愛らしいから、優しいから、という理由で付き合っているだけに見える。
特別いい男、というわけでもない。
古乃羽もきっと、意味も無く一緒に居るだけなのだろう。

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大学で二人一緒に居るところを見かけても、他のバカなカップルみたいに
手をつないでいたり、意味も無く体に触れていたり、というところはみたことが無い。

あの男はきっとそうしたがっているだろうが、古乃羽が嫌がっているのだろう。
しかし、一緒にいることは多い…。

それで、俺には分かる。推理すれば簡単に分かることだ。
彼女の性格からして、きっぱりと拒絶するなんてことはできないだろう。
本当は嫌なハズなんだ。一緒に居ることさえも。

もし…
もし、古乃羽が何か悲しい思いをしたとき、頼りにするのは誰か?
今はあの男なんだろう。嫌でもそうせざるを得ない状況だから。
しかしきっとあの男は、頼りにはならない。
そのとき、古乃羽はさぞかし困るだろう。途方に暮れ、他の悪い男に引っかかってしまうかもしれない。
そこにはやはり、俺が居て、守ってやらなければならない。

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いや、もっと具体的に考えよう。
もし、あの男に振られるとか、または…あの男が死んでしまった場合、でいい。
そのとき頼りにするのは?周りの女友達か?
まさか、無理だろう。周りにいる奴らでも、古乃羽のことを100%分かっているとは思えない。
古乃羽は内気で、滅多に自分を出そうなんてしない。
俺のように、人の内面を見抜ける人間じゃないとダメだろう。

古乃羽に不幸が訪れる。それを俺が救う。やはりこれが一番良い。
不幸は、大きければ大きいほど良い。
男が死ぬ…でも良いが、古乃羽の性格をよく考えたらうまくないかもしれない。

死んだ人間に対して、彼女は必要以上の感情を持ってしまいそうだ。
勝手に美化してしまう恐れがある。
悲しみを勘違いして、自分は彼が好きだったんだと、思い込んでしまうかもしれない。
自分を悲劇のヒロインと思って、引きずってしまうかもしれない。
そうなると面倒だ…。

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あの男が幻滅すること、またはあの男に幻滅すること。
これがいい。
どちらかと言えば、あの男が古乃羽に幻滅する、がいい。

彼女の本質を知っていればそんなことは無いだろうが、奴に古乃羽のことが分かる訳も無い。
それ故の幻滅。古乃羽は自分が理解されないことを悲しむだろう。
そこに、全てを分かっている、全てを受け入れられる俺が登場する。

彼女の喜ぶ顔が浮かぶ。
理解してくれる人がいると嬉しいものだろう。
俺なら彼女を救うことができるのだ…。

そんなことを考えながらチラチラと古乃羽を見ていると、
彼女は鞄を開け、携帯を取り出した。きっとメールでも来たのだろう。
きちんとマナーモードにしているな。まぁ、俺の古乃羽なら当たり前のことだ。
返信しているようだが、メールの相手は誰だろう。気になる…。

しばらくすると、古乃羽のところに2人の女がやってきた。メールで図書室にいることを教えた、ってとこか。
2人とも一緒にいることが多い奴らだ。
1人は神尾美加。こいつは俺に気安く話し掛けてくる、図々しい女だ。
こちらに気があるのかも知れないが、生憎と騒々しいのは好みではない。
もう1人は白谷佳澄だ。古乃羽に似て物静かなイメージの彼女は、俺の好みではある…
が、古乃羽には敵わない。残念、惜しかったな。

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古乃羽が荷物をまとめて、3人は図書室から出て行った。
後を追おうかと思ったが、止めておこう。
俺はストーカーじゃない。そんな真似はしないさ。

俺も読んでいた本を…まぁ、ほとんど読んでないが、本を棚に戻し、そのまま自宅に帰ることにした。

今日も古乃羽を見守ることができた。
今に俺のことに気付くだろう。俺の優しさ。懐の深さ。そして彼女への理解。
大学の門を出て、しばらく道を歩きながらそのときのことを考えていると、
突然、後ろから声を掛けられた。

振り向くと、1人の女性が立っている。二十代後半といったところか?なかなか可愛い顔をしている。
俺「…なんですか?」
女「…あなた、ずいぶんと歪んでいるわね。それに、汚い」
…は?
いきなり、なんだこの女。失礼なんてもんじゃない。
ちょっと可愛い顔しているからって…なんでも許されるとでも思っているのか?
女「あなたもうすぐ死ぬわけだけど、今までと違って、なんだか清々するわ」

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何言っているんだ?この女…。
あぁ、なるほど。宗教か?この壷を買えば死なずに済むとか、そんなことか?
今時、そんな手に引っかかる奴なんて…
と思ったが、女はそれだけ言うと、くるりと後ろを向いて歩き去っていった。

なんだ、人を嫌な気分にさせるだけかよ…。
腹立たしい。人に迷惑掛けたり不快にさせたりする奴なんて、死ねばいいんだ。
俺みたいに、誰かの幸せを考えられる人間こそ、長生きするんだ。

女の後ろ姿にそう毒づいて、俺は踵を返す。

その眼前に、歩道に乗り上げたトラックが突っ込んで来ていた。


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まったく不快な男…。歪み、汚れた、救いようのないその魂。
死ぬところを遠目に見て、私はちょっとした満足感を得た。
…と同時に、心の奥底に何か黒いものが渦巻くのを感じる。
しかしそれは気付くと同時に、すぐに消えていった。

時々感じる、今の感じ。
すぐ消えてしまうけど、少し…気分が良い。

私の中の得体のしれないモノ。
それは私を不安にさせる。
でも、気分が良いのなら…それに流されるのも楽な気がする。

あの男のように、私の心も歪んでいるのかな…。
自分じゃ分からない。誰かに教えて欲しい。

段々と、人の死を見ることが楽しく感じるようになり始めている。
自分のことなのに、漠然と、ただそんな気がする…。

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