ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

映画レビューアーフォーラムコミュの【ネタバレ有り】『あん』 [日本公開:2015年5月30日]

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
●Introduction
 『殯(もがり)の森』などの河瀬直美が樹木希林を主演に迎え、元ハンセン病患者の老女が尊厳を失わず生きようとする姿を丁寧に紡ぐ人間ドラマ。樹木が演じるおいしい粒あんを作る謎多き女性と、どら焼き店の店主や店を訪れる女子中学生の人間模様が描かれる。原作は、詩人や作家、ミュージシャンとして活動するドリアン助川。映像作品で常に観客を魅了する樹木の円熟した演技に期待が高まる。

 刑務所から出所したのち、どら焼き屋「どら春」の雇われ店長となった千太郎の店に、徳江(樹木希林)という女性がやって来る。その店で働くことを強く希望した徳江を千太郎は採用。徳江が作る粒あんが評判となり、店は大繁盛。そんな中徳江は、つぶれたどら焼きをもらいに来ていた女子中学生のワカナと親しくなる。ところがある日、かつて徳江がハンセン病を患っていたことが近所に知れ渡り……。
[日本公開:2015年5月30日]

コメント(2)

 河瀬直美監督の作品には、アート志向で映像はきれいだけど、ドラマとしては希薄で敬遠していました。予告編段階で自己主張を感じてしまうことが遠ざけていたのです。

 ところが本作は、ハンセン病元患者へのいわれなき偏見という問題を扱いながら、声高に訴えず、むしろそういう定めの中でも、積極的に生きようとする患者の生き様を描いて好感が持てました。
 ハンセン病への偏見も、さりげなく臭わせて、観客に柔らかく問いかける描写がとても心地いいのです。それでいて、自分ならどうなのかとぐいぐいと問わずにいられなくなってしまうところが、実に憎い演出!

 河瀬監督にとって、原作がある作品は初めて。だからこそ、ふっと肩の力が抜けた感じになっているのかもしれません。

 物語は、千太郎(永瀬正敏)が営む小さなどら焼き屋に、求人募集の貼り紙を見て、徳江(樹木希林)がやってきます。
 徳江は76歳の高齢者。どうにも仕事ができそうな年齢ではありません。なので千太郎は、高齢者にはきつい仕事と断わります。
 けれども、再び現れた彼女は手製のあんを置いていくのでした。その味に驚く千太郎。それまで彼は、出来合いのあんを使っていたのでした。

 ハンセン病の元患者である徳江役の樹木が素晴しかったです。あんづくりで小豆と対話しながら、彼らの望んでいるという調理の仕方を主張するのは、まるで宇宙人が舞い降りたかのような感じなのです。そんな理解不能な言葉を唐突に並べつつも、ちゃんと結果を出して千太郎を納得させてしまう手練手管。
 画面を通じて、徳江という人物がまるで本当に実在しているかのように見えてしまうほど、演技と見せない演技というか、うまいと思わせないうまさというか、落語家の大看板にも匹敵するくらいの磨き込まれた芸を感じさせてくれました。

 働き始めた徳江があんを作る場面も一見の価値があります。
 小豆を何度も水に浸して灰汁をとる。煮て、蒸らす。砂糖と水を入れてなじませ、水あめを加えて焦げないように混ぜながら煮詰める。その過程をじっくりと、ドキュメンタリーのように見せてくれました。本当に徳江のつくるあんが、彼女のいう優しさと愛情のこもったおいしさを感じさせてくれる映像で、小豆のおいしい香りが画面から漂ってきそうでした。

 あんのおいしさが評判になり、どら焼き屋は行列が出来る店になります。そこに千太郎の雇い主であるオーナー(浅田美代子)が徳江を辞めさせろと言いに来るのです。
 ハンセン病元患者であることが耳に入ったためでした。このとき浅田が、徳江がいた店内にかなり神経質になって、両手を何度も消毒液で除菌しようとするシーンが印象的。
 優しい顔立ちのオーナーが特にヒステリックな差別主義者という描き方でなく、どこにでもいるフツーの主婦という描かれ方なんです。きっと、このオーナーは、無知な世間の代表であり、偏見を体現する重要な憎まれ役として登場しているのでしょう。見ていて、福島は危ないとふれ回っている放射脳に汚染された風評被害の発信人たちと被ってしまいました。現代は平和になった分、逆にチョットしたことでも自らを害されるという恐怖心が蔓延していて、こうした偏見が拡散しやすい社会となっているのかもしれません。

 そしてある日を境に、客足がぷっつりと途絶えてしまいます。誰もハンセン病のことなど囁いてはいないのに、勝手に無視されいく状況のほうが、残酷さを感じてしまいました。それと前後して、千太郎も人に言えない事情を抱えていることが次第に明らかになっていきます。徳江を追い出してしまったことを懺悔する千太郎の涙に、彼の背負っている過去の過ちが重なり、一番泣けたシーンとなりました。

 元患者の徳江、過去に因縁を背負う千太郎、さらに千太郎と親密な常連客の中学生であるワカナさえも厳しい家庭環境のただ中にありました。主要登場人物すべてが、厳しい人生を送っているのに、なぜか明るくカラッとしたルックに本作は仕上がっていました。

 その秘訣は、困難のなかにあっても、それでも世の中を恨まず、逆に少しでも美味しいものを提供していこうとする登場人物たちの愛の深さにあるものと思います。

 ライ病は、顔や肢体の一部がもげていまう外見の酷さのため、長らく偏見を持たれて、隔離されてきた病気です。しかし、どんなに外見は醜くても、魂は健常であり、仏のもとではみんな等しく平等であり尊いのです。外見だけで差別されてはいけないのです。

 けれども無明・無知は誤解を生み、誤解は偏見とたやすく結びつきやすいもの。この作品を見た人たちが、人間は等しく尊いものと感じてくれるように心から願うものです。

 ところでワカナ役の内田伽羅は、樹木の孫。祖母に役負けしないばかりか、重いテーマの本作に、木漏れ日のような明るさを灯してくれました。徳江の親友役の市原悦子も抑えた演技で脇を固めてくれています。

 そして何よりも、河瀬監督ならではの繊細な映像美が、本作の細やかな情感を盛り上げてくれました。ぜひ、逆光を上手く取り入れた映像に注目してください。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

映画レビューアーフォーラム 更新情報

映画レビューアーフォーラムのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。