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映画レビューアーフォーラムコミュの【ネタバレ有り】『柘榴坂の仇討』[日本公開:2014年9月20日]

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 安政7年、彦根藩士・志村金吾(中井貴一)は主君である大老・井伊直弼(中村吉右衛門)に仕えていたが、登城途中の桜田門外で井伊は暗殺されてしまう。その後、あだ討ちの密命を受けた金吾は敵を捜し続けて13年が経過する。明治6年、時代が移り変わり時の政府があだ討ちを禁止する状況で、最後の敵である佐橋十兵衛(阿部寛)を捜し出し……。
 『鉄道員(ぽっぽや)』など数多くの著作が映画化されてきた人気作家・浅田次郎による短編集「五郎治殿御始末」所収の一編を映画化した時代劇。主君のあだ討ちを命じられた武士の不器用な生きざまを通し、幕末から明治へと時代が激変する中、武士として、人としての誇りと覚悟を持って生きる侍たちの姿を描く。監督は『沈まぬ太陽』などの若松節朗、音楽を映画音楽の巨匠・久石譲が担当。『壬生義士伝』などの中井貴一が主人公を熱演し、阿部寛、歌舞伎役者の中村吉右衛門ら実力派が共演する。

 柘榴坂(ざくろざか)は東京都港区高輪三丁目と四丁目の境界に存在する坂。品川駅からちょうど西側に上る道で、第一京浜を挟んで品川駅高輪口(西口)の向かい側にある。 江戸時代には北側が薩摩藩島津家下屋敷だった。
[日本公開:2014年9月20日]

コメント(2)

 主人公の武士の矜恃をひたすら守つけようといる姿に感動しました。試写会終了時では久々に大きな拍手に包まれました。さすがは原作が浅田次郎だけの物語であります。単なる仇討ち映画と侮ってはいけません。仇討ちは幕末を超え、ついには、明治6年2月7日に明治政府から仇討ち禁止令が布告されてしまうのです。ことの顛末の起こりとなった桜田門の変からとうに13年も経ってしまいました。

 もはや幕府も主家の彦根藩もなく、主君をむざむざ殺されてしまった汚名を挽回されることもなく、もはや武士の意地と体面など死語となってしまった明治の世において、何故、何の目的で主人公は仇を求めていまだ探し続けるのか。何故に髷を落とさず刀を差し、武士であり続けようとするのか。その矜恃が謎解きとなって、ラストシーンで明かされるとき、思わずもらい泣きしてしまうくらいの感動が待ち受けていました。
 時代劇ではありますが、描かれることはひたむきに生きることの大切さを問いかけたヒューマンドラマです。ひたむきに生きることのシンボルとなる寒椿がアップされたとき、その一輪の輝き、生命力の強さをクグッと感じられて、観客の皆さんも思わす感動の涙をこぼされることでしょう。

 それにしても主人公の金吾が、十兵衛の行方を突き止めて出会う日は、何と劇的なのでしょう。まさに仇討ち禁止令が布告されたその日。しかも桜田門での事件と同じように雪がシンシンと降り注ぐ日に車夫をしていた十兵衛を金吾は呼び止めて、どこへともなく人力車を出してくれと命じます。

 深い雪の中を、人力車を押しながら十兵衛に金吾が語りかけるシーンは、ずっと後まで記憶に残りそうな名場面です。分かっているのに金吾は当たり障りのない質問をするばかり。それでも、直吉という今の名前の前は何だったのかと尋ねた当たりから、もしやと十兵衛も金吾のことに気がつき始めるのです。

 ここに至る前、伏線として十兵衛の暮らしぶりも描かれていました。所帯を持たず、質素に隠れるように暮らす毎日は、何かを待ち続けて準備しているようでもありました。十兵衛はひょっとしたら、金吾を待ち続けていたのかもしれません。そして、事件後に殺害してしまった井伊直弼の開国政策の正しさを思い知らされて自らを恥じ入り、抜け殻のようになった自分を金吾の剣で終わらせて欲しかったものと思われます。

 金吾も藩命で自害することを禁じられて、ひたすら生き恥をさらしてきました。早く十兵衛を見つけて、大義を果たし自らも切腹して果てたいということが唯一の望みだったのです。そんな死に取り憑かれた二人が、柘榴坂の坂上でついに決闘することに。しかし、従来の仇討ちと違うのは、金吾は十兵衛に自分の刀をわざわざ差し出し、自分は脇差だけで戦うというのです。しかし、十兵衛も刀をとたん自ら自害すらしようとします。仇討ちというよりも、もはやふたりは競って死に急いでいるみたいです。
 金吾は十兵衛と一戦まじわなければ、死んでも死に切れにない思いでした。13年間の思いを込めて金吾が刀を十兵衛の頭上に振り上げた瞬間、目にはあの寒椿が飛び込んできます。そして、ふたりの運命は予想外の展開に…。

 また、金吾に十兵衛の所在を教えることになる秋元と金吾が対面するシーンも素晴らしい台詞の応酬でした。今は、司法省の警部に納まる秋元でしたが、幕府でも目付の要職にあり、桜田門の変で襲撃した水戸藩士たちの吟味にも関わっていたのです。
 彼らは打ち首でなく、国士として名誉の切腹を許されました。その話を聞かされて、金吾は激怒します。しかし、秋元は井伊大老こそ、数多くの国士を葬り、国内を混乱させたった大罪人ではないかと、堂々と言ってのけるのです。さらに激高した金吾は、秋元に斬りかかろうとするものの、切るなら切って見ろと動じない秋元の肝の据わった姿が圧巻でした。長回し気味に二人の思いを滲ませるカメラワークが、絞り出す台詞のひと言ひと言に重みをずっしり感じさせてくれました。
 このとき秋元が庭に咲く、寒椿を金吾に見せて、あのように辛いなかでもひたむきに生きてみないかと諭したことが、前途したラストの予想外の展開に繋がっていくのでした。

 主な出演陣では、主演の中井貴一が素晴らしい演技でした。武士の誇りと覚悟を台詞だけでなく、凜と張り詰めた姿勢で全身で金吾の信念を体現していたのです。しかし堅物というイメージだけでなく、主君井伊直弼の素顔が好きだという理由を語る時の微笑んだ表情も人間味溢れて素敵でした。歴史書では強面に描かれる直弼は、茶や和歌、書を愛好する風流人だったのです。
 一方、十兵衛を演じる阿部寛も、コミカルさを封印して、ひと目を忍び一介の車夫として生きる男の訳有りな孤独感をよく醸し出してくれたと思います。
 本作は、金吾と妻のセツとの夫婦愛も感動的に描かれます。夫を献身的に支えるセツの姿は、見ているだけで涙を誘われることでしょう。そんなセツを演じている広末涼子のいじらしさは、どこか『おくりびと』を彷彿させてくる好演でした。
 さらに出番は少なかったものの人間国宝俳優である中村吉右衞門の存在感たるや圧巻です。19年ぶりの映画出演であるとか。きっと彼が演じたことによって、井伊直弼のイメージが大きく変わることでしょう。
 久石譲の音楽も素敵でした。

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