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映画レビューアーフォーラムコミュの【ネタバレアリ】『ツナグ』[2012年10月6日公開]

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●Introduction
2012年上半期の直木賞に選ばれた作家・辻村深月の同名小説で、吉川英治文学新人賞受賞の感動作を映画化。主人公の高校生・歩美を演じるのは、本作が映画単独初主演となる、松坂桃李。歩美のことを時に厳しくも温かく見守る、ツナグの師であり祖母のアイ子を演じるのは、日本映画に必要不可欠の名優・樹木希林。さらに、佐藤隆太、桐谷美玲、橋本愛、大野いと、遠藤憲一、別所哲也、本上まなみ、浅田美代子、八千草薫、仲代達矢という、錚々たるキャストが脇を固め、作品に確かな品質を与える。監督は、数々の大ヒット作を世に送り出し、日本中に感動を届けてきた平川雄一朗。(作品資料より)

たった一人と一度だけ、死者との再会を叶えてくれる人がいるらしい。半信半疑で依頼をしてくる人たちの前に現れる使者は、ごく普通の高校生・歩美だった。横柄な態度で、癌で亡くなった母・ツルに会うことを希望する中年男性・畠田。喧嘩別れをしたまま自転車事故で死んでしまった親友・御園に聞きたいことがある女子高生・嵐。プロポーズ直後に突然失踪した恋人・キラリのことを信じて待ち続けているサラリーマン・土谷。歩美は、実は“ツナグ”を祖母のアイ子から引き継ぐ途中の見習いで、その過程で様ざまな疑問を抱く。死者との再会を望むなんて、生者の傲慢かもしれない。間違いかもしれない。果たして会いたかった死者に会うことで、生きている人たちは救われるのか。人生は変わるのだろうか。そして死者は……。その疑問は、自身の両親の不可解な死の真相へも向けられていく。
[2012年10月6日公開]

コメント(2)

 “ツナグ”の斡旋に応じて死者が生前の肉体を伴って一夜限りの復活をするという設定には、凄く違和感を感じました。但し、あくまで映画作品の中での設定なので、これをある種のメタファーとして、原作者が本作に託した意図のほうを、観客は読み解かねばいけないのかもしれません。そんな素直なこころで見ると、登場する3組のエピソードに加えて主人公の両親の死の謎にまつわる、生死を見つめた物語に、深い感動を覚えました。

 いつの時代も、生きているものが死者と会いたいと願うのは、変わらぬ願いでしょう。そこには逆説的に、今生きているものたちへの警告が潜んでいると思うのです。明日も笑顔で顔を見せてくれるはずだった。本作で描かれる“ツナグ”の依頼人たちは、みんなそう思っていたはずなのです。けれども蓮如上人にいわせれば、一度無常の風が吹けば、老いも若いも関係なく、等しくいのちは途絶え、朝には元気だった人も夕方には白骨になってしまうなのですね。
 だから、“ツナグ”の存在は、生きているうちに、時間がまだあるからといって先送りしてはいけないことを教えてくれているのだと思うのです。大切な家族や友人、愛する人に、言葉にできない気持ちや、喧嘩してすまないと詫びたい気持ちがわだかまったままなら、とっとと伝えるべきべきなのですね。それを押しとどめているのは、自我の殻というか、自分のプライドを守り、傷つきたくないという自己防衛本能なのでしょう。でもそんな思いでついつい言えないままでいると、この映画の依頼者のように大きな後悔を残してしまうのは必至。死を考えるのは、実は「今しかない」という真実を悟るということなのでしょう。心当たりがある人は、この映画を見たらすぐに実行してみるべきでしょうね。

 本作で語られるもう一つのテーマは、肉体の目で見ているだけが本当ではないこと。主人公の歩美も両親の死をずっとネガティブに捉えて苦しんでいました。けれどもラストで本当のことが知らされてみると、両親の死を超えて、そこにあった自分に対する大きな愛を見いだし、全然違った見方に変わっていくのですね。ひょっとしたら歩美が“ツナグ”を継承していく上で、両親の死は必要な試練であり、人生の問題集みたいなものであったのでしょう。
 人生には、往々にして歩美のように、忌むべき不幸や逆境が用意されていることがあります。それを単に悪しきこととして嘆き悲しむばかりでなく、ちょっと心を落ち着かせて、心の目で見つめれば、次のステップに上がっていくためのチャンスを用意してくれているのだということに気がつくことでしょう。

 そして、もう一つ肉体の目で見ていると気がつかないことは、嘘をついても全てお見通しということなのです。生きている世界では、肉体の壁に守られて嘘はばれません。でも心の世界では、全て見抜かれているのです。ということは、霊能者でなくてもちょっとしたインスピレーションの強いタイプの人なら、相手の嘘を見抜いてしまうことがよくあるってことなんですね。依頼者として二番目に登場する歩美のクラスメートの嵐が、親友に抱いた殺意がバレバレだったことがそれをよく伝えていると思います。
 この世の法律では。実際に殺さないと罪になりません。しかし、こころの世界では。思うここと、実行するとは同じ意味なのです。嵐が抱く、罪と後悔の意識。それはこころで犯す罪の深さを思い知らせてくれます。同時に、反省し懺悔することの大切さを伝えてくれたのではないでしょうか。

 ところで、本作は“ツナグ”のメカニズムについて、深入りしません。それどころか歩美も“ツナグ”の継承者である祖母のツルも、“ツナグ”のメカニズムについて半信半疑なところがいいと思います。イタコみたいに霊の言葉を取り次ぐという教祖面を見せず、ひたすらサポート役に逸するところが、観客の共感を得やすい演出になっていると思えました。“ツナグ”自体には何の力も無いのですね。不思議な力の主役は、“ツナグ”に伝承されている鏡。鏡に向かって何かを唱える所作は、まるで『秘密のアッコちゃん』ではありませんか。それを除けば“ツナグ”なんて、どこにでも居そうな普通の孫と祖母。そんな普通でないことをやっているのに、ごく普通の暮らしをしているという役作りはさぞや難しかったことでしょう。

 平川監督は、主演の松阪に「日常」を求めたそうです。撮影現場で感じた空気をそのままに演じたという松阪の演技は、ごく普通の青年が“ツナグ”の世界に触れて戸惑う姿をよく演じていたと思います。特に、真実を知ることが怖いばかりに“ツナグ”の現場からトンズラした依頼者を叱るシーンでは、次第に“ツナグ”使命感に目覚めつつある歩美の心情をよく表していた好演でした。

 そんな松阪を戸惑わせたのが樹木希林のアドリブ攻撃。本番で急に大女優から、「この台詞いうのやめようと思う」といわれると困ってしまいますよね。祖母ツルは、何を考えているのか掴みどころ無い表情で毎日の孫の歩美に美味しい手料理を振る舞っているばかりでした。両親の死の謎なんてなかなか聞き出せそうもないムードは、まさに樹木希林の役作りの真骨頂でしょう。だからツルが本当のことを告白したとき、堰を切ったように嗚咽する姿には涙を誘われました。さすが良い演技です。
 
 他には、嵐が罪の意識から嗚咽するところでは、橋下愛の演技力の凄さを感じました。近い将来大作の主役として脚光を浴びる女優になることでしょう。  

最後は、ツルの語りで締めくくられる本作。ツルが老後を悔いなく過ごす秘訣とは、何事も執着することなく、若い人に嫉妬することなく、終わりの日まで感謝の思いで生きること。我を張って頑固さを通すよりも、その方がどれだけ幸せか。特に妻と別居を決断した「ビッグダディ」にはそう言いたいです!

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