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映画レビューアーフォーラムコミュの【ネタバレ有り】『英国王のスピーチ』[ 2011年2月26日公開 ]

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●Introduction
 吃音(きつおん)に悩む英国王ジョージ6世が周囲の力を借りながら克服し、国民に愛される王になるまでを描く実話に基づく感動作。トロント国際映画祭で最高賞を受賞したのを皮切りに、世界各国の映画祭などで話題となっている。監督は、テレビ映画「エリザベス1世〜愛と陰謀の王宮〜」のトム・フーパー。ジョージ6世を、『シングルマン』のコリン・ファースが演じている。弱みや欠点を抱えた一人の男の人間ドラマと、実話ならではの味わい深い展開が見どころ。

 ジョージ6世(コリン・ファース)は、幼い頃から吃音というコンプレックスを抱えていたため、英国王ジョージ5世(マイケル・ガンボン)の次男という華々しい生い立ちでありながら、人前に出ることを嫌う内気な性格となり、いつも自分に自信が持てないでいた。厳格な父はそんな息子を許さず、様々な式典のスピーチを容赦なく命じる。ジョージは妻のエリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)に付き添われて、何人もの言語聴覚士を訪ねるが一向に改善しない。ある日、エリザベスはスピーチ矯正の専門家・ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)のもとへ夫を連れていく。ライオネルは、診察室では私たちは平等だと宣言、王太子を愛称で呼び、ヘビースモーカーのジョージに禁煙させる。さらに、大音量の音楽が流れるヘッドホンをつけ、シェイクスピアを朗読するという奇妙な実験を行うが、ジョージはこの治療は自分には合わないと告げ、足早に立ち去ってしまう。だがクリスマス放送のスピーチがまたしても失敗に終わったジョージは、ライオネルに渡された朗読の録音レコードを聞いて驚く。音楽で聞こえなかった自分の声が一度もつまることなく滑らかなのだ。再びライオネルを訪ねたジョージは、その日から彼の指導のもとユニークなレッスンに励むのだった。1936 年、ジョージ5世が亡くなり長男のエドワード8世(ガイ・ピアース)が即位する。そんな中、かねてからアメリカ人で離婚暦のあるウォリス・シンプソンと交際していたエドワードが王位か恋かの選択を迫られる。彼は恋を選び、ジョージは望まぬ座に就くが、大切な王位継承評議会のスピーチで大失敗。だがジョージはライオネルの助けを借り、戴冠式のスピーチは成功に終わる。しかし、本当の王になるための真の試練はこれからだった。ヒトラーの率いるナチスドイツとの開戦直前、不安に揺れる国民は王の言葉を待ち望んでいた。王は国民の心をひとつにするため、世紀のスピーチに挑む……。(作品資料より)
[ 2011年2月26日公開 ]

コメント(2)

 アカデミー作品賞筆頭候補に相応しい作品でした。派手なアクションとか対人関係の葛藤がないけれど、静かに地味深く、主人公の背負ってきた心の傷に迫っていく、滋味深い深い大人の映画といった趣でしょうか。
 だからといって、重く退屈なところはなく、イギリス映画だけに随所にウィットを効かした洒脱なシーンが散りばめられました。試写会でも、ごく普通の「おばちゃん」がゲラゲラと笑っているレベル(^_^;)何です。
 可笑しさの源泉は、まるで『釣りバカ日記』を地で行く、王様と平民のスピーチ矯正の専門家とが対等に渡り合う滑稽さなんですね。これを日本でやったら不敬罪ですよ。天皇陛下を○○ちゃんと呼び合い、吃音指導では平気で叱り飛ばすのですから。こうした作品が成立するのも、イギリス人のシャレっけを理解する粋な心意気だからでしょうか。

 さて、冒頭からピアノのメインテーマがとても心地良く奏でていきます。それはまるで、傷心の主人公を優しく包み込むような音色なんですね。
 すると1925年の大英帝国博覧会の閉会式で、スピーチを控えて不安げなジョージが登場します。案の定スピーチは、吃音によりほとんど語れなく失敗に終わります。
 けれども父王は、ジョージの吃音を認めず、様々な式典のスピーチを容赦なく命じるのです。妻のエリザベスは、見かねて片っ端から言語聴覚士をジョージに引き合わせるものの、かえってそれが逆効果に。だって、口の中にラムネ玉を入れるだけ押し込んで、普通にしゃべれなんて指導は、通常の人だって無理ですよ。ジョージが怒るのも無理はなかったのでした。

 そこでスピーチ矯正の専門家・ライオネルの登場となるのです。ライオネルが自国の皇太子にため口を浴びせるように、地位の上下をなくして、一介の友人として接したのは、決して不遜な気持ちではありませんでした。ジョージをごく普通の悩める人間として、その悩みに触れるために、身分という殻をまず脱ぎさせようしたのですね。そこには、生まれつきの欠点など無い、あるとしたら心が傷ついて、病んでいるだけだという同悲同苦の優しい気持ちと、必ず直るという圧倒的な善念だったのです。
 シェークスピアの『ハムレット』の台詞をいきなり朗読させられ、おまけにその声を録音まで録られて、ひどい録音になったと思い込み、治療の効果がないことに腹を立てて帰ってしまいます。しかし、録音したレコードを聴いてみると、なんとちゃんと朗読できているではありませんか。外部の視線や自身のコンプレックスや恐怖心をシャットアウトする環境さえ作れば、ジョージは普通にしゃべることができたのでした。驚いたジョージは、一端は指導を断ったライオネルの元に、「無言」で押しかけるのでした。
 こうして奇妙な「師弟関係」が始まります。
 しかし、父王が死去し、兄エドワードが王位を継承したものの、「発展家」の兄は、ショージの忠告も聞かず離婚歴のあるウォリスとの恋を選び王位を去ってしまいます。国王は新教の教主を兼ねるため、離婚歴のある女性との結婚はタブーだったのです。
 国王への即位をためらうジョージに、ライオネルは決断を迫ります。いくら対等の約束をした仲でも、ライオネルの立場をわきまえない発言に、ジョージは怒ります。
 但しその怒りは、理性で抑えられて、ただもう来ないでくれと、静かにライオネルに告げるだけでした。ふたりが別れるシーンは、とても映画的な印象に残るものでした。寄り添って歩いていたふたりなのに、突如ライオネルは歩みを止めて、その距離が次第に開いていきました。その場で立ち止まってしまったライオネルの後悔の想いが滲み出てくるかのようなシーンでした。
 王位継承評議会のスピーチで大失敗したジョージは、恥も外聞もなくライオネルの元に訪ね指導を請います。ここでのやりとりで、初めてお互いの過去が語られます。ジョージはライオネルが予想したとおり、年少期から父王のしつけが厳しく、すっかり萎縮してしまっていたのでした。ライオネルが語るには、左利きを無理矢理に矯正された子供は、吃音になりやすいのだそうです。
 逆にジョージが、何故医者ではないのかと、ライオネルに尋ねます。けれどもライオネルは一度も治療するという意識は持ったことがなかったのでした。戦争から戻ってきた友人が戦争神経症になり、言語障害に陥ってしまったのを、ライオネルは自らの役者としての経験を活かして、発声指導を手伝っただけだったのです。でも、その中でライオネルは見つけるのです。どんな神経症の重症者でも、心の傷に耳を傾け、語らせてあげれば回復していくことを。そんな経験から、ライオネルはジョージが自らの心の痛みを語り出すのをじっと待ち続けていたのですね。なんて深い優しさなんだろうと思いました。だから医師の資格を持つ多くの言語聴覚士が尽くジョージの治療に失敗するなかで、唯一ライオネルの指導だけが有効だったのです。
 二人の絆が深まる感動的なシーンでした。

 ジョージが王位に就いたころ、ナチスと友好路線だったボールドウィン内閣に代わり主戦派のチャーチル首相に就任。いよいよナチス・ドイツに戦線布告。国民へ団結呼びかけるため、全軍の長たるジョージは、ラジオを通じて戦いの正義を呼びかけることになります。
 本作最大のシーンは、ベートーベンの交響曲7番第2楽章が用いられ、ジョージの緊張と決意を暗示するかのように、荘厳でドラマチックに描かれていきます。
 ちなみに『落下の王国』という映画で、この曲がメインテーマとしてとても効果的に使用されているので、DVDでチェックしてみてください。
そしてジョージのそばに寄りそう、ライオネルの指導ぶりが実に分かりやすくて、言葉に詰まりそうになるジョージを的確に支えていたのです。

 ジョージ役のコリン・ファースは、吃音の発声をパーフェクトに演じるばかりか、彼が背負い続けてきた幼年期の心のトラウマまで、見事に表現しています。これはもうアカデミー賞主演男優賞ものの演技でしょう。
 またライオネルを演じたジェフリー・ラッシュの、表面では突き放しつつも、全てを飲み込んでいるかのような包容力を見せる、奥の深い演技を見せてくれました。

 全編を通じて、本作から伝わってくるメッセージとして、まず、自分だけに思えてしまう欠点やコンプレックスは、みんな同じに悩んでいるのだと言うことです。国王陛下ですら、人並みのことで悩んでいたのですから。そして、その欠点は、自らを愛することができて自信がつけば克服出来るのだということです。けれども、度重なる失敗の蓄積の結果、自己否定の思いに打ち負かされている人も少なくないでしょう。
 そんな時は、ライオネルのような人生を心から語り合える「法友」を持つことでしょう。単なる友人ではダメです。自分が生きてきた軌跡を打ち明け、これからの道のりを相談し合えるような関係の人と出会えれば、何とか打開する展望が見えてくるのではないでしょうか。そういうかけがえのない関係の友を得ることが、いかに素晴らしいことか、示唆に富む作品でした。

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