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シャーク◎市屋の面白い話コミュの再会

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俺はパンドラの箱を開けた。

2年前に別れた彼女に再会した。


数週間前の日曜日。

俺は来月の引越に向けて部屋の掃除をしていた。

いらなくなった本を整理していると

それらの一冊に挟まっていた写真を偶然見つけた。

それは2年ほど前に別れた彼女と最初のデートで撮った写真だった。

少しはにかんだ笑顔で手を繋ぐ二人の姿がそこにはあった。

もう忘れたつもりだった。

もう思い出すまいと胸の奥底に深く沈めたはずだった。

でもその彼女の笑顔を見ていると

長い間抑え付けていた想いが

決壊したダムから溢れる水の如く一気に込上げて来た。

会いたい。そうは思ってはみたものの

今更そんな事を口するのは俺のエゴ。

彼女にとっては迷惑なだけ。

そして何より今となっては連絡をとる術がない。

だから俺はその想いを胸の痛みに耐えながら

再びグッと飲み込んだ。

しかしその日以来、

別れた当時の様に彼女を毎日思い出すようになった。

二人で見た景色。

交わした言葉達。

彼女の少し癖のある笑い声。

幾多もの想い出が浮かんでは消えた。

彼女の写真を見つけてからおおよそ一週間。

ついには夢まで見た。

別れた時の悲しい瞳をした彼女ではなく

俺の問い掛けに何でも「うん。」と笑顔で答えてくれる

付き合っていた当時の彼女のままの夢だった。

目を覚ました俺の枕元は涙で濡れていた。

止め処なく溢れ続けた想いは沸点に達した。

俺はベッドから起き上がり携帯を取ると一通のメールを送った。

送信完了の文字を確認してから

液晶の右上の時計に目をやるとまだ6時を少し周ったところだった。

出勤時間まではかなりある。

もう一度眠りに就こうと再びベッドに潜りこんでみたものの

心の場所がはっきりと判るくらい胸がズキリと痛み眠れない。

しばらくぼんやりと天井の一点を眺めていたが気分は最悪。

四肢に重りを付けられ海の奥底に沈んでいく様な感覚に襲われる。

ただでさえ月曜日の仕事は憂鬱なのに夢に見た彼女の

幻想がその気持ちに拍車をかける。

それでも仕事には行かなくてはならない。

学生時代だったら2、3日塞ぎ込む事も出来るのだが

今は小さいながらも責任がある。

今日だって午前だけでもクライアントとのミーティングが

2件ある。休むわけにはいかない。

そう思えるだけ少し大人になったのかもしれない。

熱いシャワーでも浴びたら少しは気分が晴れるかもしれない

そう思った俺は鉛の様に重い体を引き釣りながらベッドを出ると

バスルームへと向かった。

すると、"You've got mail."

ベッドの上の携帯が鳴った。

タオルをベッドに放り投げ

急いで携帯を手に取ると先程メールを送った相手、

セギノールからだった。

セギノールは彼女の大学時代の友人で

俺が5年前にこの街に来て初めて出来た友達。

普段はメールを送っても

狩で忙しかったなどのふざけた理由で中々返信してこない奴が

早朝に送ったメールにも関わらず直ぐに返信をくれた。

只ならぬ様子を察知したのだろうか。

女の勘は鋭い。

しかし、

「かめはめ波でない。」

返信内容が意味不明だった。

一体夢の中で誰と戦っているのだろうか。

奴なら魔人ブーが相手でも素手で勝ちそうだ。

千豆いる?そんなメールを作成していると

再度セギノールからのメールを受信した。

「ごめん。寝ぼけてた。レミナと会いたいんだ。

今度の日曜日レミナの家に遊びに行くから伝えてみるよ。

それでもし会えそうな雰囲気だったら連絡するよ。」

寝ぼけ過ぎだろ。そう思いつつも、

2年以上経っても引きずる女々しい俺に応えてくれる

セギノールの優しさに感謝した。


それからの一週間俺は完全に浮き立っていた。

ジャンプの発売日を待つ小学生のように週末を待ちわびた。

お陰で仕事では凡ミスを繰り返し、

いつも以上に上司に叱責された。

それでも平気だった。

レミナとまた会える。

そんな淡い希望があったから。


日曜日。

屋根を叩く雨の音で目を覚ました。

半開きの目で直ぐに携帯をチェックした。

時刻は10時過ぎ。

受信メール5件。

しかし、

怪しげな出会い系のメールと友人からの他愛もないメール以外

受信はなかった。

連絡が来たら直ぐにでも会えるように

その日の予定は全てキャンセルして引き篭もっていた。

何かをただ待つ時間は無限の様に感じる。

瞬く間に過ぎていく日常が嘘のようだ。

テレビを見ても、

パソコンに向かっても一向に落ち着かなかった。

普段は吸わないタバコも起きてから数時間で一箱

なくなった。

いつまでも鳴らない携帯。

時計の短針が30度振れる度に期待は落胆へと色褪せて行き

無限に感じた時間は無常にも確実に過ぎていった。

結局、日が沈んでもセギノールからのメールはなかった。

外を見ると雨は激しさを増していた。

当然だと思った。

お互いの幸せを祈って二人新たな道を歩き始めた様な

綺麗なさよならじゃなかったから、

2年も経ってまた会おう。

そんな気持ちになんてなるはずがないと思った。

心のどこかでは判っていたはずだけど、

やっぱり胸が痛む。

そろそろ俺も前を向いて歩かなきゃいけないな。

そんな事を考えていると

゛You've got mail!"

右手に握りしてめていた携帯が鳴った。

サブディスプレイにはセギノールの名前。

一気に鼓動が加速した。

慌て過ぎて落としそうになりながら携帯を開く。

すると短い文章が一つ。

「レミナ直接電話するって。」

予想外だった。

俺は動揺した。

でも、どんな理由であれ

2年間どれだけ聞きたいと思っても

夢のなかでしか聞けなかった彼女の声が聞ける。

そう思っただけで心は躍った。

数分後見知らぬ携帯番号からの着信があった。

彼女からだった。

「もしもし。」

二年前と何ら変わることのない、俺の大好きな甘い声が携帯の

向こうから聞こえてた。

ただそれだけなのに胸の中に何か温かい物で満たされていく

のを感じた。

「元気?あの時はいろいろ酷い事言ってゴメンネ。」

「俺のほうこそ。」

暫くぎこちない会話が続いた。

しかし、

言葉を交わす度、胸の中の温かい何かは熱を失っていった。

なぜなら

彼女の話す言葉、声の雰囲気。

それらから察すると2年間思い続けた俺の気持ちを知った上で

最後のさよならを言っている感じだったから。

でもここで切ってしまったら

二人の歩む道は本当にもう交わる事はない。

俺は確信した。

だから、

「今どこにいる?少しでも会えない?」

決死の覚悟でそう言った。

すると少し戸惑いながらも彼女は

「・・・うん。」

と小さく言った。

彼女には俺と別れた時から

ずっと付き合っている彼氏がいることは

セギノールから聞いて知っている。

何も変わらないだろうけど

今のこの気持ちだけは伝えよう。

そう心に決めると、

いつも二人が待ち合わせていた駅へと向かった。

彼女との再会。

それはパンドラの箱を開けるようなものだった。

一度開けてしまえば2年前と同じ、

もしくはそれ以上の痛みや苦しみが

止め処なく溢れ出すかもしれない。

平坦だけど平穏だった日常に影を落とすだけかもしれない。

それでも俺は開けた。

ただ彼女に会いたかったから。


日曜日の夜の駅は静かだった。

傘を叩く雨音と水しぶきを上げ濡れたアスファルトを

走っていく車の音だけが響いていた。

降りしきる秋雨のせいか襟元をすり抜ける風は冷たく

ジャケットも羽織らず家を飛び出した事を少し悔いた。

別に駅の何処でと待ち合わせ場所を決めた訳ではないけど、

俺は自然と歩を進めた。

改札をすり抜ける行楽帰りの家族連れと

日曜出勤のサラリーマン。

やっぱりその向こうに彼女の姿を見つけた。

改札近くの公衆電話の横に立つ彼女。

それはかつて当たり前の様にあった風景。

ギュっと胸が締め付けられる感情に襲われながら

彼女の元へ駆け寄った。

「久しぶり。元気だった?」

そう言いたかったけれど、極度の緊張のせいで

噛み過ぎて何を言ってるのか判らなくなってしまった。

そんな俺を見て彼女は小さく笑った。

彼女の笑顔は2年前より少し大人びたけど

俺の大好きな笑顔のままだった。

「ここで立ち話してても寒いだけだし、お茶しに行こうか?」

今度ははっきりそう言うと彼女は頷いた。


駅近くのカフェに入るとぎこちなかった二人の会話も、

次第に弾み始めた。

別れた当時のこと、仕事のこと、そして自分が思っていること

いろいろ話した。

彼女の瞳にはいつの間にか涙があふれていた。

涙の意味など判らなかったけど

相変わらず泣き虫な彼女を見つけられて嬉しかった。

ぎすぎす尖っていた心のカドが丸くなって行くのを感じた。

それと同時に指の先が甘くしびれるなんとも言えない幸福感に包まれた。

彼女は今俺のものではない。

そしてそれはこれからも変わることはないかもしれない。

だけど、思い続けた彼女が今こうして俺の目の前に座り話している。

二度と見ることの出来ないと思っていた彼女の姿がそこにある。

ただそれだけで幸せだった。

2杯目のコーヒーを飲み干したとき

「もうそろそろ行こうか。」

彼女が切り出した。

ホントはずっと、終電が行ってしまうくらいまで話していたかっけれど、

無理強いは出来ない。

後ろ髪を引かれる思いで店をあとにした。


店を出ると雨は土砂降りになっていた。

二人のデートの時は雨が多かったな。

そんなことも思い出した。

彼女に家まで車で送るよ。と言った。

でも彼女は電車で帰るからいいと言った。

少しでも長く彼女といたいと思う俺は送ると言い張った。

彼女も電車で帰れるから大丈夫と言い張った。

ちょっと言い合いになった。

昔もこんな些細なことでケンカしたね。

そう言うと二人で笑った。

結局彼女が折れて家まで送る事になった。

いつも俺の我侭を聞いてくれた彼女。

そんな彼女の優しさにまた甘えた。

代わりに俺は何をしてあげたのだろうか。

振り返ってみてもはっきりと思い出せる事はない。

与えられた十分過ぎる優しさに慢心し、

思いやる気持ちをおざなりにした。

注がれる愛情を不変だと勝手に思い込んでいた。

側にいることが当たり前だと思っていた。

だから彼女の抱えた痛みに気付く事はなかった。

全てが指の間から零れ落ちるその時まで。

車を止めたロータリーへ向かう途中、

彼女と肩を並べて歩るける喜びと、

過去の自分の情けなさを交互に噛み締めた。


彼女は電話、カフェ、そして車中でも

「あの時はゴメン。出会えて良かった。

だけどこれから二人の関係は変わる事はないよ。」

と何度も繰り返した。

俺は

「分かってるよ。ただ気持ち伝えたかっただけだから。」

作り笑いでそう言うのが精一杯だった。

結局、試合は始まることなく

終りを知らせる笛だけが何度も鳴り響いた。

そんな感じだった。

彼女と一緒にいるだけで感じた幸福感も

終焉をリアルに感じた途端弾けて消えた。

でも最後にもう一度、あともう一度だけ伝えよう。

俺は4年半前に彼女に告白した時、

下手なクソなギターを片手に歌ったラブソングを

カーオーディオから流した。

「やめて・・・」

彼女は一瞬で涙声になるとMDを止めようと手を伸ばした。

俺はその手をギュッと握り締めながら

俺は言った。

「最初にレミナに告白した時から今までずっと、 

ずっと変わらず好きだ。もしまた付き合えたのなら悲しい思い、

寂しい思いは絶対させない。だからもう一度付き合って欲しい。」

俺の言葉を最後まで待たず彼女は泣きじゃくり、

嗚咽だけが彼女の口から漏れた。

流れるラブソング、泣く彼女。

4年半前と同じ光景。

でも涙の意味は違う。

俺は最後の審判が下るのを待った。

10分くらい経っただろうか。

落ち着きを取り戻した彼女が漸く口を開いた。

全身に緊張が走る。

「ごめん。泣いてばかりで・・・。

今更こんな事言っておかしいかもしれないけど、

会いたいって言ってるって聞かされたときから

ホントは自分の気持が判らなくなってきて・・・。」

驚いた事に今までと全く違う反応を見せ始めた。

俺は逸る気持ちを抑えつつ

「そっか。判らないなら俺はその答えがでるまでゆっくり待つよ。

今まで2年待ったからあと2年くらい待ったって全然平気だし。」

精一杯強がってそう言った。

「待ってて貰っても気持に応えられないかもしれないよ。」

「絶対大丈夫。俺は運命を信じる。」

「そんな風にしてて辛くない?」

「辛くないよ。大切に思える人がいる。ただそれだけで幸せだから。」

折れそうな心を必死に抑えて笑顔で言った。

「ありがとう。」

彼女はまた涙で顔をくちゃくちゃにしながらそう言った。

彼女を家まで送り届けると、固く握手を交わして別れた。

「さよなら。」じゃなくて「またね。」と言って。

帰りの車中。

良く判らないけど一人泣いた。

ボロボロ泣いた。

声を上げて思い切り泣いた。

これからどんな運命が待ち受けているのだろうか。

運命は自分で切り開くようなものだろうか。

そんな事を考えていると携帯が鳴った。

もしかしてレミナ!?

慌てて手に取る。

「もしもし?」

聞こえたのは今一番聞きたくない声。

「もしもし。今どこ?」

そして悪魔の様に冷たい声。

「こっコンビニかな。」

「ふーん。」

明らかに疑っている様子だ。

「まぁどこでもいいけど、何で今週帰ってこなかったの?

 来週はツトムの幼稚園の運動会だから絶対帰ってきてよ。」

「はい。」

返事をする前に電話は切れた。


無駄に勘のするどい嫁がいると落ち着いて不倫も出来ない。

5年続いた単身赴任生活も後一週間で終わり。

来月からは地獄の始まりだ。

だからなんとか、今日は無理でも来週末にはレミナと一発・・・。

と考えてたのに。残念。

代わりに「今から会える?」

セックスフレンドのちえにメールした。

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