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ワインと私小説コミュのmemories♯6「シャンボール・ミュジニー・1er・レ・フュスロット1986 /ジョルジュ・ミュニュレ」&「フランス娘の甘い唇」

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19の冬、僕はパリにいた。

僕は突如ワインに獲り憑かれ、夜系バイトでせっせと貯めた数十万円をポケットに、単身ヨーロッパ旅行を決行。
ブルゴーニュ〜バルセロナ・マラガ・マド〜オポルト(ポルトガル)〜リヨン・・・
ワインをひたすら求める旅であり、航空便の都合で最終地点となったパリは、フライトの日まで3,4日時間を潰すつだけのつもりだった。

まだ日差しに暖かさの残る季節に旅立ったが、パリに戻ると冬であった。
先のポルトガルも寒かったが(オポルトでの体験は、参考までhttp://mixi.jp/view_community_item.pl?comm_id=365706&item_id=103317)この年、パリは10年ぶりの大寒波とのこと。


当時、時代錯誤なパンクロッカーであった僕は(格好だけ)、
「なめられちゃいかん!!」と作務衣の上に軍用コートをはおり、
頭には青地に「BUSHIDOU=武士道」と白く染め抜いた鉢巻を締めるという出で立ちである。
この格好の寒い事!
当時、気負いとやせ我慢だけで生きてるような僕は、身を縮めながらも得意気にパリの街を闊歩していた。
この不恰好のままムーランルージュ(パリのキャバレー)や洒落たカフェに入ろうとしては「non!non!」とつまみ出されるお粗末。
若い、という事は怖いものを知らないらしい。


さて、パリである。
僕はソルボンヌ大学も程近いサンミシェルSt.に投宿した。
二日目の昼時、腹が空いたので、たまたま宿の近くにあったビストロに入店する。


人生は不思議なものである。
このちょっとした偶然のおかげで、思いもよらず「ワイン」と「彼女」と出会うこととなる。

こじんまりとした店内は、まるで日本の田舎の小料理屋のようなアットホームな雰囲気。
昼間は学生相手なのだろう。
ランチタイムだったためか大学生達で賑わしい。

「こっちは学生もオシャレで色っぽくてエエのうー」
などとよく発達したパリジェンヌの胸元をちら見しつつハウスワインをすすっていると、テーブル越しに美形の少女がずっとこちらを見つめている。


めったにお目にかかれない美形である。
「すわっ、おお、俺に惚れたのかあ〜」
当時(今は違います)、ワインと女性には節操も遠慮もなかった僕だが、「bonjour」の一言も言えずにあたふたするのみ。


そしてびっくり仰天。
彼女はやにわに僕の隣に腰掛けると日本語で話しかけてきたのだ。

お互いに片言の英語と日本語(単語のみ)の会話ゆえ、ほとんど誤解と思い込みで話をしたのだろう。
彼女はソルボンヌで日本文学を研究しており、三島(由紀夫)文学の愛好者らしい。
僕の頭に巻かれた鉢巻を見て、僕が三島のファンだと勝手に思ったようだ。

別に三島のファンではないが、文学少年だった僕は一通りの作品は読んでいる。
ここぞとばかり、俄か三島愛好者に成りすまし、話を合わせたことは言うまでもない。


10分も話したろうか。
彼女は授業に戻らなけらばならないと言う。


「明日、☆付きのレストランにディナーに行こう!」
「一応スーツも持ってますう」
僕はダメモトで、宿の連絡先を書いたメモを彼女に手渡した。


この旅の最後は、とてもつツイていたらしい。


その夜遅く、なんと彼女から宿に電話がある。
明日夕方、宿まで来るという。
ディナーの誘いを本気で受け取っていてくれたようだ。


「すわ、地球の歩き方もねえ。」
地元で(本格的な)レストランなど知るわけもない。
しかも予約を仏語でせにゃならんのとちゃうか!


散々じたばたしたあげく、宿のおやじに八方調べてもらい、
何とか格好のつくレストランを予約することが出来た頃には深夜近くにもなっていた。
その夜、生きた心地がせず一睡もしなかった事を記憶している。


さて当日である。
19の若者には余りにも荷が重いイベントである。


定刻通りに現れた彼女をエスコートしタクシーで目的のお店につくまでの10数分間、何を話したのか全く記憶がない。
更に案内されたテーブルでコートを脱いだ彼女をよく見て、僕はパニック状態となる。


「ひぇぇー、なな、なすたーしゃ、、きんすきー!」

テーブルに着き、その日彼女を初めて正視するのだが、
なんと、大ファンであるかの大女優そっくりだったのだ。
真っ赤なノースリーブのニットワンピース、
そいて真っ赤な唇が艶かしい。
開いた胸元も、丁度僕の目の高さ・・・。


ほどなくソムリエがやってくる。
「得意のワインで勝負じゃあ〜!」
と、カラ元気を出し平静を装いリストを開くと、
超のつくグランヴァン以外知っている銘柄がない。

なになに、CH.ラツール86が3000F(当時で約8万円)、
グランエシェゾー83/DRCが2800F・・・・・!!。
300F位のボトルもオンリストされていたと思うが、全く知らない銘柄ばかり。
ソムリエにフランス語で好みと予算を伝える語学力はもちろん無い。


完全にフリーズしてしまった僕を尻目に涼しい顔のソムリエは、何やら彼女に言っている。
彼女の翻訳によると、このブルゴーニュ・ワインが料理に合い我々のイメージにぴったりだとのこと。
予算もOK(350Fくらいだったか)
渡りに船。
なんでもいいとばかりに「oui oui」とオーダーした。


ソムリエがうやうやしく持ってきたボトルはブルゴーニュはシャンボールミュュジニ村。
「Georges Mugneret/les Feusselottes1986」との出会いである。



およそ人生とは、ギャンブルのようなものではないか。

かつて、この道の恩師曰く
「ワインとは賭けである。その賭けに勝ったものだけが、上のステージに登る事が出来るのだ」


最初からフリーズしっぱなし。
ろくに会話も出来ない日本のガキを前に、人の良い彼女もいい加減白けていたかも知れない。

しかし、僕はその賭けに勝ってしまったようだ。


決して濃厚ではなく、中庸。
色味はやや薄く口当たりはとても柔らかい。
細身だが芯には力があり、目が詰まっている。
何よりも、身も心も固くなっていた僕をほぐしてくれる、
ほっとするような優しい味わいであった。


僕のせいで彼女も相当緊張していたのだろう。
このワインを一口飲むと顔を輝かせ、開放されたように饒舌になった。
お互いに不得手な片言の英語と単語だけの日本語。
ほとんど会話になってなかったかもしれない。
でも、「この不思議な出会いはとても素晴らしい」という事だけは、
分かり合えていたように思う。


有機で栽培された葡萄はほとんどが手摘みで収穫され、古式の機械で圧搾。
これまた昔ながらの開放式の大桶で発酵。
SO2もほんのわずかしか使わない。
繊細な香り。アタックの柔らかい酸味の与える味わいのやさしさ、
しなやかでエレガント。
「優美」と形容される事の多いシャンボール・ミュジニ村の中でも
とびきり「美しい」ワインである。

つい最近までは(今もその傾向はあるが)、アメリカ市場を中心にエキスを過抽出したような濃厚で果実味の強い赤ワインがもてはやされていたものだ。
この2,3年だろうか。
ヴィンテージやテロワール(その土地の風土・特性)を活かした自然な風味のワインが評価されるようになってきたのは。


当主のジョルジュ・ミュニュレは88年に他界するが、未亡人となったマダムが、2人の娘と共に今も畑を守りワインを造り続けている。
地味だった彼女達のワインも今やビッグネームである。
そんな世間の流行廃りや評価などお構いなく、はるか昔から同じスタイルのワインを作り続けているのだ。



さて、タイトルは「・・・・&フランス娘の甘い唇」としている。
ひょっとして、このエピソードの後半部分を期待された読者もいたかもしれない。
残念ながらワインが主題である。
詳細には触れず、食後に行ったバーで挨拶代わりに軽くキスをした、、
という程度に止めておこうか♪



僕は、亡くなったジョルジュの娘達が作るフュスロットのプリムールを飲むことを毎年楽しみにしている。
例年、このワインだけは女性と飲む事にしている。
友人だったり、恋人だったり。



彼女達には申し訳ないが、
飲みながら密かに思い出すのは、あの一夜の甘いくちびるなのだ。

コメント(2)

ん〜 粋ですねぇ。

ベリーベリーな思い出ですねぇ。
まさに、中庸のピノノワールの甘酸っぱさ♪

美しい思い出に乾杯!

モンジャール・ミュニュレのグラン・エシェゾーなら
飲んだことあるんですが。。。

モンジャールさんとは、親戚筋なんですかね?
まぁ、あちらは同じ名前いっぱいあるんですけどね。
モンジャールの当主、ヴァンサン・モンジャールとは畑も近く親交はあったようです。でも血縁関係はないですね。
ジョルジュ・ミュニュレもクロブージョやエシェゾを持ってますよ。

ところで、
ジョルジュ亡き後、娘のクリスティーヌとマリーアンドレは「ミュニュレ・ジブール」なるドメーヌを立ち上げ独自にワインを作っています。
このドメーヌも「フュスロット」に畑を持っています。
実は、こちらのほうが好み♪

味わいは酷似しますが、酸がより柔らかく女性的です。
94からずっと飲んでますが、偉大な年も平凡な年も艶やかでバランスの良い佳品です。
細身だけど質のいい筋肉が適度についた女性。
抱きしめると気持ちいいですね。
そんな感じです。

好評価の2002はプレミアムがつき、もう手に入らないでしょう。
2003なら、探せば見つかると思います。
日照量の多かったこの年。
「フュスロット」も普段より少し肉感的でセクシーです。

是非、女性とお飲みになって下さい。
(僕は何故か男と飲み、後悔している)

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