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桐乃×京介 俺の妹がこんなに可コミュの俺妹 『俺が妹とデートをするわけがない』 1話:4枚のチケット

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◆1話:4枚のチケット

「うわ」

 思わず、といった風にそんな声を漏らしたのは、洒落た服に身を包む茶髪にピアスをつけている垢抜けた女だった。
ご存知俺の妹・高坂桐乃である。

 窓の外に向けられた眼差しは驚きに満ちていて、こういう顔をしているときは年相応に見える。
だが、そうしたあどけない表情は数秒のうちに不機嫌そうなものへと変化した。
百歩譲ってここまではいい。お世辞にも褒められた態度じゃないが、まだ許せる。しかし、だ。

 こんなとき、一体全体、俺はどうしたらいいんだろうね。

「もうちょっと我慢できなかったワケ? なんなの、この早漏ぶり」

 聞き捨てならないにも程がある度し難い悪態に、俺は開いた口が塞がらなかった。
さすがに周囲をはばかってか後半は声のトーンを落としちゃいるが、言い方ってもんがあるだろうよ。

 さて、どうしてこいつがいきなり怒り出したのか、順を追って説明しよう。
理由は簡単、雨が降り出したせいだ。
もちろん、いくらこいつでもたったそれだけのことで怒りはしない。
出掛けに見た天気予報で夕方以降に雨が降ると言っていたのを鵜呑みにしちまったせいで、俺も桐乃も傘を持たずに家を出たんだが、道中、雲行きの怪しさに、あ、と思ったときには遅かったというわけだ。
だから、むかつく気持ちはわかる。わかるんだけどさ。
今のを親父が聞いたら本気で泣くぞ。いや、その前に雷が落ちるか。

 だいたい、意味を知ってて言ってんのか?
いや、さすがに知らないってことはないだろうけど、それならなおのこと外で口にするべき単語じゃない。

 一切恥らう素振りをみせないとこを見ると、ゲームや同人誌で幾度となく目にしてきたせいで無意識に飛び出したんだと思いたいが、いくらなんでも酷すぎる。引くわ。正直、どん引きだ。

「本当、ありえない」

 それはお前だろうと叫びたいのはやまやまなれど、どう考えても周囲にとって迷惑でしかない。
そんなことになれば本末転倒だ。

 どう諌めたものかと迷っていると、左隣、妹からすると斜向かいの席から突っ込みがあった。

「あり得ないのはあなたのほうよ。言葉を謹んで頂戴。ここは公共の場で、あなたは中学生なのよ」

 こちらの意を汲んだわけではないだろうが、すまし顔でずばりと言ってのけたのは黒ずくめのゴスロリ服を着た女だ。
彼女は桐乃のオタク友だちで、黒猫というハンドルネームを使っている。
本名を知った今も慣れ親しんだこの名前で呼び続けているのは、まあ、単純にそっちのほうが馴染んでいるからで他意はない。

「はぁ? なんの言いがかりよ」

 間髪を容れずに返ってきたカチンと来てもおかしくない文句に、後輩は至極冷静に応えた。

「いわれのない非難かどうか、自分の胸に手を当ててご覧なさい。まさか、口にしたばかりの言葉を忘れてしまうほど耄碌(もうろく)しているわけではないでしょう」
「人聞きが悪いわね。まったく、なんなのこの黒いのは」

 妹はぶつぶつ言いながらも怪訝そうに眉を寄せて、不意に目を見張る。
それから、ばつが悪そうに早口で語を継いだ。

「あ……さっきのは、単なる言葉の綾よ」
「別に言い訳なんて求めてないわ。私はただ、TPOをわきまえなさいと言っただけよ」

 お冷のグラスを傾けつつ無表情で答える黒猫に、桐乃があわてて付け加える。

「べ、別に言い訳なんかしてないし」

 ごめんとひと言謝っちまえば済むところで妙なプライドを発揮させちまうのは、こいつの悪い癖だ。
だが、またも俺が口を挟むより先に隣からぽつりとつぶやきが聞こえてくる。

「そう。随分と自然に飛び出したものだから、てっきり常日頃から繰り返し使っているのかと思ったわ」
「はぁ? どさくさに紛れて失礼なこと言ってくれるじゃん、アンタ」
「そうかしら。私はただ、感じたままを口にしたまでのこと」

 ちくちくと痛いところを針で突かれていらだってきたのか、桐乃の目つきは急速に険しくなった。
「まあまあお二人とも」

 そこで、それまで黙って二人のやり取りを聞いていたもう一人、典型的なオタクファッションにぐるぐる眼鏡をかけた身長が180センチ以上もある女が、手首から先をひらひらとさせながら気の抜ける変てこなしゃべり方で仲裁に入る。
もちろん、言わずと知れた沙織である。

「黒猫氏。きりりん氏に悪意があったわけではないのですから、それほど目くじらを立てることではござりますまい。とはいえ、きりりん氏。もう少しオブラートに包んだほうがよかったと、拙者も思いますぞ」

 感情を逆撫でするような言い回しは避けつつも、あくまでもさらりとしかし押さえるべきところはしっかり伝えようとするこの言葉に、辺りに立ち込めていた刺々しい空気は瞬く間に霧散した。

「……あなたの言うとおりね」
「……あたしも、次からは気をつけるわ」

 素直の対極といっても過言じゃない性格の二人がこうもあっさりと折れるんだから、大したものだ。
俺が間に立ったら火に油を注ぐことにもなりかねないし、少なくとも、簡単には丸く収まらないはずだからな。

 とはいえ、桐乃も黒猫も、わざわざケンカがしたいわけじゃないんだろうよ。
沙織はそこを上手く利用したわけだが、折り合いをつけるのが下手というか、不器用な二人の機微を巧みに操ってしまう術は、見事と言うより他はない。
 こっそりと目礼すると、沙織は口元をω(こんなふう)にして小首を傾げた。
いつもながら、結構なお手前だよ。


 ぐるぐる眼鏡の呼び出しに応じて俺たちが集まったのは、これまで何度も利用してきた総武線沿線の某駅構内にあるカフェだった。
到着してすぐにひと悶着がある辺り、らしいと言えばらしいかもしれないが、毎回、飽きもせずよくやるもんだ。
まあ、ケンカするほど仲がいい、ってことなんだろうけどさ。

 ともかく、ようやく本題である。

「ところできりりん氏、来週の土曜日はお忙しいですかな」

 各自が飲み物の注文を終え、ウエイトレスが席を離れたところで沙織はにこやかに切り出した。

「ううん、別に」

 妹の顔にはもうさっきの険しさは微塵もない。
沸点は低いが、後に引きずらないのはいいことだと思う。
ただ、俺に対してだけは、些細なことをいつまでも執念深く覚えているのはどうしてなんだろうな。
ことあるごとにほじくり返してくるしよ。ちくしょう。思い出したら腹が立ってきたぜ。

「黒猫氏はいかがでござるか?」
「特にこれといった用事は入っていないわ」

 かぶりを振る黒猫に、ぐるぐる眼鏡は満足そうにうんうんとうなずいた。
次いで、彼女の顔が隣の俺へと向けられる。

「念のために聞きますが、京介氏のご都合はいかが?」
「ああ、まったく問題ないぜ。スケジュール帳は真っ白だ」

 即答できちまうところが、少し寂しい。
こいつも、最初から予定が詰まっていない前提で話を振ってきてるしな。ま、実際なにもないんだけどさ。

「それで、その日になにがあるんだ?」
「フフフ、よくぞ聞いてくださいましたな京介氏!」

 こいつのトレードマークといっても過言ではないギリシャ文字の小文字のオメガみたいな口元で、沙織は突然妙なポーズを取った。
片手で顔を覆い隠しながら、残った一方でこちらを指差している。
これは、なにかリアクションを返してやるべきなんだろうな。それはわかる。
惜しむらくは、なにをするべきかちっとも思いつかない点だった。
もっとも、考えがあったところでこいつのテンションについていけたかどうかはわかんねえけど。

「ノリノリのところをすまないが、元ネタがわからん」
「申し訳ござらん。拙者としたことが、選択ミスでござる」

 ぐるぐる眼鏡の大柄な女が漫画かなにかみたいに首がほぼ真横になるくらいがっくりとうなだれる姿は、本人としては単に残念な気持ちを示そうとしているのだろうが、結構怖い。
正直に言えば傷つけそうなので、そうか、と短く答えるだけに止めておいた。
そうしないと、いつまでも先に進まなさそうだからな。

「さて、話を元に戻すといたそう」

 沙織は目の前に置いた箱を持ち上げて横に置くという古典的なジェスチャーをしてから、明るい声でこう続けた。

「実は、東京ミュンヘン村の入場チケットが手に入りましてな。せっかくなので、皆をお誘いしようと予定をたずねてみた次第でござる」
「へえ」

 意外にも、真先に反応したのは桐乃で、ソファに深く背をもたせかけて適当に聞き流していた態度はどこへやら、俄然、食いついている。
これに気をよくしたぐるぐる眼鏡は人差し指を立ててにこやかに言った。

「遊園設備がすべて使い放題とはいきませぬが、今の季節でしたらサルビアやコスモスが綺麗ですぞ」

 どうでもいい話、千葉県内にある施設はどうしてどれもこれも、頭に東京とつけたがるんだろうね。
某ネズミの王国といい、ミュンヘン村といい。ま、言っても仕方がないんだけどさ。

「実は、ついこの間撮影で行ったばかりなんだケド、終了間際に天気が崩れちゃってゆっくり鑑賞してられなかったんだよね。ナイスタイミング」
「いやいや、喜んでいただけてなによりでござる」

 テーブルのあちら側ではしゃぐ妹をしばらく眺めていた俺は、ふと左隣に目を向けた。
さっきから黙ったままだが、あまり乗り気じゃないんだろうか。

 一応、声を落として聞いてみる。

「お前はどうなんだ?」
「別に、行ってもいいと思っているわ」

 無愛想な言葉を小声で返してくる後輩の横顔を見て、俺は密かに胸を撫で下ろした。
知り合ってから数日の付き合いじゃないせいか、わかる。
こいつはこいつで、沙織たちと遊びに行けることを喜んでいるようだ。
これは、きっと気のせいなんかじゃない。

「だって、私がいなければあの女はなにをしでかすかわからないでしょう。保護者ぶるつもりは毛頭ないけれど、沙織がわざわざ誘ってくれたのだから仕方なく同行するわ。……なにかしら。また、なにか勘違いをしてそうな顔をしているけれど」
「はは、そうかい」

 な? まったく、素直じゃないぜ。つい、頬が緩んじまう。
だから、調子よく対面に座る妹へ声をかけちまった。

「桐乃」
「うん?」

 きょとんと目を瞬かせる桐乃に、よかったじゃねえか、とごく自然に言葉が紡ぎ出される。
すると、珍しい出来事が起きた。

「うん」

 わずかに頬を紅潮させて目と口元を弓にする姿は、本当に俺の妹かどうかを疑いたくなるくらい、かわいらしい。
いつもこうだといいんだけどな。俺だって、罵られるのが好きなわけじゃないんだ。本当だぜ?

「ところで京介氏」

 周囲がほのぼのとした空気に包まれる中、沙織はテーブルの上で浅く組んだ腕を胸元に寄せて、わずかに身を乗り出してきた。

「どうした?」
「どうしたもなにも、京介氏は勘違いしてるようにお見受けするでござるよ」

 なんのことだ?
首を傾げる俺に、ぐるぐる眼鏡はニヤリと口の端を持ち上げる。

「さっきから他人事のような話し振りですが、拙者は京介氏にもご一緒していただくつもりですぞ」
「は?」

 思わず間抜けな声を出しちまった。
完全に、予想外の台詞だった。あれ? お前たち三人で行くんじゃないの?

「でも、チケットは」
「ハッハッハ。私は一度も手に入ったのは三枚などとは言っておりませんぞ。ほら」

 取り出した四枚の券でパタパタとあおぐ仕草をする沙織に、あっけに取られるばかりだった。

 そのときである。

「ばかじゃん」
「相変わらずの察しの悪さね」

 前方と左方から同時に発された冷ややかな声に、半分以上納得してしまった俺はなにも言い返すことができなかった。

To be continued...

◆舞台裏「大胆発言」
 例によって、オーディオコメンタリーの収録現場である。

「お兄さんって、割と抜けたところがあるんですね」

 画面に映る俺たちの映像を横目に、本日のゲスト、妹の親友にして級友でモデル仲間でもある黒髪の美少女がふふ、と楽しそうに口元を緩めた。

「まあ、否定はできんが」

 短く答えて苦笑する。思い当たる節がないではないため、反論しづらかった。
それにしても、言ってくれるぜ。加奈子とのやり取りを見ていてもわかるように、あやせは歯に衣を着せないところはあるが、俺に対しては単に遠慮がないと言い換えた方がよさそうだ。

「これはこれはご謙遜を。もっと胸を張っていただいて構いませんぞ、京介氏」
「謙遜してねえよ。というか、褒めてないからそれ!」

 丁寧な口調で失礼なことを言うぐるぐる眼鏡に取り敢えず突っ込みを入れるが、はて、とオメガの小文字みたいな口でほほえむばかりでこたえた様子はまったくない。
本当、いい性格になってきたもんだぜ。
誰かさんの影響を受けているのか、それともこれが地なのかは知らねえけどよ。

「でも、沙織の言葉はあながち間違っていないわ、先輩」

 同じ黒髪でもあやせとはまったくタイプの違う、小さな薔薇をあしらったヘッドドレスを着けたゴスロリ女は前を見つめたまま俺に声をかけて、次の台詞を独りごちるような調子で付け加えた。

「そういうところがかわいいと思うのは、私だけではないはずよ」
「かわいい、ね」

 オウム返しにつぶやいて、頬をかく。
なんだかくすぐったくなる表現だな。悪い気はしないけどさ。

 そんなことを考えていると、すぐ隣から楽しげな声が聞こえてきた。

「おやおや黒猫氏。これは大胆発言ですなあ」

 言うが早いか沙織はおかしみを押さえようとしているのが丸分かりの顔で、俺の眼前で卓上に思いきり身を乗り出し、半ば寝転がるような体勢を取る。
シャッターチャンスを捕えようとするカメラマンもかくやといったところだが、これは第三者だからこそのんびりそんな風に思えるのであって、
下から覗きこまれる形になった当事者である黒猫は、やや頬を引きつらせながら否定する。

「ば、莫迦を言わないで頂戴。私はただ」
「ただ、なんですか? わたしも興味がありますね、そのお話」

 いつの間にか、あやせはぐるぐる眼鏡の逆サイド、すなわち黒猫の背後に移動していた。
心なし顔が赤くなっているように見えるゴスロリの後輩は、一瞬こちらに目を向けてから、ツン、とすまし顔で応える。

「あなたには関係のない話よ」
「いえ、関係があります。わたしは桐乃の親友で、それはあなたも同じはずです」
「だから?」
「ですから、わたしにも知る権利がありますよね。違いますか?」

 すごい理屈だな、おい。にこやかに、なに言っちゃってんのこいつは。
その理論でいけば、見知らぬ他人からもプライバシーを聞き出せることになるじゃねえか。

「その程度のまやかしで私が口を割ると思ったら大間違いよ。あなたに話すべきことなどなにもないわ」

 しかし、このときすでに黒猫包囲網は完成していた。

「まあまあ黒猫氏。そう、つれなくするものではござりますまい。ささ、こっそりと拙者に耳打ちしてくだされ。胸の内に燃える熱き想いを、存分にさらけ出してくだされ!」
「意味が分からないとさっきから言ってるでしょう」

 横合いから抱きしめられて身をよじる後輩に、沙織は遠慮など要りませぬぞ、さあ、と繰り返す。
それこそ、子猫がじゃれあっているような光景だった。
ここに桐乃もいたら、なお微笑ましい眺めだったんだろうな、と思うよ。

「楽しそうですね、二人とも」

 さすがに横槍を入れられないと踏んだのか、黒髪のモデルは仲睦まじいやり取りを見やりながら眉尻を下げた緩い笑みで言った。

「だな」

 相槌を打った俺も、似たような表情をしていたんだろうよ。
異論なんざあるはずがない。実際、思わずにやけてしまうくらい、楽しそうだった。

「わたしは、こんな風にははしゃげないですね」
「性格とか、あるからな。でもよ、桐乃と一緒にいるときのあやせは、本当に楽しそうだぜ?」
「……っ」

 俺の指摘に、あやせはわずかに目を見張った。
二人でいるとき、傍目にも妹のことが好きで好きで仕方がない、っていうのがありありと伝わってくる。
ありがたい話だよ、まったく。

「それはさておき、そろそろこいつらを引き剥がすぞ」
「場面も切り替わりそうですし、ね」

 俺は、いたずらっぽく唇を少しだけ持ち上げて笑う黒髪の美少女と共に、完全に仕事を忘れている沙織を落ち着かせることにした。

コメント(1)

 俺妹SSで、こうしてメインどころが一堂に会するお話はあまり書いていないな、と今頃になって気づきました。
黒猫と京介、桐乃と、あやせと、そんな形ばかりでしたが、やはり、大勢がそろうお話は楽しいです。
リメイク版なので、続きは間を開けずお届けできると思います。

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