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くだらない日記部コミュの毛、フライアウェイ。

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「クソッッ!マスコミはまだ来ぉへんのか!ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!!もーええわ!お前らの中から適当に1人ブチ殺したるわッッ」

とある地方銀行にて立て籠もり事件が発生してから既に2時間。

「お、落ち着いて下さい。今はマスコミや警察も対応に追われていて大変なんですよ、あなたも分かるでしょう?なんだってこんな日に立て籠もりなんか……」

凶悪な犯罪が白昼堂々行われているにも関わらず、駆けつけた警察車両は僅か3台。

「じゃかぁしぃ!!殺すぞ!!引き籠もっとったからそない大変な事になっとるとか知らんかったんや!けどな。俺は籠もるのは得意やぞ。2年でも3年でも立て籠もったるからな!覚悟せぇや。……それにしても遅いんじゃマスコミッッ!!俺は目立ちたいんじゃ!注目されたいんじゃ!その為にわざわざこんな事やっとんじゃ!はよ来いや!!」

駆けつけた警官は激しい風雨の為、車両の外に出る事はせず無線連絡に終始している。
マスコミの車両に至っては未だに0台。

“目立ちたい”という短絡的な動機で凶行に走った犯人が激昂するのはもはや時間の問題だと人質の誰もが思った

―――その時

1台の報道車両が銀行の前へ現れた。



「青山、本当にいくのか?葛西、お前もこの間子供が産まれたばかりじゃないか」

「はい!後悔はありません!」

「俺が撮らなきゃコイツのレポートが無駄になっちまいますからね」

「しかし…外は危険だぞ」

「分かってます……だけど、それが僕達報道に携わる者の使命ですから!葛西さん行きましょう!」

「へへっ、ったく損な役回りだぜ。ま、こんな嵐の中でカメラ回せんのは俺ぐらいなもんだからな!」


この道20年のベテランカメラマン葛西、そして配属僅か一年の新米キャスター青山。2人が車両から飛び出す。



「おぉーしっ!青山ぁ!いつでも良いぞぉーっ!!」


「こちら、現場です。超大型台風、11号の勢いは留まるどころか更に勢いを増しここS県M市では河川が氾濫、避難勧告が出されたにも関わらず、現在、拳銃を持った男が銀行に立て籠もっています。余りに激しい雨や風に私も立っているのがやっとの状態です!一刻も早く人質が解放されるのを願うばかりです」


――――――――


「おっそいんじゃボケ!こらハゲ!おら、そこのオッサン!もっとボリューム上げろや!ほれダッシュや!」

テレビを見ていた犯人、米田が拳銃を片手でぞんざいに扱いながら不満の言葉を漏らす。しかし、その顔は言葉とは裏腹に歓喜に満ちていた。
世間が今、俺に注目しているぞ、そんな気持ちが透けて見えるような醜い笑みだ。

テレビにはレインコートがピッチピチに張り付いた青山が懸命にレポートしている姿が映し出されていた。
傘などは最早なんの役にも立っていない。

「まぁせっかくマスコミのボケも来たこっちゃし、この雨や。警察も避難誘導やらなんやらで人数集めようにも集められんやろ。こりゃ突入とかそんなんはまだまだ先やな。まずは……食いもんやな。人質1人と食いもん交換や。警察に直接電話したってもかまへんけど、せっかくやしな。目立つ為には……こうや!」

米田は近くにあったカレンダーを破り取ると裏の余白に人質1名と食料交換の旨を書き、窓を開けた。


「依然、犯人に動きは無いまま2時間以上が……あ!ご覧下さい!あれは…犯人でしょうか?犯人らしき目だし帽を被った男がこちらに何か見せています!」

葛西がすかさずズームアップするが荒れ狂う暴風雨の為に紙に書かれた文字が全く見えていない。

画面に映し出された自分の姿に歓喜する米田。

「うぉおぉぉぉ!!俺がテレビ出てる!ギャハハハ!こらボケハゲこら。下手くそか!ブレブレで全然文字見えてへんやんけ!ちゃんと撮れやハゲ!……うおっ!」

突如巻き起こった突風で米田の手から要求を記した紙が勢い良く吹き飛ばされた。

―――その、直後。


バサササバサササバササササササ!!
ブリリリリリリ!
ブリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!
ビィィィィィイィィイィイ!!!

凄まじいノイズが銀行内部に響き渡る。余りの爆音に米田や人質も顔を歪めている。

「テレビや!!テレビのボリューム下げぇ!!」

音の出所を察知した米田が声を張り上げているが、人質には全く聞こえていない。耳を押さえながらテレビに近付いた米田が見たもの。
それは、ついさっき風に飛ばされたハズの要求書だった。

要求書がテレビに映っているのである。しかし、それだけでは無い。

その要求書はあろう事か青山の顔面に張り付いており、青山は必死にそれを取ろうとするのだが雨に濡れたカレンダーの紙は分厚く、更にこの風である。
一向に取れる気配が無い。
張り付いたカレンダーの角が青山の手に持っているマイクに丁度触れており、風に煽られ高速でバイブレートしている。
それがこの凄まじいノイズの正体だった。



「くっそぉぉぉぉ!!なんやねんっ!!コイツめっちゃ目立ってるやんけぇぇぇぇ!!!」

米田が怒るのは無理も無い。
目立ちたいが為、テレビに取材されたいが為、自分が主人公であるかのように錯覚したいが為に銀行まで襲った。

しかし、今、テレビに撮されているのは顔面にカレンダーが張り付き、右往左往している珍妙な男。
視聴者の視線を一身に浴びているのは間違いなく青山の方であった。


しばらく奇妙な創作ダンスのような動きをしていた青山だが、顔を風下に向けカレンダーを吹き飛ばすと云う機転を利かせようやく元のレポーターの姿へと戻った

――――かに見えたが。


「おい、あれ……」

テレビ近くに座らせられていた50台後半の男性が異変に気付いた。
その声に気付いた人質達が1人、また1人とテレビ画面を凝視する。
そして人質の誰かが発した

“え?これさっきの人?”

という言葉を皮切りに、先程まで殺伐としていた銀行内部に笑い声が広がり出した。

人質達の異変に気付いた米田がすぐさまテレビを凝視する。
しばしの沈黙の後、米田は近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
一言も発する事なく顔を真っ赤にしている米田。明らかに怒っている。

しかし、彼は同時にこうも考えていた。

【もう、目立つのは無理かもしれない】

と。

米田が目立つ事を諦めかけている理由。



それは

髪だ。



青山の髪の毛が宙を舞っているのである。
先程、機転を利かせカレンダーを飛ばした際に青山はカツラまで飛ばしてしまっていたのだった。

今、彼の命とも呼べるカツラは僅かに絡まった残り少ない自毛のみで彼の体と繋がっている。
それが暴風に煽られまるで凧のようにギュンギュンと青山の後頭部付近で暴れはっちゃけているのだ。

その様子はさながら背後霊、はたまたバックダンサーの如し。


葛西のカメラが激しく揺れているが、風のせいなのか、それとも笑っているせいなのか。判断できない。

当の青山は直接頭皮に吹きかかってくる雨や風で自身の身に起きた事を理解したのだろう。カツラ回収の為に手を伸ばすのだがまるでカツラは意思でも持っているかのように右へ左へ、上へ下へとキリモミしながら暴れている。


テレビを見ている人質からも「あぶない、千切れそう」だの「あぁ、おしい」だの「がんばれ、がんばれ」だの「今、一瞬ちゃんと乗ってた」だのの声が飛んだ。

極度の緊張下におかれている人質ですらこのような有り様なのだ。
お茶の間でニュースを見ている人間が米田に注目しているとは考え難かった。


「クソハゲ、クソハゲ!こンのボケハゲ、ホンマにハゲとるとか反則やろ。全部台無しや。コイツのせいで全部台無し。……殺したる。コイツは絶対殺したる」

怒りの余り、半ば呆けたようになった米田が拳銃を片手に銀行から飛び出す。


直後、窓ガラスがたわむ程の、一際強い風が吹いた。


―――――――――



我を忘れて飛び出した米田は直ぐに逮捕され、事件は解決した。
米田が飛び出した際、葛西が咄嗟に叫んだ「青山!伏せろ!」に対して青山が発した

「そんな事より俺のヅラが!!」

は、その年の流行語大賞にノミネートされ、青山のハゲは誰もが知ることになった。

けれど、青山は忘れない。
毎日の頭皮マッサージを忘れない。

例え日本中が無理だと言っても青山は奇跡を信じている。

信じる力が奇跡を起こす!
その言葉を信じているのだ!



でも、生える気配無し。


コメント(6)

映像が目に浮かびますよね〜o(^-^)o


3メガネ!!


【6】
3メガネ!

ほとんど全てのシーンでかなり笑いました。この夜中に。

あーおもしろかった!
3メガネです。

こういうの大好物です(*´ー`*)♪

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