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くだらない日記部コミュのオチュア、きみの事を書いたよ。

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チルドレン・ウォー(子供戦争)
最終部



オチュアは吹き飛ばされた手の治療を受けた。
オチュアの左手は細菌感染の為に手首から先を切除せざるをえなかった。
そして右手にはかろうじて3本の指が残った。
オチュアは手が完治した後、難民キャンプに収容された。
身寄りが無く、故郷の集落の人間も全て死に絶えたオチュアの落ち着き先はまだ決まっていなかった。

ある晴れた昼下がり、オチュアは民兵組織の根拠地から助け出された後肌身離さず持っている星の王子様の本と、救援物資を包んでいた何枚かの汚れた紙とシスターから貰ったちびた鉛筆と小さい消しゴムと小さな鉛筆削りを持って、キャンプの外れにある、木陰のテーブルに向かって、足を引きずりながら歩いていた。

テーブルに着いたオチュアは、しばらく難民キャンプを眺めた。
昼の食料の配給が終わり、キャンプの喧騒が静まっていた。
大人たちは生きる為の作業を始め、子供達はあちらこちらで歓声を上げて走り回っていた。
とりあえず差し迫った命の危険が無い。
オチュアは紙を拡げ、手首から先が無い左手で紙を押さえて、指が3本しかない右手で鉛筆を握り、何かを紙に書き始めた。
カメラを何個も首から下げた一人の東洋人のカメラマンが、キャンプをぶらぶらと歩いて来てオチュアに気付いて近寄って来た。

「何を書いているの?」

カメラマンの問いにオチュアは顔を上げて笑顔で答えた。

「お話を書いているのよ」

「どんなお話?」

「へへ〜、まだ、内緒なの」

オチュアは紙を隠して笑いながら答えた。

「君は何か欲しい物、あるかい?」

「白い紙と鉛筆を沢山欲しいわ。
 書きたいお話がいっぱいあるの」

「なるほど、お話を書いてるんだね?…将来、君は何になりたいかい?」

オチュアは紙にお話を書きながら答えた。

「あたし、絶対に作家になるの。
 絶対にね」

「何故?」

オチュアが笑顔を上げて答えた。

「作家になって、素敵なお話を沢山書いて、世界中の人に良い影響を与えるの。世界中の人を優しくするの。そうすれば…」

オチュアがキャンプの中を見回した。
カメラマンもオチョアにつられてキャンプを見回した。

「そうすれば…こんな事が起きなくなるかも知れないでしょ?
 皆が仲良く暮らしていける世界になるかも知れないでしょう?」

「…そうか、頑張ってね。
君の書いた本を読める日が来るのを楽しみにするよ」

カメラマンは持っていたシャープペンと書き込みがあるページを破りとった手帳をオチュアの前に置いた。

「君にプレゼント。
 どこかに白い紙があったらまた持ってくる。
 この本、僕も子供の頃に読んだよ。
 素敵な本だね」

カメラマンがオチュアの手元に置いてある、星の王子様を指さした。

「ありがとう!
 私もこの本、大好きなんだ。」

「未来の作家さん、握手してくれる?」

カメラマンはオチュアが差し出した三本指の右手を両手で優しく握りしめた。

更にカメラマンは胸ポケットからチョコレートを出してテーブルに置いた。
カメラマンはオチュアを写真に撮ると、手を振りながら歩き去った。

オチュアとカメラマンのやりとりを見ていた5〜6歳位の男の子がテーブルのチョコレートを引ったくり、走って行った。
チョコレート欲しさに他の子供達が男の子を追って行った。
オチュアはあっけに取られて残った片方の目で子供達を見送り、やがて笑顔で頭を振りながら、三本の指で鉛筆を握り、また、紙に書きかけの話を書きこんだ。

乾季の始まりのキャンプは、雲ひとつない青空が広がっていた。

お話を書くのに没頭していたオチュアは人の気配に気づいてふと顔を上げた。
先程オチュアからチョコレートを盗んでいった男の子が立っていた。
男の子は謝る様な照れ笑いを浮かべてオズオズとオチュアにチョコレートを差し出した。
チョコレートは包み紙を破られて殆ど食べられていたがほんの少しだけ残っていた。
男の子が申し訳なさそうにオチュアにチョコレートを差し出した。
オチュアは、じっと男の子を見つめたが、やがて笑顔を受かべてチョコレートに手を伸ばした。
ひとかけらのチョコレート。
オチュアにはそれで充分だった。
ほんのひとかけらのチョコレート。
男の子がオチュアに返してくれたほんのひとかけらの小指の先ほどのチョコレート。

オチュアは、それだけあれば私達はささやかに生きて行けるのに、世界中の人がひとかけらのチョコレートを残してくれれば、世界中の人達が私達から奪って行く中からひとかけらのチョコレートを残してくれれば、私達は残された絶望的に少ない物を奪い合って戦う事が無くなるのに、とふと思った。

そしてオチュアは男の子が返してくれたひとかけらのチョコレートにささやかな希望を感じた。

全部食べないでオチュアの為にひとかけらのチョコレートを返してくれた男の子の心の片隅にひっそりと存在していた善意に、これから先の世界に希望を感じた。

オチュアの心に浮かんだほんのちっぽけな、そよ風でかき消されてしまうほどのささやかな希望。

だが、その小さな小さな心の光をオチュアはぎゅっと抱きしめた。

どんなに小さな光でも、どんなにささやかな希望でも。

オチュアはひとかけらのチョコレートを口に入れ、目がくらむほどに甘く美味しいチョコレートを味わいながら男の子に微笑んだ。

どんなに小さな光でも、どんなにささやかな希望でも。

男の子はほっとした照れ笑いでしばらくオチュアを見た後、背中を向けて走って行った。

どんなに小さな光でも、どんなにささやかな希望でも。

オチュアは紙に向かい、またお話を書き始めた。



昔、ある所に、小さな村がありました。

村の人々は、貧しいけれど少ないものを皆で分け合ってお互いに肩を寄せ合いひっそりと、しかし平和に暮らしていました。

村にはンガリと言う、痩せたギョロ目の少年がいて、彼は仲良しの犬を連れてサバンナに出かけて何か食べるものが無いか探していました。

ンガリの弟や妹達はンガリよりもずっとずっとお腹を空かせているのです。

ンガリは古い大きな木の根元に小さな小さな光を見つけました…






難民キャンプのシスターが苦労して手に入れたオチュアのエイズ発症を抑える薬を打つ時間になったのでオチュアを探してキャンプの中を歩きまわっていた。
オチュアはシスターが呼ぶ声にも気付かずに夢中でお話を書いていた。
オチュアの頭の中にどんどんとお話が湧いてきて、不自由な手で鉛筆を握りしめ一所懸命にお話を書き続けた。

自分に残された少ない時間を、素敵なお話で世界が優しくなるお話で世界が争いを捨てるお話で埋め尽くそうと、オチュアはお話を書き続けた。


それはオチュアにとって戦いだった。

絶対に負けたくない戦いだった。

オチュアは真の戦士になっていた。

どんなに小さな光でも、どんなにささやかな希望でも。

魂が叫び続ける限り。

どんなに小さな光でも、どんなにささやかな希望でも。

魂が叫び続ける限り。

それはきっと。




それはきっと。














終わり。












いままで世界中に起きた悲しい争いで亡くなられた方達、家族や大事な人を奪われた人達、家や食べ物や心の中の大切な物を奪われ辛い思いをした人達、そして、今この時もなお、銃を持たされ、爆弾を体に巻かれ無理やり戦わさせられている何万、何十万人ものンガリやオチュア達にそしてこれから地獄の様な世界に生まれてくる子供達にこのお話を捧げます。

武器を取って食べきれないほどのチョコレートを奪い合うよりも、笑顔でひとかけらのチョコレートを分け合う方がどんなに人間的なのか。

残された少ない時間の中で人類はいつの日か必ず、長い長い、気が遠くなるほど長く続いているこの愚かな醜い同志討ちを追い払う日が来る事を切に、切に願っています。



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