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Bar.の亭主コミュの再会

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ある酒場の風景
二十一世紀の夜明け前、二十世紀の面影を
残したノスタルジーな酒場を覗いてみた。
それは、やっているはずのない、日曜日の
酒場で呑んだ一杯の混合酒から始まった。
やがて、夢は現実の姿に……。



エピローグ
一九九五年三月十九日 日曜日
リキュールグラスに注がれたアブサンが白
濁した様なそんな空だった。
何時からあったのだろう。その酒場は繁華
街から、少し外れた路地に佇んでいた。
私は吸い込まれる様にして、酒場の扉を開
いた。店内は薄暗く、音も無かった。いや、
微かに流れているのは、ビリー・ホリデーの
『オール・オブ・ミー』だろうか。
その店は、開店したばかりらしく、客は誰
もいなかつた。
私が目の前のぶ厚い一枚板のカウンターに
近づくと、バーテンダーが一人近寄ってき
た。
何を飲るか思案しているとバーテンダー
が、
「よろしかったら、おもしろいカクテルがあ
るんですが」
と、持ちかけてきた。私は、今夜の一杯目の
酒をバーテンダーに任せた。
バーテンダーは銀製のシェーカーとミキシ
ンググラスを用意すると、何やら、酒の調合
を始めた。
シェークの音が誰も居ない店内に響き渡り
アンティックな底の丸いカクテル・グラスに
薄緑がかった白っぽい液体が注がれた。次に
バーテンダーは、素早くミキシング・グラス
で何やら琥珀色の液体を撹拌し、何と、先程
のカクテルにフロートして、私に差し出し
た。珍しい作り方で、やたら手間のかかるカ
クテルだ。
私は、カクテル・グラスに口をつけると、
何だか、夢の光景をみる想いがした。
冷たく、すっきりとした口当たりだが、味
わってみると、甘みの様な、苦みの様な、ま
た、不思議なハーブの香りのする、そんなカ
クテルだった。
以前に、出会った事がある様な……これが
デジャブというやつだろうか。
私は、思わずバーテンダーに目をやった。
バーテンダーは黙ったまま、黙々とグラスな
どを磨いている。
ちょうど、レスター・ヤングのサックスの
ソロが店内に流れだした頃、私は空のカクテ
ル・グラスと勘定をカウンターに置き、ス
ツールをたった。
少々風邪ぎみの熱ぽい体を引きずって、帰
路についた時には、先程のカクテルの事や酒
場のあった事すら、私は忘れていた。
その時の私は、ただ、早く帰って寝る事だ
けを考えていた。

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