桃の節句。
春の柔らかな光が、大きな窓から差し込む部屋の中で、
つんとすまし顔の人形が二体、箪笥の上に飾られています。
そこに。
誰にも聞こえない、密やかな話し声。
「――すまないな」
「なにがですか？」
正面を向いたまま、唇も動かさず。
雛人形達の声が小さく響きます。
「私は従者もいない男雛。おまえに三人官女すらつけられない」
隣の家は五人囃子までいるというのに。お内裏様がそう呟きます。
「いいんですよ。わたしはあなたがいれば十分です。
高い雛壇の上でも押入れの中でも」
「……うむ」
お内裏様のお顔が心なしか赤くなりました。
「わたしこそ…
以前、雛壇から落ちた時についた傷がありますから。
醜いと、家の主に棄てられてしまうかもしれません。
そうなったら、また美しい女雛を娶ってくださいね？」
お雛様がそう言うと、
「何を言う。その時は、懸命に動いて私も箪笥から落ちてみせる。
そうすれば、家の主殿もお前と一緒に棄てて下さるだろう。
私の隣はおまえだけだ」
お内裏様は、こう答えます。
「……はい」
お雛様のお顔が心なしか赤くなりました。
子供達が部屋に入って来ると、人形達はいつものすまし顔。
――けれど。光の具合でしょうか？
雛人形の端正なお顔の頬は、少しだけ朱が差しているように見えました。
春の柔らかな光が、大きな窓から差し込む部屋の中で、
つんとすまし顔の人形が二体、箪笥の上に飾られています。
そこに。
誰にも聞こえない、密やかな話し声。
「――すまないな」
「なにがですか？」
正面を向いたまま、唇も動かさず。
雛人形達の声が小さく響きます。
「私は従者もいない男雛。おまえに三人官女すらつけられない」
隣の家は五人囃子までいるというのに。お内裏様がそう呟きます。
「いいんですよ。わたしはあなたがいれば十分です。
高い雛壇の上でも押入れの中でも」
「……うむ」
お内裏様のお顔が心なしか赤くなりました。
「わたしこそ…
以前、雛壇から落ちた時についた傷がありますから。
醜いと、家の主に棄てられてしまうかもしれません。
そうなったら、また美しい女雛を娶ってくださいね？」
お雛様がそう言うと、
「何を言う。その時は、懸命に動いて私も箪笥から落ちてみせる。
そうすれば、家の主殿もお前と一緒に棄てて下さるだろう。
私の隣はおまえだけだ」
お内裏様は、こう答えます。
「……はい」
お雛様のお顔が心なしか赤くなりました。
子供達が部屋に入って来ると、人形達はいつものすまし顔。
――けれど。光の具合でしょうか？
雛人形の端正なお顔の頬は、少しだけ朱が差しているように見えました。
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