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綴り紡ぐ梟の巣コミュの物語・天国行きのチケット

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コメント(30)

『天国行きのチケットは大切な人と笑顔で写っている写真だよ。』そうキツネの顔をしたバスの運転手に言われ、わたしは白いバスに乗れなかった。『次のバスは誰でも乗れる審判の間行きだよ。人間の時間という概念で二時間後だ。』と言われた。

真っ暗な空間に、街灯が一つと停留所があるだけ。時間は分からない。待っている間、生きていた頃の記憶を思い出そうとするが、映像はボヤけ、あやふやな感じでしか思い出せない。とりあえず、最後に会ったのは誰だったかを必死で探してみた。
『いってきます。』と私はいつもの様に誰の顔も見ず、玄関のドアに向かって言っただろうか。たしか一度だけ振り返って見たことがあった。妻は暗い顔で私を送る。息子は返事もせずテレビを見ながら朝食を食べている。そんな二人を見ると、仕事に行く意欲も失せるからと、いつの間にか私は玄関のドアに向かって言うようになっていた。

多分あれは会社に向う途中だっただろうか、妻から電話があったのは。財布を忘れてしまっていたらしい。後から会社に届けに行くからと話をしていた最中のことだ。信号を渡っている時に、車が信号無視をして私目掛けて突っ込んできたことを思い出した。普段そこは車も人の通りも少なく、信号無視をする車は多いので注意していたつもりだったのだが。車はそのまま少し走った後、停まった気がした。『もっと早くに救急車を呼んでもらっていたら助かっていた』と救急車の中で聞いたのが最後の言葉だった。
仕事をするしか取り柄のない私は、家族との思い出などないに等しい。妻と息子の顔を思い出そうとすればするほど、二人の顔はボヤけていく。家族のためを思って仕事をしてきたが、私は二人を何一つ幸せにすることなどできなかった。

財布は何のために必要だったのだろうか。普段これといって物を買わない私に、財布などほとんど必要なかった。だから、財布を持たない日も度々あった。でもあの日は、接待があったから財布が必要だったような気がする。
記憶は少しづつ霧がかかり、やがて人の顔や名前さえも思い出せない様になっていた。私は誰で、何のためにここにいるのが。それさえもボヤけていく。

あれから時間はどれくらい経ったのだろう。二時間が何日もここにいる様に思えて仕方がなかった。少し遠くの方で二つの光がこちらに近付いてくる。あれはなんだろうか。
灰色のバスは私の目の前で止まり、ドアを開けた。イタチの顔をしたバスの運転手が『チケットを見せて下さい。』と言ってきたが、チケットはどこにも見当たらなかった。

チケットがないことを運転手に伝えると、運転手はニンマリと笑い、『チケットは形有るものじゃないんだよ。あんたの心の記憶の中にある大切な人の顔なんだ。』と教えてくれた。私は家族の顔を思い出そうとする。しかし二人の顔がボヤけて思い出せない。
運転手はそんな私を見て気付いたらしく、バスに引き返して何かを探しにいった。『前の運転手のやつが仕事忘れてたみたいだな。ここに少しでもいると闇の虫に記憶を食べられるんだ。これ食べてくれ。』と差し出されたのはリンゴの形をした虹色の果物らしきものだった。私は恐る恐るそれを食べた。酷く苦い味がする。『吐かずに飲み込んでくれよ。』と言われたので、私は思い切って飲み込んだ。

『おーい、大丈夫か?』運転手に起こされて私は目が覚めた。気を失っていたようだ。『自分の名前分かるか?あー、別に声に出して言わなくてもいいから。それが思い出せたなら、大切な人の顔を強く思い出してくれ。』そう言われ、私は家族の顔をできる限り思い出してみた。二人はどんな顔だっただろうかと。運転手は私が二人の顔を思い出そうとしている間に、レトロなカメラを持ち出してきた。『今がちょうどいいかな。』そう言うと運転手は写真を撮ってしばらく見た後、私に渡してきた。『このチケットじゃこのバスには乗れないよ。』私は写真を見て驚いた。
三人の顔はとても優しく微笑んでいる。『次のバスは地獄行きの黒いバスがきてしまうな。臨時で緊急用バスを呼ぶか。』運転手はブツブツと独り言を言いながらバスに戻っていった。『扉閉まります、ご注意ください。』『今から臨時で緊急用バスを呼ぶからもう少し待っててくれ。人間の時間という概念で一時間後だ。おっと、そうだ。また記憶が消えそうになったら、その果実を食べてくれ。』そう言うとイタチの顔をしたバスの運転手は灰色のバスを走らせ闇に消えていった。



第一部-完-
この微笑んでいる写真はいつ撮ったものだろうか。そういえば息子が小さい頃、一度だけ家族で遊園地へ遊びに行ったことがあった。その頃から毎日仕事で、休みなど関係なく会社に行っていた。仕事をすることが家族のためだと思って。

あれは確か息子が10歳の誕生日を迎える時だったか。毎年誕生日は欲しい物を買ってあげていたが、その時だけは違った。夜遅くに帰ると玄関に息子が走ってきた。『どうしたんだ?もう遅いから寝なさい。』そう言うと息子は『僕、今年の誕生日プレゼントは要らない。』と言ってきた。驚いた私は理由を聞くと、『僕、お父さんと一緒に遊園地に行きたい。』

あの時、嬉しかったのと同時に家族のことをちゃんと見ていなかった自分が情けなかった。私は息子の頭を撫で、『よし、分かった。じゃあ今度の日曜日に行こうか』と言い、息子を寝かせた。

何故あの時は気付けたことを、再び忘れていたのだろう。悔やんでも悔やみ切れない気持ちは涙を止めることなく溢れさせた。出来ることなら生き返って、妻と息子に謝りたい。でもそんな願いなど叶うわけもなかった。

私はひたすら泣き続けた。後悔をし、悲しみ、自分を責めた。不意に遠くの方で小さく何かが光る。静かなエンジン音が随分と早い速度で近付いてくる。白銀のバスは私の前で急ブレーキをかける。私は驚いたが、それでも涙は止まってくれなかった。

『いやー。すみません、すみません。随分と遅れてしまいました。準備物やら手続きってのがややこしくて手間取りましてね。』早口でネズミの顔をした運転手がバタバタしながらバスから降りてきた。『じゃあ、すみませんがチケットを…、ぉあっ?!』ネズミの顔をした運転手はオーバーリアクション気味で驚いた。『あの〜…、つかぬ事を伺いますが、なんで、泣いてるんですか?』

どこまで私は涙を流せば良いのだろうか。ネズミの顔をした運転手は最初興味を示した顔をしていたが、やがて心配そうな顔で私に問い掛ける。『本当は規則違反になんですが…』ネズミの顔をした運転手は神妙な面持ちで『これを望んでいるという前提でお話いたしますが、よろしいでしょうか?』私が頷くと『少しだけ現世に行くことが出来るんですよ。どうされますか?』その言葉を聞いて私の涙は止まった。

私は行きたかった。妻と息子の姿を一目見て別れを告げたかった。でも私の口から出たのは断る言葉だった。心は冷静に確認をしてくれ、確信を打ち出していた。泣いていた意味はもう一度会いたかったからではない。自分の不甲斐なさを悔やんでいたからだ。

ネズミの顔をした運転手は嬉しそうな顔で、『いやー、OKされたらどうしようかと思いました。実はね、現世には降りられないんですよ。厳密に言うと特別許可証があれば降りられるんですが。』ネズミの顔をした運転手はバスのハッチを開け、『すみませんが荷物はここに入れてもらえますか?』荷物は最初から持っていないことを伝えると、ネズミの顔をした運転手は首をかしげ、キョトンとした顔をした。

『でも、その足下にあるのはあなたの荷物じゃないんですか?』そう言われて足下をみると30cm程の立方体の黒い箱が置いてあった。『ご存じ…ない?』ネズミの顔をした運転手はしっくりこない感じだったので、箱のことを聞いた。『これは負の感情を詰め込んだ箱なんです。苦しみや悩みや後悔といった具合のね。どんな人間にも必ず存在するもので、人によって大きさは異なります。』じゃあこれは私が抱えていた負の感情だったのか。いつからこれはあったのだろうか。ネズミの顔をした運転手は少し急ぐように『さ、さ、その箱を積んで乗って下さい。』私は急かされるように箱を載せ、バスに乗り込んだ。

エンジンが静かにかかり、来た道を戻るようにゆっくり走り出した。これからどこへ向かうのだろう。私がいたところと同じ停留所を何ヵ所も通り過ぎ、バスは走って行く。



第二部-完-
途中、通り過ぎた停留所には時々人がいた。それは若かったり、年寄りだったり、男だったり、女だったり。大抵の者はうつむいていたり、上を見上げている。みんな自分が死んだということを受け入れられないのだろうか。

バスは減速し始めた。前方に目をやると、アイボリーカラーと言えばいいのだろうか。少し濁った白く巨大な柱が左右に何本も建っている。私がそれに目をやっていると、ネズミの顔をした運転手が話しかけていた。『巨大な柱でしょう?誰が何のために建てたんでしょうね〜。いつもここを通る時この柱が倒れてくるんじゃないかって心配してるんですよ。』そう言いながらネズミの顔をした運転手は笑っていた。

私は質問したいことがいくつかあったのでネズミの顔をした運転手に聞いた。現世に降りたいかどうかを聞いたこと、箱の大きさのこと、特別許可証のこと。するとネズミの顔をした運転手は『現世に降りたいかどうかを聞いたのは、あなたの未練の有無の確認です。理由は分かりませんが、これから行く白い再審判の間で報告するのに必要なんですよ。箱の大きさは…、あなたが持っていたのが標準だと思って下さい。最後の…、特別許可証でしたっけ?それにはワタクシのような者にはお答えできないようになっております。』そんな話をしている内に大きな白い扉の前に着いた。

『さ、着きましたよ。荷物はワタクシが持っていきますから、降りて門の前で待っていて下さい。』そう言うとネズミの顔をした運転手は急くように降りてハッチを開けに行った。私は言われた通り門の前に行き、上の方に目をやる。何メートルあるのだろうか。門の上部は真っ暗な空間の中に溶け込んでいるみたいな感じだった。『あ、入り口はここですよ。』声のする方へ目をやると、2m程の扉が門の一部についている。ネズミの顔をした運転手は『C-7-7866です。扉を開けて下さい。』と言うと、扉はゆっくりと開き始めた。さっきのは名前のようなものだろうか。

扉の中を進むと中世ヨーロッパの城の内部を連想させる造りだった。床には一直線に1m程の幅で朱色の絨毯が、ずっと奥まで続いている。ネズミの顔をした運転手は入り口で立ち止まり『ここから先はお一人で行っていただかなくてはいけません。しばらく進むと徐々に光は無くなりますが、臆せずお進み下さい。あ、箱は持って行って下さいね。それでは失礼します。』そう言ってネズミの顔をした運転手は箱を置いて出ていった。

私は奥へ進んでいる時、この道はまるで人生のようだと思った。暗い場所から扉を開き、明るく広い室内の奥へと進めば進む程光は徐々に失われ、暗いところへ還っていく。まるで私が歩んできた人生そのものだ。暗くなっていくこの道は、私の考えまで暗くしていった。

周りから光が無くなり、完全な暗闇の中に私はいた。しかしなぜか、私は私自身を確認出来た。普通暗闇の中にいると、自分の手さえも視覚でとらえることが出来ないのに、私は全身を確認出来ている。不意に暗闇の中で小さな穴が空いた。そこからは光が漏れている。恐る恐るその穴に手を伸ばしてみた。触れるか触れないかぐらいで、穴は急に大きくなり、私は眩しい光に包まれた。



第三部-完-
あまりにも眩しい光だったので、私はしばらくの間目を開けることが出来なかった。目が開けられない間、他からいくつか情報が少しづつ察知できた。耳から入ってくるのはクラシックのような音楽が、匂ってくるのは…コーヒーだろうか。

『いや、すまないね。暗い場所がいきなり明るい場所になったもんだから、目を開けられない状態にしてしまって。もうそろそろ慣れてきたんではないか?目を開けて、こちらに来てコーヒーでも飲んでくれ。』落ち着いた老人のような声で言われるまま、私は恐る恐る目を開けた。

ぼやけた視界で私は辺りを見回した。ここに入った時の室内とよく似た造りになっている空間。クラシックのような音楽はやや小さいぐらいで心地よく流れ、霧で出来たテーブルとイスが目の前に備えられている。その少し奥に目をやると、大きな体をした、フクロウの顔をした老人が書類を書いていた。『さ、冷めない内にそこに座ってコーヒーでも飲んでいてくれ。話をするのはこの書類が終わってからにしようか。』

フクロウの顔をした老人は書類を書き終えペンを置き、私の方を見ながら話しかけてきた。『すまなかったね。随分と不測の事態が重なって全てが後手に後手になってしまった。寿命などで自然死した者は最初から案内役として付き人がいるのだが、君のように事故などで此所に来た者達は訳も分からず名無しの停留所で、一旦此所に来るまでの手続きをしなければならないのだよ。このシステムをいい加減見直してくれと上層部に言っているのだが…。』私が呆然と話を聞いていると、フクロウの顔をした老人は『あー、すまなかった。自己紹介がまだだったね。私の名前は【セプテンバー・オウズ】。気軽にオウズと読んでもらってかまわない。此所で再審判員をしている者だ。主に君のような事故死者の行き先を決めている。今から私がいくつか質問しようと思うのだが、その前に君からいくつか質問に答えようと思う。どうするかね?』

私は最初戸惑ったが、ネズミの顔をした運転手に質問した内容と同じことを、今度はオウズに質問した。オウズは黙り込んだ後『最初の質問は確か、現世に行きたいかどうかということだったね。その質問をされた時にもし現世へ行きたいと言っていたら、君は二度とこちらには帰ってこれなくなっているのだよ。君の事を覚えている人間の命が終わるまで彷徨い続けなければならない。その後は地獄に行くことになっている。天国へ未練を持っていくのは重罪なことなのでね。』私は心底、あの時自分を信じて良かったと思った。

オウズは少し間を置いて再び質問の返答をした。『箱のことだったか。君は気付いているかどうかは分からないが、今は無くなっているだろう?暗くなっていく通路で箱は小さくなり、此所に入ってくる時の光で最後は消滅してしまうのだよ。』私がオウズに言われて箱が無くなっているのを確認している時にオウズは微笑んでいた。『最後の質問は特別許可証だったか。もう君には関係ないかもしれないが、此所の空間に入ってきてもなお、箱が無くなっていない者にだけ発行するものなんだ。現世に行ってちゃんと未練を断ち切るためにね。』

『さて今度は私が君に質問をさせてもらおうか。質問と言っても確認事項のようなものだから、身構えないで答えてもらいたい。一つ目は天国へ行くためのチケットを持っていたら私に見せてくれないか。』私はオウズに言われ、写真を渡した。『うむ、皆良い顔で写っているな。ありがとう。次にさっきの質問の返答をしておいてどうなのかとは思うが、現世に行きたいか?家族に会いたくないか?』私は断った。オウズは『それを聞いて安心した。』と言っていたが、その言葉を言った直後オウズはとても真面目な顔で『最後は…、これは質問でも確認事項でもなく、君がこれから天国へ行くために言っておかなければならないとても重要な事だ。心して聞いてほしい。』私の体は硬直気味になったまま話を聞いていた。



第四部-完-



『…まぁ、リラックスしてくれと言っても少々無理があるか。』オウズはやや下を向きながら私に話しかける。『今から君は天国に行ってもらうのだが、天国に行くためには通らなければならない道があるのだよ。【先無しであり後無しである道】と呼ばれる処なんだが…。』オウズはそのあとの言葉を言うことにためらっていた。沈黙が二人のいる空間を冷たく重たくしていく。

『私に言えることはきっとこれだけかもしれない。君に未練がまだ残っていれば、振り返ればいい。しかし君に未練がなく天国へ行くことを望んでいるのなら、何があっても前に進んでほしい。』二人の間に沈黙が居座る。

『長居をさせてしまったね。【先無しであり後無しである道】はあそこのドアから行くと良い。』オウズがそう言うと、右の奥に白い扉が現われた。私が席を立つと、霧で出来たテーブルとイスは静かに消え、コーヒーカップはプカプカと宙に浮き、オウズがいる机までゆっくり飛んでいった。私はその場でオウズに礼を言い、扉の前で頭を下げて、【先無しであり後無しである道】へと進んでいった。

とても薄暗い明かりが上の方から差している。蛍のような光る虫が空間中を飛んでいる。ついては消え、ついては消え。私は虫達に導かれるように歩いていく。突然虫達は一斉に光を消した。と同時に、湿った強い風が吹いた。左手にロウソクを、右手で鈴を鳴らしながら、タヌキの顔をした眠そうな男が近付いてくる。『駄目だよ、闇の虫が飛び回ってるのに迂闊に歩いてちゃ。闇の虫は光る雌が人の心に隙を作って雄が記憶を食べてしまうんだ。』タヌキの顔をした眠そうな男はそう言いながらロウソクを私に渡してきた。『はい、これ持って。闇の虫はこのロウソクの火に弱いから。鈴も貸してあげたいんだけど、僕が自分の身を守る術をなくしちゃうんでね。ふぁ〜…、じゃあ気をつけて。』タヌキの顔をした眠そうな男は欠伸をしながら私を見送ってくれた。

あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。【先無しであり後無しである道】に入った時、タヌキの顔をした眠そうな男にロウソクを一本渡され、炎が風でなびく方へ進めと言われた。しかし進んでも進んでも出口は見つからない。小さかった不安がいつの間にか大きくなり、私は来た道を戻ろうとした。が、その時、強い風が吹き、ロウソクの火が消えてしまった。

真っ暗な闇の中で私は動けないでいた。どこが前で、どこが後ろなのかも分からなかった。今度は自分を視覚で確認できない本当の闇。私の後ろと言えば良いのだろうか。微かに声が聞こえてくる。どこかで聞き覚えのある声だ。私は残っていた虹色の果実を手探りで見つけ、かじった。とても苦い味がして意識を失いそうになるも、何とか踏み止どまり、耳を傾けた。あの声は、妻と息子の声だ。

二人の泣いている声が聞こえる。段々と声のボリュームは上がり、私の周りを囲うように響いてくる。とても悲しくて辛い声。二人に会いたい…、会いたい…、会いたい!私の息は荒くなり体は後ろに向きかけた。胸ぐらあたりをギュッと握り締める。その時だった、何か紙のようなものを一緒に握った感触があった。三人で写っている笑顔の写真だ。

私は写真を手に取り、何も見えないのに写真に向かって涙を流しながら何度も謝った。『ごめんね、ごめんね。二人を残して先に逝ってしまって。ごめんね、ごめんね。』その直後不意に写真が輝き出した。写真はどんどんと輝きを増し、闇を払った。私は辺りを見回した。霞みがかった柔らかい光に包まれ、白い床の上に私はいた。前の方に目をやると、白い扉の前に男の子と女の子がいた。

二人はハモるように一字一句ズレることなく話始めた。『お疲れ様でした。あなたの心の中のシコりとして存在していた未練も、懺悔とも言える二人に対しての気持ちと共に綺麗に無くなりました。これからあなたは天国に旅立ちます。そのためには来世であなたの根本となる思いを一つだけ持って行けます。どのような思いを持っていきますか?』

私は涙を拭き、扉の前まで行った。扉に手をあて『来世では、家族と向き合える人間でありたい。』二人は『その思い、承りました。それでは逝ってらっしゃいませ。』と言って、私に頭を深々と下げた。今度は、今度こそは、もっと笑顔の溢れる家族を築きたい。もっと向き合って話をたくさんしたい。私は扉を開け、眩いばかりの光に包まれ、同化し、生まれ変わるために静かに消えていった。

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