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7days,7flowersコミュのこんな風にひどく蒸し暑い日 3

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君は俺の膝に丸まって眠るのが好きだったよね。



勿論、いくら君が小柄だからといって、俺のあぐらの上に収まる筈がないんだけれど、俺と触れる面積が出来る限り広がる様に工夫して、なるべく体をちぢこめて、頭を俺の腹に押し付けるみたいにして、ひどく窮屈そうな姿勢でよくテレビなんか見ていた。

俺だって営業回りでくたくたなのに、気がつけばいつも君が先に俺の膝を寝床に眠ってしまったよね。でも俺は君が安心しきった様にすやすや眠る様を見るのが、嬉しく、誇らしくすらあった。

この愛らしい、この愛すべき、こんなにも無防備で小さなりんごの実を眠らせているのは、自分という樹木なのだと、誰彼構わず言って回りたい様な気になった。



君が膝の上に来ると俺はパソコンや筆記用具を手の届く位置に引き寄せて置くのが、いつの間にか習慣になった。君の寝息を聞きながらする仕事は、昼間無機質な箱の中で行うのとは別物の様に思えた。

体のどこかに君の体温があれば、どんな単調で面倒極まりない作業でも、精密で奥深いオルゴールを手がける職人の様に、集中することが可能だった。



そのくらい俺は、簡単に言えば、おかしくなっていた。

君さえいれば、君といる高揚感によって、手に触れる何もかもが金に変わるかのごとく、輝いて見えたのだから。

あの頃の俺の毎日は、常に君に向かって全速力で走っている様なものだった。そのスピード感に酔いしれ、溺れ、狂わされる事が恐ろしく、けれど奇妙なテンションの高さで、何が恐ろしいのか気づくことを誤魔化していた。



君が名前を呼ぶ度に、俺はひとつひとつ、散らかした自分の破片を取り戻していく様な気持ちになった。

破片を自らの身体の空白に当てはめる度に、俺の全身はぼんやりと光って、温かい力に満ちた。



「基志!」



君は俺の名前を呼ぶのが好きだと言った。呼ぶ必要がなくても、名前を口にしてから用件を続ける。



「基志、明日は恵比寿に映画を観に行こうよ。コーエン兄弟の新作にブラピが出てるんだよ」

「ねぇ基志、灰汁はくしゃくしゃにしたアルミホイルできれいに取れるんだって!知ってた?」

「基志、リモコンはテーブルの上に置いてって言ってるでしょう?基志の気分であちこちに移動させないでよ」

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