JCPと国民統一戦線の建設コミュの「政党支持」でなく「政策実現」運動を　～愛知での試み～

◆池住義憲さんの活動紹介◇
1944年東京都生まれ。2004年自衛隊イラク派兵差し止め訴訟の会（名古屋）代表。4年2か月全国の仲間と共に闘い、2008年名古屋高裁で違憲判決をかちとる。名古屋を中心に、平和やいのち、保健衛生、住民参加型のまちづくりなど多岐にわたって活動し、2013年5月＜7月参院選とその後の国政選挙に向けて＞「脱原発」「憲法改悪を許さない」の二点で、政党などへの連携を呼びかけ「政治を考える市民の会（愛知）」を結成した。立教大学特任教授｡
「政党支持」でなく「政策実現」運動を　～愛知での試み～
池住　義憲　

＊本稿は、2013年11月24日兵庫勤労センターで開催された「とめよう壊憲・護憲結集を目指す神戸円卓会議」での報告内容を加筆したものである。「政治を考える市民の会」共同代表としてではなく、市民の会に連なる一個人の立場からのものである。

１　民意と国会構成のズレ
市民の多くが原発再稼働に反対し、脱原発を望んでいる。憲法を“改正”して集団的自衛権が行使できるようにすることは、望んでいない。しかし、２０１２年１２月衆院選と２０１３年７月参院選では、原発再稼働容認と憲法“改正”を目指す自民党が圧勝した。民意と国会構成のズレだ。何故か。現選挙制度および公職選挙法の選挙運動規制という制度の問題が大きいが、もう一つある。「脱原発」「憲法改悪阻止」を掲げる野党が林立し、それぞれの党が独自の候補者を擁立したこと。その結果互いに足を引っ張り合い、票が分散してしまった。
　政党は自らの党綱領に基づき、党組織の発展・維持のため必要な規則・規律を定め、戦略・戦術を設定している。当選者を一人でも多く生み出し、党勢拡大を図る努力を日夜続けている。これらはすべてその政党が願う政策を実現するためだ。党勢拡大は手段であって、政策実現が究極の達成目標。そのためには、状況によっては自党の党勢拡大のみに固守するのでなく、共通した政策を掲げる他党と連携・協力することが必要だ。民意を国会構成に反映させるために。しかし、現実はどうか。党の存続、党勢力の拡大という“政党の論理”を優先させ、政策実現を遠のかせる結果を招いてしまっている。
　２０１３年７月参院選の愛知選挙区（改選数三）の場合を見てみよう。愛知選挙区では１０名が立候補し、全国でも激戦区の一つとなった。結果は、自民党新人、民主党現職、みんなの党新人の三人が当選。いずれの当選者も原発再稼働を容認し、表現および内容の違いはあっても憲法“改正”を目指す政党の候補者だった。次点は脱原発と憲法改悪阻止を公約に掲げる日本共産党新人で、七万六千票余の差であった。日本共産党と共通した公約を掲げる社民党新人とみどりの風現職の得票数を合わせると、１１万票余となる。それぞれの政党が“政党の論理”を優先させた結果、「脱原発」「憲法改悪阻止」を願う私たちの民意を国会構成に反映させることができなかった。単純計算どおりにはいかないが、もし、脱原発と憲法改悪阻止を公約に掲げるこれら三つの野党が協力・連携していたら、当選の可能性は高まっていた。

２「政党支持」でなく「政策実現」運動としてスタート
　愛知では、２０１２年１２月衆院選の“二の舞”を踏みたくないとの思いから、２０１３年５月、「政治を考える市民の会」（以下、市民の会）を発足させた。同年７月参院選のわずか二ヵ月前だ。遅きに失したとはいえ、２０１６年７月の次々回参院選も視野に入れ、当面２０１３年７月参院選に向けた取り組みを開始した。「脱原発」と「憲法改悪を許さない」を公約に掲げる政党・政治団体に対し、候補者一本化も含めて連携・共闘するよう働きかけ、実現させることが目的である。特定の政党・政治団体を支持する運動ではなく、「脱原発」「憲法改悪を許さない」という二つの政策を実現させるための運動（二点共闘運動）だ。愛知の三議席のうち、少なくとも一議席は「脱原発」「憲法改悪を許さない」という民意を反映した人を国会に送り出したい、と願って行動を起こした。
　国政選挙での争点は、原発問題・憲法問題の他にもTPP（環太平洋経済連携協定）、消費税値上げ、雇用、福祉・医療などたくさんある。そのなかで市民の会が「脱原発」と「憲法改悪を許さない」の二点に絞ったのは、両者とも国の根幹、国の将来を形づくるもっとも基本的な問題だからだ。憲法は、主権在民、平和主義、基本的人権という基本原理・原則を定めた国の規範で、私たちが譲ることができないものだ。原発は、使用済み核燃料（核のゴミ）処理・処分問題ひとつ取ってもその悪影響が次世代以降向こう１０万年先まで続く重大且つ深刻な問題である。この二点を結集の基本軸として設定し、市民の会の運動がスタートした。

３　七・二一参院選に向けての活動
　2013年5月9日、名古屋市内で「政治を考える市民の会　発足集会」を開催した（参加市民１０２名）。２０１２年１２月の衆院選結果の分析をベースにして話し合い、会の名称、会則、組織・役員、２０１３年度活動方針を決めた（会則については参考資料添付）。７月参院選まで残されたのはわずか約二ヵ月だったが、「脱原発」「憲法改悪を許さない」を掲げる政党・政治団体に対して候補者一本化を含めて連携・共闘を呼びかけることとした。その後、日本共産党愛知県委員会、社民党愛知連合、新社会党愛知県本部、緑の党・東海、みどりの風、民主党参院議員事務所、公明党愛知県本部を訪問し、７月参院選での連携・共闘の申入れと懇談を行なった。
　そして同年６月１４日、第一回「政党・政治団体と市民との討論会」を名古屋市内で開催。１１０名の市民が参加し、政党・政治団体からは、日本共産党愛知県委員会書記長、社民党幹事長、新社会党愛知県本部委員長、みどりの風代表秘書、緑の党・東海共同代表が出席。二時間のわたる熱心な討論のなかで、共通の政策を掲げる他政党・政治団体との連携・共闘の可能性に対する姿勢が示された一方で、選挙での連携・共闘可能性のハードルの高さを改めて実感させられた。
それでもなお、市民の会は討論会に出席した各政党・政治団体を訪問または政党・政治団体代表者と市民の会役員との会合を持つなど、候補者一本化を含めた連携・共闘の可能性を追求した。同時平行して、国政選挙は党本部・党中央の方針で進められることから、日本共産党中央委員会（委員長秘書＆党基地対策委員会責任者）、社民党（党首＆同秘書）、みどりの風（代表）を直接訪問して愛知での動きを報告し、今後も必要に応じて連絡を取り合っていくことにした。

４　七・二一参院選後の活動
前述のとおり、七・二一参院選の愛知選挙区では「脱原発」「憲法改悪を許さない」を掲げる政党の連携・共闘が出来ず、一人の当選者を出すことができなかった。参院選結果をうけて市民の会は九月に賛同人会議（二四名出席）を開いて話し合い、また共産・社民・新社会・緑の党東海を訪問して相談し、２０１３年１２月１日に第二回「政党・政治団体と市民との討論会」を開催することにした。今回参院選の評価・総括とそして、今後の連携・協力の取り組みについて話し合うためだ。政党・政治団体間の連携・協力を実現するためには、市民も含めた三者間の相互理解と信頼関係が必要だ。市民の会はそのための「場」「スペース」を作り出すことに意を注ぐことにした。今から、２０１６年７月の次回参院選に向けた準備の開始である。
　第二回討論会は「脱原発と憲法改悪阻止のために　これからどうするか？　～～七月参院選と秋の臨時国会を振り返りながら」と題し、憲法をめぐる最新情勢を分析しながら会としての今後の在り方、方向を話し合った。国家安全保障会議設置法（日本版NSC）、特定秘密保護法、国家安全保障基本法案など急速にすすむ「立法改憲」、内閣法制局長官交代、安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会（安保法制懇）などで着々と進めている「解釈改憲」。もはや「明文改憲」なしでも集団的自衛権行使を可能にするという、緊迫した情勢だ。今こそ市民の連帯と市民の運動が必要であり、市民運動側から憲法改悪を阻止するために、政治、政党・政治団体に働きかけることが必要となってきている。市民運動側の力量が問われている。
討論会では、政党・政治団体間での連携・共闘について前回（第一回）より多少前進したと思われる発言もあった。国政の基本問題の方向で一致できる他の政党と、安倍政権の悪政を阻止するために連携・共闘（一点共闘または二点共闘）する可能性も示唆された。党本部との関係、他党との政策協定の困難さ、党勢拡大という手段を優先させる“政党の論理”、過去の政党間対立・葛藤からくる相互不信など、連携・共闘への課題が多々あるのは承知している。
しかしこれらの課題に対し、憲法と原発問題に関する具体的政策・方策を互いに摺り合わせる話し合いを重ねることによって、その過程（プロセス）で連携・共闘の可能性が産み出される可能性があるのではないかと思っている。愛知県内にある各政党・政治団体訪問だけでなく、中央レベルすなわち党本部との継続したコンタクトも大切だ。市民の会は、そのための「場」「スペース」としての討論会の開催、さらには憲法、原発、選挙制度など重要テーマに関する学習会の開催などを向う二年間（２０１４～２０１５年）かけて行なっていきたいと考えている。

５　運動の背後にある基本的な考え方
①「政党支持」でなく「政策実現」運動
　どの政党を支持するかしないかは、当然のことながら個々人の自由だ。それは、問わない。市民の会の目的は、憲法と原発問題に関する基本的方向を共にする市民・政党・政治団体の力を結集すること、それを実現することだ。基本的方向とは、「脱原発」と「憲法改悪は許さない」の二点。政党が先にあるのでなく、政策が先にあるのだ。
私たちは原発と憲法問題について今後どのような方向を願っているか、そうした方向の政策を公約として掲げている政党・政治団体はどこか、どうしらた愛知選挙区から少なくとも一人を国会へ送ることができるか…。私たちの関心は、どの政党が大きくなるか否かでなく、私たちが願う政策を実現させることである。こうした見方、考え方が運動のベースになっている。
②小異を互いに尊重し　歩みを前に進める
基本的方向（総論）が同じでも、具体的内容や方法（各論）になると、お互いに異なる。異なって当然だ。全く同じであれば、政党・政治団体の場合、別々に存在する必要がない。「脱原発」と言っても即時か段階的かなど、具体的方法と内容で異なる。「憲法改悪阻止」でも、集団的自衛権行使容認には共通して反対で一致しても、一字一句変えない、天皇条項削除、環境権・フライバシー権を加える、二四条改正など、各論では様々な違いがある。用語表現も、護憲・加憲・創憲・改憲・活憲と、いろいろある。
　基本的方向が共通しているのであれば、お互いに違い（小異）を受け止め合い、摺り合わせ、折り合わせのために、対話・討論を続けていくことが大切だ。現在の巨大与党勢力に対してどのように現段階で対処するか（大同団結）が重要だ。連携・共闘は、こうした姿勢とプロセスから産み出される可能性がある。お互いの問題指摘は大切だが、小異の部分を非難・攻撃するなかからは政党間信頼関係は醸成されない。これは、市民運動にもそのまま当てはまる。
③政治に真髄は「コンプロマイズ」
　「コンプロマイズ」（Compromise）という英語は、日本語では「妥協」と訳されている。語源はラテン語で、二つの語が組み合わさって出来ている。「コム（Com-　共に）」と「プロミス（Promise　約束する）」だ。コム・プロミス、つまり「裁定に従うことを共に約束する」「共に歩み寄る」「妥協して解決する」という意味だ。政治の真髄を示している。
　他の政党と総論（基本的方向）では同じでも各論（具体的内容、方法）で違いあるのは当然。問題は、その違いの相互認識と相互尊重から始まって、自分たちにとって最良（ベスト）ではなくても現状でのセカンドベスト、サードベストへと歩み寄る。これは、内容を摺り合わせて話し合うことから可能となる。他政党との連携・共闘は、こうしたプロセスの積み重ねからのみ可能となる。市民の会は、こうしたプロセスを２０１６年まで続けていこうとしているのである。
④“政党の論理”でなく「市民の論理」
　国政選挙での政党間連携・共闘で鍵となるのは、政党が「政党の論理」を超えられるかどうか、である。現行の参院選挙制度（選挙区選挙と比例代表選挙）下で、党の存続をかけて、また党勢拡大を目指して、比例区での得票のために当選可能性が低くても選挙区に立候補者を立てるなど、“政党の論理”が優先されて「脱原発」「憲法改悪阻止」という究極の目標達成のためだが、それ一点に固守・固執するあまり、究極の目標達成を遠ざけている。この状態がつづく限り、民意が反映されにくい状態もつづく。
　私たちは、困難はあっても各政党・政治団体に対して、“政党の論理”を優先させるのでなく、「市民の論理」「暮らし・いのち・平和の論理」を第一に据えて対応・対処していくよう、働き続けたい。これは、組織の問題ではなく、市民の「暮らし」「いのち」、そして日本・アジア・世界の「平和」の問題だ。政党・政治団体という一組織上の問題に矮小化してはいけない。
具体的方策や目途は立っていない。私は、少なくとも二〇一六年七月の次回参院選と同年一二月以前に行なわれる次回衆院選までの約三年間、政党と政治団体と市民が対等な形で対話と討論の「場」と「スペース」を設定し続けていきたいと思う。脱原発の実現と、憲法改悪を阻止するためには、それ以外にない。こうした考え方に基づいた市民運動が、愛知以外のそれぞれの地域で独自性と強みを活かして拡がることを期待している。　　　　　　　　　　　　＊「政治を考える市民の会」ホームページ：　http://verbinden.ashigaru.jp/index.html