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或るマリアの消失コミュの[物語] 青色彗星壱号

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 かつての少年少女、少しだけ歳を重ねても、やっぱり少年少女。
 
 彼らは、去年、青色彗星壱号が落ちたという、ロシアの山間、巨大樹の森に向かっていた。
 
 青色彗星は、かつて、人の魂を乗せて運んだという。
 
 けれど、いまは、ただのでっかい彗星、もしくは、その欠片を指して、青色彗星と呼ばれていた。
 
 その年に落ちた青色彗星の欠片に番号が付くが、去年は、壱号のみ。たったひとつの青色巨大彗星の欠片だった。
 
 去年のロシアでは、彗星の欠片によって、巨大樹の森の誰も寄り付かない湖のひとつが消し飛んだという噂。
 
 防寒して、家を飛び出したふたりだったけれど、ロシアの冬はやはり寒い。時々、いまにも遭難しそうな気分に陥るけれど、そんな時は、どちらかが励まして、また歩いた。
 
 何度か、風をしのげるような、背の高い草の合間で仮眠を取ったりしながら、そして、また歩き、ふつかほどが経った。
 
 遠く彼方であった、巨大樹も、もういくつかはふたりの傍にあった。
 

 
 去年の終わり、彼の母が亡くなった。少年少女は幼馴染で、少女も、彼のお母さんには、とても世話になっていた。
 
 時々、暴力を受けて、行き場が亡くなった日にも、彼のお母さんが、少女を何日かかくまってくれるような事もあった。
 
 ご飯が貰えない時は、彼の家も苦しいのに、少女にご飯を食べさせた。
 
 母子家庭だった彼は、母の死をたいそう悲しんだ。
 
 ひとり働き、苦労して、彼を育ていた母に『良い暮らしをさせたい』、それが、彼が繰り返し語っていた、唯一の希望で、夢だった。
 
 少女には、彼がどんなに悲しいかが、良く察せられた。
 
 もうふたりは、家出をするような、ちいさな子供ではなかったけれど、分別ある大人のように生きるには、まだ子供であったから、
 
 彼が、『青色彗星が落ちた場所にいこう』、と、彼女を誘った時、少女は静かに、ただ、頷いた。すべて、『わかったよ』と、応えるように。
 
 たぶん、少年は、もう生きたくはなかった。少女にはそれが分かった。
 
 それでもいい・・・、だから・・・、自分は、彼の傍にいるべきだと思った。
 
 ただ、それだけしか、できないとしても・・・
 

 
 目的地まで、もうそんなには遠くないはずだったけれど、ふたりは、疲れ果てていて、巨大樹のひとつの根にもたれ、座り込んでいた。
 
 ロシアの巨大樹は、近くで見ると、さらに巨大なものだった。
 
 前に図鑑で見た、中東にあるという巨大で細長いビルのように、とにかくとても大きく高いものだった。
 
 見上げる巨大樹の先には、いつのまにか、今宵の月が出ていた。
 
 ふと、突然、月の夜空も、ふたりの身体も、激しく揺れて、巨大樹さえもざわざわと揺れている。
 
 ごおう、ごおう、と、轟音を立てて、光の柱が、巨大樹のすぐ向こうに落ちて来て、地上に衝突したみたいだ。
 
 と、今度は、突風が吹いて来て、ふたりは必死に巨大樹に掴まった。
 
 長い突風がやんで、ふたりは顔を見合わせた。自分たちは、まだ、生きているのかと確認し合っていた。
 
 生きているのなら、近くに見えた光の柱、おそらく彗星の欠片も、それほど、ふたりの近くではなかったのかも知れない。
 
 近くなら、去年の湖のように、ふたりも消し飛んでいるに違いない。
 
 『いいえ、残念だけど・・・、いえ、希望通りかな?ふたりとも死んだわ』
 
 知らない女の子の澄んだ声が、ふたりの頭の中に響いた。
 
 ふたりは、何者かへの畏怖の想いに震え、どちらともなく手を繋いだ。
 
 『怖がらないでいいの。ふたりは命がけでここまで来たのでしょう?だから、願いをかなえたくて降りて来たのだもの』
 
 「・・・そ、そうなんだ、きみはだれ?」彼が訊いた。
 
 『・・・誰って、可笑しい。私に逢いに来てくれたんじゃない、ふたりとも。私は、青色壱号、正確には、ことしの、壱号かしらね?』
 
 女の子、いいえ、彗星は愉快そうに笑いながら応えた。
 
 「・・・彗星・・・は、魂を運んでくれるの?」少女が訊いた。
 
 『そう、よく知っていてくれたのね。あなたたちには、とても古い言い伝えでしょう?・・・ええ、もうじき・・・、悲しいことや、辛いことのないところに・・・、ゆけるわ・・・』
 
 女の子の声は、透き通り、それでいて、すこし涙声になって、ふたりを人生を哀れんでくれているのが分かった。
 
 「・・・ははは・・・」彼は力なく笑って、それから、
 
 「・・・巻き添えにしちゃって、ごめん・・・」と、続けた。
 
 少女はただ、微笑んで、首を横に振った。
 

 
 やがて、ふたりを、生きている人間には見えない光が包み込み、落ちてきた空に、今度は音もなく、昇り始める。
 

 
 生きている人間のなかで、ただひとり、マリアは、その光の柱のなかを昇っていく、ふたりの少年少女を見ていた。
 
 拭っても、拭っても、涙が流れて来た。
 
 嬉しい想いと、それから、
 
 火葬場で、何度も見送って来た想いで、別れを想った。
 
 『また、ひとりにになっちゃった・・・』
 
 夢のマリアは、ロシアの巨大樹の森で、そう、呟いていた。
 
(マリア、夢日記、青色彗星壱号より)
 

 
 
 
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