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オダサク倶楽部コミュの織田作が登場するSF小説「虹の天象儀」

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『虹の天象儀』(瀬名秀明著、祥伝社文庫・2001年刊)

44年間にわたって多くのフアンに親しまれた渋谷の五島プラネタリウムで、技術係兼解説員であった主人公が、閉館後に解体された投影機「カール・ツアイスプラネタリウム?型」に名残を惜しんでいるうちに、天文好きの少年と出会い、投影球のレンズからタイムスリップするSF小説。

そもそも、作者が織田作に親近を覚えるきっかけが、織田作が戦中の1943年に書いた『わが町』やこの原作にもとづく、エノケンこと榎本健一一座による「ベンゲットの星」...である。
苦しい道路工事をやり遂げたマニラのベンゲットで、再び南十字星を仰ぎたい想いの他あやん(佐渡島他吉)が息を引き取る場として、大阪電気科学館のプラネタリウムを描いたのが織田作であったからである。まるで大阪に縁がなく、大阪の芸術文化にも興味のなかった主人公はひとえにプラネタリウムの興味から『わが町』の織田作に行き着いたという奇縁だ。

まず、本書の巻頭に、織田作の日記(昭和13年3月12日)から序文を掲げている。結核で儚い命と覚えつつ作家魂を熱烈に燃やし、尽くした織田作へのオマージュが感じとれる。

午前四時 忘れていた 忘れていた、やがて死ぬ身であることを、
飯をくらいお茶をのみ馬鹿話しして、けちくさい恋も照れてやり、
小説本を読みながら、死ぬことを忘れていた、やがて死ぬことを。
  
昭和18年および21年へのタイムスリップの場面において、主人公が織田作と出会うところに、本小説の奇想性がある。

21年のタイムスリップでは、東京病院の病床にある織田作に主人公と少年が直接対面するという筋書きである。織田作が子供の頃見たが、誰も信じてくれなかった夜の虹(ムーンボウ)が、病室で投影される。

織田の瞼がかすかに痙攣している。ひび割れた唇が、すう、と息を吸った。
「ああ、見えるよ……ええなア、小説に書けそうな感じや……」
「いや、書いたるでエ…。なあ、きみ、いまおれはな、構成が次から次へ浮かんできて仕方ないんや。みんなをあっといわしたるでエ…!」

本書の随所に織田作が登場するが、『虹の天象儀』という書名が付けられたのはこの場面にもとづく。
織田作が臨終前につぶやいた「思いが残る」という言葉が本小説を貫くテーマとなっていることから分かるように、瀬名の織田作への愛惜の念の強さを感じとれる。以下の結文で分かるように、この言葉を無念の意味に捉えず、前向きに人の心への影響と観ているのだ。

 だが、思いは残るのだ。 誰かの中に、思いは残る。

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