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勇者マイミクでヘタリアRPGコミュの【ヘタリアRPG】Romance of heroes!【如月=LAMBOR版小説】

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勇者マイミクから
ありとあらゆる妄想力を引っ張り出して、
一つの物語を作っていこうじゃないか!

という妄想日記よりもある意味物凄いトピを立ててみました

生暖かい目で見守って下さい


※1:このトピに関しては
コメントや感想、その他諸々は基本的に雑談にお願いします顔(願)
※2:他の皆さんもトピ立てられるようにしてます指でOK
みんなでそれぞれのストーリーを作りませんか?

コメント(31)


〜全ての始まり編〜




私とこの酒場の物語。


始まりは、そう…遡ることふた月ほど前。

私は家も国籍すらも持たない放浪者でした。
なぜなら、数ヶ月前に私の故郷は魔族に襲撃され、全てが焼き払われてしまったのです。
荒れ果てた故郷を離れ、見慣れない土地をさまよい続けた私は、それでもおぼろげな記憶を辿って王都に辿り着きました。

しかし、全てを失った私が金銭に関わるものを持ち合わせてるはずもなく…当時己の命を繋ぎ留める手段は、盗賊と成り果てるほか無かったのです。

人を襲うことで得られたわずかな報酬、街角のゴミから漁った残飯で空腹をしのいだ生活…これほど虚しいものはありませんでした。

そんな生活を続けていたある日、私は私の運命を変えてくれた老夫婦に出会いました。

最初私はその老夫婦が経営する小さな酒場に盗みに入ったのですが、彼らは脅しに臆することなくむしろ笑顔で迎え入れて下さったのです。
一瞬目的を見失ってしまいました。
更に夫の方はナイフを握る私に近付いて、刃を持たない左の手を握りこう告げたのです。

「どろぼうさん。あなたがどこの方かは存じませんが、あなたをお待ちしていました。わたしたちは訳あって故郷に帰らなければなりません」

「わたしたちが戻るその日まで、神託に従ってこの酒場ごとあなたに譲ります。ですから…人を傷つけるようなことはこれから一切しないと誓って下さい」

見ず知らずの人間にいきなり店を託すだなんて一体何が、と聞くと、宮廷直属の占星術師による神託だ、としか教えてはくれませんでした。

私にとって、更生出来る二度とないチャンスでした。

本当はこんなことはしたくなかった、だからこれからは人を傷つけない。

右手に握っていたナイフを夫に渡してそう誓うと、彼らはあっさりと私にこの店の権利書を譲って下さったのです。
その次の日には馬車に必要最低限の荷を乗せて彼らは旅立ちました。

これから私の新しい人生が始まる。
あの老夫婦には感謝してもしきれません。



そしてひと月が過ぎたある深夜、私は運命的な出会いを果たすことになるのです。


⇒next


ガタタン…バタンッ…!


ウエスタンドアが荒々しい音を立てると共に、雪崩れ込むように店内に入って来る一つの影。

「うおぉーいっ!もっと酒持ってこぉい!!」

先に入ってきたのは、眉に独特な特徴がみられる若い男性。やけに乱れた服装が、明らかに酒に呑まれたものと見受けられました。

「ちょっと…キミッ、いい加減飲みすぎだよっ!少し休んだ方がいいんじゃないのかいっ」

続けて前髪がピンと跳ねた、眼鏡をかけた若い男性が入って来ました。彼は先に入ってきた男を店の中まで追いかけて来たようです。

「うるせぇっ!大体誰のせいで…ああもう、バカバカバカ…!」

「誰のせいって、ただキミが飲みすぎただけだろっ!もう、しっかりしてくれよぉ!」

事情は良く分かりませんでしたが、あの時はとにかく大変そうでした。

カウンター席にどちゃりと倒れ込むように腰掛けた眉毛の男性に声を掛けてみたものの、返ってくる言葉は「酒よこせぇ!」や「アルのバカァ!」というものばかり。

…これでは全く話になりません。

そんな彼の席の後ろに立ち、眼鏡の男性は彼の背中を揺すって声をかけました。
ですがやはり、まともな返事は帰って来ませんでした。

「すいません、連れが迷惑をかけて…すぐに連れて帰りますからっ!」

困惑した面持ちで謝るのですが…。
無言で指差す先には、いつの間にか眠りこけてしまった連れの方の姿。浅い経験ながら、これは暫く目覚めないだろうことは予想出来ます。

「…二階の部屋、使って下さっても構いませんよ」

「そう…だね、そうさせてもらうよ、もーう…」

私が『Closed』の掛札をかけに向かう間に、眼鏡の男性はぶつくさと文句を言いながらも、例の男性を背に担いで先に二階に上がって行きました。

ひとまず奥のベッドを貸し、私と眼鏡の男性は上がってすぐにある部屋のテーブルに向かい合うようにして腰掛けました。

掃除が苦手な私の部屋は、かつて老夫婦が使っていたものや新たに自身が買い揃えた雑品で溢れていました。

「申し訳ない、散らかってまして…」

「いやいや、オレんちの倉庫も人のこと言えないから…って、あれ、この手紙は?」

彼が目にしたのは、テーブルの片隅に積み上げられた書類。その中の、前日王国から届いた謎の手紙だ。

「ちょっと心当たりがあってさ、…見てもいい?」

構いませんよ、と言い切る前に彼は手紙を見ていました。

⇒next

封筒には一枚の紙が入っていて、書かれている内容はこちらからはよく見えなかったのですが…。
ただ、手紙を読む彼の瞳がどんどん輝いていくのだけは分かりました。

その手紙が一体何を意味するか、実は私にとってはどうでもいい話でして…。
そもそも面倒臭がりな私は、昔から手紙の類いは来ても見る習慣がほとんどありませんでした。

「…やっぱりそうだよっ!」

いきなり叫んだと思うと、彼は私の手を握って来ました。
そして鮮やかな青の瞳をこれ以上ないほどに輝かせながら、私にこう言ったのです。

「この手紙、探していたんだ!菊から聞いてた通りだ…!マスター、いきなりだけどこの酒場で雇って欲しいんだぞっ!」

「雇う…って、いきなりそんな事を言われても…」

最初は話が見えませんでした。

「この誓約書っ、ヒーローのオレが使わないでどうするんだいっ!?」

誓約書?
ヒーロー…?

「あの…、一体何の話ですか?」

「あ、そうかっ!マスターはまだこれ読んでなかったね」

言って彼はその手紙と共に、ポケットから一枚の紙を取り出して私に差し出しました。

最初は文字を見るのも面倒で、頬杖をつきながら内容を読んでいましたが、途中からその手紙の意味するものにふと気付き彼に向き直しました。

『集いたれ勇士たち!王国の近隣に突如姿を現した魔物たちの討伐に参加する勇士を募集中、詳しくは王国内の酒場にて』

『魔物討伐に協力を!勇者を派遣した酒場には報酬を与える、専属勇者の登録は…』

この手紙に書かれていることは、…つまりは故郷を滅ぼしたあの魔物に出会えるのかも知れない。そして…。
気付けば私は先日故郷で起きた惨劇を、この見ず知らずの、今日出会ったばかりの青年に話していました。
私の勘が、もしかしたら、この青年が故郷の者たちの仇を取ってくれるかもしれない、そう告げていました。

「マスターにもいろいろ事情があるみたいだね、仇討ちだかなんだか知らないけど、悪をやっつけるのはヒーローの仕事なんだぞっ!」

「…君は、私の代わりに戦ってくれると言うのですか?」

「もちろんさ!」

魔物討伐という言葉に臆することなく、彼は立ち上がり笑顔で握手を求めて来ました。

「オレはアルフレッド、これからヨロシクな、マスター!」


こうして。
私と酒場を取り巻く数奇な物語が幕を開いたのです。


⇒next story

【はじめての討伐訓練】


【はじめての討伐訓練】



結局あの日、私とアルフレッド君は意気投合して、朝まで語らい続けていました。

彼は、昨今稀にみるほどに正義感に溢れた青年で、正義や悪に関する持論や自分の憧れるヒーローというものについてとかく語って下さりました。

私も幼い頃、故郷を救い礎を作り上げたとされる英雄に憧れ、銅像を前に日が暮れるまでずっと眺めていたこともありました。
きっとそれに似た何かをヒーローと呼ぶのだろうと解釈しました。

…多少言い方が酷いかも知れませんが、会話の端々に少しおバカなところがあるようにも捉えられました。

彼らは訳あってたびたびこの世界にも顔を出している、とも話していましたが…。

ふむ…世界?
私には少々知識が足りないようで、未だ解釈に悩むところです。

結局連れの方--アーサーという名前の青年は朝方まで目覚めることはなく、奥の部屋でたびたびすすり泣く声が聞こえてくるばかりでした。


翌日。
アルフレッド君は誓約書にサインを書くと、一旦自分たちの家に帰ると言って、何故か異様にへこんでいるアーサー君を連れて酒場を後にしました。

誓約書を眺めながら、私は不思議な感覚に捕らわれていました。

老夫婦の話していた神託。
これがもし神の導きと言うのなら、私は故郷を失った辛さより、新たな道を示して下さった今に感謝しなければならないでしょう。


しばらくして、アルフレッド君は酒場に再び姿を現しました。

「やあ、お待たせっ☆」

軽快な音を立てるドア。
そこには爽やかな笑顔で入ってきたアルフレッド君。

ただ、彼の姿を見て私は驚きを隠せませんでした。

頭にはウエスタンハット。
首に巻かれた赤いバンダナ。
昨日の服装の上に更に黒いコートを羽織り、腰にリボルバー式の拳銃を携えてやる気満々の様相でした。

「似合うかいっ?」

「いや…あのっ…」

どこの西部劇に参加されるのか!?とツッコミたかったのですが…。

拳銃を抜き撃ちのように素早く取り出し微笑む彼。

おもむろに手首のスナップを利かせて天井に向け飛ばされた銃は、飛ばした時と同じ形でトリガーキャッチされ、更にクルクルと彼の手の内で円を描く。

こんな綺麗なガンスピンを見せられては何も言い返せませんでした。


結局。
私は彼に何も言えず、そのまま彼を連れて王宮に向かうこととなりました。

もちろん、彼との距離は十歩分ほど離れながら。


⇒next

王都の中心にそびえ立つ、身の丈の何十倍も高い真っ白な王宮。訪れたのはこれが初めてでした。

圧巻、とはこのことでしょう、私は思わず誓約書を握り締めていました。

唐突に私を支配した、緊張と、恐怖。手には汗。
一時的…とはいえ、盗みを働いていたことがもしも国に知られるようなことがあれば、と不安で仕方がありませんでした。

思うように歩を進められずにいた矢先、そんな私の心を知ってか知らずか、アルフレッド君はズカズカと王宮に向かって行きました。

「ちょっ…アルフレッド君!?」

「マスター、何やってるんだいっ!早く早く!」

走り行くアルフレッド君。
入り口で槍を携えた門兵たちに、当然の如く止められてしまいました。

「怪しい奴め!貴様何者だ!通行許可書を見せろ!」

…まあ、見るからに怪しいですよね。

「何だい、失礼な奴らだなぁ。マスター、早くそれを見せてやってくれよ」

私は意を決して歩みを進め、門兵に例の誓約書を見せました。
すると彼らはあっさりと道を開き、門兵の一人が付き添い、私たちは将軍の執務室へと案内されることとなりました。

道行く途中、「ホワイトハウスの方が綺麗で豪華な造りなんだぞ!」と、多分ご自身の家の自慢話をされていましたが…そこは聞き流しました。

将軍の部屋に到着。
重い扉を開くと、まずどこの鍛冶屋かと思うほどに武器に満ち溢れた空間が視野に広がりました。
奥に置かれた執務用と思われる机の上すら、ほとんど武器に占領されていました。

門兵は将軍へ伝令に向かっていました。

「よく来たな、命知らずの勇士さん」

聞こえてきたハスキー声。
どんな無粋な男が将軍職を務めているのかと思いきや…。

そこに立つのは、腰に届く長い黒髪を持つ三十路くらいの女性でした。

女性が、将軍…?
私はうっかり彼女を凝視してしまっていました。

「何だ?王国の軍をまとめる将軍が女で何が悪い?」

向けられた切れ長の瞳の放つ威圧が、まるで胸に突き刺さるようでした。

そこへ突然。

「…That's impressive!」

アルフレッド君がいきなり叫び、同時に彼女の元へ駆けて行きました。

「凄い!凄いよ君!一国を担う将軍職なんてそうそう就ける職業じゃないだろ!すっごく尊敬するんだぞ!」

ヒーロー、というものを語っていた時と同じように瞳をキラキラ輝かせながら、彼女の肩を前後に揺さぶっていました。


⇒next

彼の突拍子のなさに、流石の将軍殿もたじたじでした。

「な…、何なんだいきなり!無礼にも程があるぞっ!」

アルフレッド君を投げつけようと片腕を掴まえた…までは良かったのですが。

『…なっ』

私と将軍は同時に驚愕の声を出していました。
それは一瞬のことでした。
すい、と掴まれた左腕の方向へその身を流し…。
刹那、床に倒れ込んでいたのは…将軍の方でした。

「何だい、いきなり襲いかかるだなんて危ないなぁー」

将軍の投げ技を軽くあしらってしまったアルフレッド君。

この人、…馴れているのか?

事が起こってから数秒、私と門兵は呆然と立ち尽くしていました。
ですが、急に私の全身から血の気が引いていくのを感じました。ようやく事の重大さに気付いたのです。

「ア…アルフレッド君!?」

「ん?何だいマスター?」

こちらを向いてつらっと返事を返して来る辺り、彼はこの明らかに危機的な状況を全く理解していない!

これは最早謀反者としての牢獄生活の始まりだ!
私はそう諦めかけていました。

「ふっ…、ははははは!」

ですが突如、将軍は気でも狂ったかのように高らかに笑い始めました。

「面白いやつが来たものだな!貴様、アルフレッドとか言ったな?気に入った!」

立ち上がり、嬉しそうに笑い声を上げて彼と向き合う将軍。彼の肩を二度ほど叩いてから、おもむろに歩き始め、机の中から丸められた一枚の用紙を取り出して投げ渡しました。

「国の外れにある訓練所までの地図だ!まずはその訓練所に行って来るがいい!奥にあるアイテムが置かれている、それを私の元まで持ってくるのが勇者となる試験だ!」

「本当かい!それじゃ早速…」

「ただし!訓練所では一切の装備品の使用は禁止だ!そのへんちくりんな腰の飾りや被り物は当然使用できんぞ」

「へんちくりんって何だいっ!」

「ははは!まあ君ほどの力があれば武器など必要無さそうだがな!」

和やかな空気。
私の心配は杞憂に過ぎなかったようで、ほっと胸を撫で下ろしました。
将軍がおおらかな方で助かりました。

「ところでそこの、酒場の者だろう?誓約書を早く出さないか」

「え?…あっ!」

ちょいちょいと手招きされ、今まで握り締めていた誓約書を慌てて渡しました。

「これが無ければ困るのだよ、正規の登録者人数がどうとか、救護隊の手配がどうとか…執務の連中がうるさくてな。面倒で仕方ない」


⇒next

その後、アルフレッド君は身に纏っていたコートやベルトの銃を渋々ながら私に預け、単身討伐訓練という名の試験場へと向かって行きました。

一人残された私は、彼の登録手続きが済むまではこの王宮に留まらなくてはならず…。
彼が去ると同時に再び背筋に緊張が走り、あまりの恐怖で固まってしまいました。

「そんなに緊張するな、そんな畏縮されては私も仕事がしにくい」

「は、はあ…」

そう言われましても…。

そんな私の思いを察したのか、ふうとため息を吐くと彼女は机から書類を取り出して仕事を始めました。


無言のまま30分ほどが過ぎ。
先ほどの門兵に連れられて執務室に戻ってきたアルフレッド君。

「勇者候補殿のご帰還であります!」

「マスター、お待たせ☆」

笑顔でブイサインを向けるアルフレッド君。

「やはり早かったな!」

ガタリと勢いよく立ち上がり、将軍は彼を笑顔で迎え入れました。

「ところでさ、訓練所のアイテムって…アレ?」

アルフレッド君が指差した開け放たれたままの扉の方向、ちらちらと白い何かが見え隠れしていました。

「何をしてるんだい?Come on!」

彼に声をかけられた数秒の後、意を決したかのような形相で姿を現したのは、手のひらに乗るほどの大きさの白くて丸い物体。
彼の顔がそのままに映されたようなその丸い物体は、ピキーッと調子の高い鳴き声を上げながら、彼の肩に飛び乗りました。

「…アレは?」

「本試験のクリア条件、具象の水晶に触れた、ということだ」

将軍はアルフレッド君に歩み寄ると、彼の肩に乗ったその物体の頬をつつき始めました。

「ふふっ、貴様の相棒はなかなかぷよぷよしてて可愛いものだな。どれ、早速訓練所を攻略した報酬でも…」

将軍の振り向きざま。

「やっぱりこいつだけで良かったのかぁ、いやぁ、やっちゃったなぁ!」

髪をくしゃりと掻き上げ、彼は胸ポケットからに何かを取り出しました。
振り返る将軍。
その手に握られていたのは、サイズの透明な水晶。

嫌〜な予感がしました…。

「かっ…返してこおぉいっ!!!」

鬼の形相で怒声を室外にまで轟かせ、怒りを露にする女将軍。

『はっ…はいぃ!!』

この叫びには流石の彼も震撼させられ。

結局。
私はアルフレッド君と共に、訓練所へ水晶を返しに行く羽目に。
結局今回の報酬は得られませんでした…。


⇒next story
『酒場にて(1)』

【酒場にて(1)】


「マスター!コーラ一杯!」

「はいはい、お待ちください」

初めて討伐訓練に行ったあの日から、毎日訓練所へ足を運ぶアルフレッド君。
今日も昼間から私の店に顔を出し、コーラを飲んで休憩中です。
例の白い物体--マシュマロと名付けられた彼の相棒も、カウンターの上で皿に入れたコーラを飲んでいます。

この一週間、私の酒場で一定の時間が来るまで他愛ない話をし、時が来ると訓練所へ向かう馬車に乗って討伐訓練へ。彼が訓練を終わらせる辺りに私は王宮に向かい、程よい時間に彼と城で合流しその報酬を受け取りに行く。
これが日課のようになっていました。

ですが、普段ならそろそろ出発する時間のはずなのに、今日はまだちみちみとコーラを飲んでいました。

「今日はまだ出発されないのですか?」

「待ってる人がいるんだ、今日はその為に来たんだぞ」

グラスの中の氷を踊らせながら、彼は入り口を眺めていました。

待ち人、ですか。
いつもよりも柔和な表情が、これはきっと特別な方を待っているのでは、と思うほどでした。

そこへ…。

カランカラン

ウエスタンドアが軽快な音を立てて、一人の客を迎え入れました。

綺麗な黒髪の、真っ白な服に身を包んだ神秘的な雰囲気を醸し出す人。
男性なのか、女性なのか…失礼ながら私は初見で見分けられませんでした。

「いらっしゃいませ」

いつものように声を掛けると、その客は私の方を向き無言で首をガクンと落としたので、つい驚きすくみ上がってしまいました。

「あ、そうか。マスターは初めてみる挨拶だよな。ビックリしたかい?あれは『会釈』っていう日本独自の挨拶なんだよ」

慣れた様子で説明して下さったアルフレッド君。
エシャク、ですか。覚えておかなくては。

アルフレッド君は席を立ち、その人の元へ早足に近付いて行きました。

「やあ、待ってたよ菊っ!」

両手を広げてハグと呼ばれる挨拶をするアルフレッド君。
…でしたが。

「…っ!」

小さく言葉を発した小柄なその人は、アルフレッド君の腕にがっちりと掴みかかり、気付けば彼の身体は綺麗な弧を描くように宙を舞っていました。

ズウゥーン…

「いっつつぅ〜…」

床の上で苦痛の声を発するアルフレッド君。

いつぞやの光景を見ている感覚でした。
なるほど、以前アルフレッド君が投げ技に馴れているように感じたのは、この人が原因か。


⇒next

投げつけてから急に青ざめた表情になったその人は、しゃがみ込んで手を差し伸べていました。

「あっ、あの!実にすみません、アルフレッドさん。外国式の挨拶にはまだ馴れなくて…」

反射的に身体が反応するらしい。
…それより気になったのは、その人の声が想像より随分と低い声だったことでした。

「Hahaha!いやぁ〜、今日もまた菊に一本取られちゃったなぁ!」

自身の災厄を軽い調子で笑い飛ばし、差し伸べられた手を掴んで立ち上がるアルフレッド君。
埃を払う彼に近付き、私はこっそり耳打ちしました。

「アルフレッド君、念のため確認なのだけど…あの人は男性、女性?」

「Ah!確かに見た目どっちか分からないよな、分かるよマスター!彼はれっきとした男の子さっ☆」

せっかくの耳打ちが全く意味を為さない。

「…しぃーっ!声が大きいっ!」

慌てて彼の口を塞ぎましたが、既に後の祭り。

「あの、お二人とも聞こえてますよ?それに男の子というには少々誤解があるかと…」

きっと貴方の想像するよりも年寄りですよ、と言われても、見た目が見た目なだけに私にはピンと来ませんでした。

「改めまして私、本田 菊と申します。先日アルフレッドさんから紹介を受けまして、今回は他の酒場の見学という名目で、本日此方の酒場に来させて頂きました、今後とも宜しくお願い致します」

先ほどのエシャクと呼ばれる挨拶をする本田さん。

「あ、はあ、此方こそ宜しくお願いします。先ほどの口振りですと、本田さんも他の酒場でご登録を?」

酒場の勇者登録は一つの店につき一人。
経理の関係で複数人を雇われると非常に困るらしい話を例の女将軍がしていたのを思い出しながら、私は彼に質問を投げ掛けました。

「はい、王都の最南端にある小さな酒場の経営主さんに雇って頂いてます」

そうか。
彼もまた雇い主を探し出し、正式に勇者登録をした一人なのだ。
本田さんとは少し話しただけですが、単にこんな華奢な方が魔物討伐に参加されていることに驚いただけではなく、…大変失礼ながら、アルフレッド君の知り合いにこんなにもまともそうな人間が居るなんて想像がつきませんでした。

「何だいマスター、オレの顔をジロジロ見てさぁ」

ぶぅ、とふくれるアルフレッド君。

「…お気持ち、察します」

私の肩を軽く叩いて苦笑する本田さん。
やはり彼はいい人だ…。
私はついつい感動してしまいました。


⇒next

ふと本田さんの後ろを見やると、戸口にちょこんと座る白いもこもこの子犬がいました。

「あれ、迷い犬かな…?」

子犬に向かって歩く私の後ろを、本田さんも付いて来る形で歩いて来ました。
店内に招き入れ、しゃがみ込んで子犬を見た時に、ふと本田さんを連想していました。
つやつやで真っ白な毛並みと、招き入れられるまで決して店内に入ってこなかった礼儀正しさ。

「この子犬…もしかして、本田さんの勇者試験の時の?」

「その通りです。マスター、改めて紹介します。彼は私の相棒のぽちくんです、…ぽちくん」

「わんっ」

本田さんもしゃがみ込んで、子犬に右手を差し出しました。子犬もそれに応えて前足をちょこんと手に乗せます。
打てば響く、ではありませんが、名前を呼べば返事をし、お手と言われたらお手を返す。指示があるまでその場から一切動こうともしない辺り、とても礼儀正しい子犬のようです。

「うわぁ、すっごく可愛いんだぞっ!」

アルフレッド君も近付き、しゃがみ込んでぽちくんの姿をまじまじと眺めていました。
彼の後ろから顔を出して、恐る恐るぽちくんを見ているマシュマロ。そんなマシュマロに近付いて、ぽちくんはマシュマロの匂いをふんふん嗅ぎ、しばらくすると気に入ったのかマシュマロの頬の辺りを舐め始めました。
ぽちくんの好意に、マシュマロも嬉しそうにピィピィと鳴いていました。

「おっ、流石はマシュマロなんだぞ!やっぱり主同士も仲が良いから打ち解けたのかな」

マシュマロとぽちくんの様子を嬉しそうに見つめるアルフレッド君。

「そういえばお二人は、長いお付き合いなのですか?」

そう二人に聞くと、アルフレッド君は急に立ち上がり、目を輝かせながら話し始めました。

「まぁね☆菊の引きこもりを解消したのはオレだし、そもそもオレと菊は、こ…「そういった発言は謹んで頂きたいものです」

すっくと立ち上がり、言葉を制する本田さん。

…こ?

「孫とお爺ちゃんくらいにしか見えねぇよ、アル」

カランカラン、とドアが軽快な音を立て、同時に聞き覚えのある声が酒場の入り口から聞こえて来ました。

「…アーサー君!」

私にペコリと一礼するアーサー君。

「その節は済まなかった、酔っ払って散々迷惑かけたばかりかベッドまで借りてしまって…」
「いえ、構いませんよ」

先日はあんなに酔って変になっていましたが、本当は礼儀正しい青年のようです。


⇒next

「何だいアーサー、別に今日…しかもこの時間に来なくてもいいじゃないかっ!少しは空気読んでくれよっ!」

「お前に言われたかぁねぇよっ!このAKYメタボがっ!」

「メタボ言うなっ!」

顔を合わせた途端のこの口論。私はつい呆気に取られてしまいました。

「あ、あの。一体何なんですか、この二人は…」

この二人の間に入ることは困難と判断した私は、半ば呆れ顔で二人の様子を眺める本田さんに尋ねました。

「アーサーさんとアルフレッドさんは、ご兄弟なのですよ、大変仲が良ろしくて…」

「『全っ然仲が良ろしくない』んだぞっ!/ってぇの!」

息のあったツッコミ。
私はつい感嘆の声を上げていました。

急に賑やかになった私の酒場。
和やかなのは先ほどから酒場の隅で戯れているマシュマロとぽちくんだけのようです。

アルフレッド君とアーサー君がわいわい騒いでいる途中。


カランカラン…

珍しく今日は客が多い日のようで。

「いらっしゃいませ」

入って来たのは、首にマフラーを巻いた、背の高い温厚そうな青年でした。

「あー、アルフレッドくんにアーサーくん、それに本田くんも。やっとみぃつけた!」

瞬間。
場の空気が一気に凍りついたのです。

アルフレッド君が珍しく険悪な空気を醸していました--もしかするとこんな明らかに嫌そうな顔をする彼は初めてみるかも知れません。
本田さんに至っては、まるで時間が止まったかのように硬直してしまっていました。

「…げっ、イヴァン…」

唯一ボソリと呟いたアーサー君の声を、私は聞き逃しませんでした。

「あ…あの、皆さん??」

私は四人の顔を交互に見回しました。
唯一ニコニコしているのは、イヴァンと呼ばれた新しいお客様のみ。
そして、一向に誰からも互いに話しかけようという気配が感じられませんでした。

そんな沈黙を破ったのは、マシュマロのピィという鳴き声でした。
飛び跳ねてイヴァンと呼ばれた青年の足元に擦り寄って来ました。

「キミ、とってもカワイイねぇ。あ、もしかしてこの子はアルフレッドくんの?」

「あ…ああ、そいつはオレの相棒さ。マシュマロって言うんだ」

しゃがみ込んでマシュマロを撫でるイヴァン君の様子を見たアルフレッド君は、ようやく警戒をほどいたようでした。


⇒next

「この子、カワイイねぇ。アルフレッドくんにホントそっくりだぁ」

一方でイヴァンという名の青年はマシュマロの頭を撫でながら、アルフレッド君とマシュマロを見比べていました。

「そういえば、アーサーくんも精霊とか使い魔的な何かを持ってるの?」

「あ…ああ」

何ともぎこちない返事をするアーサー君。
返事と共に指を鳴らすと、透明な四枚の羽を背に生やした、店のコーヒーメーカーと背丈が変わらないくらいの小さな女の子が姿を現しました。

「とりあえずみんなに紹介するよ。こいつが俺の相棒、ピクシーだ。可愛いだろ」

アーサー君の周りを軽快に飛び回るピクシー。

「Wow!!それがピクシーってやつかい?So cute!」

アルフレッド君が近付くと、ピクシーは慌ててアーサー君の後ろに隠れてしまいました。
逃げられたせいか、アルフレッド君はぷぅと膨れてしまいました。

「わぁ、カワイイねぇ!」

一方でイヴァンと呼ばれた青年が立ち上がってアーサー君に近付くと、ピクシーの方から右手を差し出して握手を求めて来ました。
様子を見ていた他の三人は、一様に驚いた表情でその様子を眺めていました。

「キミ、何だかちょっとボクの精霊くんに似てるねぇ」

「イヴァンの精霊?似てる…のか?」

興味を持ったようなアーサー君の反応に、イヴァンと呼ばれた青年が眼を輝かせていました。

「うん!みんなに会わせてあげるよ。おいで、ボクの精霊くん!」

天井に向かって声をかけると、今度は一輪のひまわりの花を持った、ピクシーと変わらないくらいに小さな少年が現れて、彼の肩にちょこんと座りました。

「彼はパトソール!ひまわりはロシア語でパトソールニチニクでしょ?そこから名前を付けたんだ」

「これはこれは…」

私の挨拶にペコリと頷くパトソール。
アルフレッド君やアーサー君からは、驚きにも似た声。
本田さんに関しては、まるで反応無し。

パトソールは足をぱたぱたと遊ばせながら、周りをキョロキョロと見回しました。
視線の先に捉えたのは、先ほどから一切微動だにしない本田さんでした。

「本田くん、どうしたのさっきから?」

「…は、はいっ!」

青年の応答にビクンと竦み上がり、本田さんは何故か再び硬直していました。

…ところで、何故皆さんこんなにも警戒されるのか私には分かりませんでした。
少なくともとても爽やかな好青年に思えるのですが…。


⇒next

「まあいいや、本田くん久しぶりにボクと会ったから緊張してるんだよね?」

「緊張とは違う気がするんだぞ…」

珍しくツッコミを入れるアルフレッド君。ですが青年の耳には届いていない様子でした。

「あ、そうだ」

言うと彼は私に歩み寄って来ました。

「ボクはイヴァン、よろしくおねがいします、マスターさん。ほら、パトソールもご挨拶ご挨拶」

改めて自己紹介をするイヴァン君と握手を交わした私は、続けて肩に乗った精霊にも手を差し出しました。
ですが彼は首を振り、申し訳程度にペコリとお辞儀をするだけでした。
そこへピクシーが私の頭に舞い降りてきたらしく、ちょっとした重力を感じると共に頭上からクスクスと笑う声が聞こえてきました。

「ピクシーの奴、マスターの事が気に入ったらしいな」

私の横に立って、頭上のピクシーを眺めるアーサー君。和やかなその表情からは、以前私の店で散々痴態を晒していた方とは思えません。

「マシュマロなんか、すっかりイヴァンになついてるんだぞ。…How come??」

「どうしてって言われてもなぁ、俺にもさっぱり分かんねぇ…」

見ればマシュマロは、イヴァン君の周りを楽しげに飛び跳ねていました。
しかし、彼らが何故かその様子を不思議そうに眺めていたので、私は意を決して二人に向き直して尋ねました。

「あの、アルフレッド君にアーサー君。ひとつお聞きしても宜しいですか?」

「何だいマスター?」

「イヴァン君も、君の友達ですよね?何でそんなに警戒するのか気になったもので…」

「Ahー…umー…」

アルフレッド君は頭を掻いて困ったように言葉をどもらせていました。
彼からは答えが出そうになかったので、私はアーサー君に声をかけました。

「一体彼は、どんな方なのですか」

「イヴァンか?あ〜…、説明すると長くなるんだが、少なくとも俺たちは仲間だ、連合軍として共に戦ったこともある。WW1とかWW2とか…」

アーサー君の説明には良く分からない言葉も度々出て、世界ジョウセイやら領土拡大など…私も理解に苦しいところでしたが、彼ら二人は少なくとも苦楽を共に仲間だという事は解りました。

「ただねマスター、日本…じゃなくて、菊はその戦いの中であいつとかなり険悪な感じになっちゃってさ、イヴァンの方からはそんなでもないけど、菊の方がアレルギーだって言うくらいイヴァンが苦手なんだ」


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(この物静かで温厚そうな本田さんが、そこまで苦手な方…)

アレルギー、というくらいに苦手な人物。
一体どのようなことがあればそこまで苦手になれるのか、私には想像が付きませんでした。

「本田さん、とりあえず座って休んだ方が」

一番角のカウンター席を勧めると、無言で頷き、半ばよたよたとおぼつかない足取りで席に座る本田さん。
その横の席をすかさず取りに行くアルフレッド君。「菊はオレが守ってやるんだぞ☆」と庇護するように肩を抱えようと左腕を出そうものなら、「テメェなんざに何が出来る、このメタボヒーロー」と皮肉を飛ばしながら腕を掴むアーサー君。
更に本田さんの真後ろに立って「早く心を開いてほしいな、僕はキミと仲良くなりたいだけなんだけどなぁ」とイヴァン君。
本田さんは私の出した水を一気に飲み干すと、視線を私に向け無言で私に助けを求めているようでしたが…。
正直第三者的な立場で、私はただその場を眺めていたかったので、ただ笑顔を返すのみでした。

彼らは楽しい。
今の王国の危機的状況を忘れさせてくれるようでした。
見ているだけでも個々の性質があまりにも違い過ぎるというのに、口を開かせたら最早楽しいを超えて個々への深く強い探究心すら沸いてきます。

それ以前に。
ここ最近のアルフレッド君との交流から得たもの−−ハンバーガーという食べ物の作り方やコーラと呼ばれる飲み物の存在から始まった彼の生きる国の文化も、今日のアーサー君の会話からも。
果たして彼らは何者なのか、そんな少しばかりの興味も沸いてきていました。


「今日はマスターに菊を紹介したかっただけなのに、何だい君たちっ!少しは空気を読めよっ!!」

「テメェに言われたかねぇよ!大体テメェは…」

「あの…、皆さん?少し落ち着いて…!!?「ほーんだくん、こっちでもよろしくねぇ」

「あっ!コラ、イヴァン!どさくさ紛れに本田に抱きつくなっ!固まっちまってるだろぉがっ!」

「イ・ヴァ・ン?ちょーっと店の裏に来てくれないかい?」

「や・だ・ね。何でキミの言うことを聞かなきゃないの?ボクには譲歩なんて言葉、ないんだよ」


いつになく賑やかな酒場。
あまりにも賑やかで、私はすっかり彼らの独特な世界に呑まれてしまっていました。
そんな喧騒の中でポストに届いた手紙に気付くのは、皆さんが酒場から帰った深夜のことでした。


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【はじめての洞窟探検】

【はじめての洞窟探検】


深夜1時。
アルフレッド君を除いた店の客が出払ったのを確認すると、私は『closed』の看板を戸口に掲げに行きました。

「…おや?」

店の前に設置されたポストの中に、複数の手紙が入っていたのがまず目に入りました。
…といっても、手紙が入っていることは度々あるのでそこは別段気にも留めてはいなかったのですが、問題はそこからでした。
今日は昼間からずっと賑やかな客が入っていたことで手紙の存在に気付かなかったし、彼らの存在があまりにも珍しくて面白かったのでうっかりそちらに気を取られ、私はむしろ外の世界に目が行き届いていませんでした。
そのため、国からの手紙に今の今まで気付かないでいたのです。

慌ててカウンターの席に座ると、私は豪快に便箋を破り中の手紙を取り出しました。

「マスター、そんなに慌ててどうしたんだい?」

焦って手紙を破り出す私の姿をきょとんとしたまま眺めていたアルフレッド君。背後から手紙を覗き込むようにしながら問いかけて来ました。

「アルフレッド君、将軍から君に令状が届いた」

頬杖を付きながら文面を読み、私は彼に答えました。

「What?!れ、令状だって!?オレ、何か悪いことしちゃったかいっ!?まさか…逮捕とかされて、あの王宮に強制連行とかされちゃうのかいっ!?」

令状、という言葉にどうやら語弊があったようで、彼は半ばパニック状態になりながら落ち着きなく私の背後をウロウロし始めていました。

「違う違う、令状って郊外の洞窟探索の話、要するに緊急討伐依頼状みたいだよ」

そんな後ろでパニック状態になっている背後の彼に、頬杖を付いたままの姿勢でひらひらと一枚の紙を見せる。
何せ未だに字を見るのも苦手なもので、手紙の類いはあまり熟読したくないといいますか、いっそ読みたくないといいますか…。

「なんだ、あの将軍からの依頼状か」

粗雑に渡したその手紙を受け取ったアルフレッド君、落ち着かずにうろついていた先ほどとはうって変わって、急に静かになって手紙を読み始めた様子でした。


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「将軍様からの緊急招集なんて、相当な事態になってる…とか?」

あまりまともに中身を読んでいなかった私は、黙読するアルフレッド君に尋ねました。

「Umー…、いきなり危険が迫ってるとか、そういう訳じゃなさそうなんだぞ!」

手紙をカウンターに座る私の席の前に豪快に置くと、彼は必要な箇所に指を添えて簡単に説明をしてくれました。
書状の指を差された部分には、『選ばれた勇士たち 明日 日の登りし時と共に 南方の洞穴に集いて魔物の軍を一掃せよ』と書かれていました。

「因みにさ、マスター。この緊急招集自体は、下隅に書かれてるけど…定期的にやってるみたいなんだぞ」

「定期的に、ですか」

実は内心、魔物の軍団が王国に攻め込んでくるのでは…という最悪なシナリオを思い浮かべていた私にとって、その説明を聞いた瞬間ほっと胸を撫で下ろしていました。

「けどさ、最近確かにフィールドでも変わった気配は感じていたんだぞ。何ていうか…ピリピリした緊張感っていうか、ねっとりした異様な空気」

うへぇという声と共に、何とも嫌そうな面持ちで手で空を払いながら話すアルフレッド君。

「まさか貴方が空気を読んでおられたとは、珍しいこともあるものですね」

背後からの聞き覚えのある声。
振り向いた先、声のした方向−−店先へと真っ先に飛び跳ねていったマシュマロ。
そこには、先ほど帰ったはずの本田さんとぽちくんの姿がありました。

「あれ、菊っ!」

アルフレッド君が振り向きざまに本田さんに向かって駆け付け、同時に私も席から立ち上がって彼を出迎えました。
先に出迎えたマシュマロは、早速ぽちくんと戯れていました。
アルフレッド君はというと、昼間投げられたことを学習してか、ハグという挨拶をせずにただ笑顔で彼の前に立っていました。

申し訳なさそうに私にペコリと一礼する本田さん。改めて律義というか腰が低い人だなぁと思いながら、私は声をかけました。

「本田さん、どうされました?」

「いえ…私としたことが、うっかりここに来たもう一つの目的を忘れてしまってました」

言うと本田さんはズボンのポケットから書状を取り出し、アルフレッド君に手渡しました。

「What?」

「将軍様からの預かり物です。今朝がた所用がありまして、ここに来る前に彼女のところへ行ってきたのですが、貴方の知り合いということで代わりに受け取って来ました」


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受け取った手紙の内容を確認するアルフレッド君。
本田さんは入口のすぐ手前にあるテーブル席に腰を落ち着けられたので、私は水の入ったグラスを三人分用意し、マシュマロやぽちくんにも受け皿に水を入れて床に置きました。
途中、アルフレッド君の表情は何故か笑いを堪える顔つきになっていき、手紙を持つ手もわなないていました。

「…アルフレッド君?」

テーブルにグラスを置いてから、私は立ったまま手紙を読み続けるアルフレッド君の肩を叩いて手招きしました。

「Ah sorry!いや、あの将軍もホントは…」

彼は辛うじて笑いを堪えながら私と向かい合うように席に座り、皆に見えるように手紙を置きました。

「ほらここ、『私は職務上王宮から出られん!だから明日の招集、貴様が私の代わりに連中をボコボコにして来い!』だって!」

あの将軍様らしい、いかにもな内容。
なるほど、笑いたい気持ち…分からなくもありません。

「あの、明日の招集…とは?」

「ああそうか、菊はまだ正規の手紙を読んでなかったね!」

思い出したようにポンと手を叩くと、酒場に届いた方の手紙をカウンター席から持ってきて本田さんに渡しました。
本田さんは受け取った手紙を読みながら、度々コクコクと頷いていました。

「なるほど…内容は概ね理解しました。宜しければ、私も同行させて下さい」

アルフレッド君に微笑みを向けながら、彼は同行を名乗り出たのです。

「招集を掛けられた人間がいれば、ある程度パーティーメンバーを編成した上での参戦も可能、と書かれていましたから…」

流石は勇者登録をされただけあって、度胸がある。

「菊が一緒に来てくれるなんて心強いんだぞ!それに…」

隣に座る本田さんをじっと見据え、テーブルの上に乗せられた本田さんの手を握るアルフレッド君。

「いざとなったら、菊はオレが守るんだぞ!」

「…あっ、あのですねぇ!!」

顔を背けながら懸命に声を張り上げる本田さん。その声に足元の二匹は驚いたのか、豪快な音をたてて皿をひっくり返してしまいました。

「貴方のこと…だから、守る以前に、敵の真っ只中に突っ走って行かれるのではっ?!」

「菊が傍にいてくれるなら無茶はしないよ、絶対に!」

「貴方という方は…」

申し訳なさそうに私を見上げる二匹を横に、雑巾で床を拭きながら二人の会話を聞いてましたが。
本当に、ただのお爺さんと孫の関係ですか…?


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−−−−−−−−


結局昨日の夜は、二階のマスターの部屋を借りて仮眠を取らせて貰ったんだぞ!

ホントはさ、せっかくだから菊と一緒に寝たかったんだけど「私は壁際で休ませて頂きますからっ!」って、菊ってばなかなか強情でさぁ。結局、マシュマロやぽちくんと一緒に、部屋の隅で毛布にくるまって寝ちゃったんだ。
添い寝くらい、たまにはいいと思わないかい?
そしたらさ、様子を見ていたマスターが「一人で寝るのがそんなに寂しいなら、本田さんの代わりに添い寝しましょうか?」なぁんて笑いながら言ってきてさ。
いきなりあのマスターの口から冗談だよ?正直、心臓に悪いからジョークもほどほどにしといて欲しいんだぞっ。
で、一人でベッド使うのも悪いから、俺も床で雑魚寝しちゃったってわけ。
…おかげでちょっと頭とか背中とかが痛いんだぞ。


朝日が昇りきらない早朝6時。
俺は菊と二人、馬車に乗って目的地へと向かったんだ。
もちろん、マシュマロやぽちくんも一緒にね。
俺と菊はマシュマロたちと向かい合うように座っている。…というか、ぽちくんから菊の横を強奪した、がこの場合当たりなのかもしれないけど、まっ、細かいことは気にしないっ!

それにしても。
十分な睡眠も取らずに頑張って早起きしたのも原因かもしれないけど、なんだか雑魚寝した時の痛みが取れなくて、大袈裟に肩を回したり、首を鳴らしたりしていたんだ。
そしたらさ。

「アルフレッドさん、大丈夫ですか?」

って。

「も〜う…、なんだかあっちこっち痛いんだぞっ!」

わざと声を大にして痛みを主張したら、案の定菊は心配そうに俺の身体にぺたぺた触れて来たんだ。
菊がこんなスキンシップを取ってくるなんて珍しくて、ちょっと嬉しかったりもしたんだ…ほんの数十秒前までは。

「ひどく筋肉がこっていますね。ちょっと背中を向けて下さい」

言われた通りに後ろを向いた、その途端。

「O…ouch!!!!」

背中や肩に、これでもか!って勢いで激痛が走った。

「我慢…して下さいっ!」

菊のマッサージは容赦ない。
「中途半端にやると後で響きますから」とかなんとか言って、本気のマッサージをしてくれるのはありがたい。ありがたいんだけど…っ。

「いっ、いっ…、痛いものは痛いんだぞっ!!」

つい菊の前で情けない声を出してしまったんだぞ…。


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菊が施してくれるマッサージの激痛と格闘をしているうちに(それでもせっかくの菊の施しだから必死に耐えてたんだぞっ!)、馬車は目的地に到着したんだ。
外を見たら俺たちより先に来た勇者の馬車も何台か止まってて、これは先にやられたかな?と思いながら、城から配給された剣を持って俺と菊は洞窟へと向かったんだ。

ただ、洞窟の入口付近まで辿り着いたけど…周りはやたら静かでさ。あのぬめっていうか、じめっとした嫌な空気をまた感じたんだ。
書状には『魔物の軍団』が存在している話が書かれているのに、まずその魔物の気配が全くしないんだ。それどころか、先に入ったはずの勇者たちの気配すら全く感じないってのは、おかしい話だと思わないかい?

「妙、ですね」

菊もこの違和感に気付いたらしい。

「菊も感じるかい?いや、違うね…何も気配を感じない、よね?」

「…はい、普通なら何かしらの気配を感じても良いはずなのですが、これは何事でしょうか?」

後から追いかけてきたぽちくんが扉に向かって唸り始めたんだ。マシュマロもぽちくんの背中に乗って追いかけてきたけど、何かに怯えていた。

「アルフレッドさん」

「分かってる、扉…開けるよ」

「はい」

菊や二匹に見守られながら、俺は慎重に扉の鍵を外しにかかった。


カチャ… カチャ…


扉を開くと、最初は中から吹いた冷気が頬を撫でたんだ。次にだだっ広い氷の岩壁が目の前に広がった。

「ぴいぃ…」

マシュマロが怯えるような声で鳴いて足元に擦り寄ってきた。
流石にこれくらい分かるんだぞ、ここの空気は不気味なくらい清んでいる。

「あれー?」

広間の一角から聞こえた聞き慣れた声。
その声を聞いた途端菊が硬直しちゃったんだ、そりゃそうさ!だってそこにいたのは…。

「イヴァン!?」

城から支給されたスタッフを持つイヴァンの姿があったんだ。

「君たちもここに寄ったの?奇遇だね」

周囲をよくよく見ると、氷漬けのクママルの大群と…先に来たと思われる勇者たちの姿。

「これは…一体?君、何をしたんだい?」

俺はこの状況を見て、これはイヴァンの仕業だと判断して彼を睨み付けた。

「やだなぁ、アルフレッドくん。僕は何もしていないよ」

相変わらず本心の分からない笑顔を浮かべながら、イヴァンは俺らと合流したんだ。
マシュマロがイヴァンに擦り寄っていった辺り、確かに彼の仕業ではなさそうだ。


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「なぜ、あなたが…ここに?」

さりげなく俺の陰に隠れながら、多分相当な勇気を振り絞ってイヴァンに問いかけた菊。
なんだかちょっと声が震えてるんだぞ。

「本田くんから話しかけてくれるなんて、うれしいなぁ。いいよ、答えてあげる。ちょっと待っててね…よいしょっと」

足元のマシュマロをひょいと抱き上ゲると、珍しく困ったような様子で答えてくれた。

「あのね、この近くに来たら急にパトソールが姿をみせてさ。マシュマロくんみたいに怯えちゃって…ほら」

振り向いて背中を見せるイヴァン。そこには、震えながら彼のマフラーにしっかりとしがみついているパトソールの姿があったんだ。
これは、…ちょっと重たそうなんだぞ。

「いつもはボクが呼ばない限り姿を見せない子なんだよ?それなのにどうしたのかなぁって」

「パトソール。もしかして君も、ここの異常を感知した…ってことかい?」

マフラーにしがみついたままのパトソールに直接問いかけると、彼は俺の方をチラリと見て何度か頷いたんだ。

やっぱり。

ここ数日の間、訓練所へ向かう途中に感じていたあの気味の悪い感覚は、日を追って徐々に強くなっていたからね。
特に具象の水晶で具現化された彼らは、きっと俺たち以上に何かを察知する能力に長けているのだと思う。
マシュマロもパトソールも必要以上に怯えちゃってるし、ぽちくんだって…。あれ?

「菊、ぽちくんは?」

さっきからぽちくんの姿が見当たらない。

「そういえば…ぽちくん、ぽちく〜んっ!」

イヴァンが存在したことがあまりにも衝撃だったみたいで、菊もぽちくんが近くにいないことに今になって気付いたみたいだ。
必死に声を張り上げて呼びかける菊。氷の壁に声が反響して、改めてこの洞窟の広さを認識しながら、俺も一緒にぽちくんを呼んだんだ。


…わんっ!


何度目かの呼びかけで、奥からぽちくんの返事が聞こえてきたんだ。
先にこのだだっ広い空洞の奥に向かったらしいぽちくんの鳴き声を追って、俺ら三人は足元の凍りついたクママル達を避けながら先へと進んだんだ。


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洞窟の先へ進む毎に、冷気が肌に刺さるくらい強くなってきた。
まだ俺は自前のジャケットもあるし、革の手袋を付けてるのもあってその程度で済んでいる。イヴァンなんかはコートにマフラーを巻いているからそんなに寒い気はしないけど、菊はいつもの白い軍服だけで…見るからに寒そうだ。

それでも自分のことなんてお構い無しに、菊は俺たちの先を突っ走ってぽちくんを追っていた。

「ぽちくん、勝手に行動しないで下さいっ!万が一私たちが駆け付ける前に、もしものことがあったら…っ」

息を切らしながらぽちくんを抱え上げ、ひたすらお説教をする菊。そんな彼の腕の中で申し訳なさそうに鼻を鳴らしながらも、ぽちくんはそれでも先に見えるある物に向かって再び唸り始めたんだ。

氷の裂け目からその姿を現していた、見るからに重々しい鉄格子の扉。

「アルフレッドくん、これ、どう思う?」

「どうって…、すっごく重そうな鉄格子なんだぞっ!」

見た通りの状況を答えたはずなのに、何故か二人から盛大なため息。

「そうではなくて!イヴァンさんはこの先に何かを感じませんかってことを聞いたのですよっ」

「そうだよー、これが鉄格子だなんて見れば分かるよ。じゃなくてさすがに変な感じするよねって話がしたかったんだけどな」

「そうなのかい?まっ、細かいことは気にしないっ!」

何となくイヴァンの言葉の裏に何かトゲがあるような気がしたけれど。考える前に、一足遅れて追いついたマシュマロが、息を切らしながら俺の肩に飛び乗って来た…と思ったら、ぷよぷよのそのボディで顔に体当たりしてきたんだ。

「Oh!マシュマロ、ゴメンよ」

ぴいぴい鳴きながら何度も顔にぶつかってきたかと思えば、今度はピタリと体当たりを止めて何かに怯え始めたんだ。
パトソールの様子もなんだか変で、イヴァンのマフラーに自らぐるぐる巻きに巻かれて、身を潜めちゃったんだ。

「この子たちの様子を見ても、やはり何かが変です、お二人とも十分に注意して…」

「おや、このボタンはなんだい?」

菊の言葉を聞いてなかった訳じゃないんだぞ。
けどさ、扉の横に明らかに怪しいボタンがあったんだ、押したくなって当然だと思わないかい?

『ああっ!』

二人の叫び声が重なるのと同時に、鉄格子は重々しい音と共にゆっくりと新しい道を開いたんだ。


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「ア、ア、アルフレッドさんっ!?何という…」

その言葉は、鉄格子が開ききったところで遮断された。
扉の開放と共に襲いかかった強烈な寒波。

「くっ…」

菊は言葉を止めて、ぽちくんを庇うように抱きしめた。
マシュマロも一目散に菊の懐に飛びはねていった。

「アルフレッドくん、責任…ちゃあんととってよね」

イヴァンに背中をドンと押され、鉄格子の先に広がる部屋へ強制的に入れられてしまった。

「なっ、なにするんだいっ!」

振り返って叫ぶものの、この冷気よりも怖いイヴァンの視線があった。

「それはこっちの台詞だよぉ、ふつうさ、こんな怪しいスイッチなんてみかけたら警戒するものだと思うけどなぁ」

「いいや、違うね!こんな面白そうなスイッチを見かけたら、押したくなるのが普通じゃないかっ!」

イヴァンのセリフにイラッとした俺は、売り言葉に買い言葉の勢いで振り向きざまに喚き立てた…けれど、感性の違いをギャアギャア騒いでる場合じゃないんだぞ!
だって俺の背後には、俺の身丈の何倍もある巨大なヘビが姿を現していたんだ!

「アルフレッドくん、後ろのヤツって…なに?」

イヴァンが頭に冠を抱いた巨大なヘビを見上げながら扉をくぐってきた。
彼がいつも見せる余裕の笑みは無くなっていて、いつになく冷たい視線を相手にむけていた。
それだけこの目の前に現れた敵に警戒しているということだろう。現にスタッフを握りしめて戦闘態勢に入っている。
俺もヘビに向き直し、腰に下げた剣の鞘に手をかけて臨戦態勢を取った。

「あれは…、バシリスク…ですか?」

ザリッという足音から、ぽちくんとマシュマロを抱えながら菊もゆっくりと入ってきたようだ。
ところで今菊が口に出したバシリスク…って?

「アルフレッドさんも、何かのRPGで…、見覚えが…ありませんか?」

そう言われてみれば、聞いたことのある名前のような気もするんだぞ。
バシリスク…、バシリスク…。

「Ah!!思い出したんだぞっ!見られただけで石化しちゃったり、口から火を吹いたりするヘビの王様の名前なんだぞっ☆」

場の緊張をほぐそうと、敢えていつもの調子で答えたんだ。

「あれ、いつものツッコミはどうしたんだい菊?」

けれど、予想していた返答は一向に返って来ない。
振り返って菊を見る。
しゃがみ込んで二匹を抱え込んだまま、青ざめた表情で震え続ける菊の姿がそこにあったんだ。


⇒next

『菊っ!?/本田くんっ?』

俺とイヴァンの声が重なる。
ぽちくんとマシュマロの二匹を抱える菊の顔が妙に青ざめてる…!

菊のそばに行かなきゃ!

そう思ったのと同時に、バシリスクが俺たちに向かって巨大な尻尾を振り回して来たんだ!
尻尾の向かう先には、イヴァンの姿。
パトソールも彼のマフラーから慌てて飛び出して天蓋へと逃げていった。

「ちょっ、キミ…っ!邪魔しない…でよっ!」

迫り来る尻尾を両手で構えたスタッフでがっちり受けると、イヴァンはそのまま巨大な尻尾を弾き返していた。

「Nice イヴァン!…って!?」

言ってるそばからバシリスクは奇声と共に、俺を丸呑みにしようと口を開いて向かってきた。
チロチロと蠢く細長い舌が気持ち悪いんだぞっ!
咄嗟に剣を鞘ごと引き千切っていなければ、この身体はヤツの腹の中だったかもしれない。
剣がバシリスクの口に上手い具合につっかえたほんの数秒、あの気味悪い舌が剣を巻き付けて呑み込むまでのその隙を突いて、俺はヤツの攻撃から逃れつつ菊の元へと駆け付けたんだ。

「菊っ!」

自前の革ジャケットを彼の肩に被せて、菊の腰に携えられた剣を抜き取った。

「アルフレッド…さん?」

青ざめた顔が、唇が、寒さに震える声が、菊の限界をいやが上にも分かってしまう。懐に抱きしめられたぽちくんやマシュマロも、心配そうに菊を見上げていた。

「菊、君は二匹とここで休んでてくれ。大丈夫!あいつは…バシリスクは、俺とイヴァンでちゃっちゃとやっつけるんだぞ☆」

にこりとサムズアップして菊に向けると、菊の険しい表情が少し和らいだ。

「気をつけて、下さい。この敵は、私たちの想像している…バシリスクとは、違うようですから…」

「分かってるぞ、この洞窟の氷はアイツの仕業…俺の知ってるバシリスクは炎や大地の属性、だけど目の前のヤツは明らかに違うんだぞ」

食べられそうになったあの時、ヤツが異常な冷気を纏っていることに気が付いたんだ。
これはもしかすると…、イヴァンが居てラッキーだったのかもしれないぞ。

「あ〜あ。こんなヤツ、ボクの水道管があれば…楽勝なのになぁ」

ほら、今もヤツの頭の上で片膝を立てて乗っかりながらあんな事を言って…。
あんな…。

「イ…イヴァン!?」

イヴァンのヤツ、何であんなところにいるんだいっ!?
ヒーローの俺よりも目立ってるじゃないかっ!


⇒next

急いでバシリスクの近くに駆け付け、思いっきり叫んだ。

「イヴァン!俺よりも目立つなんてズルいんだぞっ!」

「あははー、ボクがどこにいようと関係ないよね?」

あんなところに居るってのに、あの余裕。
なんか腹が立ってきたんだぞ…。

「イヴァンさん!何故、そのような所に…!」

「さっさとやっつけちゃおうと思って、こいつのスキを突いて乗っかってやったのまではよかったんだけ、ど…って、人が、話してるのに、暴れないで、よっ?!」

イヴァンを振り落とそうと必死に首を振り回すバシリスク。だけど、あの冠にしっかりと掴まって何とか耐えてみせた。
バシリスクのあれって、体の一部なんだ…。

「話の続きだけど、それでね!ちょっと脳天叩き割ってやろうってスタッフでごーんってやったんだけど、…これ脆すぎるよ」

よく見ると、その手には真っ二つに折れたスタッフ。
確かに、近くに折れた片割れが落ちていた。

「今度もうちょっと強い武器を支給してもらわないと、…ねっ!?」

笑顔でそう言いながら、折れたスタッフの尖端を宛がうとそれを力一杯踏みつけた。
途端に絶叫を轟かせながら、目の前でのたうち回る。
頭から真緑の液体がドクドクと流れ始めちゃって、うわ…、グロテスクなんだぞ…。

「もう、嫌になるなぁ」

折れたスタッフの片割れを悠長に拾いに行くイヴァン。

「わんわんっ!!」

突然背後でぽちくんが吠える。
するとバシリスクがイヴァンに向かって凍えるような息を吹きつけたんだ!

「危ないっ!!」

「え?」

振り返りざまに気付いて横に飛び退いたけれど、少し気付くのが遅かった!


バキ パキパキ…ッ


ブレスが膝から下に直撃しちゃって、その場に倒れ込んでしまったんだ!

「これは…かなりムカつくなぁ。えいっ、えいっ!」

スタッフの端で氷を叩くけれど、簡単に割れてくれそうにない!
のそのそとイヴァンに向かって動き出すバシリスク。

ヤバい!
俺は手にした剣で斬りかかったんだ!
けどバシリスクのウロコが硬すぎて、全く手応えを感じない!

ちょっと待って、こんな武器だけじゃ勝てる気がしないんだぞっ!?


⇒next

こうなったら…。
のろのろとイヴァンに向かって蠢くバシリスクに追いつくのは容易いことだった。
本当は卑怯くさくてヒーローらしくない気もするからやりたくなかったんだけど、今はみんなの命がかかっているんだ!

「これでも…くらえっ!」

剣を逆手に持ってヤツの右目を貫いた!
こんなあからさまに弱点を狙うなんて、ヒーロー主義に反するものがあるけれど…

そう!
全てはコイツが悪い!

潰れた眼から気持ち悪い液体が飛んできたけど、気にしてなんかいられないんだぞっ!
すかさず剣を抜き取って後ろに飛び退く。
右目を貫かれた痛みでのたうち回るバシリスク。
表面は硬いウロコで被われていても、腹の辺りはウロコが無かったはず。

…Bingo!
その読みは当たっていて、横這いになったバシリスクの腹に全力で剣を突き刺したんだ!
思った以上に硬い腹の皮に強引にガード部分までねじ込むと、ヤツは甲高い悲鳴をあげながら急に立ち上がったんだ。
その勢いで身体が一気に宙に持ち上げられた。

…ここで手を離したら負けだ!

そう言い聞かせてがっちりとグリップを握り込み、腕の力を駆使して柄頭に腹を乗せる。
全体重のかかった刃は徐々にスピードを上げながらヤツの腹を切り裂いていった。
足が着いた瞬間、地面に叩きつける勢いで全力で刃を振り降ろす!

「うぅおおぉォォ!!」

瞬間。


ギシャアアアァァァァ!!


洞窟内に響き渡るその絶叫と共に、バシリスクは絶命した…と思う。
確証はないけれど、ピタリと動きは収まった。

「はっ、はっ…、はぁ。…ふぅ」
未だにバクバクと脈打つ心臓を落ち着かせるように、何度も深呼吸をする。
それにしても。
身体中にヤツの体液がこびりついて、やっぱり気持ち悪いんだぞ…。


⇒next

今回の記念にとバシリスクの大きなウロコを一枚剥ぎ取ったのと同時に、背後からぴいぴいと鳴き声がした。

「マシュマロ!俺の雄姿、見てた…」

ウロコを胸元に隠しながらそう言いかけて、俺は倒れ伏している菊の姿を見つけ言葉を止めた。

「菊っ!?」

ぽちくんが心配そうに菊の頬を舐めている。その横にいつの間にか氷の呪縛から開放されていたイヴァンも居た。
マシュマロに足首を噛まれながら、俺も慌てて二人のところへと駆け寄った。

「寒さでだいぶ弱っちゃってるみたい」

彼は自分のマフラーを解いて、菊の露出した手に巻き付けていた。

「菊、キクっ!」

どんなに呼びかけても返事は無く、眉間に皺を寄せたまま震え続けていた。
俺は菊の冷えきった身体を抱き上げ、急いで洞窟を抜け出した。



馬車に乗り込んだ俺たちは菊を横長の座席に寝かせ、出来る限りの暖を取らせようと、着せてたジャケットやマフラーはそのままに、馬車の中にある布地という布地をかけた。
その時バシリスクのウロコが胸元から零れ、板の上でカラリと音を立てた。

「ねぇ?これって、アイツの?」

イヴァンがそれを拾い上げてまじまじと眺める。

「うわぁ、無駄におっきいねぇ」

言われてみれば確かに大きいな、俺の顔くらいはあるんだぞ。

「こんなの持ってくるなんて、アルフレッドくんも趣味が悪いねぇ」

そんなことを言われてついニラミをきかせてしまったけれど、そうこうしているうちに菊は意識を取り戻してた。

「私としたことが…不覚です。ご迷惑をお掛けして、実にすみません…」

ゆっくりと起き上がって頭を軽く振ると、早々に深々と頭を下げる菊。

「気にしないでくれよ、菊!万事解決!それでいいじゃないか!HAHAHA!!」

高らかに笑ってみせると、菊も安心したみたいで頬を綻ばせた。
うん、やっぱり笑顔じゃなきゃダメなんだぞ!

「それよりも、まだ中にいる氷漬けの人たちの救援が先なんだぞ!」

「そうですね、一刻も早く王宮に戻って救援を要請しなければ…」

「そうだねぇ、まあこの程度の氷ならすぐに壊せそうだけど」

「それは危ないから止めて下さい!」

そんな風にわいわい騒ぎながら、馬車に揺られて帰還した。


今回、苦戦はしたけれど…
Mission complete!!
ってやつさ☆


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【酒場の珍事件(1)】

【酒場の珍事件(1)】



討伐依頼をこなしたあの日。
体力的に限界っぽかった菊に二匹を任せて(因みにパトソールは、馬車に乗った辺りから姿を消していたんだぞ)、俺はイヴァンと一緒に将軍の部屋に駆け込んだんだ。
口早に凍り付いた洞窟の件やバシリスクとの一戦を報告した俺たちだったけど、予想もしていなかった返事を返されちゃったものだから、しばらくみんなして混乱しちゃったんだぞ。
『バシリスククラスのモンスターが出る訳が無かろう!』…なんて目尻を吊り上げて言われたモンだから、俺も懐からヤツのウロコを取り出して突き出してやったら、あの将軍ってば凄く慌て始めちゃってさ。
『それが本当ならば、私は思いがけない失態を犯してしまった』って。
慌てて救援の軍を派遣してくれたんだけどさ…もしかしてバシリスクの出現は予定外だったってことかい?
あの時は何かバタバタしてたから聞けなかったけど、今度王宮に行ったら突き詰めてやるんだぞっ!

菊が倒れた原因は、ただ寒さにやられただけじゃなかったしさ。
将軍のところの用事を済ませた俺たちは、マスターの居る酒場に帰ることになった訳だけど、疲弊しきった菊を歩かせたくなかったから背中におぶったんだけどさ。そしたら菊ってば恥ずかしいって背中をポコポコ叩いて来たんだけど、こんなのバシリスクの攻撃に比べたらカワイイもんなんだぞ☆

帰った早々に、昼間から酒場に飲みに来たとかほざいてたどっかのパブった兄貴に遭遇することになったんだけどさ。
昼間から何を考えてるんだって言ってやりたかったけど、まずは菊を休ませるのが先だったから、マスターに簡単に説明してから菊を背負ったまま階段を上がったんだ。
そんな俺の様子を見て、アーサーのヤツもお酒を飲むのを止めて追いかけて来たんだけど、ベッドに横になった菊の様子を見たアーサーの顔色が一気に変わってさ。
一気に酔いが醒めたみたいでね、凄く真剣な顔つきになって菊をまじまじと眺めてたんだ。

しばらくして。
彼が言うには、どうもバシリスクの瞳の呪いにかけられてたみたいなんだ。


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こと魔術や呪術なんてオカルトな話題に関しては、プロフェッショナルとも言えるアーサー。
この時ばかりは、居てくれたことに感謝したんだぞっ!

…あのトラブルさえなかったら、ね。

菊をバシリスクの呪いから解き放つ為にいつもの天使の恰好になった訳だけど。
(本当なら身内として恥ずかしいから止めて欲しいんだぞっ!)
ほあたっ☆したまでは良かったんだ。
良かったんだけど、さ…。
もくもくと煙が巻き上がる中で、不思議なことが既に起こっていたんだ!

『ブリ天さん!有難う御座います!』

…って、声がダブって聞こえて来たんだ。
菊に似てるような、けどちょっと何か雰囲気の違う声が。
煙が薄れるにつれて、何が起きていたか理解出来た…というか、余計に混乱するような出来事が発生していたんだぞ!

「あのさ…、ちょっと聞いてもいいかい?」

「…なんだ?」

あからさまに作り笑顔を浮かべて微笑みかけるアーサーの横に立って、首根っこを掴んで問いかけたんだ。

何で菊が二人居るんだい?

…ってね。

「あー…、うん、まぁ…何だろうな」

曖昧な返事しかしないアーサー。
俺はもう一度尋ねた。

「ど・う・し・て?菊が二人になったんだい?」

目の前に現れたのは、普段と何ら変わらない菊…だけじゃなくって、ボディラインに若干の凹凸が付いた、少しふっくりしたような…明らかに女の子な菊だったんだ!!
これは異常事態もいいところなんだぞっ!

「いやぁ、その…呪いを解いた副作用、か何か…か?」

どうやら呪いは解けたみたいだけど、これは新手のマジックか何かだろうか。
正直ちょっと嬉しいけど、…けどさ。

「あのー、アーサーさん。これは…一体?」

男の菊が自分の片割れを見ながらアーサーに問いかける。
女の菊なんかはかなり混乱しちゃってるみたいで、キョロキョロと落ち着きなく周りを見回していたんだ。

ふと気が付くと、下から賑やかな声が聞こえてきたんだ。
遠巻きに聞こえるその声は、妙に聞き覚えのある声ばかりで…、嫌な予感がしたよ。

『Piacere master!えっと…ちょっと人を探してるんですけど…』

『初次見面!ここにアルフレッドが居ると聞いて遊びに来たあるが…』

『Bonjour、どっかのエロ大使殿も昼間から飲みに来たとかで追いかけて来たんだけど…』

ヤバい。
ヤバいぞ。
よりによって、彼らがここに来たなんて。

『えーとね、アルフレッドくんもアーサーくんも、本田くんも!みーんな二階に行っちゃったよ。ボクを置いて』

一瞬下から黒い風が吹き上げたような気がしたけれど、そこは気にしないことにした。他の三人は怯えてたけどね。

『お知り合いの方々でしたか。狭い部屋ですが、宜しければ上がって下さい』

そんなマスターの言葉が聞こえてきて、いよいよ俺たちは後が無くなった。

「…ちょっと、マスター!待ってくれよっ!!」

慌てて大声で叫んだけど。

『ん〜?何だお前ら、お兄さんに言えないようなことでもしてるのかい?』

階段を上がる音、近付く声。
ブリ天姿のアーサーも、二人の菊も硬直してしまっていた。


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「そんで?お兄さんたちにナイショでなに…を…、ん?んん〜…?」

階段を上がりきって衝撃の現場を見てしまったフランシスは、やっぱりこの現状を理解しきれずに固まってしまった。
無理もないよな、目の前に菊が二人も居るんだもんな。

『どうしたあるかー?』

「なあ、耀…オレたち、起きてる…よなぁ?」

頬をつねって再確認するフランシス。
俺も未だに半信半疑だけど…もちろん、夢でも何でもないんだぞ。

「一体何事ある…か…?」

フランシス同様に耀も固まってしまった。

「あいやー、菊、いつの間にそんな技を身につけたあるか?」

流石は耀、あんまり動揺はしてなかった…というか、論点がちょっとズレてるんだぞ。
後から追いかけて来たイヴァンも反応がちょっと違っていたんだ。

「どうしたのみんな?あれー、本田くんが二人もいるよー?なら一人貰って行ってもいーい?」

『ダメ』ですよっ!』に決まってるだろっ」だよ、絶対っ!」でしょ流石に…」あるよっ!」

一斉に否定の言葉が飛び交った。
そりゃそうだ!
お持ち帰りなんてさせてたまるもんかっ!

「皆さんっ、どうかなされたのですかっ?」

流石に店内にまで声が響いてしまったらしくて、マスターまで二階に上がってきたんだ。
皆みたいに慌てたりするのかなぁと思ってたら、案外マスターの反応は冷静でね。

「おや、もしかしなくてもアーサー君が何かしでかしましたね?」

「あっ、いやまぁ…」

「それにしても、これは困りましたね…」

マスターはマスターなりに色々と考えてくれてるようだ。

ところでさ…。
マスターの部屋って…言っちゃ悪いけど、ただでさえ4〜5人くらい入るだけできちきちなのに、前より更に物がいっぱい置いてあるから狭くて仕方がないんだぞっ!


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混乱が更なる混乱を招いて、俺もだんだんと何がなにやら分からなくなってきたんだぞ…。
そんな中、ぴいぴいとマシュマロ鳴き声が聞こえてきて、よくよく周りを見回したら…。

「ヴェー!菊が二人も居るっ!」

どうやってこの狭い部屋の中を移動したのか分からないけど、フェリシアーノが隙間を掻い潜ってちゃっかり女の子菊の横に座っていたんだ。

「あっ!コラッ!お兄さんに黙って抜け駆けなんてさせないよ!…ねぇ、菊ちゃんだってそう思うよなぁ?」

フランシスまでもが器用にその場をすり抜けて女の子菊の傍に座っていた。
軟派な二人が女の子菊を狙って動き始めたんだ…って、ちょっと待ってくれよ?
マシュマロの鳴き声がするのに見当たらない。

「マシュマロ、マシュマロ?」

呼びかけにぴいぃ!と助けを求めるような鳴き声は聞こえるんだけど、まずこのきちきちの室内じゃあ身動きが取れない。

「ぴい…びぎいぃいぃぃ!!!」

そのうちに壮絶な悲鳴が突然室内にこだまして、皆が一斉に辺りを見回した。

「アルフレッド君、そこ!そこの横!」

マスターが指を差す階段付近の荷物のたまり場。本と手紙の山のあるそこに白い何かが挟まっていた。それを引っ張り出そうとするパトソールとピクシーと…見覚えの無い緑色の小さな竜の姿があった。


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