山岡家　辛味噌ラーメンLOVEコミュの第10話　『　塩の柱　小枝の柱　』

新感覚!! mixi小説『ある夜　山岡家で…』


　　　　　　　　　　　　　　　第10話　『　塩の柱　小枝の柱　』

　
　３人はアパートの前に到着した。
　アパートは新築の2階立てのアパートで、部屋は６つ。灰色のコンクリートの壁は無機質で冷徹なカンジというよりは、むしろアーティスティックでありモダンな雰囲気があった。見た目からは家賃は8〜9万だろう。大学生が住むには、すこし背伸びしすぎているように思われる。




　条はアパートのドアの前に立ち、開けようと、レバーを捻った。…開かない。


条「何で開かねーんだ!?まさか、ここまで奴らが迫ってきたのか。畜生！このままじゃ世界は映画「2012」のように崩壊してしまうぜ。」


　「ドアを押してるからだろ。ここのドアは引くだよ。」と友人に言われ、条はドアを引くといとも簡単に開いた。


　「押してだめなら、引いてみろ…か。まさに恋愛の駆け引きと一緒だな」と条は恥ずかしさ混じりに呟いた。今野さんは苦笑いを浮かべた。







　部屋の中に入ると、予想もしない光景がそこにはあった。まず、目につくのが、部屋に置かれたコンピュータだ。デスクトップのパソコンが4台、配線コードが古代樹の根のようにフローリングの上を畝っている。しかしモニターは全部で6台あり、その3つには、ある部屋の一角がうつってある。これはつまり、監視しているのだ。また盗聴器のようなものもある。



　そしてオレンジ色の椅子に三角座りしている女の子が、モニターをじっと見ている。「ようサチ！」と条が声をかけると、女の子は、こちらを見て一籌した。



　彼女の名前は「塩屋　砂知」と言った。
彼女にはコンプレックスがあった。それは推し量れるように、その名前にある。彼女は塩を連想させるこの名前が嫌いでしかたなかった。小さい頃から彼女は名前を表記する際学校のテストなど以外にはカタカナで書き、決して漢字では書かなかった。

「なによ。なんで私はこんな名前なの!!じゃあ徹底的に塩について調べてやるわ。」と小学５年の時、彼女は塩について学校の図書館で調べてみることにした。そしていろいろ本を読んでいると気になるフレーズがあった。


　それは『旧約聖書　創世記』に書かれた『ソドムから脱出するロト』の場面だ。
神ヤハウェが都市ソドムを滅ぼすことになり、ロトとその妻はソドムから脱出することとなる。逃げる際に「後ろを振り返ってはいけない」と指示されていたが、ロトの妻は後ろを振り返ってしまったため「塩の柱」にされてしまうのだ。


　サチにはこの「塩の柱」のフレーズがずっと繰り返す木霊のように残っていた。そして友達に相談された時なんかにこう言うのだ。
「あんな男なんか忘れちゃいなさい。そんな過去ばっか振り返ってると、塩の柱にされちゃうわよ。」






　「サチ！今野さんを手当てしてくれねーかな。」と条は言い、サチは救急白箱を抽斗の中から取り出し、手当てを始めた。


条「いや〜、でも今野さんが見つかってよかったわ。どれだけ探しても見つからなかったのに、まさかこんなクラブ帰りに逢うとわね！」


「どういうこと？」すっとんきょうな表情を浮かべ今野さんが言った。


条「実は、今野さんは俺らの大きなプロジェクトに巻き込まれてしまったんですよ。奴らが動きだしたんで、どうしても今野さんの助けが必要で。」



条はくるっと振り返り友人に言った。「そういや、健！お前の姉ちゃんこっち向かってるんだろ。何ていったけ外人みたいな名前。」

「ローサだよ！」健は少し苛立たしげに答えた。




そう。ここは千葉ローサの実弟である、千葉健のアパートだった。
そして川上条、千葉健、塩屋砂知の３人はある大きなプロジェクトを行っているのだ。




「今野さん、申し訳ないけど、もう後戻りはできないわよ。もう前に行くしかない。後ろを見たら『塩の柱』にされちゃうわ。」と、チョコレート小枝を柱に見立て、ひょいっと摘んで立てながら、サチは言った。
　


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　第11話に続く