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自作小説お披露目会場コミュのこいこい! 3−2

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(さて、どうしようかなー)

 ディヴィヤが動くのを待つ間、キキコは自分の手札を見る。
 キキコの手札は、松に赤短、梅にウグイス、萩のカス、ススキに月、菊のカス、柳に燕、柳に短冊、桐に鳳凰という構成である。
 ついでキキコは場札を見た。
 場札は、紅葉のカス、牡丹に青短、ススキのカス、柳に小野道風、藤にホトトギス、菊に青短、アヤメに短冊、梅のカスという具合だった。

(雨四光が目指せそうではあるけれど、微妙なところだね……)

 初手の手札から、光札三枚+柳に小野道風からなる雨四光が狙えそうではあるものの、場に十二月の札が無い事や残る二枚の光札が何処にあるか分からないので厳しいものがある。一応ススキに月が手中にあるので月見酒の成立は阻止する事が可能であるが、花見酒が成立する条件は残っており、三月の札も九月の札も無いので邪魔する事も難しい。中々厳しい状況である。

「まずはこれにしますか」

 ディヴィヤが手札から場に札を出した。出したのは牡丹に蝶。それを覚束無い手付きで牡丹に青短の上に置き、二枚の札を取得する。

「次は山札ですよね?」
「ああ」
「何が出るのか楽しみですわね」

 エリヴィラとセラフィーナの言葉を受け、ディヴィヤは山札から一枚引く。

「これは……幸先がよろしいですね」

 ディヴィヤは嬉しそうに言って、山札から引いた札を菊に青短の上に置いて二枚を取得する。引いたのは菊に盃だった。これで花見酒の成立が射程圏内に入る。さらに三枚ある青短の内、二枚を取得したので青短も射程圏内に入った。

(いきなりきついなー……)

 内心ぼやきつつ、キキコは自分の番を始める。手札からススキに月を場に出してススキのカスと共に取得して山札から一枚引く。引いたのは桐のカス。場に十二月の札は無いのでそのまま場に残す。

「は、早い……」

 ディヴィヤの呆然とした呟きを聞き、キキコはハッとした。

「あっ、ごめん。ついいつもの調子でやっちゃった」
「平気です。それにしても凄く手馴れていますね……」
「普段から遊んでいればこうなるよ」
「どれくらいの頻度でやっているのです?」
「暇さえあれば」
「本当に好きなのですね……」

 ディヴィヤはため息混じりに言いつつ、手札から場に札を出した。出されたのは梅に赤短。場にある梅のカスと共に取得して山札から一枚引く。引いたのは桐のカスだった。キキコが先ほど引いて場に残した桐のカスと共に取得する。
 自分の番になってキキコは、今度は速度を落として手札から柳に燕を出して場の柳に小野道風と共に取得する。ついで山札。引いたのはまたしても場に同じ月の札が無い松のカス。空いている場所にキキコは札を置く。

「さっきといい、今といい、ついてないですね?」
「取得出来る札があるだけ御の字だよ。下手すると取得出来ない場合もあるし」
「それはきつい話ですね……。さておき、今は私に流れがあるのでしょうか?」
「あるだろうね。少なくとも周りからはそう見えるはずだよ」

 キキコはそう言ってディヴィヤのサポートに回っている先輩達を一瞥する。

「取得した札の枚数だけで判断するならば、流れはラジクマリさんにあるな」

 キキコの視線に気づいたのか、エリヴィラが意見を述べた。

「でも、フランクールさんもススキに月、柳に小野道風と取得した札こそ少ないけれど雨四光への道を着実に進んでいますから油断は出来ませんわ」

 セラフィーナの鋭い見方に、キキコは苦笑を返す。

「あらら。やっぱり狙っているの分かりました?」
「余裕ですわ。ついでに言うと、雨四光くらいしか高めの役を目指せそうにない手札だった、というのもここまでの流れで何となく分かりましたわ」

 それを聞いてキキコは頭を掻く。

「いやはや、そこまで見抜くとは……」
「――二人ともラジクマリさんが続けられなくて困っているわよ?」

 アンネローゼに注意され、セラフィーナは口を噤み、キキコは視線を戻した。

「話し込んじゃってごめんね」
「平気です。有意義な話でしたから」

 ディヴィヤはそう言って手札から場に札を出した。出したのは藤にホトトギス。場にある藤のカスと共に取得して山札から一枚引く。山札からは紅葉のカスを引いた。場にある同名の札と共に取得する。

「またもらいました♪ 悪いですね、キキコさん」
「いやはや……。参ったね、どうにも……」

 キキコはため息混じりに言いつつ、手札から松に赤短を場に出して松のカスと共に取得する。ついで山札。引いたのは最後の十二月の札である桐のカス。場には当然同月及び同名の札はないのでそのまま残す。

「また一枚しか取れなかったよ」
「ご愁傷様です」

 意気揚々とディヴィヤが手札から場に出したのは桜のカスだった。

(――あれはまずいね)

 その瞬間、キキコは悪寒を感じ取った。
 これで花見酒成立への布石は整ってしまった。キキコの手札にある札では桜のカスを取得する事は出来ないので、阻止するためには山札に賭けるしかない。
 しかし、経験と直感が三月の札を引けないことも告げていた。
 即ち、窮地である。
 そんなキキコの心境など露知らず、ディヴィヤは自分の番を進めた。山札から引いたのは菊のカス。それは次のキキコの番で同名の札と共に取得する事ができるものの、この窮地を脱するには遠く及ばない。

(――さっきの感覚を信じるに、ディヴィヤさんは桜に幕を握っているだろうから、次の番で花見酒が成立するのはほぼ決定事項。で、取得した札から考えると……六対四――いや七対三くらいで宣言してくるかな……)

 ディヴィヤの取得した札は種札三枚、短冊札三枚、カス札五枚。それでいて花見酒と青短がそれぞれ後一枚で成立する状態である。キキコもキキコで雨四光が後二枚で成立する状態であり、その二枚の内、桐に鳳凰は手中にあるので実質的に後一枚であるが、山札に眠る松に鶴をキキコが取得出来る確率はかなり低い。確率論で言えばディヴィヤも似たり寄ったりの条件ではあるが、ディヴィヤの場合は青短を狙いつつ、タネやタンの成立も視野に入れる事が出来る。
 つまるところ、状況の不利は何ら変わらない。

(先輩達も多分宣言する事を勧めるはず。だとすると――)

 考えた末、キキコはこいこいが宣言された時の事を考えて札を出す事にした。手札から桐に鳳凰を出
して桐のカスと共に取得し、山札から一枚引く。引いたのは柳のカス。つくづく巡りが悪いな、と思いつつも場に札を残した。

「よし! もらうよ!」

 ディヴィヤは声高に言い、手札から場に札を出す。出したのは桜に幕。キキコの直感は正しく、これにて花見酒が成立した。

「これでこいこい出来るのですよね?」

 ディヴィヤは後ろにいるエリヴィラとセラフィーナに尋ねた。

「出来るけどまだですわ。宣言は自分の番でする事が全部終わってからです」
「え? ……あっ! そ、そうでした! は、恥ずかしいです……」

 ディヴィヤは顔を真っ赤にしながら山札から一枚引いた。引いたのは牡丹のカス。場に六月の札は無いのでそのまま場に残す。

「それでOKですわ。で、これでようやく勝負するか、こいこいを宣言するかを選ぶ事が出来ますわ。というわけで、どうするのです?」

 ディヴィヤは自分の取得した札を見て、しばし黙考し、

「――確かこいこいを宣言してしまうと新しく違う役を成立させるか、タネとタンとカスが成立していた場合に一枚追加されないと、勝負とこいこいを選ぶ事が出来ないのですよね?」
「そうですわ。ですから、相手の取得した札や場札の状態も考慮してよく考える必要がありますわ」
「ですよね……。――先輩達ならどうします?」
「答えてもいいけど、先にラジクマリさんの答えを聞かせてもらえるか?」
「私も同意見ですわ。相手の名前を聞きたい時と一緒です」
「確かに。私は勝負しようと思いました」

 予想とは反対の答えにキキコは少なからず驚いた。
 それを尻目にディヴィヤは持論を紡ぐ。

「仮に続けたとしても他の役を成立させる事は出来そうな気がする事にはするのですが、キキコさんは雨四光成立一歩手前でこのまま続けると成立されてしまう可能性もありますのでまずは確実に三文減らしておこうかな、と」

 しかし、ディヴィヤの選択は間違っているわけではない。単に期待値に賭けるか、堅実に行くかどうかで堅実に行ったという話である。花見酒及び月見酒は成立し易い役だが、と同時に自分の手札や相手の取得した札、場の状況にもよるものの、基本的に潰され易い役である。リスクを避けるなら当然の選択である。

「なら、そうすればいい。ちなみに自分はこいこいする。現状から鑑みるにこいこいをしてもフランクールさんが雨四光を成立させるより早く、他の役を成立させる事が出来るだろうからな」
「わたくしもエリー先輩と同じでこいこいをしますわ」
「そう言われると思いました。花見や月見は揃え易い分、成立した場合にはこいこいを宣言するのが暗黙の了解なのかな、と思いまして」
「全く以ってその通りだ。駆け引きを放棄するわけだからな」
「でも、確実に相手の持ち点を減らせるから間違っているわけでもありませんわ。そういう戦い方をする人もちゃんといますし」
「そうなのですか。……ちょっと意外です」
「ま、そう考えている人は結構いますからね」
「マツセンやアンネがその手の人種だな。あの二人が花見か月見の単品で勝負した事を自分は今まで付き合って来て一度として見た事が無い」
「酷い言われ様だな……」
「人をギャンブラーか何かみたいに言ってくれて……」

 松町とアンネローゼが『心外だ』とばかりに大仰な反応をする。

「そうは言っても紛れも無い事実ではありませんか」
「一々フォローしなくていい。あの手の人種は好きでやっているからな」
「何であれ、ここはこいこいをするべきところなのですか……」

 助言をもらったディヴィヤはしばし熟考し、

「でも、とりあえずここは勝負しときます」

 結局、自分の意見を曲げずに貫き通した。

「勝負でいいの?」

 キキコはもう一度確認する。ディヴィヤは首肯し、

「では、勝負します」

 キキコは頷き、頭の中で十二から三を引く。

「これで一ゲームが終了となるわ」
「なるほど。……ふう。ちょっとなのに結構精神的に疲れますねー」

 ディヴィヤは大きく息を吐きつつ、そんな事を言いながら椅子に深く座った。

「ディヴィヤさんは初めてだし、先輩達に見られながらだから尚更かもね」
「そうかもしれませんね。ところで、この状態の山札って見ても平気ですか?」

 ディヴィヤは山札を指差しながら言った。

「平気よ。好きに見てくれていいわ」

 さっと答えるアンネローゼ。

「では、お言葉に甘えて」

 了承をもらい、ディヴィヤは山札を手に取ると表に返して手の中で広げ始める。そして後ろの方、裏に返している状態だと前の方になる部分で手を止め、とても小さな声で何かをブツブツと呟き始めた。
 そんなディヴィヤを松町、アンネローゼ、エリヴィラ、セラフィーナが後ろからこっそりと覗き見る。より正確には広げて見ている山札の中身を。
 そんな一同の反応をキキコは座して待つ。話に加わらずともディヴィヤが余った山札を見始めたのも、何故そういう事をしたのかも分かっている。確かめたいのだろう。自分の読みが、判断が正しかったのかどうかを。

「……これはこいこいをしなくて正解だったわね」
「していたら雨四光が成立していたからな」
「これを読んでこいこいをしなかったとしたら凄いな」
「素晴らしいセンスですわね」
(やっぱり松に鶴はすぐ近くにあったみたいだね……) 

 会話の流れからディヴィヤの読みが、判断が正しかった事が証明されたのだと窺い知れる。そして自分の経験と直感が正しかった事も。
 ディヴィヤが桜のカスを出した時、キキコは雨四光を成立させられる事も別も感じ取っていた。もっとも、経験と直感から基づく答えを導き出しただけだが。

「堅実に行って良かったです……」

 賞賛される中、ディヴィヤは安心したようにホッと胸を撫で下ろす。

「キキコさん、次をお願いします」

 ディヴィヤは意気揚々と言ってきた。

「もちろん――と言いたいところだけど、山札を置くのが先だよ」
「え? あ……そ、そうですね。次のゲームの容易が出来ませんものね」

 ディヴィヤがあたふたしながら山札を元の場所に戻した。

「じゃ、準備するから駄弁りながら待っていて」

 アンネローゼが札をまとめ、シャッフルし始める。

「それにしても凄いね。一回だけしか教えてないのにやり方完璧じゃん」
「褒めてくれてありがとうございます。それにしても……こいこいとは面白いものですね。これならば競技人口が増加の一途なのも頷けるというものです」
「教えた身としてはこれ以上ない褒め言葉をどうも。ま、入る理由があれだけだと花札が可哀想だから私としては狙い通りって感じだけど」
「まあ。ふふふ。策士ですね」
「ディヴィヤさんがそれ言っちゃう?」

 笑い合う二人。それを見て顧問と部員三人も温かい顔をした。

「仲良しなところに水を差すけど、二人ともその気持ちは固まっているの?」

 アンネローゼが悪戯っぽく笑いながら話題を変える。
 それを受け、松町、エリヴィラ、セラフィーナがため息をつく。

「アンネ、気が早過ぎだ。せめて今日が終わってからにしろ」
「そうだぞ、アンネ。今日はまだ始まったばかりだ」
「全くですわ。まあ、焦る気持ちは分かりますけれど」
「逃がした魚は大きかった――なんて状況になりたくないからだけど……まあ、一理あるわね。了解。じゃ、今は部活に専念するとしますか」

 アンネローゼは会話を打ち切り、競技の準備を始める。
 手早く終えると、キキコとディヴィヤを交互に見て、

「じゃ、次のゲームと洒落込みましょうか」

 こうして、見学会は滞りなく過ぎていった。


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