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自作小説お披露目会場コミュのこいこい! 2−2

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「ん。お次はこれまた問題の七月だね」

 キキコは列を変え、二列目の最上段を指差す。

「花は萩。で、【萩に猪】【萩に短冊】【萩のカス】×二だよ」
「ふと気づいたのですが、藤は上から下へ、萩は下から上へ花を咲かせているのですね。よくよく見ないと分かりませんけど」
「故に初心者殺し。実際問題、やり始めたばかりだと間違えまくるよ」
「キキコさんもそうだったのですか?」
「黙秘権を行使します」

 キキコは即答し、察したディヴィヤは言及せずに先を促す。

「次は八月ですね」

 それを受け、キキコは八月の札を指差す。

「そ。花はススキ。札は【ススキに月】【ススキに雁】【ススキのカス】×二」
「八月は特に分かり易くて助かりますね」
「私も一番に覚えたよ。とまあ、小話を挟んだところで九月に行くよ」

 キキコは手を動かし、九月の札を示す。

「九月の花は菊。で、【菊に盃】【菊に青短】【菊のカス】×2だよ。それでもってこの菊に盃は現在における花札では最重要だからしっかり覚えて」
「種札なのにですか?」
「うん。その理由は覚えていけば分かるからとりあえず覚えて」

 キキコは念押しした。
 それを受け、ディヴィヤはしっかりと頷く。

「分かりました。次をお願いします」
「了解。というわけで十月」

 キキコは手を動かし、十月の札を示す。

「花は紅葉。札は【紅葉に鹿】【紅葉に青短】【紅葉のカス】×二だよ」
「つくづくそのままですね」
「ほとんどはね。でも、十一月は何かと特殊だよ」

 言いつつ、キキコは十一月の札を示す。

「というわけで十一月。花は柳。札は【柳に小野道風】【柳に燕】【柳に短冊】【柳のカス】。唯一四種類全てを有している月で、光札の一つである柳に小野道風は光札の中でも特殊な扱いがあるけど、それは後でね。さらにカス札は他のカス札と違うから覚え難いからね。最後に余談になるけど、小野道風さんが描かれているのには後世の創作とも言われているけど柳に関する逸話があるからなの」
「と言うと?」
「書道家である小野道風さんは、一時期書道家を辞めてしまおうかと思ったほどのスランプに陥っていたの。だけど、そんなある雨の日の事、ふと散歩に出かけた時に柳の下に蛙がいたのを見つけたの」
「札にも描かれていますね」
「そうだね。で、その蛙は惨めにも柳に捕まろうと跳んでは落ちを繰り返していて、それを見た小野道風は「捕まれるはず無いのにバカだな」と思ったの」
「蛙を嘲るとは……相当まずい感じだったのですね……」

 心配げに言うディヴィヤ。キキコは苦笑して続ける。

「ま、仕事を辞めようと思っていたって話だからね。でも、その蛙の健気さが天に届いたのか、はたまた天が同情したのか。偶然にも強い風が吹いて柳がしなり、蛙は幸運にも柳に捕まる事が出来たの」
「まあ! 蛙さんの懸命さに拍手!」

 嬉々と言いながらディヴィヤは拍手した。

「私なんか聞いた時、小野道風、ざまぁ! なんて思っちゃったよ」

 キキコは昔を思い出しながら苦笑する。
 すると、ディヴィヤも苦笑し、

「私も少し思いました。――それで? その後はどうなったのですか?」

 やんわりと言いながら先を促してくる。

「それを見た小野道風さんは「バカは自分だ。蛙は努力して偶然をものにした。しかし、自分はそこまでの努力をしていない」と思い直し、血の滲むような努力をした結果、書道の神と祀られるまでの人物になったって話だよ」
「……創作だとしても軽んじた自分が恥ずかしくなる話ですね……」

 肩を落として自嘲するディヴィヤ。
 キキコも昔を思い出してため息をつく。

「誰もが通る道だと思うよ。少なくとも私は通った」

 気まずい雰囲気が二人の間に訪れる。
 黒板の前で騒ぐ一団との落差と言ったら天界から地獄に落ちるほどだ。

「――続けていいかな?」「――続けてもらえますか?」

 一分ほど間を置き、二人は全く同時に言う。二人はきょとんとした後、何だか可笑しくなって微笑した。それで二人の間にあった気まずい雰囲気は無くなる。
 キキコは咳払いして最後となる十二月の札の説明に入る。

「最後の十二月。花は桐。札は【桐に鳳凰】【桐のカス】×三。で、三枚ある桐のカスの内、色違いが一つあるけど、扱いはカス札だから気にしないで」

 札の説明を終え、キキコは一息つく。

「これで札の説明は終わりだよ。で、最後にもう一回言うけどすぐに覚えなくていいよ。菊に盃も含めてね。やっていれば自然と覚えてくるものだからさ」
「把握しました」

 それを受け、キキコは次のステップに進む。

「それじゃ、いよいよこいこいの一連の流れを説明に入るよ。札の説明で長くなったからさっと行くけど勘弁ね。特に言う事も無いし」
「分かりました」
「どうも。じゃ、早速――まずは親を決めるよ。要は先攻後攻決め。ジャンケンで決めてもいいけど、基本的には対戦する二人で札を引き、早い月を引いた方が親になるよ。でね、こいこいでは親になった方がかなり有利だから子になった方は速攻が求められるよ。何故なら子が上がると親子が逆転するからだよ」

 キキコは言いながら机に広げている花札を集め、競技の準備を始める。

「で、親を決めたら競技の準備。手札としてそれぞれに裏返しで八枚ずつ、場として表にして八枚、残った札は山札として場札の横に。配布の仕方は親の手札、子の手札、場札に四枚ずつ。それを二回――」

 キキコはシャッフルし終えた花札を自分が言ったように並べていく。お互いの手札、そして場にそれぞれ四枚ずつ、八枚になるまで。残った札を場の横に。

「――とまあ、こんな感じでね。これで競技を始められるよ」
「手馴れていますね」
「ま、相当数こなしているからね。じゃ、次は自分の番でやる事の説明ね。説明の都合上、私が親という前提で始めるね」
「分かりました」

 了解をもらい、キキコは自分の方に置いた手札を表に返した。

「……こういう時に愛してくれなくてもいいのに」

 そして困った顔をした。当然だ。手札の状態がある意味で酷過ぎる。
 ディヴィヤが不思議そうに首を傾げる。

「? どうかしたのですか?」
「問題発生。よくシャッフルしたつもりだけど、特殊な役が揃っちゃってさ」

 キキコは手に持った手札をディヴィヤに見せた。
 手札を見て、ディヴィヤが呟くように言う。

「十一月の札が綺麗に全部揃っていますね」
「これは手に漢数字の四と書いて【手四】という役なの。見ての通り、同月の札が全て手中にあった場合に役が成立するというもの。で、ちょっと失礼」

 キキコは右手に自分用の手札を持ったまま、左手で相手用として配った手札を持ち、表に返す。そしてため息。致し方ない。こちらもこちらで酷い。

「案の定か……。こういう時は空気読んで欲しかったものだね……」
「そちらも、ですか?」

 確認に、キキコは首肯して左手の手札をディヴィヤに見せた。
 ディヴィヤは手札を見たが、今度は首を傾げる。

「これは何が特殊なのですか?」
「これは【くっつき】という役だよ。見ての通り、それぞれ同月の札が二枚ずつくっついて手札を構成しているよね? だからくっつきっていうの」

 相手用の手札は一月、三月、八月、十二月の札が、キキコが言った通りに一枚ずつくっつき、計八枚の手札を構成している。

「あっ、なるほど。そう言われて見れば確かにその通りですね」
「でしょ? で、この二つは――ごめん、やっぱり後にするね。とりあえず、こういう役が存在するって頭の片隅に止めといて。後、色々疑問には思うだろうけど、仕様上一度精算して次のゲームを始めないといけないから一回片付けるね」

 言いつつ、キキコは札を集め、先と同じように競技の準備を手早く行う。
 キキコが手四とくっつきの説明をしなかった理由は二つ。一つはこうして説明しない方が記憶に残ると思ったから。二つに競技の一通りの流れを説明してからではないと、何故仕切り直す必要性があるのかという事を理解し難いから。
 よく札をシャッフルした後、準備を終えたキキコは二人分の手札を確認し、安堵の息をつく。今度はどちらの手札にも手四ないしくっつきは揃っていなかった。

「今度は平気でしたか?」
「うん。ごめんね。私がちゃんとシャッフルしていなかったばっかりに」
「構いません。こういう事も起こり得るのですよね?」
「滅多に無いけどね。――じゃ、改めましてお互いの番にする事の説明ね。時にディヴィヤさんは神経衰弱知っている?」
「トランプの遊び方の一種ですよね?」
「そ。こいこいでお互いの番でする事は形の違う神経衰弱なの。ま、由来というか起源がトランプだからね。じゃ、ちょっと実演するね」

 キキコは自分用の手札からアヤメに八つ橋を抜き、ディヴィヤに一度見せてから場にあるアヤメに短冊の札の上に重ねる。

「――とまあ、こんな感じでこの二枚は私が取得したものとなって自分側に置くの。置く時は一応自分から見て右手側の端。この机で言えばこの辺かな」

 キキコは取得した二枚の札を言った通りの場所に置く。

「それで番は終わりですか?」
「まだだよ。手札が終わったら次は山札の一番上から一枚引くの。あ、ちなみに手札から札を出す事も山札から引く事も必ずする事だから注意してね」
「パスは出来ない、というわけですね」
「そういう事。じゃ、続けるね。ちなみに動きは手札の時と一緒。山札から引いた札と同じ月の札が場にあれば一緒に取得可能。でも、無かった場合は場の一枚に加わるよ。この動きは手札の時も一緒ね」

 キキコは言った通りに実演する。山札から引いたのは紅葉に青短。場に十月の札は無かったのでその札は場の一枚に加わる。

「――とまあ、こんな感じね。と、ここで一つ注意。手札から出した札も山札から引いた札も取れるのは場の札のみ。間違っても山札から引いた札と同じ月の札が手札にあるからって取得する事はもちろん、手札にも加わらず、強制的に場に残る事になるから気をつけてね」
「ふむ……。そうなりますと――」

 ディヴィヤは顎に手を当て、目を伏せて沈黙した。
 キキコはディヴィヤが口を開くまで静かに時を待ちつつ、黒板の方に視線を向けた。そして少なからず驚いた。何時の間にか相談会は終わっていて、クラスメイト達は各々仲良くなった友達と歓談していた。委員長も同上である。

「番でやる事は、?手札出し、?場札取得か場札追加、?山札引き、??の繰り返し、相手に番を譲る――というわけですか。ちなみに何となく察しはついているのですが、子もやる事は同じなのですよね?」
「そ。で、役を完成させて勝負になるか、手札が尽きるまでこの動作を繰り返し、役の成立または役の追加が無かった場合にはノーゲームとなるよ。それでももって相手の持ち点を減らし切った方が勝者となるよ」
「役の成立に役の追加、ですか……」

 再び黙り込むディヴィヤ。
 キキコも再び黙り込み、ディヴィヤの思考がまとまるのを待つ。
 その最中、時計に目をやった。時刻は十時になろうかというところだった。そろそろ部活動見学会が始まるかもしれない。

「役の成立は何となく分かりますが、役の追加というのは?」
「それこそこのゲームが【こいこい】と呼ばれている所以だよ」

 問われたのでキキコは答えた。

「というわけで、役が完成した時の行動について説明するね。取得した札によって役が出来た場合、そのプレイヤーは「こいこい」か「勝負」を選択出来るの。宣言するタイミングは自分の番が終わった時。勝負の方はそのままね。その時点で成立した役の合計得点を相手の持ち点から減らす事が出来るよ。ちなみにその単位は文章の文と書いて【文】だよ」
「ならば、こいこいの方は?」
「こいこいの方は役が成立しても上がらず、別の役を作るためにゲームを続行する事。このゲームの楽しみはこの駆け引きにあるよ。何せ別の役を作れる可能性はあるけど、相手に先に上がられたら折角成立させた役は全て台無しになってし、別の役を成立させる事――つまりは追加する事が出来ずに手札が尽きたら市金利直されてしまうというリスクが伴うわけだからね」
「あっ、役の追加というのはそういう事でしたか。それに先に相手に上がられたら元も子も無い。……こいこいを宣言するのは中々にリスキーですね」
「いわゆるハイリスクハイリターンってやつだよ。ま、だからこそ、こいこいのタイミングを相手の取得札、自分の手札、場札の状況といった情報から考えて図るのが醍醐味なわけだからね」

 キキコは一息入れ、役の説明に入ろうとした。
 しかし、そこで刻限が来た。各教室に設置されているスピーカーの電源が入り、

『一年生の皆さん、準備が整いましたのでこれより部活動見学会を始めます。各人、事前に配布されている一覧表に従い、自分が入りたいと思う部活動が行われている場所に赴いてください。繰り返します。一年生の皆さん、準備が整いましたのでこれより部活動見学会を始めます。各人、事前に配布されている一覧表に従い、自分が入りたいと思う部活動が行われている場所に赴いてください』

 聞き取り易い少女の放送が校内に響いた。
 それを受け、一年七組の生徒達は行動を開始する。鞄を持ち、一覧表を片手に個人、或いは友達と一緒になって教室を後にしていく。

「ごめんね、ディヴィヤさん。始まるまでに教え切れなかったよ」

 そんな中、キキコは謝罪しつつ、話が逸れ過ぎたと内心で深く反省する。
 対し、ディヴィヤは首を左右に振った。

「謝罪は不要です。私が迂闊でしたから」
「それを言ったら、私だって横道逸れた事もあったからおあいこだよ」
「……では、お互い様、という事で水に流しませんか?」
「いいね。それ採用」
「決まりですね。というわけで、続きをお願いします」
「続きって――」

 見学会に行かなくてもいいのか、とキキコは続けようとしたが、ディヴィヤの魂胆を思い出して言うのを止める。嗜み程度に出来れば良い、と割り切っている以上、部活動でより学ぶ時間を割く必要性は無いのだろう。またスケジュールをある程度固定するという事だから部活も同じにするつもりで「花札を教えて」と頼んできたと考えれば、最初に花札を挙げた事にも説明がつけられる。
 ちなみに見学会そのものは、決断力と自主性を養うという意味で自由参加型であり、今現在は実質的に放課後となっているので訪問する時間帯が多少遅くなったとしても、先輩達にとっては通った道なので特に問題は無い。強いて問題点を挙げるならば、遅れるもしくは諸事情で部活をしている暇が無い一年生の心に用意してくれた先輩達に対する罪悪感が生まれるくらいである。
 逡巡を経て、キキコは役の説明に入るべく、机に広げた札を回収し、その後札の中から光札五枚を全て取り出し、机の上に横一列に並べる。

「じゃ、役の説明を始めるよ。花札における役は手四とくっつきを除いてポーカーとは違って取得した札の組み合わせのみだから注意してね」
「そう言えば、その二つが揃った場合、次のゲームに移らないといけない、との事ですがまずそれについて教えてもらっても構いませんか?」

 指摘を受け、キキコは『あっ』と声を上げ、空拳の左手で頭を軽く小突く。

「ごめんごめん。すっかり失念していたよ」

 ディヴィヤは首を左右に振る。

「構いません。説明しっ放しですから」
「ありがとう。じゃ、手四とくっつきが成立した場合、次のゲームに移る理由について。と言っても、これは私の想像でしかないけど、それでもいい?」
「正確には分からないのですか?」
「ルールでそうなっているから詳しく知らなくても平気だし、やっていると何で次のゲームに移る必要性があるのか自然と分かってくるものだからさ」
「そういうものなのですか」
「そういうものだよ。ちなみに私はそのままゲームを始めてしまうと、不利を強いられるし、何より折角綺麗に揃ったのに勿体無いからって考えているよ」
「綺麗なのは分かりますが、不利を強いられるというのは?」
「こいこいの仕様上、手札からは絶対に札を一枚出さなければならない。くっつきの場合はまだマシだけど、手四に至っては一枚ずつ出していく必要性があるよね。そうしないと取得する事が出来ないから」
「ふむ……。…………あっ、確かにそうですね」

 逡巡を経て納得するディヴィヤ。

「ですが、くっつきの場合は平気なのでは?」
「くっつきの場合は双方不利だからだよ。結局のところこいこいは札を取得していかないと始まらない。相手の場合、くっつきが揃っている状態のまま始められたらその月の札は逆立ちしたって取れないからきつい。自分にしてもくっつきが成立している状態で始めても札を取っていかないといけないわけで、一枚ずつ回収していく必要性があるのは一緒。その場合、どうしたって動きは遅くなるわけだからやっぱりきつい。故に手四とくっつきは成立したら精算して次のゲームに移るって私は思ったよ。ま、実際やってみれば分かると思うけど」
「ふむ……」

 ディヴィヤは頷き、目を伏せると沈黙した。
 キキコも口を閉じる。

「――確かにそうかもしれませんね」
「シミュレート出来た?」
「何とか。お待たせしました。次の説明をお願い出来ますか?」
「じゃ、まずは光札を用いた役からいくね。総じて高得点――ポーカーで言えばロイヤルストレートフラッシュやストレートフラッシュのような強い役だよ。でも、五枚しか無く、相手も積極的に取りに来るから成立はし辛いよ」
「揃ったらラッキーという感じでしょうか?」
「そ。じゃ、詳しく紹介していくね」


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