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自作小説お披露目会場コミュのこいこいしようよ! 6−3

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「まずは親決めです。どちらからお引きなさいますか?」

 瀬葉がキキコと満を交互に見て言った。

「キーちゃん、引いてくれ」
「ん。分かった」

 キキコが了承すると瀬葉が裏返しになっている山札を差し出してきた。キキコは一番上の札を取り、表を改める。その間、瀬葉は満に山札を差し出し、満もキキコと同じ行動をした。

「私は九月だよ」

 キキコは自分の札を表に返す。札は菊に盃だった。

「ならば、私が親だな」

 満が自分の札を表に返した。札はススキに月。満は札を皆に見せると、瀬葉に返却した。キキコも習って皆に見せた上で瀬葉に返す。二人から札が返却されると瀬葉は改めて山札をシャッフルし始めた。札と札がリズミカルに重なり、擦れる音が室内に響き渡る。

(原因は私にあった、か……)

 競技の準備が終わるまでの間、キキコはぼんやりと先ほど松町に言われた事や亜衣の告白を思い出していた。
 思い返してみれば、随分と酷い事をしてきたものだ。罵詈雑言をぶつけられても仕方ない。向こうは楽しんで初めてくれたし、遊んでもくれたというのにそんな人達に対して侮辱しているのも同然の事をしてきたのだから。

「――皆さん、無礼な振る舞いをしてすみませんでした」

 自然と口は謝罪の言葉を紡いだ。何を今更と思われるかもしれないし、自己満足にしか過ぎなかったがそれでも形だけはちゃんとしておきたかった。

「そう思うならカッコイイところ見せてよね?」
「しっかりやってくれればそれでいい」
「そう思うならしっかりとやる事ね」
「しゃんとしなさい。未来のエース」
「存分に楽しめ。お前はそれが出来る奴だろう?」
「私や満を驚愕させたあの頃を取り戻しなさい」
「しっかりしてくれよ。でないと張り合いが無いぜ?」
「全くだよね。紫や満が絶賛していたから楽しみにしてたのにさ」
「真剣に勝負する事」

 返って来たのは優しくも厳しい激励。

「――ここまで言われては何が何でもやるしかないな?」

 皆の言葉を締めるように満が不敵に微笑みながら言った。

「参ったね、どうにも……」

 キキコは寄せられる期待の重さに困惑し、頭を掻いた。
 言われるまでもなくやる気にはなっているが、だとしても所詮は偶然の一致に過ぎず、究極的にして本質的に運に凄まじく左右される事には何一つ変わらない。如何に気持ちが反映されるという現象が起きていたとしてもそれは相手とて同じ条件。付け加えて相手は関東圏最強と噂される鳳凰堂学院花札部の大将を務めた五光満だ。実力も気持ちも十二分で難敵である彼女に対し、付け焼刃とも言えるリハビリを始めたばかりの自分が何処まで迫れるか。

「双方、手札を確認して手四及びくっつきの有無を報告してください」

 瀬葉に指示を受け、キキコと満は自分の前に置かれている手札を表に返す。

「ないぞ」

 満が素気無く報告した。

「私もありません」

 キキコは報告した上で手札と場札を見比べ、

(幸先は良いみたいだね……)

 内心のみで俄然やる気になる。
 キキコの手札は藤に短冊、紅葉に青短、菊のカス、ススキに月、アヤメのカス、萩のカス、松のカス、ススキのカス。
 場札は梅に赤短、桜のカス、ススキのカス、梅のカス、柳に小野道風、松に鶴、松のカス、松に赤短。この内、松は三枚揃ったので一つにまとめられている。
 幸先は確かに良い。残る最後の一月の札はキキコの手中にあるため、何時でも好きなタイミングで取りに行く事が出来、さらにはススキのカスがあるため、満が最初の自分の番で取りさえしなければ、ススキに月を手札から出して取得する事が可能であり、その時点でかなり優位に立つ事が出来る。とは言っても、相手が相手なのでそう簡単に行くとは思えないが。

「始めてもいいか?」

 満が静かに聞いてきた。キキコは首肯すると、満はさっさと自分の番を始めた。手札から出されたのは梅にウグイス。それで梅のカスを取り、共に取得。山札から引いたのは桜に幕だった。満はそれで桜のカスを取り、共に取得する。

(これで花見は狙えなくなったね……。でも――)

 キキコは内心でそんな事を思いつつ、手札からススキに月を場に出してススキのカスと共に取得する。それから山札。引いたのはアヤメに短冊だった。場に同月である五月の札は無かったのでそのまま場に残す。

「微笑んだ割には軽いな」

 満が煽りつつも自分の二回目の番を始めた。手札から出されたのはアヤメに八つ橋。それで先ほどキキコが山札から引いたアヤメに短冊を取って共に取得する。流れるような動きで山札から引いたのは桜に赤短。場に三月の札は無かったので桜に赤短はそのまま場に残った。

「酷い振る舞いばっかりしていたから神様に呆れられたのかもね」

 煽りに自嘲を返しつつ、キキコは手札からアヤメのカスを出した。場に五月の札は無いのでそのまま場に残る。ついで山札。引いたのは牡丹のカス。これも場に六月の札が無いので同じく場に残った。

「そんな事を言っていると本当に呆れられてしまうぞ?」

 満は呆れた口調で言って三回目の自分の番を始める。アヤメのカスを出し、場にあるアヤメのカスを共に取得。ついで山札から引いたのは牡丹のカス。こちらも場にある牡丹のカスと共に取得し、結果キキコが出した札はそっくりそのまま取得された形となる。

「別にいいよ。片思いは慣れっこだから」
「片思い? 向こうで彼氏でも作りましたの?」

 キキコはそう返した瞬間、紫が不思議と剣呑な声で聞いてきた。

「違うけど、恥ずかしいから言わないよ」

 キキコはそれで会話を強引に終わらせて自分の番を始める。手札から場に藤に短冊を出してそのまま場に残した。ついで山札から引いたのは柳のカス。それを場の柳に小野道風を共に取得する。

「再会まで十年だ。私達にも猪鹿蝶や鶴賀、桐子、そして如月学園の霜月のようにキーちゃんが及び知らない友が出来たのだ。彼氏の一人いても不思議ではあるまい。いたとすれば、どんな相手なのか気になるところではあるが、な」

 満がそんな事を言いつつ、自分の番を進めていく。桐のカスを出してそのまま場に残し、山札から引いた紅葉のカスも同様に場に残す。

「だから違うってば。言わないけどさ」

 キキコは否定しつつ、手札から紅葉に青短を出して先ほど満が山札から引き、そのまま場に残した紅葉のカスと共に回収。ついで山札から引いたのは牡丹に青短。こちらは場に六月の札が無かったのでそのまま場に残る。

「なら、誰を思っているのだ? 教えてくれてもいいではないか」
「そればっかりは秘密だよ。でも、彼氏じゃないのは確か」
「教える気無し、か……。まあそれも良かろう」

 満は自己完結して自分の番を始めた。手札から桐のカスを出し、前の自分の番で出した桐のカスを共に取得。山札から引いたススキに雁はそのまま場。

「納得してくれてありがとう」

 返答してからキキコは自分と相手の手札、場札、自分と相手の取得札、そして山札を順々に見る。傍目にはただ見ているだけに見えるその行為は、その実意味ある行為であり、その意図は見定めである。
 単なる偶然の一致でしかないのだが、何となくではあるものの、優位に立てる状況になるか、劣位になるかを感じ取る事が出来る。経験と直感の二つを併せたこれは誰もがやる事ではあるものの、キキコのそれの的中率は七、八割方という驚異的な的中率を誇っている。回数こそ忘れたが、判断材料に入れても何ら問題無いほどの的中率なのでその感覚をキキコは割と頼りにしている。

(雨四光は成立出来そうかな……。何となくだけど)

 その感覚はそう告げていた。五光、四光に次ぐ高得点役。松に鶴は確実に取得出来るので残りは桐に鳳凰ではあるが、何となく取れそうな予感がしている。

(――昔取った杵柄とはよく言うね。開き直った瞬間にこうとは……)

 キキコは自分自身に呆れていた。自然をそう考えられ、そう考えられた自分を客観的に観察して一先ずそう結論付けた。その感覚は昔、無心でこいこいをして勝利に貪欲だった頃に限りなく近い感覚なのである。
 感覚が戻りつつある感触がそこにはあった。
 しかし、いや、だからこそというべきか。

(――あ、良い事考えた。怒られるかもしれないけど)

 楽しむ余裕が出来たからか、キキコはちょっと邪な事を思いついた。
 それは、ドッキリである。内容はこうだ。ここでこれまで通りに器用に負け、「やっぱり直には無理か」と思わせる。その後も感覚が戻りつつある事を隠しながら部活に望む。周囲の失望を買ってしまう事になるかもしれないが、以前とは違って本当に心から楽しんで望むのでそれに関してはあまり心配していない。問題は大会が始まるまで皆にドッキリを目論んでいる事が気取られないでいられるかという事と神様に飽きられないかという事。どちらも難しい条件だが、成功して好意的に受け取られた場合の事を考えたら試したくなった。
 ともすれば、思い立ったが吉日である。
 キキコは手札から松のカスを出して一つにまとめられていた一月の札を全て取得し、山札から引いた柳に燕を場に残して満に番を譲る。

「――なるほど。最初の微笑みはそういう理由か」

 満が得心したように言った。キキコは微笑を返す。

「そ。で、そろそろ桐に鳳凰が取れそうだから取っておこうと思って」
「ふふ。相変わらずとんでもない事を平然と言ってくれる。なあ、紫?」
「昔を思い出しますわね。実際そうなるのがまた怖いところですが」

 二人の反応に、キキコは肩を竦める。

「いつも偶々当たっているだけだって」
「偶然も重なれば必然ですわよ?」
「二度ある事は三度あるってだけだよ」
「何であれ、要警戒だな」

 満はそう言って手札に手を添えた。それを受け、沈黙が訪れる。静まった中、満は萩のカスを手札から場に出し、山札から札を引く。その瞬間、ほんの僅かだが満の動きが止まった。満の手札や引く札が見えている鳳凰堂の面々は唖然としている。中には『あっ』と声を漏らす者も。
 何事かと思った矢先、満が動き、山札から引いた札を場に出した。それを見て、鳳凰堂の面々が各々驚きを小声で露わにした。キキコただ一人を除いて。

「――戻ったか」
「そう信じたいところですわね」

 満と紫が至極嬉しそうに言った。キキコは苦笑を零す。

「さあね。世の中そんなに甘くないと思うけど」

 そして自分の番を始める。手札から萩に短冊を出して場の萩のカスを取り、山札から札を引く。引いたのは菊のカス。九月の札は無いのでそのまま場に残る。

「確かにそうみたいだな」

 満は素気無く言って手札から場に札を出した。出されたのは菊に盃。それで菊のカスを取り、それによって花見酒が完成する。それから山札。引いたのは萩のカスだった。七月の札は場になかったのでそのまま残る。

「勝負するぞ。花見酒で三文だ」

 その宣言によって一ラウンド目が終わりを迎える。

「弱腰だね」
「堅実と言ってくれ。瀬葉、残りの山札の一番上をめくってくれ」
「かしこまりました」

 瀬葉は言われた通りに残った山札の一番上をめくった。
 途端、どよめきが生まれる。瀬葉がめくった残った山札の一番上は桐のカスだった。先のターン、満がこいこいを宣言していたならば、キキコは山札から桐のカスを引き、それによって桐に鳳凰を取得して雨四光が成立していたのだから。
 そんな中、キキコは余った手札を机の上に置き、深い吐息を落とす。

(許してもらうにはまだまだ時間がかかりそうだね……)

 こうなるかな、というのをキキコはその実感じ取っていた。
 幼い時、勝ち過ぎる事を母に相談した時、キキコはこう言われた。
 ――『キーちゃんが花札をとても好きなように、花札もキーちゃんの事が大好きなのかもしれないわね。そう考えると結構素敵じゃない?』
 その回答はキキコの胸にすとんと収まった。しかし、最初の内は良かったのだが段々と勝つ事に苦痛を感じるようになり、行く先々、何処に行っても最終的には相手にしてもらえず、それでもやめたくなかったキキコは愛される事を良い事に器用に手を抜くための手段として悪用するようになった。そんな事をされれば、誰だって嫌なのは明白。物言わぬ花札でもそれは同じだろう、とキキコは今更ながらに自分の愚劣さに気づき、この結果を甘んじて受け入れる。

(ごめんね。でも、もう少しだけ私の我が侭に付き合って……)

 キキコは内心のみで花札に対して謝罪し、その上で要望を伝えた。

「き、キーちゃん!?」
「い、いきなり泣き出してどうしたのだ!?」

 紫と満の叫びで、キキコは我に返り、頬を触った。するとそこには涙が流れた後があり、目尻には涙が溜まっている事にようやく気づいた。

「……何でもないよ。ただ、上手く行かないものだなー、と思ったらつい、ね」

 キキコは曖昧な言葉で茶を濁し、瀬葉に準備を促す。

「瀬葉さん、次の競技の準備をお願いします」
「平気なのでございますか?」
「大丈夫です。自分のバカさ加減に泣けてきただけなので」
「休んでもいいぞ?」
「大丈夫だよ、ミッチー。それに続けないとこの感覚が鈍りそうだから」
「それは困るが、本当に大丈夫なのか?」
「うん。心配してくれてありがとう」
「何、礼には及ばん。瀬葉、そういうわけだから準備の方を頼む」
「かしこまりました」

 瀬葉は目礼して次の対戦の準備を始める。
 その後、何度も勝負をしたが、先の一戦のような展開が続き、結局「やはり直には無理だったか」という結論が下され、一日目の合同練習は幕を閉じる。
 皆の判断にキキコがホッとし、罪悪感が募ったのは言うまでもないだろう。


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