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自作小説お披露目会場コミュのこいこいしようよ! 3−5

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(さて、どうしようかなー)

 亜衣が動くのを待つ間、キキコは自分の手札を見る。
 キキコの手札は、松に赤短、梅にウグイス、萩のカス、ススキに月、菊のカス、柳に燕、柳に短冊、桐に鳳凰という構成である。
 ついでキキコは場札を見た。
 場札は、紅葉のカス、牡丹に青短、ススキのカス、柳に小野道風、藤にホトトギス、菊に青短、アヤメに短冊、梅のカスという具合だった。

(雨四光が目指せそうではあるけれど、微妙なところだね……)

 キキコは手札と場札を見比べてそう判断する。
 初手の手札から、光札三枚+柳に小野道風からなる雨四光が狙えそうではあるものの、場に十二月の札が無い事や残る二枚の光札が何処にあるか分からないので厳しいものがある。一応ススキに月が手中にあるので月見酒の成立は阻止する事が可能であるが、花見酒が成立する条件は残っており、三月の札も九月の札も無いので邪魔する事も難しい。中々厳しい状況である。

「ええと……まずはこれかな」

 亜衣が手札から場に札を出した。出したのは牡丹に蝶。それを覚束無い手付きで牡丹に青短の上に置き、二枚の札を取得する。

「次は山札ですよね?」
「そうよ」
「何が出るかな?」

 桐子と朱美の催促を受け、亜衣は山札から札を一枚引いた。

「わわ、いきなりだよ! ラッキー♪」

 亜衣は嬉しそうに言って山札から引いた札を菊に青短の上に置いて二枚を取得する。引いたのは菊に盃だった。これで花見酒の成立が射程圏内に入る。さらに三枚ある青短の内、二枚を取得したので青短も射程圏内に入った。

(いきなりきついなー……)

 内心ぼやきつつ、キキコは自分のターンを始める。手札からススキに月を場に出してススキのカスと共に取得して山札から一枚引く。引いたのは桐のカス。場に十二月の札は無いのでそのまま場に残す。

「は、早い……」

 亜衣の呆然とした呟きを聞き、キキコはハッとした。

「あ、ごめん。ついいつもの調子でやっちゃった」
「平気だけど、手際の良さが凄いなーって」
「普段から遊んでいればこうなるよ。亜衣さんはゆっくりでいいからね? 焦らず、じっくりとやって。私も次からはゆっくりやるからさ」
「ん。ありがとうね」
「礼には及ばないよ。しくじったのは私だからね」
「もう。キキコは一々律儀なんだから……」

 亜衣はため息混じりに言いつつ、手札から場に札を出した。出されたのは梅に赤短。場にある梅のカスと共に取得して山札から一枚引く。引いたのは桐のカスだった。キキコが先ほど引いて場に残した桐のカスと共に取得する。
 自分のターンになってキキコは、今度は速度を落として手札から柳に燕を出して場の柳に小野道風と共に取得する。ついで山札。引いたのはまたしても場に同じ月の札が無い松のカス。空いている場所にキキコは札を置く。

「一ターン目といい、二ターン目といい、ついてないね?」
「取得出来る札があるだけ御の字だよ。下手すると取得出来ない場合もあるし」
「それはきついね……。でも、今って僕に流れがあるのかな?」
「あるだろうね。少なくとも外野にはそう見えるはずだよ」

 キキコはそう言って亜衣のサポートに回っている桐子と朱美を一瞥する。

「取得した札の枚数だけで判断するならば、流れは佐治さんにあるわね」

 キキコの視線に気づいたのか、桐子が意見を述べた。

「でも、フランクールさんだってススキに月、柳に小野道風と取得した札こそ少ないけれど雨四光への道を着実に進んでいるから油断は出来ない」

 朱美の鋭い見方に、キキコは苦笑を返す。

「あらら。やっぱり狙っているの分かりました?」
「余裕。ついでに言うと雨四光くらいしか高めの役を目指せそうにない手札だった、というのもここまでの流れで何となく分かった」

 それを聞いてキキコは頭を掻く。

「いやはや、そこまで見抜くとは……」
「伊達に【逆転の鶴】と【速攻の鳳凰】に相手してもらってない」

 ドヤ顔でVサインを返してくる朱美。

「――二人とも佐治さんが続けられなくて困っているわよ?」

 鶴賀に注意され、朱美は口を噤み、キキコは視線を戻した。

「話し込んじゃってごめんね」
「別にいいよ。有意義な話だったからね」

 亜衣はそう言って手札から場に札を出した。出したのは藤にホトトギス。場にある藤のカスと共に取得して山札から一枚引く。山札からは紅葉のカスを引いた。場にある同名の札と共に取得する。

「またもらっちゃった♪ 悪いね、キキコ」
「いやはや、参ったね、どうにも……」

 キキコはため息混じりに言いつつ、手札から松に赤短を場に出して松のカスと共に取得する。ついで山札。引いたのは最後の十二月の札である桐のカス。場には当然同月及び同名の札はないのでそのまま残す。

「また一枚しか取れなかったよ」
「ご愁傷様です」
「労ってくれてありがとう」
「どういたしまして。さて、次はどうなるかなー♪」

 意気揚々と亜衣が手札から場に出したのは桜のカスだった。

(――あれはまずいね)

 キキコは桜のカスが場にされた瞬間にそう思った。これで花見酒成立への布石は整ってしまった。キキコの手札にある札では桜のカスを取得する事は出来ないので阻止するためには山札に賭けるしかない。
 だがしかし、経験と直感からキキコは自分が三月の札を引けない事を感じ取ってもいた。毎回そうだった。突如突風に煽られた感じがした時や背筋に冷たい汗が流れた時は決まって成す術無く相手の役が成立するのを黙って見ているしかなかった。先に取得して邪魔する以外に相手が役を成立するのを邪魔する事が出来ない。とどのつまり窮地である。
 そんなキキコの心境など露知らず、亜衣は自分のターンを進めた。山札から引いたのは菊のカス。それは次のキキコのターンで同名の札と共に取得する事ができるものの、この窮地を脱するには遠く及ばない。

(――さっきの感覚を信じるに、亜衣さんは桜に幕を握っているだろうから、次のターンで花見酒が成立するのはほぼ決定事項。で、亜衣さんの取得した札から考えると……六対四――いや七対三くらいで宣言してくるかな……)

 亜衣の取得した札は種札三枚、短冊札三枚、カス札五枚。それでいて花見酒と青短がそれぞれ後一枚で成立する状態である。キキコもキキコで雨四光が後二枚で成立する状態であり、その二枚の内、桐に鳳凰は手中にあるので実質的に後一枚であるが、山札に眠る松に鶴をキキコが取得出来る確率はかなり低い。確率論で言えば亜衣も似たり寄ったりの条件ではあるが、亜衣の場合は青短を狙いつつ、タネやタンの成立も視野に入れる事が出来る。
 つまるところ、状況の不利は何ら変わらない。

(鳳先輩と藤谷先輩も多分宣言する事を勧めるはず。だとすると――)

 考えた末、キキコはこいこいが宣言された時の事を考えて札を出す事にした。手札から桐に鳳凰を出して桐のカスと共に取得し、山札から一枚引く。引いたのは柳のカス。つくづく巡りが悪いな、と思いつつも場に札を残した。

「よし! もらうよ!」

 亜衣は声高に言い、手札から場に札を出す。出したのは桜に幕。キキコの直感は正しく、これにて花見酒が成立した。

「これでこいこい出来るんですよね?」

 亜衣は後ろにいる桐子と朱美に尋ねた。

「出来るけどまだ。宣言は自分のターンでする事が全部終わってから」
「え? ……あ! そ、そうでした! は、恥ずかしい……」

 亜衣は顔を真っ赤にしながら山札から一枚引いた。引いたのは牡丹のカス。場に六月の札は無いのでそのまま場に残す。

「それで良し。で、これでようやく勝負するか、こいこいを宣言するかを選ぶ事が出来るわ。というわけで、どうする?」
「ええと――」

 亜衣は自分の取得した札を見て、しばし黙考し、

「――確かこいこいを宣言してしまうと新しく違う役を成立させるか、タネとタンとカスが成立していた場合に一枚追加されないと、勝負とこいこいを選ぶ事が出来ないんですよね?」
「ん。だから相手の取得した札や場札の状態も考慮してよく考える必要がある」
「ですよね……。――先輩達ならどうします?」
「答えてもいいけど、先に佐治さんの答えを聞かせてもらえるかしら?」
「私も同意見。相手の名前を聞きたい時と一緒」
「なるほど。僕は勝負しようと思いました」

 予想とは反対の答えにキキコは少なからず驚いた。
 それを尻目に亜衣は持論を紡ぐ。

「仮に続けたとしても他の役を成立させる事は出来そうな気がする事にはするんですけど、キキコは雨四光成立一歩手前でこのまま続けると成立されてしまう可能性もあるわけで、だったらまずは確実に三文減らしておこうかな、と」

 しかし、亜衣の選択は間違っているわけではない。単に期待値に賭けるか、堅実に行くかどうかで堅実に行ったという話である。花見酒及び月見酒は成立し易い役だが、と同時に自分の手札や相手の取得した札、場の状況にもよるものの、基本的に潰され易い役である。そのリスクを避けるなら当然の選択である。

「堅実ね」
「同じく」
「そう言われると思いました。キキコも戦術としてはアリみたいな事言ってましたけど、よくよく考えたらそうするとこいこいの面白さ半減しますからね」
「全く以ってその通りなのよ。駆け引きを放棄するわけだもの」
「でも、間違いなく確実に相手の持ち点を減らせるから間違っているわけじゃない。そういう戦い方をする人もちゃんといるし」
「へー。ちょっと意外です。キキコから色々教えてもらった時、花見か月見が成立したらこいこいを宣言するのが暗黙の了解なのかな、と思ったので」
「そう考えてる人は結構いる」
「マツセンや鶴賀がその手の人種ね。あの二人が花見か月見の単品で勝負した事を私は今まで付き合って来て一度として見た事が無いわ」
「酷い言われ様だな……」
「人をギャンブラーか何かみたいに言ってくれて……」

 松町と鶴賀が『心外だ』とばかりに大仰な反応をする。

「そうは言っても紛れも無い事実」
「一々フォローしなくていいわよ。あの手の人種は好きでやってんだから。で、話を戻すけど、私ならこいこいするわ。現状から鑑みるにフランクールさんが何らかの役を成立するよりも取得した札の枚数からしてこっちが新しい役を作る方が断然早いからね」
「桐子先輩に同じく。私もこいこいをしてみるよ」
「なるほど。こういう状況はこいこいをするべきなんですね……」

 助言をもらった亜衣はしばし熟考し、

「でも、とりあえずここは勝負しときます」

 結局、自分の意見を曲げずに貫き通した。

「勝負でいいの?」

 キキコはもう一度確認する。

「うん。ところでさ、花札って麻雀みたく上がる時に何か言ったりするの?」
「言うよ。上がる役と得点をね。この場合だと「花見酒、三文」って感じで」
「OK.では――」

 亜衣は一度咳払いして言う。

「――勝負するよ。花見酒で三文ね。……こんな感じ?」

 真面目に言った後、砕けた声色でそう確認する。

「そんな感じよ。後は点数計算をして一ゲームが終了となるわ」
「なるほど。……はー。ちょっとなのに結構精神的に疲れますねー」

 亜衣は大きく息を吐きつつ、そんな事を言いながら椅子に深く座った。

「亜衣さんは初めてだし、先輩達に見られながらだから尚更かもね」
「かもねー。ところでさ、この状態の山札って見ても平気?」

 亜衣は山札を指差しながら言った。


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