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自作小説お披露目会場コミュの改修版ブレイブハーツ 5−1

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「――ここ、夜は人気が無くなるから出て来ても平気だよ」

 郊外の空き地で、あたしは姿見せない敵に向かって言った。
 全知さんの表向きには市民のため、本質は知美のために近代化させたとは言え、飛鳥市の扱いは今でも田舎。人口はそれなりに増えたが、劇的に増えたわけでもなく、力を入れたのは駅前や中心部なので、郊外の方は割と昔と変わらない姿だったりする。なので、夜が近づくに連れて郊外の人気は自動的に少なくなるのだ。
 三分ほど待ってみたが、敵は姿を見せない。
 警戒しているのか、様子見か。
 しかしながら、これでは戦う事はもちろん、話も出来ない。
 だから、あたしは炙り出す事にした。

「飲み込みが悪いね。隠れても無駄って言ってるんだよ?」

 釣り針は垂らした。
 後は、獲物が餌に食いついてくれるのを待つだけだ。

「――余裕ですね」

 声は正面から。
 ついで、誰もいなかったはずの場所から、声の主が現れた。
 現れたのは、長刀を携え、灰色の着物を着ている大和撫子。
 あたしの叔母である防人仁美。

「四年振り。元気にしてた?」
「私と貴女は歓談する様な仲では無いでしょう?」
「そっちが歩み寄ってくれないだけじゃん」
「私は兄さんとは違います」
「魔女の子とは馴れ合え無いって?」
「そう言ったつもりですが?」
「そんなの心の持ち様でどうとでもなる問題だよ」

 あたしがそう言った時、仁美さんから漂ってくる雰囲気に変化が起きた。無機質な感じから一変、常人なら戦慄するだろう殺気を内包した雰囲気へと。

「――そう言えるのは、兄さんも貴女も持っている側に立っているからです」

 紡がれた声は、果てしなく冷たかった。

「兄さんもそうでしたが、貴女もほとほと傲慢ですね。あの魔女や貴女に恐れを抱くなと? ……無理に決まっているでしょう? あの様な暴虐を人為的に引き起こせる存在を許容出来るとお思いですか?」

 出来なかった事は、お爺ちゃんから聞かせてもらった。
 持たされなかった者の持たされた者への嫉妬と危惧、それによって全てが悪い方向へと向かい、故に起きてしまった大惨事になっていたかもしれない災害。
 窮地に立たされた時、ママはパパを守るために戦った。
 それは、さながら天災。それも、人類に劇的損失を与える程度の。
 それにより、多くの破邪が命を落とし、より多くの破邪が重傷を負った。
 お爺ちゃんは言っていた。天道が介入しなかったら全滅していた、と。
 天道という新しい抑止力のおかげで、事態は最悪を免れた。
 だけれども、一度植え付いた恐怖心は拭えない。
 だからこそ、こうして二度目の本格的な襲撃が執行されたのだ。
 でも、少なくとも、この人だけはそれだけが目的ではない。

「――それほどまでに全てが憎い?」

 そう言った瞬間、仁美さんの殺意の密度が増した。

「――図星だったみたいだね」

 もっとも、それは当然だ。
 何故なら、仁美さんの人生は、お爺ちゃんによって滅茶苦茶にされている。
 仁美さんの言葉を借りるなら、仁美さんは『持たなかった者』だ。
 故に、家から捨てられる形で遠縁に預けられた。
 しかし、パパの死後、後継を作るために連れ戻され、俗世と関わっていた埋めようの無い遅れを生めるために肉体を弄繰り回され、破邪にさせられた。
 そこまでされたというのに、あたしという存在の発覚により、用済みとされた。
 だからこそ、憎まずにはいられない。
 そうしなければ、自分を保てないかったから。

「……分かっているのに聞くとはどういう了見ですか?」

 紡がれた言葉には、純然たる殺意しかなかった。

「こっちにはこっちの都合があるだけだよ」

 答えつつ、あたしは周囲を探る。
 どうにも妙だ。別に自慢するわけじゃないが、仁美さんにはあたしの相手は務まらない。良くて相打ち。それにも関わらず、七人の当主は、気配はあるのだが、姿を見せる感じは無い。これは一体全体どういう事なのだろう。仁美さんだって、七人の当主だって、一対一であたしを殺せない事は分かっているだろうに。

「――他に気を回すとは余裕ですね」

 仁美さんが嘲笑交じりに言った。

「それと何時まで強者面しているつもりですか?」

 嘲笑交じりの挑発は続く。
 一転にして余裕。
 その態度を見て、あたしは自分の認識の甘さに気付いた。
 二度目の本格的な襲撃――その意味をもっと良く考えるべきだった。
 あの恐怖を知りながら、実行に移そうとしたその意味を考えるべきだった。

「まさか――」

 狼狽が思わず表に出てしまい、そうした自分の愚かさを即座に呪った。
 それで勝機を見い出したからか、仁美さんは不敵に微笑んでこう続けた。

「――巡りが早いですね。そのまさかですよ」

 そう言って、仁美さんは目を伏せた。
 瞬間、空気が変わる。
 それは、変化の予兆。
 全てを言われずとも、あたしには仁美さんがやろうとしている事が分かる。
 よくよく考えれば、分かった事だ。相手は破邪。邪な存在から人と人の世を守るためなら、身内を身内として思わない連中だ。
 そんな連中なら、そういう事を考えても何ら不思議じゃない。
 一息吸い、仁美さんはあたしが良く知る言葉を紡いだ。

「――七曜拘束解除、同時に干渉緩和結界展開」

 それに伴い、世界は一変する。
 目に見える変化は無いが、確実に変化した。
 それは、そういう物だ。
 唯一の使い手だったあたしには、それが手に取る様に分かる。
 だからこそ、それが意味するところも。

「――なるほど。それで他の七人は何時まで待っても姿を現さなかったのか」
「ご明察。当主達には天道の娘の足止めに行ってもらいました」
「ご丁寧にどうも」

 だとすると、こんなところでもたついていられない。

「――というわけで、悪いけど、速攻でケリを付けさせてもらうよ」
「出来ますか? 相性の上ではそちらが不利だと言うのに」

 確かにそうだ。向こうは復讐に染まっていようが破邪は破邪。対し、あたしは何処まで研鑽しても破邪と魔女の混血児。邪に対して絶対的優位性を先天的に有している破邪にとって、体質的に邪と呼べる物が混ざっている敵と戦う場合は、その混ざっている分だけ優位に立てる。よって、あたしは実質的に五割のハンデを最初から背負った上でこの戦いに望まなくてはいけないのだ。
 それが、仁美さんが余裕綽々としている理由。
 でも、そんなのは些細な問題だ。

「出来るよ。割と簡単に」

 何故ならば、あたしにはとっておきがあるからね。
 しかし、それを出し終えるには時間がかかるので、先手は打っておこう。
 あたしは、つい先ほど紡がれた言葉と同じ事を紡ぐ。

「七曜拘束解除、同時に干渉緩和結界展開」

 瞬間、あたしは浮遊感にも似た無重力状態を感じ取った。もっとも、本当に浮いているわけじゃなく、解放された、という感じだ。

「経験の差で五割の差を埋めると?」

 言うや、仁美さんは七曜――光、闇、火、水、木、金、土とこの世を構成している七つの元素を同時に行使した。
 相手にして初めて分かる。これを相手にするのは結構な重労働だ。ましてや七つ同時。あたしでも面倒と思うのだから、普通の手合いならしんどいだろう。

「踊れ、七曜!」

 目には目を。あたしは自分に向かってくる異能と対となる属性をそれぞれにぶつける。光で闇を照らし、闇で光を食らい、火で金を溶かし、水で火を消し、木で土を痩せさせ、金で木を傷つけ、土で水を濁して塞き止める。
 その直後、真横に殺気と空気の乱れを感じた。視線を向けるよりも早く体は動き、回避行動を取った。回避した瞬間、視界が下からの切り上げを捉える。どうにかして回避したのも束の間、刃が返され、今度は切り下げが襲ってくる。

「――っ」

 事後硬直で回避行動は間に合わなかったので、あたしはホルスターから銃を抜き、振り下ろされてくる刀身をベレッタM92FSの銃身で受け止める。

「どうしました? 動きが鈍いですよ?」

 そんなの言われなくても承知している。戦闘に集中しないといけないのだが、どうにも知美達の方が気になってしまう。

「分かって――ますよ!」

 叫びながら、あたしは長刀を押し退け、無防備となった顎めがけて右足で前蹴りを放つが、身を反らせて回避された。でも、それは囮で、本命は左足による腹部への飛び蹴りだ。蹴り上げた右足の反動をそのままに跳躍し、左足が腹部へ到達したところで、前へ押し出す。

「風よ、巻き起これ」

 が、直後、あたしと仁美さんの間に風が発生し、双方を吹き飛ばした。
 あたしも仁美さんも空中で体勢を立て直し、着地体勢に入る。
 その間、あたしは一度だけ引き金を引く。狙いは四肢のいずれか。手なら攻撃力、足なら機動力を削ぐ事が出来るから、どちらに当たってくれても美味しい。
 ところが、そんな簡単に事は運ばなかった。
 あたしが体勢を崩しながらなのに対し、仁美さんはただ吹き飛んだだけ。着地するタイミングは同じだが、仁美さんは銃弾を迎え撃つ形で、剣術でも異能でも対応が可能。そして、仁美さんが選んだのは剣術だった。鋭く呼吸した後、虚空に孤が描かれ、金属が切れる音が響き渡り、両断された銃弾が地面に落ちた。異能を使わず、剣術で対処したのは、間違い無くあたしに対する挑戦だろう。
 あたしは堪らず舌打ちした。こんな事なら見栄なんて張らず、虎徹を借りてくるべきだった。これでは、遠距離からの銃撃は弾の無駄遣いでしかないだろう。

「口だけは一丁前ですね」
「……済みませんね。こっちは予定が立て込んでいるんで」
「その心配は杞憂です。今宵で何もかも終わるのですから」
「こっちはまだまだ終わるつもりは無いよ」
「おまけに減らない口ですね」

 そう言ってため息。
 それから、仁美さんは呆れた口調のまま続けた。

「――では、もう少し本気で行くとしましょう」

 その台詞に、あたしは久しぶりに戦慄した。
 次の瞬間、七曜が大挙して迫って来た。密度は増し、精度も増し、速度も増している。垂れる冷や汗を無視し、あたしは即座に術式を構成する。
 その時、仁美さんが呟いた。

「――天道さん、無事だと良いですね」

 その一言に、あたしは不覚にも気取られてしまった。
 達人はもちろん、超人同士の戦いに置いて、一瞬の隙は死に直結する。
 気取られた自分を呪い、呪った自分を叱り、こんな時にそんな事をしている場合では無いと言うのに、あたしはそれをしてしまった。
 後悔先に立たず。術式を高速で編むが、物理的に一瞬足りない。

「――王手です」

 そんなあたしの耳に、仁美さんの勝利を確信した台詞が聞こえた。


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