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自作小説お披露目会場コミュの改修版ブレイブハーツ 2−1

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「お帰りなさいませ、お嬢様。いらっしゃいませ、一実様」

 家に到着すると、沙耶が出迎えてくれた。
 その事に私は疑問を持った。沙耶は昼食とお茶会の準備をしているはずだ。私達が少し遅くなった事を考慮しても準備は終わらず、職務を放棄するほど沙耶は使えないメイドではない。
 となれば、何かあったのだろうか。でなければ、私には勿体無いくらい出来るメイドである沙耶がここにいるはずが無い。
 私達を出迎えた沙耶は、

「おや、お嬢様、リボンが曲がっていますね」

 そう言って私に歩み寄って来て、タイを直した。それが終わると沙耶は一枚のメモを見せて来た。そこにはこう書かれていた。

『防人仁美が急遽来訪され、止む無くお待ちになって頂いています』

 それだけで私は沙耶がここにいる理由に行き着いた。
 それが分かった矢先だった。

「――知美、ちょっとトイレ借りて良い?」

 一実が唐突にそんな事を言った。そう言った一実は一見平然としているが、それは恐らく演技だろう。こういう事は今までに何度もあった。最初は分からなかったが、今では一瞬にして緊張感をまとったその雰囲気を読み取れる。
 私が答えようとした時、沙耶が口を開いた。

「鶴来、一実様を二階のお手洗いに案内を。それからお召し物を着替えもお願いします。制服が万一にも汚れてしまっては事ですから」
「一人で行けますよ? 後『様』は止めてください」
「いえそうではなく、一階のお手洗いは今朝から調子が悪くなりまして、今は使用出来ない状態となっており、二階のお手洗いをお使いになって頂かなくてはならないからです。それと申し上げ難いのですが、一実様のファッションセンスは微妙です。それ故に鶴来と一緒に行って頂ければ時間の消費を抑えられます。ご不満かもしれませんが、どうか理解ください」
「あたしの要望は清々しく無視ですか……」
「ふふ、一実様の消沈する顔は母性をくすぐられるから好きなのです」
「あー、分かる。物凄く分かるよお姉ちゃん。一実さんってバトルヒロインの皮を被った小動物系キャラだもんね。または妹キャラ。何にせよ可愛いは正義」

 それには私も激しく同意だ。

「鶴来、お嬢様と一実様の前ですよ」
「と、そうでした。ではでは、一実さん! 早く行きましょう!」

 言うや、鶴来は抗議の声を無視し、一実の背中を押して家の中へと入っていく。

「お嬢様、鞄を」

 それを尻目に沙耶はそんな事を言い、両手を差し出して来る。私は鞄を渡し、

「沙耶、今日の昼食は?」
「来訪があったので用意しておりません」
「食べ損ねるのは明白だものね……。応対中にお腹鳴らないと良いけど」
「その時はその時です。ところで、今日は少し遅かったですね?」
「生徒会に呼び出しを食らい、ちょっと佐東先生と話し込んじゃってね」
「そうでございましたか」

 さて、そろそろ平気だろう。一実や鶴来の声はもう聞こえないから。

「場所は?」
「一階の客間でございます」
「良き配慮をありがとう」

 あたしは屋敷の中に入り、客間へと向かいながら礼を言い、話を進める。

「来訪したのは、やはり一実の引き取りについて?」
「はい。相変わらず。後、勝手ながら旦那様にもお伝えしました」
「気にしなくて良いわ。当然の判断だもの。――それはそれとして、今更と言えば今更よね? この事は何も今に始まった事じゃないというのに。色々考えられるけど、どれにしても理由が弱い気がするわ」
「単純に相応の実力が身についたからでは? 向こうの目的は、前当主である防人一斉様を殺された事が恨みを晴らす事です」

 沙耶の進言で、私は自分が失念していた事に気が付いた。

「……なるほど。それは盲点だったわ。教えてくれてありがと」
「どういたしまして。――しかしながら、防人家にも困った物ですね。こちらの気も知らないで、とはまさにこの事です。まあ仕方ありませんけど」
「全くね。合意したんだから大人しく従えって話」

 沙耶の愚痴に、私は苦笑交じりに賛同した。
 一実と防人家の間には、修復不可能な確執がある。
 それを決定的にしたのは、今から四年前の事。
 その日、一実の祖父であり、先代の当主だった防人一斉が、何者かによってバラバラに斬殺された。バラバラに斬殺されているところから、犯行は怨恨から来る物と仮定され、捜査が始まり、その線上に浮上したのは一実だったのだ。
 浮上したのは、現場から検出された毛髪や血痕が一実の物と合致したからだ。
 さらに、一実にはアリバイが無かった。事件が発生したのは、一実の両親が亡くなった日の深夜であり、『一人にして欲しい』という頼みを聞いて、一人暮らししている自分の家に帰らせている。駄目押しというわけではないが、その願いを聞いて、その日は監視カメラを起動させていなかった。
 動機は有り、証拠も十分で、一実犯人説は動かない。
 だからこそ、天道家は動いた。初動捜査の時点で関わっていたが、動かない事が発覚するや、本腰を入れ、使える権力を総動員して調べ上げた。
 そして、公に出来ない事実が発覚した。
 故に、天道家は事件を闇に葬る方向で警察関係者と防人家を説得した。警察の方へは『公に出来ない事実』を話し、防人家には常人離れしている事を公にする事になるぞ、という方向から攻め、事件は未解決事件の一つとなった。
 しかし、防人家はその実納得していなかった。そればかりか、仇を取るべく、暗殺という非合法な手段を実行している。そのせいで、ただでさえ安息が少ない一実の日常は、より激しさを増し、一実はその対応に追われる事になっている。
 本当に困った物だ。全てが冤罪であるだけに何もかもが腹立たしい。

「――お嬢様」

 無言の道中、不意に沙耶が口を開いた。
 思考を中断し、周囲を確認してみれば、何時の間にか客室の前だった。

「教えてくれてありがと」
「それもありますが、その様なお顔での接客はなりません」

 そう言いつつ、沙耶は何処からか取り出した手鏡で、私の顔を映した。
 そこに映っていた私は、確かに接客に相応しくない不機嫌そうな顔をしていた。
 私は目を伏せ、深呼吸し、思考と気持ちの切り替えを即座に行った。
 それから沙耶にお礼を言った。

「沙耶、重ね重ねありがと」
「どういたしまして。――では、私は飲み物を用意して参ります」
「粗茶で良いわよ」

 私が小声で言うと、沙耶は朗らかに笑い、厨房へと向かった。
 沙耶を見送り、私はもう一度深呼吸して、客室の扉を開ける。
 私が客室に入ると、中で待っていた防人仁美は立ち上がり、

「突然の訪問という無礼な振る舞いをして申し訳無く思います」

 謝罪を述べてから深々と頭を垂れた。
 そう思うならば来ないで欲しい。
 防人仁美――一実のお父様の妹だ。絵に描いた様な大和撫子。艶やかな黒髪に優しい黒の双眸。痩身を包み隠すのは藍色の着物だ。祝日でも無いのに着物を着ているのは普通なら変なのだが、この女性が着ると普段から着用しているからか、容姿の成せる技か。まるで違和感が無い。

「お待たせして済みません。学業の最中だったもので」
「お気になさらないでください。非はこちらにあります」
「お気遣いありがとうございます。どうぞ座ってください」
「では、お言葉に甘えて」

 私達が座った時、控えめなノックが二回した。沙耶が来たのだろう。

「入って良いわ」
「失礼します」

 そう言って沙耶は扉を静かに開け、用意したお茶を持ってくる。この香りは緑茶か。何も相手の趣味に合わせなくて良いだろうに。沙耶は急須から二つある湯飲みに緑茶を注ぎ、

「どうぞ。熱いのでお気をつけください」
「ありがとうございます」

 まずは防人仁美の前に置き、

「お嬢様、舌を火傷しない様注意してください」
「忠告ありがとう」

 ついで私の前に置いた。私は一口啜ってから話を始める。

「来訪目的は一実の事ですね?」
「如何にも。そちらの回答は?」
「貴女が来ようとこちらの答えは変わりません」
「そうまでして人殺しを庇いますか」

 嘲笑交じりの声が、私に苛立ちを募らせる。
 私は努めて平静を装い、話を進める。

「当然です。一実はそんな事しません」
「そんな事? 葬式の場で一実が父上にした事をお忘れで?」

 確信を突かれ、私は閉口せざるを得なかった。
 一実の両親が執り行われた場所で、一実は防人一斉が吐いた心無い一言を聞いて、防人一斉を殺そうとした。お父様が取り押さえたから未遂で終わったものの、お父様が止めていなかったら、防人一斉はあの場で殺されていた。お父様が動き、兵法家な防人一斉が回避行動を行った事がそれを物語っている。

「――と、そうでした。その事に関しても聞きたい事があったのです」
「と申しますと?」
「そちらがあの一件を隠匿する理由です。一実に平穏な暮らしを送らせるため、と解釈していましたが、よくよく考えれば隠匿する理由には少し弱い。何かあるのでしょう? 隠匿しなければいけなかった何かが」

 ここは流石とか、凄いですね、と褒めるべき場所だろう。
 しかし、この人は驚かなくて当然だ。
 何故なら、この人は一実が犯人じゃない事を知っているはずだから。

「――一実もそうですが、貴女も嘘をつくのが下手ですね」
「……人の事を言えた義理ではありませんが、礼儀知らずですね」

 静かに言って、防人仁美はお茶を一口啜った。
 それから、やはり静かな口調で口を開く。

「で――私がどんな嘘を?」
「貴女が真犯人を知っている、という事です」
「何を今更。あの事件の犯人は一実でしょう?」

 自分から口を割るつもりはどうやら無いらしい。
 仕方ない。それなら、こっちはカードを切るだけだ。

「その理由をこれからお話します」

 私はお茶で喉を湿らせ、それから話し始めた。

「結論から言います。あれだけ明確な証拠がありながら、一実が犯人ではない、と私達が言い、関係各位を黙らせた本当の理由は、防人一斉氏を殺したのは、一実ではなく、一実のクローンだからです。これならば、あらゆる遺伝情報の合致という点をクリアする事が可能です」
「随分突飛な事を言い出しましたね」

 その反応に、私は苦笑交じりに返答した。

「悪霊や怨霊、妖怪よりはずっと現実味がある話だと思います。それともそういう物を古来より相手にして来た家系の一つである人達には、こういった科学的な方面に関する方が非現実的ですか?」

 私の言葉に、防人仁美は露骨に不機嫌な顔になった。
 邪な存在の退治――それは防人家が古来より受け継いで来た務めだ。その中でも防人家は原点とされている。その証拠が『防人』という名だ。名は体を現す――防人家は昔から時には公に、時には極秘裏に人間を守護して来たのである。
 ため息一つして、防人仁美は不機嫌さを隠さずに口を開いた。

「バカにしないでください。世間一般程度には知り得ています。私が言っているのは現在の科学力でそれが可能なのか、という事です」
「然るべき資金と人材と場所が揃えられれば可能です」
「それでクローン説が浮上したわけですか」

 静かに言い、防人仁美は粗茶を啜った。

「――ですが、それでも完全に否定出来たわけではありませんよ?」
「出来ます。証拠は出揃っていますから」

 私は咳払い一つして、証明を始める

「まず現場に争った形跡がある事。現場には一斉氏が愛用する刀傷がありましたから、一斉氏が抵抗した、と言う事を物語っています」
「一実ならもっと上手くやる、と言うつもりですか?」
「はい。葬儀の場において一実の凶行を見たのなら、詳細は不要でしょう?」

 それに、と私は一度区切る。

「現場から検出された毛髪――これが一実の潔白を如実に物語っています」
「何故です?」
「白かったからです。全部が全部。そして何者かによって作り出された一実のクローンは、知る者の間では『白き少女達』と呼ばれ、そう呼ばれているのは全く同じ外見特徴――全身白ずくめ、という奇抜な格好をしているからです」
「……なるほど」

 淡白に言い、防人仁美はお茶を飲んだ。それで湯飲みは空っぽになる。

「おかわりは?」
「お構いなく」

 沙耶が聞くと、防人仁美は丁重に断り、話を続けた。

「そちらの考えは分かりました。つまり、そちらは私が事件当時、一実のクローンに遭遇し、故に冷静でいられたのだろう――そう考えているのですね?」

 私は首肯した。
 すると、防人仁美は嘲笑交じりに言った。

「本当に無礼な方ですね? 私が黒幕だとでも言いたいのですか?」
「まさか。貴女ならもっと上手くやります。――冷静に狂っている貴女なら」

 その瞬間、防人仁美の雰囲気が変わる。背筋が凍る様な絶対零度の雰囲気へと。

「……私の事を調べたのですね?」

 のっぺりと、それでいて酷く平坦な声色だった。
 それは普通なら恐怖を催す物だったが、これよりも怖い物――防人一斉に対する一実の殺気を知っている身としては、この程度は可愛らしい物である。

「ええ。貴女も一実にとっては害悪ですから」
「つくづく無礼な人ですね。天道家の行く末が危ぶまれます」
「心配には感謝します。ですが、ご安心ください。上手く立ち回って見せます。頭が変わっただけで崩れたのでは、お父様に顔向け出来ませんから。それと安心して頂く事がもう一つ、貴女の返答がどうだろうと、こちらは攻勢に出るつもりはありません。なので、暗殺なり、襲撃なり好きにやってください」
「余裕ですね」
「当然です。私を誰だとお思いで?」
「寝首をかかれても知りませんよ?」
「返り討ちにして差し上げます。――それより、こちらはそちらの質問に答えましたので、そちらもこちらの質問に答えてはくれないでしょうか?」

 返答は無く、自然と沈黙が降りた。
 しばらく待ってみたが、口を開く素振りは無い。
 過去を調べ上げた事が勘に触ってしまったのだろう。思いっきりプライバシーの侵害であるし、過去とは基本的に知られたくないものだが、防人仁美の場合は特に他者には知られたくないだろう。
 さらに待ってみたが、それでも防人仁美に変化は無い。
 待つのに飽いた私は、扉を示し、退場を願う事にした。

「用件が以上ならばお帰り願えますか? こちらも暇では無いので」
「――その前に一つ伺ってもよろしいですか?」

 ようやく口を開いたかと思えば、私が求めている言葉ではなかった。
 こちらばかり下手に出ている事が癪だが、これを最後だと思い、私は先を促す。

「どうぞ」
「貴女達は一実をどうしてそこまで?」

 何かと思えばそんな事か。

「家族を助けるのに特別な理由が要りますか?」
「……そうですか」

 反応はそれだけだった。防人仁美は静かに立ち上がり、一礼した。

「急な訪問に対し、丁重な扱い痛み入ります」

 そうして扉に向かって歩き出していく。

「――私からも一つだけ良いかしら?」

 その背中を私は呼び止めた。言われっ放しで帰らせるのは何か癪に障る。

「何でしょう?」

 防人仁美は、足こそ止めたが振り返らずに言った。
 そんな彼女に私はこう言ってやった。

「――貴女は幸せな部類ですよ。少なくとも一実よりずっと」
「小娘が知った風な口を」

 間髪入れずに鬼気迫る返答が返って来た。

「貴女に私の何が分かると言うのです?」
「一実よりマシな人生を送っている事は分かります」
「主観全開な発言ですね」
「贔屓しているつもりはありません」
「とてもそうは思えません」

 素気無く言い、防人仁美は再び歩き出した。
 そのまま出て行くのかと思ったが、扉の前で歩行は止まり、口を開いた。

「と、もう一つだけありました。夜の外出は気をつける事です」

 私は内心のみで呆れた。
 安い挑発だ。よほど先ほどの言葉が気に入らなかったのだろう。
 それにしてもどういうつもりなのか。私がその程度の挑発で揺さぶられる様な弱い人間でない事くらい、防人仁美でも分かっているだろうに。
 まあ良い。さっさとお帰り願うため、ここは素直に受け取るとしよう。

「忠言感謝します」
「では、これにて」

 防人仁美はまた一礼し、静かな足取りで部屋から出て行く。


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