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自作小説お披露目会場コミュのブレイブハーツ 7−1〜知っていた少女〜

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「――そう、全部、全部、あたしが望んだ事なの」
 あたしが語り始めた。培養器の中で話しているにも関わらず、その声は目の前で直に話をされている様に不気味なくらい綺麗に聞こえた。
「自分を偽り続けて慣れちゃった? 虚言を吐き続けている内に本当の気持ちなんて忘れちゃった? ……ああ、言っておくけど、あたしはアイン達と違って洗脳されているわけでも、暗示をかけられているわけでもないよ。いや、初めメタトロンはそうしようと思ったけど、あたしの才能はそういう風な逃走すら許さなかった。だから、これは紛れも無い本心だよ」
 あたしは黙って聞く。
「分かっているよね、あたし? 一人でいる時、この世の理不尽を嘆いて真っ白な布団を涙で濡らしたのは何処の誰? 両親の顔色を窺って、嫌われない様に、見捨てられない様に良い子ちゃんを演じていたのは何処の誰? 自分の不運さ加減から神様を呪ったのは何処の誰? 助かった事を喜ばず、それどころか体の良い嘘で死に逃れようとしたのは何処の誰? 何かあった時にリハビリという名目でパパには武術を、ママには情報処理の教えてもらおうと思ったのは何処の誰? そんなのは体の良い言い訳でその実力と技で全てを捻じ伏せるために色々覚えようとしたのは何処のだれ? こんな危ない事を考えている事が明るみになると大変だからと隠そうとしたのは何処の誰? こんなに危険なのは何処の誰?」
 そこで、培養器の中のあたしは黙り、一拍置いてからまた続けた。
「――分かっているよね? それは全部あたしだよ。その願いをメタトロンは聞いてくれたの。全部……全部全部全部! あたしが望んだ事だったんだよ! あたしってば酷いよね? 最低だよね!? 良い、あたし? あたしが望まなければね、パパとママは死ぬ事なんて無かったの! あたしがこんなに醜くなかったら! あたしがもっと強かったら! パパとママは死ぬ事なんて無かったし、今頃は家族三人仲良くやれていたし、アイン達だって生まれなかったし、メタトロンだって行動を起さなかった!」
「――だから、世界を再構成するってわけ?」
「そーだよ。そうすれば、全て無かった事になるからね!」
 培養器の中のあたしが言っている事は全て事実だ。あたしはそれだけ醜い人間だ。他者を慮ったのも、他者に優しいのも、他者に献身的なのも皆々、嫌われたく無いから、見捨てられたく無いから、独りぼっちは嫌だから。
 それが、あたしの、持たされたあたしの処世術。
 独りは嫌だ。でも、独りじゃないといけない。それを両立するため、あたしは『良い子』という仮面を自分の能力を自覚した時から延々被り続ける、と自分自身に誓った。それは辛かったけど、自分のためだから耐えられた。
 でも、逃げたいと、終わりたいと――そういう気持ちは確かにあった。
 それが全ての始まり。
 だからこそ、こんな胸糞悪い展開になったのだろう。
 あたしが望んでしまったから、こんな悲惨な事になったのだろう。
 それは、堪らなく苦しい。
「なるほど。結局皆々自業自得ってわけか……」
 それは、とても苦しいけれど――。
「――ご高説どうも、心臓だけが本物のあたし」
 それが、何だと言うのだ。
 あたしはここへ、落とし前を付けにさせに来たのだ。
 相手が誰だろうと気にせず、構わず、絶対に付けさせてやると。
 それが例えあたしだろうと、いやあたしだからこそ尚更許せない。
「何を……言って……」
 動揺した声だった。当然だ。メタトロンは『切り札』と言った。自分自身の説得ならば、体だけが本物のあたしを篭絡出来ると思ったのだろう。確かにこれはきつい。白状すれば、心は揺らいだ。全てを無に帰す――それは魅力的である。
 だけれども――、
「あたしを見くびらないで。下衆なあたしでも、そういう汚いところも含めて友達に――好きになってくれた人を裏切らないくらいの自尊心は持っているよ」
 そんな事をすれば、こんなあたしへと向けられた、こんなあたしに向けてくれた知美の思いもまた水泡を化してしまう。ただでさえ、あたしのせいで傷ついてくれて、あたしの目の前で傷つきそうになってくれているのに、それを全て無かった事にするなんて世界中から許され様と、神様が許してくれたとしても、あたし自身がその行為を許さない。そんな事をするくらいなら、天使王やあたし自身に喧嘩を売る方が絶対的に気が楽だし、完璧に建設的で健全だ。
 あたしは拘束を解除する。解読や解析なんて不要。この程度なら力技でどうとでもなるし、そんな事をしなくてもあたしには持たされた力がある。
 そうして、若干の驚きを見せるメタトロンに銃を向ける。
「交渉決裂だよ、メタトロン」
「……体だけが本物のあたし、自分が何をやっているのか分かっているの?」
「見て分からない、心臓だけが本物のあたし?」
「分かるから言っているんだよ! 何で? 何で分からないの!? 何でそんな事をするの!? 全てを無に帰す事が出来るんだよ!? それなのに――」
 その発言をあたしは地面に向けて銃を放ち、
「御託も大概にしないとその脳天に鉛をぶち込むよ?」
 ドスを利かせた言葉と併用して黙らせ、メタトロンを見た。
「あたし達一家が迷惑かけたね。その一点だけは謝っておくよ」
 そう言ったら、メタトロンは感嘆を漏らした。
「――自力で辿り着いていたか。あれだけの情報から良く到達出来たものだ」
「分かるよ。娘のために酷い親を演じてくれた人達だよ? それがあんな不自然な死に方したら、ああこれはひょっとして、と思うのは当然でしょ?」
 メタトロンが言っている事は、あたしの両親の死に関する事だ。あたしの両親は、原因不明の機能障害を心臓に抱えていたあたしを生かすために、自分達も心臓病だ、という演技をして、憎ませる事によってあたしを生き長らえさせた。そんな事を平気でやれる人達で、元々不自然な状況だったし、あたしの親は普通じゃない――この三つの要素があれば、あの不自然な死に方もあたしのためだったのではないか、と思えるのは容易い。
 だからこそ、心臓だけが本物のあたしは、リセットしようとした。
 だからこそ、そういう方法があると知らなかったあたしは、生き続けた。
 ――全ては、そこまでしてあたしを生かそうとしてくれた両親のために。
「それを……それを分かっているならどうして!? どうして分かってくれないの!? 何で止めるの!? 何で、何で!? 何でよ!?」
「その理由はさっき言ったよ。付け加えるなら、そういう安易な方法があるという事をあたしが知らなかったから。いや、そうなったら良いかな、とは思ったけど、そんな事するなら直球にパパとママを蘇らせてって祈った方が早いからね。後はどんな事が起こっても、何があっても、絶対に帰る――そういう契約をしているからかな」
「そんな……たった、それだけで……」
「それだけとは失礼だね。支えなんて一つあれば、歩けるでしょうが。実際問題、形は違うし、進行的であれ、停滞的であれ、あたしも貴女も前に進んでいるし」
 心臓だけが本物のあたしは、それきり沈黙を守った。不承不承ではあるだろうけど、納得はしてくれただろう。あたしなら納得するし。
「で――結局のところ、貴方の目的って何なの?」
 あたしはメタトロンに話を振った。
「それはもう明らかになっただろう?」
「してないよ。どうにも腑に落ちない点がある。原因不明の心臓の機能障害を取り除き、尚且つ心臓と体二つに分かれたあたしをどっちも助けるため――それが貴方の介入理由なら、貴方はそこにいない。誰よりも天使である貴方なら、貴方の役目はパパとママにその方法を教える時点で終わっている。『死んだ』という事が必要だったとしても、そんなのどうとでも誤魔化せる。それに幾ら天道家に邪魔されたからって、あたしの居場所なんて把握しているはず。それにも関わらず、貴方はアインとあたしの接触を今日まで避けた。そこが分からない」
「そこまで承知しているという事は、自分が抱えていた心臓の機能障害に関しても大凡の見当はついているのか?」
「まあね。例によって例の如く、あたしが持ち過ぎたから。それによって破邪としての性質、或いは人類の守護者としての性質、それらには意思があるのか、それがその能力は凄まじいが危険である、という自己矛盾を引き起こしてしまった――そんなところでしょ?」
「……そうだよ。だから、あたし達は生死の境界を何度も彷徨った……」
 心臓だけが本物のあたしが、ボソリと言った。知っている事に別に驚きは無い。心臓だけが本物のあたしは、あたしが必至に考えている一方で、メタトロンと一緒にいたのだ。パパとママの死に関する事を知っていたのなら、こちらに関しても聞かされているのは当然。そんな真実でもなければ、あそこまで打ちのめされて、リセットなんて安易な方法を選び取ろうとは思わなかったはずだから。
「そっちは楽で良いね。こっちは自分で考えたってのに」
「そっちの方がマシだよ。こっちは受け入れなきゃいけなかったんだし」
「そういう考え方もあるね。……まあそれはそれとして――」
 あたしはメタトロンに視線を移し、
「そういうわけで、貴方があたし達一家のために色々してくれたのは分かるし、それには感謝も謝罪もしているけど、あたしは貴方がこういう事をしたのにはもっと別――貴方の個人的な問題があり、それが偶々あたし達一家の望みと利害が一致したから都合が良い――そう思っての行動なのかな、と思っている」
「……大した発想力だ。何故そう思った?」
「動く理由には弱いからだよ」
「自分が望んだ事だと言うのにバッサリだな」
「今は貴方の事だからね。それとあたしが貴方を天使の王様だと思っているからかな。まあ一番好きなのはミカエルなんだけどね」
「さり気無く酷いな。後、その評価は個人的には嬉しいが、公言は控えた方が良い。一般的に天使の中の天使と言えば、ミカエルだからな」
「安心して。勝手に思っている事を公言する趣味は無いから」
「そうか。ところで――我が汝のクローンを作った事は分かっているのか?」
「自分で保険とか言っていなかったっけ?」
「その保険の意味を聞いている」
「ああ、それ? だから保険でしょ? あたしが篭絡出来なかった時の。事情はどうあれ、天使の中の天使である貴方なら、神様に不満を持つのは当然の事だと思う。だから、世界を再構成する、という考えや行動も嘘ではないと思う。そのために、あれこれやったのは分かる。だからこそ、腑に落ちない。動く理由が弱い。確実性を求めた結果かもしれないけど、誰だって動く時は自分に何某かの利益を得られる時。少なくとも、あたしはそう思う。だから、貴方にもそういうのがあるんじゃないかな、と思って、それを知りたいな、と思って。まあ、あればの話だけどね」
「……そこまで読み取るとは流石だ。しかし、知ってどうする?」
「深い意味は無いよ。単に落とし前をつけさせる事に繋がるかな、と思って」
「なるほど。――何、大した事ではない。単に死にたいからだ」
「命を粗末にする物じゃないよ」
「分かっている。が、二律背反を抱えた天使が生き続けるのはまずいだろう?」
「二律背反――なるほど、そういう理屈か」
 何時の頃からかは分からない。分からないけど、メタトロンはそれを抱えていたのだろう。天使を守らなければいけない自分と、人間を支えなければいけない自分。どちらかを立てれば、どちらかが立たず。その両立を、メタトロンは不可能だ、と結論付けたのだろう。誰よりも天使だった故に、自分が自分で許せなかったのだろう。
 そう考えれば、全ての行動に辻褄が合う。あたし達一家を利用した事、あたしのクローンを作った事、アイン達をあたしに出会わせなかった事――それら全ては、あたしに自分を殺させるため。
「メタトロン……」
 そう言った、心臓だけが本物のあたしの声は、物悲しげだった。
 当然だ。あたしとは違い、心臓だけが本物のあたしには、メタトロンしかいなかった。共犯者の真意を気付けなかったのは、共犯者として悲しいのだろう。その痛みを分かってあげられるのは、自分だけだろうから。
「そう暗い顔をするな。まだ終わったわけではないのだから」
 そう言って、メタトロンはようやく重い腰をあげた。と同時に、まとう雰囲気にも一瞬にして変化する。吹き付けてくるそれは肌を裂かれる様に鋭い。
「我は約束を違えるほど薄情ではないし、我としてはどちらに転んでも得しかない。ならば、悪役は悪役らしく、最後まで悪役を演じさせてもらおう」
 思考を臨戦態勢に切り替えながら、あたしは言った。
「そうしてくれると殴り甲斐があるから助かるわ」
「余裕だな。負ければ我らの操り人形と化すというのに」
「平気よ。勝てば良いだけの話だもん」
「出来るか? 能力の真髄を自覚していない今の汝に?」
「やるよ。ただでさえ下衆なのにこれ以上堕ちる気は無いからね」
「なら、それを力で捻じ伏せさせてもらおう」
 そう言った後、目が眩む白い光が突如として瞬いた。
 光の爆発は一瞬で終わった。それに伴い、変化も一瞬で終わっていた。
 装いは一変していた。黒かった短髪は金へ、黒の双眸は澄み切った青へ、スーツの上に白衣を着ていた服装は白い法衣へ、極めつけは背にある三対計六枚からなる白き光の翼。あの姿は恐らく、メタトロンが自分を表層化させたのだろう。その有様は、清々しいまでに天使だった。
「……人の親の体で随分好き勝手してくれているね?」
「本人の了解は取ってある。それに完熟こそしていないものの、ある程度成熟している汝を相手にするには真面目にやらないと厳しい物があるからな。……汝も真面目に来い。偶には全力を出さないと出し方を忘れるぞ?」
「言われなくてもそうするよ。――七曜拘束全解除、干渉緩和結界展開!」
 あたしも自分に施されている枷を外す。この身に与えられた、持たされ過ぎた全てがあたしを傷つけない様に、両親が施してくれた枷を外す。瞬間、内側から溢れ出して来るのは全能性。どんな事でも可能にしてしまえそうな、傍目には理不尽としか言えない無形の力があたしを満たしていく。
「……これが聖魔女の心臓を与えられ、『防人』が到達した完了形の本領か。かの聖女を含め、数多英雄と呼ばれる者達が現れる度に思った事だが、つくづく人間が持つ可能性には驚かされる。人の身でそこまで到達出来るのだからな」
 メタトロンはそう言って、培養器の方を向き、
「合図を頼む」
 それだけ言って、戦闘態勢に入った。あたしもそれに習った。
 一拍置き、心臓だけが本物のあたしは高らかに宣言した。
「始めっ!!」
 動くのは全くの同時だった。

次→http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=58646255&comm_id=4595819

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