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自作小説お披露目会場コミュのブレイブハーツ 3−2〜お嬢様の奮闘は親友の我が侭の終わり〜

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 防人仁美が出て行って一分。私は警戒心を解くために息を思いっきり吐いた。
「お疲れ様です、お嬢様」
「沙耶、今何時?」
「二時半を回っております」
「嘘、本当?」
「本当です。しかし、ご安心を。鶴来が上手くやってくれた様です」
「でも、一実を待たせてしまったわね」
「ですが、おやつ時です。そう考えればタイミング的にはよろしいかと」
「正確にはそう思うしか無いけどね」
 答えながら背筋を伸ばした。外面用の演技はやはり節々が凝る。凝り固まった背筋を伸ばし、私は席を立ち、歩き出しながら沙耶に話題を振った。
「今日の一実はどんな服装かしらね?」
「何でもよろしいでしょう。一実様は何でも似合いますから」
「男装からドレス、果てはゴシックロリータまで何でも似合うものね」
「全くです。……それなのに一実様のファッションセンスは絶望的ですからね」
「仕方ないわよ。一実は服装に拘らない生活を送っていたし、一期さんや真実さんも服装には気を使わない人だったし、お父様とお母様も似合っていたから別に注意しなかったしね。素体は良いから何着ても映えるのに」
「本当勿体無いですよね。……と、噂をすれば影ですね」
「あ、知美。お客さんの対応お疲れ様。お嬢様も楽じゃないね」
 沙耶がそう言い、一実の労いが聞こえた。本当に鶴来は上手い事やった様だ。
「今日はゴスロリにしてみました。ちなみに私の気分です!」
 ついで鶴来の声が聞こえたが、一実に見惚れていて反応する事が出来なかった。黒を基調としたゴシックロリータ、頭には白のヘッドドレス。いつもポニーテールにしている黒髪は解かれ、ストレートのセミロングになっている。
「――沙耶、カメラ」
「どうぞ」
「まだ撮るの!?」
「「まだ?」」
 私達が首を傾げると、
「あ、私が撮りました。反則的な可愛さのあまりつい」
「ナイスよ、鶴来。もちろん色々なシチュエーションで撮ったわよね?」
「その返答はどうなの、知美!?」
「一実が可愛過ぎるのがいけないわ。可愛いのは罪とはこの事ね」
「そうでございますね」
「以下同文です」
「満場一致!? い、異議を申し立てるよ!」
「却下。で、鶴来、どういうシチュエーション? 拘束プレイは?」
「あれって知美の趣味だったの!?」
「後、首輪は? 猫耳でも可ですよ」
「そっちは沙耶さんの趣味!?」
「ナイスよ鶴来! その働きに免じて減俸は無しにするわ!」
「ありがとうございます! 一実さん、やりましたよ!」
「あたし利用されていた!? 鶴来さん、酷いです! 下心ありきなんて!」
「良いじゃないですか。お嬢様は喜んでいますよ?」
「まあそれはそれで嬉しいけど……」
 そう言って、一実は照れ臭そうに頬をポリポリと掻いた。
「ああもう、だから可愛過ぎだって……」
「……知美?」
 一実の声でハッとする。何やっているんだ私!
 すると、そこへ沙耶がボソリと呟いた。
「お嬢様、本音が駄々漏れです」
「ち、違うわ! いや違わないけど!」
「あ、違わないんだ」
「ええ、一実は可愛いもの」
「同感です、お嬢様」
「お姉ちゃんに同じく。――でも、本当に可愛いですよね。何と言うかここまで似合っているとメイド服着ていても負けた気がしますし、こんなに可愛いからお嬢様も欲情しちゃって、ついうっかり本音が出るのも無理無いです」
「皆してもう……。褒めても何も出ませんよ?」
「平気よ。もうもらったわ。後鶴来、やっぱ一ヶ月減俸」
「はうわっ!? な、何故です、お嬢様!?」
「主人に対して『欲情した』など言うメイドが何処にいますか」
「そこにいるわ」「ここにいますよ」
 沙耶の発言に対し、私と一実が鶴来を指差しながら答え、
「二人して酷いですよー」
 鶴来ががっくりとうなだれた。
 と、そこで誰かの腹の虫が鳴った。ちなみに私じゃない。
「あはは、今のあたし」
「一実様の可愛さのあまり職務を忘れていました。鶴来、私はお嬢様のお召し物を変えてくるので貴女はお茶と軽食の用意をお願い」
「了解しましたー」
 意気揚々と言って、鶴来はそそくさと厨房の方へと向かって行った。身のこなしは軽く、ホップステップジャンプ、といった感じだ。鶴来のああいうところは好感が持てるものの、メイドとしては如何な物だろうか。まあもっとも沙耶も鶴来もああいう事のやり場は心得ているから何も問題は無いけど。
「一実様はどうなさいます?」
 鶴来が立ち去り、沙耶は一実に話を振った。
「うーん、そうですね……」
 一実の答えを待つ傍ら、私は索敵を行った。一実も多分同じ事を行っているだろう。一実が考えている時は真面目に考え事をしている時もあるが、大体はそういう振りして索敵を行っている事がほとんどだ。一実が相手をしなくてはいけない連中はそれほど多い。常に緊張感を保っていなければならないほどに。
 周囲に不穏な気配は無かった。少なくとも私の分かる範囲では。
 さて、私よりも広く明確に分かる一実はどうだろうか。
「――一人で待っているのも暇なので知美が良いなら一緒に行きます」
「との事です。お嬢様、如何なさいますか?」
「愚問よ」
 私はそう言って自室へ歩き出した。遅れて二人がついて来る。
 会話もそこそこに進んでいると、
「と、そういえば、報告がありました」
 沙耶が急にそんな事を言って来た。
「何?」
「今日、旦那様のご友人がお嬢様に会うために来訪するそうです」
「……またお父様の娘自慢か。その人も大変ね」
 私はうんざりした。お父様の子煩悩っぷりはもう願い下げしたくなる。付き合わされる私とその人の身にもなって欲しいものだ。
「そういう知美もね。ところで沙耶さん、今回は誰です?」
「フリーランスのエージェント、との事です」
「はへー、そんな人、実際にいるんだね」
「霊感所持で電子世界の女神と言われている少女がどの口で言うのよ?」
「フリーランスのエージェントも似た様な物だと思うけど?」
「五十歩百歩といったところですよ」
「……探せばいるものなのね」
「だね。世界は広い」
 話が一段落したところで私の部屋に到着した。私と沙耶はクローゼットへ、
「あ、知美、ちょっとパソコン使っても良い?」
 一実はそんな事を言いながら私のパソコンへと向かった。
「何処かにハッキングしなければ良いわ」
 私は沙耶に着替えさせてもらいながら答えた。個人的には自分で一人で着替えたいのだが『メイドから仕事を奪うな。それはメイドに対する侮辱行為だ』とお父様から言われて以来、着替えさせてもらっている。
「人聞き悪いなー。掲示板覗くだけでそんな事しないって」
「学校で授業を受ける必要があるかどうかを証明する――ただそれだけのためにNASAのサーバーに侵入し、バレずに帰って来たのは何処の誰?」
「あれはそういう試験だったから仕方ないじゃん」
「試験で侵入されるNASAの身になりなさい。あの後、お父様が関係者から相談を受けて色々面倒な事になったのよ?」
「知っているよ。あの後、防護プログラム組まされたし」
「自業自得ね」
「お嬢様、何をお召しになります?」
 会話の合間を縫い、沙耶が聞いて来た。
「沙耶さん、あたしみたいなのでお願いします」
「沙耶、ジャケットとワンピースでお願い。色はどちらも黒ね」
 一実には悪いが私にゴスロリは無理だ。というか、我が家にある一実が着ている様な趣味全開な服装は全て一実が切られるサイズしかないから着るかどうか以前にそもそも物理的に無理だったりする。ちなみに私や近衛姉妹の趣味である。
「色を合わせる辺りは流石の配慮です」
 言いつつ、沙耶は私が言ったワンピースとジャケットを取り出した。
「せめてそれくらいはしないとね」
「色だけ合わせられてもなー」
「色だけで我慢して」
「了解。あ、沙耶さん、そろそろ終わります?」
「今終わったわ」
 私が答えつつ、あたしはジャケットの中に入った髪を外に出した。
「オッケー。シャットダウン、シャットダウンっと」
 一実はパソコンに指示を与え、私の方へと歩み寄って来る。
 一実の合流を待って、私達は私の部屋を出た。
 と、そこで微弱な振動音が聞こえた。私達は一斉に自分の携帯を見た。
「鶴来? 何かあったのでしょうか……」
 音の発信源は沙耶の携帯だった。沙耶は私に目礼してから携帯を耳に当てた。
「もしもし。――ああ、なるほど。了解しました。では後ほど」
 短いやり取りを終え、沙耶はポケットに携帯を仕舞う。
 それが終わってから私は尋ねた。
「どうしたの?」
「今日は天気が良いので屋上で行う事にしようと思い立ったので、屋上に準備を整えて置くので準備が出来次第来てください、という連絡でした」
「屋上、か……。中々良い案ね」
 言いつつ、私は歩き出した。
「名誉挽回のために必死なだけじゃない?」
 歩きながら一実が言ってくる。さっきの事を根に持っているのかもしれない。
「汚名返上とも言えるわね。まあこの程度じゃ無効にはならないけど」
「先ほどから気になっていたのですが、お嬢様、またですか?」
 今度は沙耶が心配半分、呆れ半分といった風情で聞いて来た。
「ええ、またよ。内容は伏せるけど鶴来は一言多いのが玉に瑕なのよね」
「伏せるほどの内容だったっけ?」
「お嬢様の主観ですから。それにしてもまたですか……」
 はあ、と沙耶はため息をつく。姉として気苦労が絶えないのだろう。
「沙耶、鶴来のあれはどうにもならないの?」
「なりませんね。思えば、私が最初に当たった障害という名の壁がそれでした」
「あれって筋金入りなんですね」
「的確なのが厄介よね」
「気兼ね無い、という美点ではありますけどね」
「あー、長所って時に短所ですからね。あたしみたいに」
「自覚合ったのね?」「自覚が合ったのですね?」
 一実の呟きに私達は同時に突っ込んだ。一実は肩を竦めて、
「そりゃありますよ」
「分かっているなら改善なさいよ」
「じゃあ知美はその心配性を直せと言われたら直せる?」
「私のこれは貴女が少しでも自分を大切にしてくれたら直るわよ」
「あたし、十分自分を大切にしているよ? あたしなりにだけどね」
「そうだったの? 初耳だわ」
「そりゃそうだよ。言ったのこれが初めてだし」
「初耳なわけですね」
「そうね。傍目からはとてもそうは見えないけど。ところで、どうなの?」
「何――ああ、あたしが改善したらどうのって話?」
 私は首肯する。答えは分かっていたけど、聞いてみたくなった。
「……それじゃ努力してみようかな。心配かけてばっかりもあれだし」
「えっ?」
 予想していた答えと違ったので私は素で驚いてしまった。
 だってあの一実が、他者を慮ってばかりの一実が自分を省みたのだから。
「えって、知美ってば酷い反応するね。まあ自業自得だけどさ」
 一実はおかしそうに笑った。その笑顔に私はまた驚いた。
 だってその笑顔は、気丈さを隠す演技の笑顔ではなかったから。
 それが意味する物は――たった一つしかない。
「……聞いたのね?」
 この短期間で心境の変化が起こるとしたら、防人仁美との対談を聞かれたから、という可能性以外に有り得ない。少なくとも、それくらいしか思いつかない。
「知的好奇心は身を滅ぼすって本当だったよ」
 返答は肯定だった。
 それで私は防人仁美の安い挑発の真意を悟った。あれは私ではなく、扉の外、或いは何処かで私達の話を盗み聞きしていた一実に宛てた物だったのだろう。そう考えれば、あの行動の説明はつく。防人仁美の目的は、復讐対象である防人一斉が自分以外に殺された事で行き場を失った怒りを晴らす事。そのために防人仁美は一実を犯人である様に捜査の方向性を操作し、それが駄目になったので自分の手で一実を殺す事で目的を成就させるつもりなのだろう。
 これは由々しき事態だが――、
「……どうして聞いちゃったのよ」
 そんな事より、私にとっては私達がその実一実が巻き込むまいとしてくれているのに、首を突っ込んでいた事が露呈してしまった、という事の方が重大だ。
「あたしにも色々と都合があるからかな」
 そう言った一実は色んな感情が混ざった複雑な表情をしていた。
「どんな都合よ」
「ちゃんと話すから安心して。でもその前に――」
 一実はそこで言葉を切ると、小走りして階段を駆け上がって私達の前に立ち、
「――知美、あたしの我が侭に付き合ってくれてありがとね。それからもしもよろしければ、今後ともあたしの我が侭に付き合ってください」
 そう言って、教本に出来そうな綺麗なお辞儀をした。
 こんな時でも一実はまた相手優先だった。
 ずっとそうだった。防人一実という少女は知る前から、ずっとそうやって生きて来た。あまりにも多くを持たされたがために。それ故に何も求められないと、求めてはいけないと自覚していたが故に。
 一実の両手は今も昔も重た過ぎる荷物を抱えるために塞がっている。それは下ろせる荷物ではあるが、それは誰かが困っていたり、悲しんでいたりする時だけだ。それが終われば、重い荷物を抱え直し、延々と先が見えない道をただひたすら歩き続ける。それだけが持ち過ぎた一実に許された唯一の自由だった。
 それを私は寂しいと、辛そうと、大変そうと理解してからは思う様になった。
 初めはその高潔な在り方に憧れただけだったが、一実が孤高である事を理解出来る様になり、自覚した今の私は完全に完璧に防人一実という少女に惚れているし、世界中の誰よりも愛していると一実の前以外でなら言える。
 だから、私は勝手に首を突っ込み、勝手に荷物を背負うと決めた。
 それは私の嘘が、演技が明るみになってしまったとしても変わらない。遅かれ早かれこうなる事は分かっていた。それが今だったというだけだ。
 それに何より、一実は感謝してくれた。
 そればかりか、私の行動を許してくれた。
 だったら、私が返すべき言葉はこれ以外に無い。
「頼まれなくてもそのつもりよ。これまでと何も変わらずにね」
「そう言ってくれると思ったよ、お節介」
 顔を上げた一実は悪戯っぽく笑いながら言った。
「そう言うと思ったわよ、お人好し」
「あ、酷い」
「自分を棚に上げてどの口が言うのよ」
「どっちもどっちですね」
 静観していた沙耶がため息交じりに言った。
 その時、よりにもよってこのタイミングで私のお腹は鳴った。
「お嬢様の腹の虫は空気を読みませんね」
「いやー、逆に読んだんじゃないですかね?」
 赤面する私を余所に、沙耶と一実はそんな事を言い合った。
「ふざけた事言って無いでさっさと行くわよ」
 どうにか繕って私は二人にそう言い、足早に屋上を目指した。
「お待ちくださいませ、お嬢様」
「待ってよ、知美―」
 二人の声を無視して私は屋上に通じる扉を開け、
「――鶴来、何故一人で始めているのかしら?」
 四つある椅子の一つに座り、ティーカップから何かを飲んでいる鶴来に言った。
「味見ですよ、お嬢様」
「がっつり飲んでいる様に見えますが?」
 追いついて来た沙耶も私と同じ事を思ったのか、呆れた風情で質問を投じた。
「これが私なりの味見」
「で――本音は?」
 一実がそう聞くと、
「皆さんがあまりにも遅くて暇だったので」
 鶴来はあっさりと暴露した。
「……メイドの品格はどうしました?」
「だってー、連絡してから十分は楽勝で経っているんだよ!?」
「逆ギレは見苦しいので止めなさい。それとお嬢様と一実様の前ですよ」
「……お姉ちゃんだって一実さんの事を『様』付けで呼んでるじゃん」
「『さん』で呼ぶ貴女がおかしいのです。私達とお嬢様、一実様は主従関係なのですよ? いくら主人に求められても『様』で通すのが従者の務めです」
「でもでも、主人の要求を実行するのだって従者の務めだよ? それに主人が嫌がっているのにそれを貫くのは従者としてどうなの?」
「従者は時と場合によっては主人の嫌がる事もしなければならないのです。これはそうですね……親が子供に嫌いな食べ物を食べさせる様にするのと同じです。一実様もいずれは社交の場に顔を出す事になるのですから」
「え、そうなの? 初耳なんですけど」
 意外そうな一実。まあ言うのはこれが初めてだから当然だ。
「その辺もちゃんと話すから、まずは始めましょう」
 私の一言で、お茶会は半ば強引に始まった。

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