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自作小説お披露目会場コミュのソローブレイカー 2−5

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「おや」「なっ……」「うん?」

 その頃、外野環、フォール、ラファエルの三人は感じた気配――結界の発動対して、三者三様の反応を示した。
 真っ先に行動を起こしたのはフォールだった。環に向かって一礼し、現れた時同様、風と共に忽然と姿を消す。
 ついで、行動したのはフォールだった。その即断即決は流石と言ったところだろう。感知したかと思えば即座に意を決し、座っている場所から足を上げた。が、そうしたところで環に首根っこを掴まれる。

「何故止める」

 当然と言えば当然の問い掛けに、

「何故? それを一々口にしなければならないほど貴方は低能ではないはずだ」

 首根っこを掴んだまま、環は素気無く答えた。

「ラファエルさんの言葉を信じるのであれば、夢乃はあの天津総司と接触している。だが、彼是半刻ほど……これだけの時間が経過しているんだ。まして、夢乃は上位の相手に理由も無しに喧嘩を売るほど愚かでもなく、天津総司が『天使』であったとして、ああいうものが展開されてはいるが、これまでに何かが起こった形跡が無い以上、現状の戦闘は何かまでは分からないが、双方合意の上での戦闘行為だろう。故に慌てる必要は恐らく無い」
「恐らく、だろう? 可能性はゼロでは無い」
「確かに。だが、これだけ言っても分からないのか。冷静で理知的だとお見受けするが、中々どうして、貴方は夢乃と似ているね」

 コホン、と環は一度咳払いし、

「では、はっきり言おう。貴方が言ったところで夢乃の負担を増やすだけだ」
「…………」

 フォールは閉口した。分かっているのだろう。自分が行ったところで、力が戻ったところで補助の域を出ない力しか有していない自分が行ったところで、事戦闘に置いては負担しかかけることはできないだろう、と。

「君は夢乃の友人では無いのか?」

 もっともな意見だろう。客観的に見て、この場で真っ先に動くべきは環を置いて他にいない。が、その当人にその気配は微塵も無い。
 当人もそれを付かれることは分かっていたのか、

「友人だからこそ、と言っておこう。友人だからこそ、僕は僕で出来ることをしている。――もう一度だけ言う。行くのなら、終わった後にしろ」
「まるで見えているように言うのだな?」
「僕のこの口調はデフォルト――天然だ。僕は僕なりの推論を口にして、それが毎回、毎回、たまたま、偶然合致するんだ。ちなみに自慢するわけじゃないけど、どうしてか一度も外れたことがない。夢乃も夢乃で色々世界から愛されているようだが、僕も僕で世界から愛されているのかもね」
「夢乃が世界から愛されている?」

 フォールの反応に環はきょとんとし、可笑しそうに笑った。

「穿った見方だと笑うかい? しかし、僕達は初めから人間的観点からすれば『異常』である貴方達とは違い、本来ならば『異常』とは無縁だ。そんな僕達が人間社会の常識的観点からして『異常』と形容できる事象に遭遇する機会は奇跡の具現に等しい。思惑があるかどうかなどは関係無くな。そんな世界に生まれた夢乃は『破邪』という血を受け継ぎ、解離性同一性障害だけでも十分だというのに、それには飽き足らず堕天使に天使、そして天津総司――これだけのことを一身に抱えるんだ。経緯はどうあれ、思惑の有無はさておき、それを『世界から愛されている』といわずして、何をどうそう言う?」
「その割に先ほどは随分と同情的だったと見受けるが」
「愛は盲目――彼女の境遇を僕は確かに羨んでいるけど、冷静に考えれば当然の見解だろう? 彼女一人にここまで謂れの無い宿命を背負わせなくてもいいはずではないのか――夢乃の境遇を知ってしまった僕としてはそう思わずにはいられない。まあでも、本人はそれを良しとしているし、自分の境遇や環境や運命を当然のものだと思い、むしろ何処か楽しんでいる節さえあるから、腹立たしい気持ちはあるが、僕は良しとしているけどな」
「曲りなりにも巻き込んだ私が言えた台詞ではないが、よくもまあ、そこまで平然としていられるな」

 環は肩をすくめてみせる。

「そうは言っても、これは彼女の物語であって、僕の物語ではないからね。自分の物語のことならいざ知らず、他者の物語――それもその物語の主人公が良しとしていることに一々ケチをつけているほど僕は無粋な人間じゃないつもりだ」

 その時、微弱な振動音が不意に上がった。発生源は環だった。

「電話だ。ちょっと出て来る。ああ。行くのは構わないが、行くなら夢乃の迷惑にならないようにしてくれ。僕が怒られるから」

 フォールは怪訝そうに眉根を寄せるが、

「言われるまでもない」

 すぐさまそう言って、新羅家を後にした。
 環は夜の町へと繰り出していくフォールを見送りつつ、携帯を耳に当て、

「――夜はまだまだ終わりそうに無いよ」


 神という存在は居るかもしれない。
 ラファエルはこのようになった状況を――正確にはこのような状況になったきっかけであるとある少女に感謝していた。
 そうなるかもしれない、そんな予感はあった。
 彼は今でこそ敵対しているが、元々フォールと敵対するつもりは無かった。
 刻限が来て、天使として覚醒した彼だが、彼もまた天使でありながら人間である。いやむしろ、天使と人間の割合で言えば人間の方が強い。
 そんな彼がフォールと敵対したことになったのは、彼の力――『風』という属性を有しているがために行える情報収集能力を求められたからだ。
 彼は空気と会話することができ、あらゆる場所に存在し、偏在している空気はあらゆる情報を見て、聞いて、把握している。
 空気が意思を持っているはずは無い――人間的観点から見ればそうなるだろう。
 しかし、それは単に『知性を有していないだろう』という一方的な見解であり、また無形の存在であり、それ以前に人間は空気を『意思ある何か』として認識しておらず『約八割の窒素と約二割の酸素』としか認識していないためで、天使的観点からすれば、空気を初めとし、この世に存在し得る全ては人間と同じように知性を持ち、思考することができ、各々の感覚で周囲を観測することができる。
 人間がそう思えないのは、空気の声が聞こえないのは、単に構造の問題である。例えるなら単三電池で動かす機械を何の細工も施さずに単三電池以外の電池で動かそうとするようなものだ。細工を施したなら、やり方を分かっているならばまだしも、何の細工も然るべきやり方も知らずに単三電池で動くように作られているものを、単四電池で動かすことはできない。
 人間と天使――天使の力を有した子供、或いは天津総司の子供――それを縮めて『天子計画』の産物である人間でありながら天使である子と生物学的に動物界・脊索動物門・脊椎動物亜門・哺乳綱・サル目(霊長目)・真猿亜目・狭鼻下目・ヒト上科・ヒト科・ヒト属・ヒト種である人間との違いはそこにある。
 もっとも、ラファエル自身、それの構造をきちんと理解して行っているわけではない。ないが、トランジスタの構造を知らなくてもラジオが使えるのと同様に、使い方が分かっていれば、行使できるので問題は無い。
 ともあれ、彼はそういう力を持っているがためにここにいることになる。
 ――戦いなど望んでいないというのに。
 天使として覚醒した彼だが、彼は人間との共存を選択したのだ。
 人間に対する遺憾が無いと言えば嘘になるが、結果的に彼の者に敗北した自分達天使は、思惑はどうあれ、全力を尽くした上で敗走した。
 それ即ち、運命が人間の延命を許したということ。
 それが発覚した以上、少なくともラファエルに敵対心は残っていなかった。
 だから、覚醒しても体の所有者、自分と同じ名を持たされた少年に自分のことを説明した上で、深層心理に潜ることを約束し、二度と表には現れないつもりだった。
 ところが、ある時、事件が発生した。
 主人格が恋慕している者がガブリエルによって捕らえられてしまったのだ。
 狙いは情報収集能力。
 完全なる不意打ち。それ故に対抗策もへったくれも無かった。
 要求は単純明快。協力しなければ、この者を殺す。あまりにも単純明快過ぎて、形振り構わずなその態度に怒気よりも敵意よりも殺意よりも呆れた。
 が、それはラファエルの感覚であり、主人格としてはいい迷惑極まりない。
 だから、ラファエルは協力する代わりにその者に手を出さないことを約束させて現在に至る。約束が、要求が通ったのは、向こうは彼の者――フォールを探すために自分の力が必要不可欠であったためだ。
 故に、ラファエルはずっと機会を窺っていた。
 謂れ無き面倒に巻き込んでしまった責任を取る為に、主人格と主人格と恋仲である少女を救うために。
 そして、今。
 その機会は一人の少女によってもたらされた。

「ら、ラファエル……」
「随分待たせちまったな、アウラ」

 ガブリエルによって作り出された牢獄から救い出し、夢を見ているように放心している少女にラファエルは、人格統合を果たしたラファエルは手を差し伸べ、恐る恐る掴まったその手を一気に引き、彼女を抱き寄せる。
 アウラと呼ばれた少女は、それでも茫然自失となっていたが、茶色の双眸から涙が流れ始めたことにより、現実であると確信したのか、

「ラファエル……ラファエル……!」

 そう何度も、何度も言いながら、ぬくもりを確かめるようにラファエルに擦り寄ってくる。薄汚れてしまった茶髪の香りが鼻孔をくすぐったが、ラファエルはそれを微笑で体感しつつ、

「おいおい。泣くにはちと早いぜ?」
「どういうつもり?」
「――そんなの見れば一目瞭然だろう?」

 ガブリエルの言葉にラファエルは素気無く返す。

「ラファエル……」

 アウラの心配げな声にラファエルは視線だけで『問題ない』と告げ、

「『こう』なってからは短い付き合いだが、俺はここらで退場させてもらうぜ」

 はっきりと明言し、そして堂々と平然としているウリエルと、片や忌々しげに睨んでくるガブリエルに背を向ける。
 ラファエルが堂々としているのは、二人が手出しすることができないことを分かっているためである。天津総司の知らせによって結界を展開している二人は、そういうことをしているために水の牢獄に囚われていた少女を救い出し、堂々と去り行く彼の行動を止める余裕は無い。

「ウリエル、五秒――いえ、三秒でいいから時間を頂戴」
「無理を言うな。諦めろ、ガブリエル。因果応報だ」
「因果応報? 私は私の最善を尽くしただけよ?」
「確かにそうだろう。が、お前の先行がもたらした結果だ。お前があの少女を巻き込んだ結果だ。それにラファエルがきちんと言っていただろう? 『嫌な風』と。その助言を無視したのは――さて、何処の誰だ?」
「でも!」
「『でも』は無い。結果を受け入れろ、とは言わんが、認めろ。何度も言うが皆々お前が招いた結果なのだからな」
「くっ……」

 ガブリエルは唇を噛み締めた。かなり強く噛んだのか、口の端から血が一筋流れ、顎を伝い、重力と自重に従って、純白の床に落ち、赤い点を作る。

「お前もこれ見よがしにしてないでさっさと行け」

 そんなガブリエルを一瞥し、ウリエルは自分達に背を向けているラファエルに向かって、素気無く行った。

「元よりそのつもりだ。ああ、嬢ちゃんに関する資料は大将の席に置いておいたから見るように言ってくれ」

 言われて、ウリエルがそちらを見やれば、天津総司の席には確かに茶封筒が置かれていた。ウリエルはそれを見たまま、

「義理堅い奴だ」
「大将はそこの偏屈女と違って、アウラのことをないがしろにはしなかったし、アウラに何かするのも止めてくれたからな」

 ラファエルの言葉は事実である。
 ガブリエルがアウラに対して何かをしようとした際、天津総司は彼女の行動を制止し、投獄するだけに留めたのである。
 ラファエルは空拳となっている左手を挙げ、

「んじゃ、これにて今生の別れだ」

 風を巻き起こしながら純白の会議場を後にした。

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