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自作小説お披露目会場コミュのソローブレイカー 1−1

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子供が倒れていた。
 十歳前後と思しき子供。恐らく男の子。この年頃で男物の衣服を好き好んで着用する女子は少ないだろうから。髪は街灯を浴びて銀色に見える灰色。自然な色合いをしているから、生粋なのだろう。

(トラブルの匂いプンプンね)

 倒れている少年を見て、新羅夢乃は率直な感想を心中で呟く。
 面倒事と結びつけたのは、少年が傷だらけで倒れていたからだ。
 どれが気絶へと追いやったものか一見では分からない。如何な状況に陥ればこうなるのか――刀傷、打撲、火傷、その他外傷を負ったことが一見で『怪我をした』ということが分かる傷――赤の他人ではあったが、こんな目に合わせた単一、或いは複数の相手に対して形容し難い怒りを抱いてしまうほどの装いだった。
 そんな状況に遭遇した夢乃は、自分の身の振り方を含め、色々と思考する。
 真っ先に浮かんだ『無視』という方向性は思い浮かんだ瞬間に却下した。
 少年が倒れているのがどうしてか自分の家の前であるから、という気持ちは少なからずともあり、新羅家の敷地内にどうして――と思いもしたが、ここで見て見ぬ振りをする、ということは道徳的にも人道的にもまずいよなー、と思うくらいの良心と良識を夢乃は持ち合わせている。
 無視という選択肢を捨てると、次に浮かんだのは『他者を頼りにする』だったが、これも考えた瞬間に却下した。
 常識的観点から考えれば、それが最良最善の選択だろう、というのは分かっていた。分かっていたが、状況は非日常的で非常識。目には目を、というわけではないが、少年の様態を鑑み、関わるならば十中八九面倒事に巻き込まれる。そのような事態に、諸事情で関わる方向性しか残っていない自分ならいざ知らず、義務感や責任感で動く救急や警察を巻き込むのはどうにも気が引けた。
 無視もしない、他者も頼らない――必然的に自力対応が残った。
 意を決し、夢乃は少年に駆け寄って、脈拍を確認する。

(よかった。とりあえず、生きてはいるみたいね)

 弱々しかったが、少年は息をして、脈もあった。
 その事実に安堵しつつ、夢乃は改めて少年を見やる。
 近くで見ると、少年の状態は夢乃が思っている以上に凄絶だった。年長者だからか、女性としての母性本能か。間近で見るとより一層少年をこんな目に合わせた単一、或いは複数の対象に怒気が強まり、付け加えて嫌悪が芽生えた。

(……ん?)

 黒い感情が芽生えると同じく、夢乃は少年の様態に違和感を覚えた。
 奇妙な違和感――超上級者向けの間違い探しをしているような、絶対に何かがおかしいのに、間違っているというのにそれに気付くことができない――

(――傷が無いからか)

 しばし思考して、夢乃は違和感の正体に辿り着く。
 一見すれば凄絶で、見知らぬ誰かに怒気と嫌悪を抱いてしまわずにはいられない状態。それにも関わらず、様々な要因によって破損した衣服の奥には一つとして傷跡が無かったのだ。
 破損しているということは、負傷したことだというのに。
 淡い達成感と確かな疑問を抱きつつ、夢乃は少年を家へと運び入れる準備として、抱き上げるためにそっと少年を仰向けに――

「おお」

 仰向けにしたところで、夢乃は思わず呟いてしまった。
 少年は非常に整った目鼻立ちをしていた。浮世離れしていると言っても誇張でも誇大でもない。眉目端麗ないし容姿端麗という形容を素直に使うことができるほどの美貌であった。

(と、見惚れている場合じゃないわね)

 頭を振って我に返り、改めて少年を抱き上げる。

(――これはいよいよマジかな)

 少年を抱き上げた時、夢乃の冗談交じりの推測は確信へと変貌した。
 少年には、体重と呼べるものがまるで無かったのである。
 十歳前後という前提の上でではあるが、少年はしっかりとした体格をしており、多く見積もっても四十キロくらいの体重を持っている――いや、持っていなければ絶対に、確実に、完全に、完璧に何かがおかしい。
 だがしかし、実際には持っている、という感覚がある程度にしか感じない。重量で言えば一キロに達するかどうかくらいの重量しか感じられない。
 有るべき物、無ければいけない物を持っていない――これ以上に少年が非日常的非常識な存在であることを裏付ける情報は多くは無いだろう。
 もっとも。

(ま、いっか)

 夢乃の認識はその程度のものだった。
 嬉しい誤算だった。軽いとは言え、子供一人でもそれなりの重量があり、故にそれなりの労働を強いられることになる。体力と筋力にはそこそこの自負はあるものの、突発的事象への対応に付け加えて、労働を強いられることは少ないとはいえ精神的疲労を伴う。それが無くなったのだ。喜ぶな、という方が無理な話だ。
 かくして、夢乃は少年を抱いたまま自宅の敷居を跨いだ。


『来られない?』

 少年を運び入れてから、夢乃は友人である外野環に電話をかけた。
 今日は夢乃の十七度目の誕生日で、一旦家に帰った後、誕生会という名目で町へ繰り出そうという手筈になっていた。が、妙な状況に現在進行形で関わっているので、色々とセッティングしてくれた友人には申し訳無かったが、客観的にも、何より感情的な理由で巻き込みたくなかったので、断る以外に夢乃が取れる選択肢は存在していない。

『急な用事でも入ったのか?』
「家に帰ったらパパとママがいたのよ」
『……いつものことながらこちらの都合を考えてくれない人達だな』

 苦笑混じりの環に、夢乃は内心でこの場にはいない両親共々謝罪した。
 夢乃の両親は仕事で何かと家にいないことが多い。程度で言えば、家にいないことの方が基本的となってしまっているほどだ。
 両親が何をしているのか――実のところ夢乃は知り得ていない。
 本人達曰く『その方が格好良いだろう』という至極どうでもいい理由から未だに明白になっていない。最初は疑問に思っていたが、今では言えない何某かの事情があるのだろう、と推測している。興味は尽きないが、そういう事情のため、聞いたことはただの一度も無く、いつか話してくれるだろう、と思っている。
 そんな新羅家の家庭事情は今も変わらない。
 彼是四年顔を合わせていないが、便りが届いている以上、世界の何処かで元気にしているのだろう、と夢乃はタカを括っている。何せ、便りには出先の思い出話しか書かれておらず、添付される写真も何処からどう見ても旅行中の思い出の写真にしか見えないのである。
 このような状況下なので、全く心配していない。付け加えて、世界中を敵に回しても笑顔で生還できるだろうハイスペックなので、心配する気すら起きない。

「全くよね。まあ、そんなわけだから」
『了解した。ではな。折角の家族水入らず。存分に甘えてやるといい』

 環の言葉に夢乃は少しだけ真実を言うべきか逡巡して、

「――そうすることにするわ。じゃ、またね」

 話せば巻き込むことになるだろうな――そう考えて沈黙を貫くことにし、通話を終了して、リビングへと戻った。すると、

「起こしちゃった?」

 起きていた少年と視線がぶつかった。
 空色の双眸は綺麗な輝きを持っていた。どちらかと言えば冷たい印象なのだが、刃物の先端を見ているような奇妙に魅力的なので不快には感じない。
 少年は起きたばかりだからか、驚いているからか。しばし呆然としていたが、

「いや」

 と、簡潔に答えた。淡白で素気無い口調だが、不快な感じはしない。また外見不相応に大人びた声音ではあるが、不思議と不快にも、バカにされているような感じもしないので、その素気無い喋り方が素なのだろう。

「何か飲む? リクエストがあればどうぞ」
「では、水を一杯」
「了解。ちょっと待って」

 水を注いだコップを用意し、夢乃はそれを少年に渡してから向かい合いになるようソファの反対側に腰を下ろした。
 少年はコップを受け取ったが、すぐには口をつけなかった。

「――用心深いのね。一応言っておくけど、毒なんか入ってないわ。第一、入れてもあたしに得は無い。
だから、安心して飲んでくれると嬉しいわ」

 夢乃がそう言っても、少年はしばし口を付けなかったが、

「すまなかった」

 簡潔に目礼しつつ自分の非を認めると、コップに口を付け、一気に飲み干した。

「いい飲みっぷりね」
「喉が渇いていたからな」

 ふぅ、と少年は満足そうに息を吐き、

「君が私をここへ?」
「まあね」
「君は物好きなのだな」

 少年は何処か呆れた風情で言った。夢乃は微苦笑して、

「自覚してる。でも、貴方にも多少なりとも責任はあるのよ?」

そう言うと、少年は怪訝顔になった。

「私に? ……まあ、無茶をしていた自覚はあるが、だとしても森の中で倒れていたこんな有様である私を助けてくれた君は相当物好きな部類に入ると思うが」
「森? 何を言ってるの? 貴方が倒れていたのはあたしの家の前よ?」

 夢乃がそう告げると、少年は一瞬きょとんとした後、眉をひそめ、情報を処理するためか、途端に口を閉ざした。

「どうやら、あたしと貴方の間で見解の相違があるみたいね」
「そのようだな。君が嘘を付いているとも思えないから、君の言葉は事実なのだろう……しかし、そうなると第三者が私を君の家の前に運んだことになる」

 夢乃の見解に少年は肯定して、新たな情報を追加した持論を口にした。

「……はた迷惑な話ね。一応聞くけど心当たりは? ちなみにこっちには無いわ。それから貴方を発見した時、近くに不審な奴もいなかったわ。それとついでにもう一つ質問。貴方が気を失ったのって何時頃?」

 少年の記憶が混濁している、という可能性も無きにしも非ずだが、それは無いな、と夢乃は思い浮かんですぐに却下した。こちらにも嘘を付いたところで利が無いように、少年にも嘘を付いたところで不利益しか生まないからである。
 少年は数秒思考に浸って、

「空が赤く染まってきた頃合いだから、時刻で言えば十五時半から十六時半の間くらいだと思われる。それと体感時間だから、当てになるかどうかは微妙だが、さして気絶していた感じもしない」
「そうなると、あんまり時間は経過していないと見るのが妥当かしらね?」

 夢乃は時計を一瞥しつつ聞く。時刻は十七時を回ったところ。少年の見解を信じるならば、彼が気絶してから一、二時間程度しか経過していないことになる。

「そうと見るしかない、というのが実情だな」
「それもそうね。話を変えるけど貴方はどうして気を失ったの?」
「強襲を受けたからだ」

 少年は臆面無く、勿体振らずに即答してきた。
 隠されると思っていた夢乃としては甚だ意外だったが、

「で、負けちゃった、と」

 別段話の腰を折る理由は無かったので会話をそのまま続けることにすると、

「不甲斐無くてすまない」

 少年は本当に面目なさそうな風情で言い、深々と頭を下げた。律儀なのか、真面目なのか。夢乃が関わってしまったことをまるで自分の責任のように言う。
 それは決して間違いではなく、客観的に見れば非は彼にあるだろう。あるだろうが、別にいい、と夢乃は前置きし、彼が言葉を作る前に言葉を作る。

「――あたしだって無視しようと思えばできたからおあいこよ」
「君のそれは善意から来る行動だ。恥じることではないと思うが」

 頭を上げて投じられた言葉に、夢乃は首を横に振って否定を示す。

「そうでもないわ。小さな親切、大きなお世話。善意の押し付けは悪意と大差が無いし、むしろ悪意や計算が無い分性質が悪いものよ。あたし達の場合、お互いに運が無い方でも運が悪い方だったってことね」

 全く面倒な状況になったものだな、と夢乃はより一層思って胸中でぼやく。
 この事象は、誰も彼も運が無かったために起こった――夢乃はそう思っている。
 少年は運が無く強襲を受け、夢乃は少年に関わることを半ば強制させられた。
 悪いと言えるのは少年に強襲を仕掛け、少年を夢乃の家の前へと連れて来た第三者だが、その者にしてもここまで手間の掛かることをしたということは、それに見合う理由があり、それは運が無かったから、と言えなくも無い。
 つまるところ、誰も彼も運が無かった。
 ただ、それだけのことだろう、と。

「貴方を襲撃した奴の顔覚えてる?」

 そんな自己完結をして、夢乃は気まずくなった沈黙を自分で破った。
 少年はしばし考え込み、程無くして首を横に振った。

「一瞬だったから分からない。でも、相当の強者だったこと。女だということ。見当は付かないが、何某か狙いがあったということ。そして少なくとも私が敵対としている者達とは無関係であることは分かる」
「微妙に使えないわね」
「……分かっているのなら言わないでくれると嬉しい」

 夢乃が率直な感想を零すと、少年は至極申し訳無さそうに言った。
 夢乃はばつが悪そうに頭を掻いて、

「OK。次から心掛けるわ。――女と分かってるのは、そいつが何かを口走ったからで、それは何某か狙いがあると暗示していることだろうけど、それは何?」
「何でも『恨みはないが、仕事だから勘弁してくれ』とのことだ」

 少年は何処か捨て鉢気味に言った。夢乃は失笑を漏らす。

「襲撃するのが仕事って……そいつ絶対にロクな奴じゃないわね」
「それには同感だ」
「それはどうも。でも、そいつの言葉を信じるなら『仕事』と言っているくらいなんだから貴方と敵対関係にある単一、或いは複数と無関係とするのは早計なような気がするけど、何か根拠があるの?」
「敵対している者達に他者に協力を仰ぐ理由が存在しないからだ」
「随分と理解があるのね? でも、まあいいわ。その辺は今のところ重要じゃないから。そうなると襲撃者と貴方が敵対している面々は別ってことになるわけだけど、そもそも貴方って一体全体何をしている人なの?」
「私は正義の味方みたいなものだ」
「随分とあっさりね。まあ、話がスムーズに進むからいいけど」
「人の事が言えた立場では無いだろう。『正義の味方』だぞ。一般的な反応は驚くか笑うかの二択だろうに」
「じゃあ、あたしは貴方が言うところの『一般的』ではないのね。しかし、自覚があったとは驚き。その上で正直に話してくれたことにもっと驚き。それから一応否定しておくけど、これでも自分なりの見解があるのよ?」
「自分なりの見解? それはどんな?」
「貴方が少なくとも人間じゃないってのは分かってること。そして、そうである以上、そういうのが他にあっても不思議じゃないなぁー、と思ってるから」
「どうして――」

 少年は何かを言いかけたが、

「――なるほど。私の存在はそこまで希薄になっていたのか」

 何かを合点したのか、自己完結した。

「希薄? どういうこと?」
「君は私の体重が見た目に反して無かったことから、私が少なくとも人間ではない、という仮説に行き着いたんだろう?」

 まるで見ていたかのように言う少年の洞察力に舌を巻きつつ、夢乃は頷く。

「ご明察。まあ、軽く当てずっぽうだけどね」
「鎌をかけた、というわけか」
「そ。貴方の見た目なら体重は四十から五十キロはおかしい。でも、貴方は大体一キロ程度の重量しか無かった。『普通』じゃないということは、人間の常識で言えるところの『常識』でないということはそれだけ『非常識』――ひいては『異常』ということ。それらから『少なくとも人間じゃない』とは思っていたの。だから『正義の味方』と言われても別に何とも思わなかった次第よ」

 夢乃の言葉に、少年は感嘆を漏らした。

「君は物好きで聡明なのだな」
「単に柔軟なだけだと思うけど」
「理解が早いということに違いはない」

 少年は冗談っぽく言って、

「察しの通り、私は人間ではない」

 あっさりと肯定してきた。夢乃は少なからず驚いた。

「ちょっと意外。あたしはてっきり『聞いてくれるな。ではな』みたいな感じで去るものだとばかり思っていたから」
「それは私か?」

 少年はジト目で由愛を見つめた。夢乃は片目を瞑って、

「他に誰かいる?」
「……私の中での君は随分と気障なのだな」
「気障というか真面目で律儀かな。で、人間じゃないとすると貴方は何なの?」
「一般的には『堕天使』と呼ばれている」
「だ、堕天使!? ――とまあ、ここは流石に驚くところだろうから一応驚いたところで、堕天使ってことは、さっき言っていた――」
「――いい加減突っ込むぞ。君は色々何かがおかしい」

 他者の悪口など言わないような感じのする少年が憮然と言ってくる。夢乃自身、もっともな意見だとは思ったりするが、

「いいじゃない。話がスムーズに進むわけだし」
「もっともだ。しかし君のそれは色々と許容し難いところがある」
「専門家なんだからその辺は頑張って。で、納得して――」
「してないからな」

 して、の辺りで少年は言葉を被せてきた。
 出鼻を挫かれた夢乃だが、黙殺して再度言葉を作る。

「――『敵対している相手』というのはやはり天使? それとも人間? 或いはもっと別の何か?」
「最初だ」
「やっぱり天使なのねー。短絡的というか直情的というか」
「確かに短絡的とも直情的とも言えるが、分かり易い構図だろう? ――それにしても、三番目はともかくとして、二番目に自分達を持ってくる辺り、君の思考回路は本当にどうなっているんだ?」

 少年の疑問に夢乃は頭を掻き、うーん、と唸りながら持論を告げる。

「どうと言われても……堕天使がいるなら、天使がいることも仮定できる。天使の存在を仮定できるなら、『天使』という言葉が持っている概念や存在意義も仮定できる。となれば、いくら神様から『人間を補助しろ』なんて言われていても、ルシフェルみたく自分の意思で神に挑んだ天使もいるくらいだから、自己はあると見ていい。だから、好き放題している人間に嫌気がさして神に逆らって、堕天使になって、ちょっと滅ぼしてくるか――なんてことを考える天使の一人や二人いても別段不思議なことじゃないよなー、と思ったからだけど?」

 その言葉に少年は目を見開き、絶句した。

「あたし、そんなに驚くこと言った?」
「……かなりな。何にせ、ほとんど正解のようなものだからな」
「そうなの? ん? そうなると、あたしはひょっとしてひょっとすると人間にとっては不利益不都合な人を助けたことになるのかな?」

 自分の言葉がほとんど正しいのであれば、少年は人類を滅ぼすために堕天した天使ということになり、そんな者を助けてしまったことになってしまう。
 これはひょっとすると命の窮地なのだろうか、などと夢乃は思ったりしたが、

「早計だな。正解だ、とは誰も言ってないぞ?」

 そんな夢乃を見て微苦笑した少年によって、その危惧は杞憂と化した。
 その言葉に夢乃は安堵して、

「じゃあ、差異はどの辺り?」
「言っただろう? 正義の味方みたいなものだ、と」
「となると、もしかして天使が人間を滅ぼそうとしていて、貴方はそれを阻止しようとしている……あれ? でもそれだと変というかおかしくない?」

 言ってから夢乃は矛盾していることに気付いて、疑念を抱いた。

「それってどう考えても天使の本分から外れているじゃない。天使は読んで字の如く『天の使い』。で、貴方はあたしの見解を否定せずに話を進めた。だったら、あたしの見解は間違ってはいないということ。となれば、天使は自己があるとは言え、そういうことはできないじゃない。そう思っての行動なら、神に抗って堕天するしかない。それなのにそう思っている貴方が――って、まさか」

 言いかけて、夢乃はハッとした。
 そして、気付いた。自分が勘違いをしていることに。
 一つだけ。たった一つだけあった。この矛盾している前置きを違和感無く、きっちり綺麗に説明できる前提条件が。

「――君は本当に柔軟な思考を持っているな」

 少年は呆れながらも苦々しい風情で感想をぼやき、

「察しの通り、確かに天使には『人間を守護しろ』と言われていて、天使が神の使いであるという君の認識は至極正しい。ならば――」
「――神様が人間を見限った。そして『人間を滅ぼせ』という指示を与えた」

 少年が言わんとしていることを言った夢乃に対して、少年は黙って首肯した。

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