的確なアドバイスありがとうございます。
蜜柑さんからのお題「コップ」でバトンを引き継ぎましたセンチネルです。
今回のお題は、シミリー(直喩)あるいは例示の「よう」です。
つまり「ようだ」「ように」「ような」のどれかになります。
「いま来ましたよう」などの「よう」はNGとさせていただきます。
たくさんのご投稿を楽しみにお待ちしていますので、
ご参加よろしくお願いいたします。
・法王ポニファキャオ八世は、狐のようにその地位に就き、
獅子のようにその職務をおこない、犬のように死んだという。
(「エッセー」��)
ルール
1：出題者が、お題を出します。
2：お題は、何でもありで面白そうなもの。
50題以前に出されたものであれば、既出のお題でもOKです。
3：出題者じゃない人はお題を詠み込んだ短歌を書き込みます。（１人１首のみ）
4：一週間以後、出題者が（独断で）もっとも素晴らしいと思った短歌を１つ選
び、その選出理由を書きこみます。
5：次のお題は、最優秀短歌をつくった人が出すことになります。
（新トピックの番号は「自分が選ばれたトピック番号＋５」）
6：その後は、みんなでワイワイ感想をかわします。
今回のお題は、シミリー(直喩)あるいは例示の「よう」です。
つまり「ようだ」「ように」「ような」のどれかになります。
「いま来ましたよう」などの「よう」はNGとさせていただきます。
たくさんのご投稿を楽しみにお待ちしていますので、
ご参加よろしくお願いいたします。
・法王ポニファキャオ八世は、狐のようにその地位に就き、
獅子のようにその職務をおこない、犬のように死んだという。
(「エッセー」��)
ルール
1：出題者が、お題を出します。
2：お題は、何でもありで面白そうなもの。
50題以前に出されたものであれば、既出のお題でもOKです。
3：出題者じゃない人はお題を詠み込んだ短歌を書き込みます。（１人１首のみ）
4：一週間以後、出題者が（独断で）もっとも素晴らしいと思った短歌を１つ選
び、その選出理由を書きこみます。
5：次のお題は、最優秀短歌をつくった人が出すことになります。
（新トピックの番号は「自分が選ばれたトピック番号＋５」）
6：その後は、みんなでワイワイ感想をかわします。
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コメント(93)
>>[31]
・ノクターン弾けないままにレッスンに音符のような雨をうけつつ
「音符のような」は、まさにシミリーです。
河野裕子さんの作品で、
ある本が読めずに貧しくしていれば、
月が窓に輝いているという内容の歌があったのですが、
どこさがしても見あたらず、ここにあげることが
できませんが、あるみずからの課題にたいして、
それが果たせなかったときの自然とのかかわり、
というのは、いかにも日本人であることを
おもわせるわけです。
虫の音を雑音としかとらえられない西洋人との
感覚の差は歴然です。
これは、ヴァィスゲルバーの言うところの
「精神の中間世界」がそうさせているそうです。
さて、
ノクターンは、ショパンでしょうか。
門外漢のわたしはショパンをよく知りませんが、
仄聞するところ低音がむつかしい、つまり、
左手のほうがたいへんらしいです。
言語は語ったものと同等の語らないものを含む
わけですから、この作者は、「ノクターンは弾けない」
けれども、ほかの楽曲なら弾けるということを
語っています。音楽の専門家でいらっしゃるのでしょう。
「腰折れ」という概念は、
腰の句、つまり三句目がうまく決まらなかった
和歌についての語彙です。
この作品の腰の句は「レッスンに」です。
わたしなら「レッスンを」とするかもしれません。
「レッスンに」とすると、どこに修飾、被修飾関係を
導くのか、あいまいになってしまうからです。
じっさい、「ままに」「レッスンに」と品詞はべつものですが、
「に」が連続するところに、音律上やや不利にはたらいているのも
事実です。
しかし、「レッスンに」としたほうが、
修飾先がわからないだけに、かえって
読者が想像する領域がふえておもしろいのかもしれません。
あるいは、「レッスンに」はなくても
よかったかもしれない、というかんがえもあります。
腰折れというわけではありませんが、
もっとも基幹的な三句目ですから、
ここを説明的な語の「レッスン」を配置せず、
べつな語を入れ込んでも「あり」だったような気がします。
たとえば、下の句につながるようなことばを
さがして、二句切れ(ではないけれど)のようにしてみる。
・ ノクターン弾けないままに窓辺から音符のような雨をうけつつ
うーん、変でしょうか。
・ ノクターン弾けないままに窓辺から音符のように雨 降りつづく
うーん、すみません、せっかくの歌をいじってしまいました。
この「たとえばで示した歌」はたいしたことないものですから、
気になさらずに、しかし、「レッスンに」よりも
なにかいい語があるような気がしてなりません。
いかがですか。
これは蛇足ですが、「ノクターン」と「音符」は
言語的布置の関係ですから、ここでは衝突は希釈されます。
比喩がもっとも有効に機能するのには、
おもいがけない一語を投入することです。
おそらく、作者は、むしろ、ノクターンにかかわる
近所の語、つまり「音符」を意識的に配置したのだと
おもわれますが、そこはかえって、まったく関係のない語を
もってくるほうが、読者は、すがすがしいおどろきで
この作品を迎え入れてくれるかとおもうのです。
しかし、この作品を読んでいると、
心根のやさしい作者がおもいうかばれて、
ほのぼのとする気がするのはたしかなことでした。
・ノクターン弾けないままにレッスンに音符のような雨をうけつつ
「音符のような」は、まさにシミリーです。
河野裕子さんの作品で、
ある本が読めずに貧しくしていれば、
月が窓に輝いているという内容の歌があったのですが、
どこさがしても見あたらず、ここにあげることが
できませんが、あるみずからの課題にたいして、
それが果たせなかったときの自然とのかかわり、
というのは、いかにも日本人であることを
おもわせるわけです。
虫の音を雑音としかとらえられない西洋人との
感覚の差は歴然です。
これは、ヴァィスゲルバーの言うところの
「精神の中間世界」がそうさせているそうです。
さて、
ノクターンは、ショパンでしょうか。
門外漢のわたしはショパンをよく知りませんが、
仄聞するところ低音がむつかしい、つまり、
左手のほうがたいへんらしいです。
言語は語ったものと同等の語らないものを含む
わけですから、この作者は、「ノクターンは弾けない」
けれども、ほかの楽曲なら弾けるということを
語っています。音楽の専門家でいらっしゃるのでしょう。
「腰折れ」という概念は、
腰の句、つまり三句目がうまく決まらなかった
和歌についての語彙です。
この作品の腰の句は「レッスンに」です。
わたしなら「レッスンを」とするかもしれません。
「レッスンに」とすると、どこに修飾、被修飾関係を
導くのか、あいまいになってしまうからです。
じっさい、「ままに」「レッスンに」と品詞はべつものですが、
「に」が連続するところに、音律上やや不利にはたらいているのも
事実です。
しかし、「レッスンに」としたほうが、
修飾先がわからないだけに、かえって
読者が想像する領域がふえておもしろいのかもしれません。
あるいは、「レッスンに」はなくても
よかったかもしれない、というかんがえもあります。
腰折れというわけではありませんが、
もっとも基幹的な三句目ですから、
ここを説明的な語の「レッスン」を配置せず、
べつな語を入れ込んでも「あり」だったような気がします。
たとえば、下の句につながるようなことばを
さがして、二句切れ(ではないけれど)のようにしてみる。
・ ノクターン弾けないままに窓辺から音符のような雨をうけつつ
うーん、変でしょうか。
・ ノクターン弾けないままに窓辺から音符のように雨 降りつづく
うーん、すみません、せっかくの歌をいじってしまいました。
この「たとえばで示した歌」はたいしたことないものですから、
気になさらずに、しかし、「レッスンに」よりも
なにかいい語があるような気がしてなりません。
いかがですか。
これは蛇足ですが、「ノクターン」と「音符」は
言語的布置の関係ですから、ここでは衝突は希釈されます。
比喩がもっとも有効に機能するのには、
おもいがけない一語を投入することです。
おそらく、作者は、むしろ、ノクターンにかかわる
近所の語、つまり「音符」を意識的に配置したのだと
おもわれますが、そこはかえって、まったく関係のない語を
もってくるほうが、読者は、すがすがしいおどろきで
この作品を迎え入れてくれるかとおもうのです。
しかし、この作品を読んでいると、
心根のやさしい作者がおもいうかばれて、
ほのぼのとする気がするのはたしかなことでした。
>>[32]
・霧雨のようにあなたが優しくて今夜は傘をおいてゆきます
相聞ですね。「霧雨のように」はシミリー。
ひじょうに少女的というのか、「あなた」に好意をもった、
献身的でやさしく、一途な女性をおもいうかべることができます。
さて、
「霧雨」の喩義は「霧雨」ですが、
では「本義」はなんでしょう。
さまざまな解釈をのこしたレトリックになっているとおもいます。
「霧雨」・・やわらかさ、おとなしさ、静謐、しずけさ、
やさしさ、鷹揚なこころ、寛大さ、雄大さ、
と、枚挙にいとまなく本義らしきものが
おもいうかびます。
ということは「優しくて」がはたして必要な五文字だったか、
といえば、うーん、どうなんだろう、ひょっとして
腰の句、もっとだいじな部分に「優しくて」は
認識がはやすぎたのかもしれません。
どうでしょうか。
せっかくシミリーとして「霧雨」を選択されたのだから、
「優しくて」以外の語彙はなかったものかと、
感じますが。
さて、下の句ですが、「おいてゆきます」という
ことですから、「あなた」との別れがあったということです。
それまで、「あなた」の自宅にいたのか、
あるいはそうではないかもしれないが、
「あなた」はその場にとどまり、「わたし」が、
その場を去る、という構図はまちがいないことだとおもいます。
また「今夜は」の「は」によって、
作者がよくこの場所に出向いていることも
うかがえます。
とくに「今夜」はとくべつな日で、
ことに「あなた」の優しさが身に染みて
作者につたわってきた。
その余韻を楽しむかのような帰り道の光景が
目に浮かびます。
ただ、この作品は机上操作があったかもしれません。
傘を置いていけば、また取りに戻らぬばならないからです。
これは、経験的な読み方だから、
そんな枝葉末節なことを言うな、という
反論もあるかもしれませんが、
実地の作にしては、言葉がきれいに流れ過ぎていて、
リアリティに欠けるという側面も否定できない気がします。
また、「霧雨」と「傘」は言語的布置にある語ですから、
じつは、このレトリックは衝突ということからすると、
やはりすこし弱い表現になっているかもしれません。
しかし、「優しくて」の「て」という助詞は
あんがいつかうのがむつかしく、内容が
そこで、強制的に切られてしまううらみがあるのですが、
この作品に関していえば、じつにうまく
嵌っているとおもいました。
ちょうどいい塩梅という感じです。
・霧雨のようにあなたが優しくて今夜は傘をおいてゆきます
相聞ですね。「霧雨のように」はシミリー。
ひじょうに少女的というのか、「あなた」に好意をもった、
献身的でやさしく、一途な女性をおもいうかべることができます。
さて、
「霧雨」の喩義は「霧雨」ですが、
では「本義」はなんでしょう。
さまざまな解釈をのこしたレトリックになっているとおもいます。
「霧雨」・・やわらかさ、おとなしさ、静謐、しずけさ、
やさしさ、鷹揚なこころ、寛大さ、雄大さ、
と、枚挙にいとまなく本義らしきものが
おもいうかびます。
ということは「優しくて」がはたして必要な五文字だったか、
といえば、うーん、どうなんだろう、ひょっとして
腰の句、もっとだいじな部分に「優しくて」は
認識がはやすぎたのかもしれません。
どうでしょうか。
せっかくシミリーとして「霧雨」を選択されたのだから、
「優しくて」以外の語彙はなかったものかと、
感じますが。
さて、下の句ですが、「おいてゆきます」という
ことですから、「あなた」との別れがあったということです。
それまで、「あなた」の自宅にいたのか、
あるいはそうではないかもしれないが、
「あなた」はその場にとどまり、「わたし」が、
その場を去る、という構図はまちがいないことだとおもいます。
また「今夜は」の「は」によって、
作者がよくこの場所に出向いていることも
うかがえます。
とくに「今夜」はとくべつな日で、
ことに「あなた」の優しさが身に染みて
作者につたわってきた。
その余韻を楽しむかのような帰り道の光景が
目に浮かびます。
ただ、この作品は机上操作があったかもしれません。
傘を置いていけば、また取りに戻らぬばならないからです。
これは、経験的な読み方だから、
そんな枝葉末節なことを言うな、という
反論もあるかもしれませんが、
実地の作にしては、言葉がきれいに流れ過ぎていて、
リアリティに欠けるという側面も否定できない気がします。
また、「霧雨」と「傘」は言語的布置にある語ですから、
じつは、このレトリックは衝突ということからすると、
やはりすこし弱い表現になっているかもしれません。
しかし、「優しくて」の「て」という助詞は
あんがいつかうのがむつかしく、内容が
そこで、強制的に切られてしまううらみがあるのですが、
この作品に関していえば、じつにうまく
嵌っているとおもいました。
ちょうどいい塩梅という感じです。
>>[34]
・さよならのような再会また少しあなたを嫌いになれたと思う
詠いなれていらっしゃるのでしょう。
難なく言葉を使われているという印象です。
「さよならのような再会」
これは、シミリーなのか例示なのか、
管見ですが、これは例示の作品とさせていただきます。
「さよならのような再会」というパラドクスを
まず読み解かねばなりません。
これは、会いたくないひとと偶然にあってしまった、
という読みでいいのでしょうか。いや、「再会」ですから、
約束はあったのだという読みですね、たぶん。
ここには、場所も匂いも音もまわりの風景も語られていません。
どこで再会したのだろう。
街なのか、それとも閑静な住宅街か、公園か、店舗なのか、
「あなた」とは異性なのか、同性か。
どんな風が吹いていて、どんな天気で、どういう季節だったのか、
夏なのか、凍てつくような冬なのか、
それを想像しようにも、手がかりがないので
それは無理でしょう。
作者は、そういう事情を読者に求めていないのでしょう。
「懇請」あるいは「誘惑」という、
主体的読者の介入をすれば、
会いたくはないけれども、
そのひととしばらくぶりに会う。
が、どうもしっくりとした
会話ができなかった、やはり、気があわないのだろう。
場所は喫茶店に決めてしまう。
珈琲を飲みかわし、
「あなた」はすこし年の離れた男性。
やけににやにやしながら話す癖はいつものとおり。
やっぱり、会わなければよかったもしれない、
といううっすら後悔をしている。
など、勝手に解釈しましたが、これはどうでもいいことですね。
さて、哲学的な話ですが、「嫌い」という感情の対立軸は「無関心」です。
「好き」の反対語も「無関心」です。
「また少しあなたを嫌いに」という表現は、
この「あなた」に関心がある、ということにほかなりません。
なんとなく「嫌い」なのだが、忘れられないひと、
そういう複雑な心境が、この歌の中心にあるのだと
おもいます。
「また少し」この言い方がじつにいい、
わたしは、そうおもっています。
・さよならのような再会また少しあなたを嫌いになれたと思う
詠いなれていらっしゃるのでしょう。
難なく言葉を使われているという印象です。
「さよならのような再会」
これは、シミリーなのか例示なのか、
管見ですが、これは例示の作品とさせていただきます。
「さよならのような再会」というパラドクスを
まず読み解かねばなりません。
これは、会いたくないひとと偶然にあってしまった、
という読みでいいのでしょうか。いや、「再会」ですから、
約束はあったのだという読みですね、たぶん。
ここには、場所も匂いも音もまわりの風景も語られていません。
どこで再会したのだろう。
街なのか、それとも閑静な住宅街か、公園か、店舗なのか、
「あなた」とは異性なのか、同性か。
どんな風が吹いていて、どんな天気で、どういう季節だったのか、
夏なのか、凍てつくような冬なのか、
それを想像しようにも、手がかりがないので
それは無理でしょう。
作者は、そういう事情を読者に求めていないのでしょう。
「懇請」あるいは「誘惑」という、
主体的読者の介入をすれば、
会いたくはないけれども、
そのひととしばらくぶりに会う。
が、どうもしっくりとした
会話ができなかった、やはり、気があわないのだろう。
場所は喫茶店に決めてしまう。
珈琲を飲みかわし、
「あなた」はすこし年の離れた男性。
やけににやにやしながら話す癖はいつものとおり。
やっぱり、会わなければよかったもしれない、
といううっすら後悔をしている。
など、勝手に解釈しましたが、これはどうでもいいことですね。
さて、哲学的な話ですが、「嫌い」という感情の対立軸は「無関心」です。
「好き」の反対語も「無関心」です。
「また少しあなたを嫌いに」という表現は、
この「あなた」に関心がある、ということにほかなりません。
なんとなく「嫌い」なのだが、忘れられないひと、
そういう複雑な心境が、この歌の中心にあるのだと
おもいます。
「また少し」この言い方がじつにいい、
わたしは、そうおもっています。
>>[37]
・木犀は遥か記憶に降りつもる秋の陽の底金貨のように
金木犀の鮮烈なかおり、
戦後の混乱期において、少年ふたりが
木犀のかおりをたどって夜にさがしにゆくという
「白桃」という野呂邦暢の小説がありますが、
たしかに、木犀のかおりは「降りつもる」のかも
しれません。
この作品のすぐれているところは、
「降りつもる」ものは「かおり」のはずなのですが、
その「かおり」を語っていないところです。
それにもして「遥か記憶」という表現が
読者を刺戟します。
「遥か記憶」といえば、それはプリミティブな領域に
おのず達するわけで、
ナイーブをつきつめるとプリミティブに達すると
そう語った泉下の小野茂樹の言説にも
妥当することで、よくぞ詠んでくださいました、という
おもいです。
また、下の句、
「秋の陽の底」の「底」にもまいりました。
「金貨のように」のシミリーにもまいりました。
「木犀」は「金木犀」が一般ですから、
そこに「金貨」は、意味合いが近すぎないかといえば、
そうかもしれませんが、この歌全体からは、
まったく瑕にになっていない、というのが
わたしの感想です。
この歌は、今回のいただいた歌の中では、
めずらしく倒置法になっています。
倒置法の急所は、テーマを下の句にもってゆくため、
倒置してでも、言いたいことは下の句に、
というレトリックです。
ただ、「秋の陽の底金貨のように 」は
叙述がすんなり通っているかいえば、
そうではないのですが、
それも看過できるようにおもえます。
とにかくも、「ように」を大事に語ろうとすることで、
倒置法を用意した、というように
わたしは解釈しております。
無理のない倒置法と、
上質な比喩とで語られたこの作品は、
木犀という道具を十二分に語っているとおもわれます。
・木犀は遥か記憶に降りつもる秋の陽の底金貨のように
金木犀の鮮烈なかおり、
戦後の混乱期において、少年ふたりが
木犀のかおりをたどって夜にさがしにゆくという
「白桃」という野呂邦暢の小説がありますが、
たしかに、木犀のかおりは「降りつもる」のかも
しれません。
この作品のすぐれているところは、
「降りつもる」ものは「かおり」のはずなのですが、
その「かおり」を語っていないところです。
それにもして「遥か記憶」という表現が
読者を刺戟します。
「遥か記憶」といえば、それはプリミティブな領域に
おのず達するわけで、
ナイーブをつきつめるとプリミティブに達すると
そう語った泉下の小野茂樹の言説にも
妥当することで、よくぞ詠んでくださいました、という
おもいです。
また、下の句、
「秋の陽の底」の「底」にもまいりました。
「金貨のように」のシミリーにもまいりました。
「木犀」は「金木犀」が一般ですから、
そこに「金貨」は、意味合いが近すぎないかといえば、
そうかもしれませんが、この歌全体からは、
まったく瑕にになっていない、というのが
わたしの感想です。
この歌は、今回のいただいた歌の中では、
めずらしく倒置法になっています。
倒置法の急所は、テーマを下の句にもってゆくため、
倒置してでも、言いたいことは下の句に、
というレトリックです。
ただ、「秋の陽の底金貨のように 」は
叙述がすんなり通っているかいえば、
そうではないのですが、
それも看過できるようにおもえます。
とにかくも、「ように」を大事に語ろうとすることで、
倒置法を用意した、というように
わたしは解釈しております。
無理のない倒置法と、
上質な比喩とで語られたこの作品は、
木犀という道具を十二分に語っているとおもわれます。
>>[36]
・えんぴつと黒色の色鉛筆の違いのようなその後がある
まるで村上春樹が語るような例示です。
初句から五句まで、
ひどく長いフレーズで例示が語られている、レアな作品だとおもいます。
この例示には「理」がはいりこんでいて、
知性的な要請を読者にもとめているような気がします。
たしかに、色鉛筆に「黒」はありますが、
それと「鉛筆」の「黒と」どうちがうのか、わかりません。
この見立てはユニークです。
「えんぴつ」はひらいて、「色鉛筆」は漢字で、
ここにもこだわりがあるのでしょう。
「えんぴつ」を「鉛筆」と表記してしまうと、
おそらく窮屈になるという作者の判断が
見て取れます。
しかし、「その後」とはいかなるものか、
そこは語られていません。
「無名抄」という鴨長明の歌論がありますが、
そこには、「幽玄の体」として
「詮はただ詞にあらはれぬ余情、
姿に見えぬ景気なるべし」とあり、
語らぬところに｢幽玄」があると、
そう言っていますが、「その後がある」と、
すっかり語るべきところを脱落させてしまっていて、
それは「幽玄の体」なのか、と言えば、
そうとらえることが、いささか困難とおもわれます。
「その後」というあいまい性、形而上的な表現のところは、
読者に種明かしをするところだったような気がします。
「その後がある」とは、だれにどのような後があるのか、
はたしてどういう物語を構築すればいいのか、
この歌の含意はなんなのか、
相聞なのか、社会詠なのか、友人同士の齟齬の問題か、
あるいは、この歌に底流する抒情性はあるのだろうか、
さまざまな、場面は想像できますが、
そのさまざまな問いは、
はたして「謎」でおわるしかありません。
語らな過ぎているからです。
短歌には、物語性も重要かとぞんじます。
その歌を拝読して、読者がある物語をおもいうかべる、
そこに短歌のおもしろみのひとつがあるのだと
そうおもうのです。
結ばれなかった結末、つまり、絶対性の不可能性、
そういう短歌、すれちがい、別れ、そんなものを
好む国民であるわけです。
この結句からは、絶対性の不可能性は
読み取ることができません。
では、このあとにつづく幸福論、
いわゆる絶対性の可能性も読み解くことはできません。
ということは、テーマ性について、
読み解くことが難解になっている、ということに
落ち着くことになります。
もうすこし、結句でもって語っていただければ、
ありがたかったとおもっています。
・えんぴつと黒色の色鉛筆の違いのようなその後がある
まるで村上春樹が語るような例示です。
初句から五句まで、
ひどく長いフレーズで例示が語られている、レアな作品だとおもいます。
この例示には「理」がはいりこんでいて、
知性的な要請を読者にもとめているような気がします。
たしかに、色鉛筆に「黒」はありますが、
それと「鉛筆」の「黒と」どうちがうのか、わかりません。
この見立てはユニークです。
「えんぴつ」はひらいて、「色鉛筆」は漢字で、
ここにもこだわりがあるのでしょう。
「えんぴつ」を「鉛筆」と表記してしまうと、
おそらく窮屈になるという作者の判断が
見て取れます。
しかし、「その後」とはいかなるものか、
そこは語られていません。
「無名抄」という鴨長明の歌論がありますが、
そこには、「幽玄の体」として
「詮はただ詞にあらはれぬ余情、
姿に見えぬ景気なるべし」とあり、
語らぬところに｢幽玄」があると、
そう言っていますが、「その後がある」と、
すっかり語るべきところを脱落させてしまっていて、
それは「幽玄の体」なのか、と言えば、
そうとらえることが、いささか困難とおもわれます。
「その後」というあいまい性、形而上的な表現のところは、
読者に種明かしをするところだったような気がします。
「その後がある」とは、だれにどのような後があるのか、
はたしてどういう物語を構築すればいいのか、
この歌の含意はなんなのか、
相聞なのか、社会詠なのか、友人同士の齟齬の問題か、
あるいは、この歌に底流する抒情性はあるのだろうか、
さまざまな、場面は想像できますが、
そのさまざまな問いは、
はたして「謎」でおわるしかありません。
語らな過ぎているからです。
短歌には、物語性も重要かとぞんじます。
その歌を拝読して、読者がある物語をおもいうかべる、
そこに短歌のおもしろみのひとつがあるのだと
そうおもうのです。
結ばれなかった結末、つまり、絶対性の不可能性、
そういう短歌、すれちがい、別れ、そんなものを
好む国民であるわけです。
この結句からは、絶対性の不可能性は
読み取ることができません。
では、このあとにつづく幸福論、
いわゆる絶対性の可能性も読み解くことはできません。
ということは、テーマ性について、
読み解くことが難解になっている、ということに
落ち着くことになります。
もうすこし、結句でもって語っていただければ、
ありがたかったとおもっています。
>>[38]
・かんたんにとり戻せないたましひをはぐくむような虹がかかるよ
ひらがなを多用された作品です。
これには、あるメッセージ性が含まれているかもしれません。
よくわかりませんが。
第四句までが例示で機能しており、つまりは「虹がかかるよ」
に主題が集約されているという構図です。
「たましひ」と文語調で語られていますから、
「ような」ではなく「やうな」ではないでしょうか。いかが。
「たましひ」という重たい言葉、
たしかに「かんたんに取り戻せない」、
もっともです。
秋葉原の無差別な殺人や、
さいきん座間でもありました。
死刑になりたいからひとを殺した、など、
法制度のシステム崩壊のきざしがみえてきた、
このごろ、「たましひ」はいったいどんなふうに
心に内在しているのでしょう。
虹は、その「たましひ」をはぐくんでくれているわけですね。
しかし、「たましひ」と一口に言っても、
それは、なかなか語り尽くせない意味内容を含んでいる
はずです。
・われに棲む激つ危うきもののためひとりの夜は鎮花祭
武川忠一さんの歌ですが、これは武川さんの「魂」を詠んだものだと
わたしはおもっています。
「魂」を語るとなると、31文字でも足りないかもしれません。
それほど、「魂」は、もちろんないがしろにはしていないけれど、
すこぶる手ごわい対象であることはまちがいありません。
「かんたんにとり戻せないたましひ」
という語り方は、わたしには、認識の早さを感じます。
また、「かんたんにとり戻せないたましひ」と、
「たましひをはぐくむ」とは、ひょっとすると
まったくちがった感情を打ち込めたような気もします。
個人的な見解ですが、
この作品は、まず虹が出た。
それを目撃する。その蒼穹にうかんだすがすがしい
虹のおかげで心が洗われたような感覚になり、
そうか、虹というのは、じぶんの心の浄化になるんだな、
というおもいを、いったん作者のなかに収めて、
みずからの心、それは、とりもなおさず「たましひ」にほからなず、
そこに「理」をはさみこみ、「かんたんにとり戻せない」という
それこそ「たましひ」の崇高さを説明的に語り、
虹の美しさと、それを見た作者の高揚感とを
相容れて、ひとつの短歌にしたのではないかと、
わたしは拝察いたします。
そして、それをできるだけひらいて表現をしてみる、
という実験的な歌であるのかもしれません。
が、それによって「軽み」が底流するきらいも
あるようにおもえます。
ひらがな多様の短歌のむつかしいところは、
言葉選びによほど慎重にならないと、
「軽い」という評をいただくことになる、ということです。
最後となりますが、「かかるよ」の「よ」は
的確でしょうか。
この「よ」を「よ」ではなく、別の語にして、
「たましひ」をしっかりと受けることはできないものでしょうか。
わたしは、この歌は上質な歌だと
おもっていますが、結句の「よ」が気になっています。
・かんたんにとり戻せないたましひをはぐくむような虹がかかるよ
ひらがなを多用された作品です。
これには、あるメッセージ性が含まれているかもしれません。
よくわかりませんが。
第四句までが例示で機能しており、つまりは「虹がかかるよ」
に主題が集約されているという構図です。
「たましひ」と文語調で語られていますから、
「ような」ではなく「やうな」ではないでしょうか。いかが。
「たましひ」という重たい言葉、
たしかに「かんたんに取り戻せない」、
もっともです。
秋葉原の無差別な殺人や、
さいきん座間でもありました。
死刑になりたいからひとを殺した、など、
法制度のシステム崩壊のきざしがみえてきた、
このごろ、「たましひ」はいったいどんなふうに
心に内在しているのでしょう。
虹は、その「たましひ」をはぐくんでくれているわけですね。
しかし、「たましひ」と一口に言っても、
それは、なかなか語り尽くせない意味内容を含んでいる
はずです。
・われに棲む激つ危うきもののためひとりの夜は鎮花祭
武川忠一さんの歌ですが、これは武川さんの「魂」を詠んだものだと
わたしはおもっています。
「魂」を語るとなると、31文字でも足りないかもしれません。
それほど、「魂」は、もちろんないがしろにはしていないけれど、
すこぶる手ごわい対象であることはまちがいありません。
「かんたんにとり戻せないたましひ」
という語り方は、わたしには、認識の早さを感じます。
また、「かんたんにとり戻せないたましひ」と、
「たましひをはぐくむ」とは、ひょっとすると
まったくちがった感情を打ち込めたような気もします。
個人的な見解ですが、
この作品は、まず虹が出た。
それを目撃する。その蒼穹にうかんだすがすがしい
虹のおかげで心が洗われたような感覚になり、
そうか、虹というのは、じぶんの心の浄化になるんだな、
というおもいを、いったん作者のなかに収めて、
みずからの心、それは、とりもなおさず「たましひ」にほからなず、
そこに「理」をはさみこみ、「かんたんにとり戻せない」という
それこそ「たましひ」の崇高さを説明的に語り、
虹の美しさと、それを見た作者の高揚感とを
相容れて、ひとつの短歌にしたのではないかと、
わたしは拝察いたします。
そして、それをできるだけひらいて表現をしてみる、
という実験的な歌であるのかもしれません。
が、それによって「軽み」が底流するきらいも
あるようにおもえます。
ひらがな多様の短歌のむつかしいところは、
言葉選びによほど慎重にならないと、
「軽い」という評をいただくことになる、ということです。
最後となりますが、「かかるよ」の「よ」は
的確でしょうか。
この「よ」を「よ」ではなく、別の語にして、
「たましひ」をしっかりと受けることはできないものでしょうか。
わたしは、この歌は上質な歌だと
おもっていますが、結句の「よ」が気になっています。
>>[39]
・冬の陽に手を差し込んでいたようなメイルをあけず秋は過ぎゆく
例示の作品でしょうか。
「手を差し込んでいた」という身体動作はいかなるものか。
「冬の陽に」とあるから、長い冬の陽ざしに手をかざしたのでしょうか。
ラングの段階で、すこしわかりづらい気がいたします。
ラングとは、かんたんに言えば、国語ということで、
わたしたちは、日本語という母語をラングにもっている、
などと、使うわけで、ラングの段階でもんだいがなければ、
つぎの階層である「スティル」という作者独特の表現領域に
かんがえが移ります。
スティルとはそのひとの、好みの言い方です。
「冬の陽に手を差し込んで」は、ラングの段階か、
あるいは、スティルの段階での、わたしの疑問であるのか、
スティルの段階の疑問であるなら、
わたしにリテラシーが欠如しているということになります。
「メイル」は「メール」と同義なのでしょうが、
その「メール」と「冬の陽に手を差し込んで」という
表現には、対立的要素がふんだんにあって、
そこには意味論的衝突がみえておもしろいとおもいました。
しかしながら、そのメールは「あけず」であるわけです。
メールを見ていないのですね。
ということは、メールに何が書いてあるか、
作者は知りえない、ということになります。
内容をまったく知らないメールですが、
そのメール通知に、
作者は「冬の陽に手を差し込んでいたような」という
例示を配置したわけです。
それは、とりもなおさず、メールがあります、
という、おそらく携帯かパソコンか、その通知が
「冬の陽に手を差し込んでいたような」ですから、
その相手から来たことじたいに
ある感慨をもったということになるでしょう。
また、「メールをあけず秋は過ぎゆく」は、
ずいぶんとあけられぬまま、放置されたということになります。
せっかく、「冬の陽に手を差し込んでいたような」メールなのに、
あけられぬまま冬を迎えてしまいした。
だいじなひとからのメールではなかったのでしょうか、
それにしては、上の句から言い方だと、
そうでもなく、それなりに作者にかかわる、
ひとではなかったのでしょうか。
そこに、作者の屈折があるのだと、
わたしはおもいます。
結句で、「秋は過ぎゆく」と、すらりと語っていますが、
そこまでにたどりつくまでに、作者の屈折があったように
お見受けするしだいです。
二伸
「冬の陽」と「秋は過ゆく」と、季節を二ついれるのは
どうなのかなっておもいました。
・冬の陽に手を差し込んでいたようなメイルをあけず秋は過ぎゆく
例示の作品でしょうか。
「手を差し込んでいた」という身体動作はいかなるものか。
「冬の陽に」とあるから、長い冬の陽ざしに手をかざしたのでしょうか。
ラングの段階で、すこしわかりづらい気がいたします。
ラングとは、かんたんに言えば、国語ということで、
わたしたちは、日本語という母語をラングにもっている、
などと、使うわけで、ラングの段階でもんだいがなければ、
つぎの階層である「スティル」という作者独特の表現領域に
かんがえが移ります。
スティルとはそのひとの、好みの言い方です。
「冬の陽に手を差し込んで」は、ラングの段階か、
あるいは、スティルの段階での、わたしの疑問であるのか、
スティルの段階の疑問であるなら、
わたしにリテラシーが欠如しているということになります。
「メイル」は「メール」と同義なのでしょうが、
その「メール」と「冬の陽に手を差し込んで」という
表現には、対立的要素がふんだんにあって、
そこには意味論的衝突がみえておもしろいとおもいました。
しかしながら、そのメールは「あけず」であるわけです。
メールを見ていないのですね。
ということは、メールに何が書いてあるか、
作者は知りえない、ということになります。
内容をまったく知らないメールですが、
そのメール通知に、
作者は「冬の陽に手を差し込んでいたような」という
例示を配置したわけです。
それは、とりもなおさず、メールがあります、
という、おそらく携帯かパソコンか、その通知が
「冬の陽に手を差し込んでいたような」ですから、
その相手から来たことじたいに
ある感慨をもったということになるでしょう。
また、「メールをあけず秋は過ぎゆく」は、
ずいぶんとあけられぬまま、放置されたということになります。
せっかく、「冬の陽に手を差し込んでいたような」メールなのに、
あけられぬまま冬を迎えてしまいした。
だいじなひとからのメールではなかったのでしょうか、
それにしては、上の句から言い方だと、
そうでもなく、それなりに作者にかかわる、
ひとではなかったのでしょうか。
そこに、作者の屈折があるのだと、
わたしはおもいます。
結句で、「秋は過ぎゆく」と、すらりと語っていますが、
そこまでにたどりつくまでに、作者の屈折があったように
お見受けするしだいです。
二伸
「冬の陽」と「秋は過ゆく」と、季節を二ついれるのは
どうなのかなっておもいました。
>>[40]
・ 笑われているような気がする車両薬がなくてミンティアをのむ
若いころは、電車で女子高生が笑っていると、
「あ、おれのことみて笑ってんのかな」など、
自意識の過剰なところがありました。
この「ような」は「例示」そのものです。
ですから、「笑われているような」までには、
裏側の意味がやや希薄になるのはとうぜんです。
しかし、だれに笑われているのか、
いま、その笑っている対象は作者を見ているのか、
あるいは、睥睨しているのか、
何人かがたのしそうに囲みながらいるのか、
また、ひとりなのか、
あるいは、笑っている対象はその場にいないのか、
もっと霊的な話なのか、まったくわかりませんが、
「車両」とあるところで、ある限定はされるでしょう。
どちらにせよ、不快感を作者はうけている。
それも、受けなくてもよい不快を受けなければならない。
が、その不快感は、ひょっとするとおもいこみかもしれない。
はっきりしない不快感ほど、ひとをいらいらさせるものです。
けっきょく、
そのいらいらを表現するのに、だれに笑われているか、
という視点は、ネグレクトできる内容だったのだかもしれません。
そして、なんの薬か表記がなく、わかりませんが、
もしかすると、これは、安定剤なのでしょうか。
いらいらの解消ですね。
「薬がなくて」というのだから、家には、常備されているのかも
しれません。ということは、作者は、失礼をかえりみず
もうしあげれば、精神的に日常的に不安を抱えていらっしゃると、
そう読むことができます。
もちろん、それを歌に表現されるのだから、
その精神について、自他ともに周知のことで
納得もされていることでしょう。
ミンティアは、あのすーすーする菓子ですね。
わたしは、ほとんど購入したことがありませんが、
あればかり仕事場の机に、花札みたいにあつめている
ひとがいましたが、好きなひとは好きです。
薬をもたずにミンティアは所持していた。
こんなことになるなら、薬をもってくればよかった、
というささやかな諦念が、この歌を支えています。
歌の姿として、句またがりで腰の句をつくり、
「車両」と「薬」と漢字でならべるのは、
やや、不つりあいにみえますので、ここは
字数をあわせ、漢字どうしがつながらないほうが、
読者は心地よく拝読できたかもしれません。
この歌は、油断していると、この裏に
なんにも物語性がないように、
看過されがちな要素をもっているのですが、
じつは、この歌のなかには、作者の鬱積した日常が
充満している作品なのかもしれません。
・ 笑われているような気がする車両薬がなくてミンティアをのむ
若いころは、電車で女子高生が笑っていると、
「あ、おれのことみて笑ってんのかな」など、
自意識の過剰なところがありました。
この「ような」は「例示」そのものです。
ですから、「笑われているような」までには、
裏側の意味がやや希薄になるのはとうぜんです。
しかし、だれに笑われているのか、
いま、その笑っている対象は作者を見ているのか、
あるいは、睥睨しているのか、
何人かがたのしそうに囲みながらいるのか、
また、ひとりなのか、
あるいは、笑っている対象はその場にいないのか、
もっと霊的な話なのか、まったくわかりませんが、
「車両」とあるところで、ある限定はされるでしょう。
どちらにせよ、不快感を作者はうけている。
それも、受けなくてもよい不快を受けなければならない。
が、その不快感は、ひょっとするとおもいこみかもしれない。
はっきりしない不快感ほど、ひとをいらいらさせるものです。
けっきょく、
そのいらいらを表現するのに、だれに笑われているか、
という視点は、ネグレクトできる内容だったのだかもしれません。
そして、なんの薬か表記がなく、わかりませんが、
もしかすると、これは、安定剤なのでしょうか。
いらいらの解消ですね。
「薬がなくて」というのだから、家には、常備されているのかも
しれません。ということは、作者は、失礼をかえりみず
もうしあげれば、精神的に日常的に不安を抱えていらっしゃると、
そう読むことができます。
もちろん、それを歌に表現されるのだから、
その精神について、自他ともに周知のことで
納得もされていることでしょう。
ミンティアは、あのすーすーする菓子ですね。
わたしは、ほとんど購入したことがありませんが、
あればかり仕事場の机に、花札みたいにあつめている
ひとがいましたが、好きなひとは好きです。
薬をもたずにミンティアは所持していた。
こんなことになるなら、薬をもってくればよかった、
というささやかな諦念が、この歌を支えています。
歌の姿として、句またがりで腰の句をつくり、
「車両」と「薬」と漢字でならべるのは、
やや、不つりあいにみえますので、ここは
字数をあわせ、漢字どうしがつながらないほうが、
読者は心地よく拝読できたかもしれません。
この歌は、油断していると、この裏に
なんにも物語性がないように、
看過されがちな要素をもっているのですが、
じつは、この歌のなかには、作者の鬱積した日常が
充満している作品なのかもしれません。
【おわりに】
おつかれさまでした。
おつきあいいただいたみささまに厚く御礼もうしあげます。
比喩、むつかしいのかもしれません。
というより、わたしが学んだことが多かったような気がします。
それは、比喩における二義性、喩義と本義とからなる
レトリックは、本義よりも喩義になる対象物を
どれだけじっくりと観察するかで、
その歌の「質」がきまってくる、ということを
あらためて知らされた気がします。
雪のような肌、といったばあい、「白さ」よりも、
この「雪」がどんな「雪」なのか、
この喩義の本質をつかまねば、
上質な歌にはならないということでした。
わたしは、比喩の歌をあまりつくっていませんが、
上述したようなことは、わりに簡単にかんがえていたかも
しれません。
みなさんの作品を読ませていただきながら、
あらためて認識したしだいです。
ありがとうございました。
さて、僭越ながら結果を発表いたします。
★次点
カニパンさん
・・マーブルのように溶けよう冬の陽がわたしと眠る猫をよこぎる
色彩感覚にするどく、ほのぼのとした空気感をかもした、
平和な作品でした。「マーブルのように」でじゅうぶん意は
通じていますが、この「マーブル」大理石をみつめても、また
ちがった作品ができるような気もしました。
たとえば、これは、即興ですが、
・死に絶えし民族の香りのこしたるマーブルのごとき時に眠らん
など、「マーブル」を説明してゆく手法です。
カニパンさんの作品とはまったくちがうので、
お気になさらずに。
★最優秀
ジョジさん
・木犀は遥か記憶に降りつもる秋の陽の底金貨のように
短歌の先生は「は」をつかうな、という方もいますが、
この歌ではそれが気になりません。
上の句と、下の句と、おなじ内容をべつべつの視点から
表現してゆく、この手法は、「合わせ鏡」の一種かとぞんじますが、
巧みな言葉運びと、センスのよさと、
上質な精神が一首のなかにしずかに流れてゆくようで、
この作品を最優秀とさせていただきます。
それでは、長々と失礼いたしました。
あとは「ジョジさん」にお任せいたします。
ありがとうございました。
おつかれさまでした。
おつきあいいただいたみささまに厚く御礼もうしあげます。
比喩、むつかしいのかもしれません。
というより、わたしが学んだことが多かったような気がします。
それは、比喩における二義性、喩義と本義とからなる
レトリックは、本義よりも喩義になる対象物を
どれだけじっくりと観察するかで、
その歌の「質」がきまってくる、ということを
あらためて知らされた気がします。
雪のような肌、といったばあい、「白さ」よりも、
この「雪」がどんな「雪」なのか、
この喩義の本質をつかまねば、
上質な歌にはならないということでした。
わたしは、比喩の歌をあまりつくっていませんが、
上述したようなことは、わりに簡単にかんがえていたかも
しれません。
みなさんの作品を読ませていただきながら、
あらためて認識したしだいです。
ありがとうございました。
さて、僭越ながら結果を発表いたします。
★次点
カニパンさん
・・マーブルのように溶けよう冬の陽がわたしと眠る猫をよこぎる
色彩感覚にするどく、ほのぼのとした空気感をかもした、
平和な作品でした。「マーブルのように」でじゅうぶん意は
通じていますが、この「マーブル」大理石をみつめても、また
ちがった作品ができるような気もしました。
たとえば、これは、即興ですが、
・死に絶えし民族の香りのこしたるマーブルのごとき時に眠らん
など、「マーブル」を説明してゆく手法です。
カニパンさんの作品とはまったくちがうので、
お気になさらずに。
★最優秀
ジョジさん
・木犀は遥か記憶に降りつもる秋の陽の底金貨のように
短歌の先生は「は」をつかうな、という方もいますが、
この歌ではそれが気になりません。
上の句と、下の句と、おなじ内容をべつべつの視点から
表現してゆく、この手法は、「合わせ鏡」の一種かとぞんじますが、
巧みな言葉運びと、センスのよさと、
上質な精神が一首のなかにしずかに流れてゆくようで、
この作品を最優秀とさせていただきます。
それでは、長々と失礼いたしました。
あとは「ジョジさん」にお任せいたします。
ありがとうございました。
>>[057]
遅くなりましたが、講評、選歌、お疲れさまでした。センチネルさんの講評を拝見していて、センチネルさんを最優秀に選んだ自分はお手柄だったよねって、勝手に嬉しくなってました。
どの講評も興味深く、入り込みすぎず、でも読み解く、観賞する、という徹底ぶりは感動でした。
私の短歌への講評もありがとうございました！
詠みなれているように見えるなら反省すべきかと思いつつ、言葉をなんなく使ってると見えたのなら、余程私らしい詠みっぷりだったのかもと思いました(笑)
実際、私は短歌を量産できませんし、詠みたいように詠みたいものしか詠まないので、いかに自分の今詠みたいこの曖昧な輪郭のものを文字に匂わせるか、のみに思いを注ぎます。
産みの苦しみ(笑)
センチネルさんの講評は完璧でした。
詠んでよかった、と思いました。
また少し、がこの歌で一番の要だったので嬉しい気持ちです。
そういえばかなり前にセンチネルさんに私のパーレンの話に触れていただいていたのに、父が他界するあたりのことで落ち着かなく、お答えできないままなんだか月日が流れてしまいました。
また機会がありましたらこちらも。
まずはお礼だけ先に。
おもしろいお題で、素敵なトピックでした！
遅くなりましたが、講評、選歌、お疲れさまでした。センチネルさんの講評を拝見していて、センチネルさんを最優秀に選んだ自分はお手柄だったよねって、勝手に嬉しくなってました。
どの講評も興味深く、入り込みすぎず、でも読み解く、観賞する、という徹底ぶりは感動でした。
私の短歌への講評もありがとうございました！
詠みなれているように見えるなら反省すべきかと思いつつ、言葉をなんなく使ってると見えたのなら、余程私らしい詠みっぷりだったのかもと思いました(笑)
実際、私は短歌を量産できませんし、詠みたいように詠みたいものしか詠まないので、いかに自分の今詠みたいこの曖昧な輪郭のものを文字に匂わせるか、のみに思いを注ぎます。
産みの苦しみ(笑)
センチネルさんの講評は完璧でした。
詠んでよかった、と思いました。
また少し、がこの歌で一番の要だったので嬉しい気持ちです。
そういえばかなり前にセンチネルさんに私のパーレンの話に触れていただいていたのに、父が他界するあたりのことで落ち着かなく、お答えできないままなんだか月日が流れてしまいました。
また機会がありましたらこちらも。
まずはお礼だけ先に。
おもしろいお題で、素敵なトピックでした！
私のお気に入りです(*´∀｀*)
蜜柑さん、
さよならのような再会また少しあなたを嫌いになれたと思う
さよならのような再会という言葉から、出会っても仕方ない二人、あらかじめ恋を失っている二人という印象を持ちました。なので下の七七がとても切なく響きました。
クンタ・キンテさん
えんぴつと黒色の色鉛筆の違いのようなその後がある
えんぴつと色鉛筆の黒の違い、この比較とその違いのようなその後にとても興味と新鮮さを感じました。子供なら誰でもこの違いを不思議に思ったり、えんぴつの硬さと色鉛筆の黒のわやらかさを塗り比べたりしたと思います。
でも違いのようなその後があるというのですから、面白いですね。
なんとなくですが、同じような水でもあっちは甘い辛いというように、人の人生の成り立ちの一端がシニカルに伝わってきました。
蜜柑さん、
さよならのような再会また少しあなたを嫌いになれたと思う
さよならのような再会という言葉から、出会っても仕方ない二人、あらかじめ恋を失っている二人という印象を持ちました。なので下の七七がとても切なく響きました。
クンタ・キンテさん
えんぴつと黒色の色鉛筆の違いのようなその後がある
えんぴつと色鉛筆の黒の違い、この比較とその違いのようなその後にとても興味と新鮮さを感じました。子供なら誰でもこの違いを不思議に思ったり、えんぴつの硬さと色鉛筆の黒のわやらかさを塗り比べたりしたと思います。
でも違いのようなその後があるというのですから、面白いですね。
なんとなくですが、同じような水でもあっちは甘い辛いというように、人の人生の成り立ちの一端がシニカルに伝わってきました。
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