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no1048作品展示場コミュの20070531『トカレフ(アナザーバージョン)』

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週末は俺の部屋で一日を過ごす。
それが俺たちのデートの定番だ。
彼女は、俺がまだ布団に潜りこんでいるうちから
合鍵を使って部屋に上がり込むと
俺を起こさないようにそっと朝食を作るのだが、
実は俺はすでに目覚めていて眠ったふりをしている。
そして、彼女に気づかれないように薄目を開けて
キッチンに立つ彼女の後ろ姿を眺めている。

トーストと目玉焼きとカリカリに焼いたベーコンとサラダ。
お揃いの白いカップにコーヒーを注ぎながら
彼女が俺に声をかける。
「ねぇ、目玉焼きに何かける?」
俺はわざと寝ぼけたような声でその日の気分で
醤油とかソースとかケチャップとか答える。
そしてごそごそと起き出すと2人用の小さなテーブルの
青いクッションが置かれた方の椅子に腰掛ける。
「おはよぅ」
彼女はにっこり微笑むと、
赤いクッションの置かれた椅子に腰掛けた。

俺の目の前には、醤油とソースとケチャップの容器が
並んでいる。
「気が変わるかも知れないでしょ?」
俺は先ほど答えたとおりケチャップを手に取ると
俺の目玉焼きと彼女の目玉焼きの黄身の周りを
ぐるりと円を描くように絞り出す。
「ありがと」
彼女がフォークとナイフを使って目玉焼きを食べ始める。
はじめに黄身の部分にナイフを入れてから、
白身の部分を少し切っては黄身につけて口に運ぶ。
それが目玉焼きを食べるときのマナーなのだという。
それが本当なのか嘘なのか俺は知らない。

俺は、箸で自分の目玉焼きの黄身を潰して
ケチャップとからめて白身全体に塗りたくってから食べる。
彼女の作る目玉焼きの半熟さ加減は最高だと思う。
口に出しては言わないが。

食後は前の日に借りてきた映画を観て過ごす。
レンタルショップのDVDコーナーで
彼女が喜んでくれそうなタイトルを探す時間が好きだ。
今日選んだ映画は、切ない恋愛映画。
俺たちはテレビの前に寄り添って体操座りをしながら
映画を観る。
ラストシーンの辺りで俺の肩に頭をもたせかけた彼女が
小さく鼻をすすりあげた。

昼食は俺が作る。
俺の得意な料理はチキンの代わりにハムを使ったオムライス。
と言うより、これしか作れるものがない。
俺が料理している間に、彼女は俺の部屋を片づけている。
テレビ台の下に乱雑に積まれたビデオやDVDを
50音順に並べるかジャンル別に並べるか悩んでいるらしい。
「適当でいいよ、
 どうせすぐにまたぐちゃぐちゃになるんだから」
俺がそう言うと、わかったと言って本当に適当に並べ出した。
とりあえず、ビデオをDVDは分けているらしいが。

「ねぇ」
背中越しに彼女が聞いてきた。
俺は卵をチキンライスならぬハムライスにかぶせる作業を
行っていた。
「ん?」
「これ、本物?」

大きな皿に盛ったオムライスと2枚の取り皿を
テーブルに置いてから部屋に行くと、
彼女が手にしたものを俺に突き出してきた。
「これ、本物なの?」
彼女が先ほどと同じ質問をする。
「あぁ、本物だよ」
俺は彼女の手からそれを受け取った。

「トカレフって言うんだ。
 前にちょっと流行っただろ?
 あんとき買ったんだよ」
俺の手に冷たい金属の感触が心地よかった。

「へぇぇ、撃ったことあるの?」
彼女の手が俺からトカレフをさらってゆく。
「まさか、ないよ」
俺はキッチンに戻ると、テーブルにスプーンを置き
彼女を呼んだ。
「さて、冷めないうちに食べよ」
オムライスの出来は、まぁまぁだった。

「ねぇ、このピストルで銀行強盗しよっか?」
俺がテーブルで食後のコーヒーを飲んでいると、
部屋から彼女がそう話し掛けてきた。
俺はコーヒーカップを手にしたまま部屋に移動した。
「ピストルって言い方、改めて聞くとなんだか変だな」
俺が笑うと彼女も笑った。
「そう言われるとそうね、じゃぁ拳銃?
 それとも、チャカ?」
「チャカはないだろ、チャカは。
 拳銃か、、、やっぱトカレフじゃねぇか?」
「トカレフねぇ、、、」
「そう、トカレフ」
「それが一番しっくりくるかもね」
彼女は改めてトカレフを見つめた。
「で、このトカレフで銀行強盗してみない?」

俺たちは会社からくすねた100円もしないボールペンと
新聞広告の裏の白い紙を使って、銀行強盗の計画を練った。
「たしかこの間パーティーで使ったマスクがあったよな」
「着るものはお揃いのスウェットね、グレーのやつ」
まるで旅行のスケジュールを立てているみたいだ。

「よし、完璧だ」
何枚も書き直した計画書を見つめて俺が言い、
彼女がうなづいた。
俺はクローゼットから大きな紙袋を取り出した。
中にはパーティーグッズが入っている。
「もう使わないと思ったけど、捨てなくてよかったな」
俺は紙袋からマスクとアフロのかつらを2つずつ取り出すと
テーブルの上に置いた。
彼女はパジャマがわりに置いてあるスウェットスーツを
俺の分と2着、用意している。

そのとき、彼女が小さく、あ、とつぶやいた。
「ん?どうした?」
「そういえば今日、銀行お休みじゃない」
そうか、今日が休日だってことをすっかり忘れていた。
一瞬、彼女の首がうなだれたかと思ったが、
すぐにまた起き上がった。
「銀行がだめならさ、宝石店なんかどうかな?」
俺の目をまっすぐに見つめて言う。
俺は新聞広告の裏に書いた計画書を手に取った。
「しかし、そうなるとまた計画の立直しだな」
彼女は俺の手から計画書をさらうと
どこかで聞いたか読んだかしたことを言った。
「あまりにも緻密な計画は、
 ほんのわずかな狂いで脆くも崩れ去るため
 ある程度の遊びの部分が必要である」
そして、計画書を俺に返しながら微笑んだ。
「このままでいいんじゃない?
 銀行も宝石店もそんなに変わんないよ」
俺は反論しようとしたが、彼女に言われると
なんだかそんな気がしてきた。
「ま、そうだな。
 じゃぁ、このままでいくか」

俺は大きな黒いカバンに、パーティーグッズのマスクと
アフロのかつらとグレーのスウェットを詰め込んだ。
そして、シャツをめくってトカレフをジーンズに挟むと
既に靴を履き終えた彼女の待つ玄関へと向かった。

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